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「怖がるのではなく対応するためのリスク管理」

2013年06月号 リスク OCP-プロジェクトマネジャー(L5)   伊藤 泰子

昔「PMとして何を大切にしていますか?」という質問をされたことがあります。
私は「リスクを洗い出す事」と答えましたが、ある方から「リスクを洗い出して、怖がっていてはだめだ」というような事を言われた覚えがあります。その時は時間の制限もありきちんと説明できなかったのですが、 そこで私が言いたかった事は、「リスクを考えつつ、計画を立てること」だったように思っています。

 まず‘リスクとは何か’ですが、デジタル大辞泉では「危険。危険度。結果を予測できる度合い。予想通りにいかない可能性」となっています。また、PMBOKでは、「もし発生すれば、プロジェクト目標にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす、不確実な事象あるいは状態」とされ、プラスに働く不確実性もマネジメントの対象になっています。
とはいえ、「リスクがある」と言われるとうれしい気持ちにならないし、なんかほっておくとえらいことになりそうなイメージがありますので、一般的にリスクはマイナスの影響を意味することが多く、このコラムでも「マイナスの影響を及ぼす不確実性」を対象にします。

 次にリスクを考える上で最初に実施することが「リスクの洗い出し」です。
リスクとして認識されないことには、手の打ちようがないため、私自身最も重要なステップだと思っています。ところが、最も難しいのが「リスクの洗い出し」とも言えます。時に現在を把握することすら難しいプロジェクトの将来を予測しなければならないのですから。

通常「リスクの洗い出し」は、プロジェクト開始前の提案や計画を立てる時に実施しますが、洗い出しに大切なのは、前のステップとしてこのプロジェクトはどんなプロジェクトなのか、特徴を捉える事です。特徴として洗い出すものとしては、期間や予算の余裕度合い、体制の複雑性、技術的な制約、経験値、どのような特徴(要件)のシステムなのか・・・です。

以前携わった連結会計のシステムを例にしますと、システムの特徴として、
(1)すべてのデータが最後に集まってくるシステム
    →前処理データのシステムに影響を受けやすい
(2)月次、四半期、年次で連結する。
    →リアルタイムや日次で処理しないのでパフォーマンスの影響は受けにくい
の他、財務会計に比べると連結会計システム経験者は社内に少ないなどを洗い出し、

リスクとして
(1)結合テスト以降のスケジュールで他システムの進捗に引きずられる
(2)要件定義で顧客からの要求以外の知見を入れられない可能性がある
を洗い出して、打ち手を考え成功した経験があります。

 ポイントは、計画時にはきちんと状況、背景などを確認し、事前に打てる手は打っておく、もしくは準備しておく。実施時には状況を把握し、事前に考えた打ち手を打つ、追加で打つ。準備(心構えも含めて)があるかどうかは、何か起こった時の対応のスピードに影響します。また、そのリスクをお客さまと理解しあうことでさらにスムーズに対応は進みます。

 なかなか最初に思った通りにいかないのがプロジェクトです。そのようなプロジェクトに必要と私が考えるリスク管理とは、「計画変更するかもしれないポイント」をプロジェクトメンバー全員の経験と知恵であらかじめ洗い出し、お客さまとも共通認識に立った上で、これから直面する困難に向けてお互いを理解しようという気持ちを準備(共有)することだと思います。

  最後はちょっとおおげさになってしまいましたが、「怖がるのではなく対応するためにリスク管理は大切だ」と言い切って今回のコラムを終了したいと思います。

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