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「釣りをする人は仕事が出来る・・・思い込みのワナ」

2013年09月号 全般 OCP-プロジェクトマネジャー(L5)    松井 泰三

最近、面白い本を見つけて読んでいます。
「仕事ができるようになりたければ釣りをしろ」筆者は釣り人兼コンサルタントの中鉢慎さんです。

たまたまアマゾンで見つけて即購入しました。
私自身の趣味が海釣りなので購入したわけですが、釣りの手引書でもあり、ビジネス本としても読めるユニークな内容です。筆者は、釣りは仕事に通じる思考やツールセット、マインドセットの集大成であると語っています。

実際に釣りに行くまでを簡単に説明すると、まずは事前の情報収集です。
週末の天気は、気温は、潮の満ち引きは、海水の温度は、はては黒潮の位置(潮の早さ)、各港の釣り舟の釣果等の情報まで幅広く収集をします。そして経験値から週末は三崎港からマダイを狙いに行こう、いやいや平塚港からアジの方が良いかと妄想(仮説)に耽るわけです。

次に前回行った時の備忘録を確認し、前回の反省点から今回の作戦を立案します。
このように釣り舟に乗る前から入念な準備をしているんです。そして船に乗ってからも、自分が立てた作戦(仮説)が正しいか、釣りをしている時間ずっと仮説検証の繰り返しを行っているんですね。自分が立てた作戦(仮説)が間違っている時、すなわち魚が釣れない時は、がっくりと落ち込んで港に帰る羽目になります。

これをプロジェクトに当てはめてみると、プロジェクト開始前の情報収集、今回のプロジェクトの特徴、お客様の体制・・・から始まって、今回は性能要件のリスクが一番高そうだから要件定義時には大まかな検証をしてしまおうなど作戦(仮説)を立て、プロジェクト実施時には進捗、品質指標等から仮説の検証を繰り返し、問題のある部分は作戦を修正し、新たな作戦に沿って実施していくと言った具合に、実に両者は良く似ています。ふむふむと納得し読み進めていくと、本の中のひとつにこんなくだりが書かれていました。

「思い込みのワナ」 この部分はまさにその通りと声に出してしまいそうになりました。

人は一度成功体験をすると、その成功体験にすがってしまう。釣り人があるポイントで沢山の魚を釣ってしまうと、そのポイントに行くと前回と同じ釣り方、タナ(魚が泳いでいる深さ)で釣り、同じ餌を付け、同じ誘い(エサの動かし方)をしてしまいます。前回のように釣れなくてもきっと釣れるはずと工夫をしなくなる。これは、このポイントでは前回の成功体験からこの釣り方がパーフェクトだと思い込みをしてしまっているんですね。前回とは明らかに海水の温度、潮の色、その他自然条件が違っているはずなのに、盲目的に成功体験に支配されてしまい思考回路がストップ、仮説検証が出来なくなってしまっているんです。

実は、システム開発のプロジェクトでも同じようなワナがあると思います。あるプロジェクトを実施した時、そのプロジェクトはプログラム品質がとても良くプロジェクトは問題なく完了しました。
そして、次のプロジェクトでは実装グループのメンバーを前回のメンバーに新しいメンバーを加えた(規模が前回より大きかったため)メンバーで構成しました。私の頭の中では、前回と同じやり方でプログラム品質は担保出来るだろうと考えたのです。もちろん、基本的なこと(テスト仕様書のレビュー、テスト結果の検証)はやりましたが、ある部分のプログラム品質が良くなく、追加テストを実施することになってしまった経験があります。

ほぼ同じメンバーでの成功体験から思い込みが強くなり、仮説-検証の思考が止まってしまっていたのでしょう。追加された一部メンバーのスキルレベルが低く、単体テストでデグレを多く起していたんです。ちょっと注意してモニタリングしていれば気が付くはずでしたが、成功体験によりこのメンバーなら品質は大丈夫だろうと思い込んでいたわけです。

みなさんはこんな経験したことはないでしょうか?
駆け出しのPMより、プロジェクトを2,3個こなしたPMが陥りやすい落とし穴かも知れません。今一度、自身が担当しているプロジェクトで思い込みがないか、検証してみては如何でしょう。

(参考文献) 中鉢 慎:「仕事ができるようになりたければ釣りをしろ」,つり人社,2012.

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