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レポート

Agile 2017参加レポート

Enterprise Agileに関する講演の概要
株式会社オージス総研 技術部アジャイル開発センター
藤井 拓
2017年9月14日

8/7-11に米国OrlandoのRosen Shingle Creekで開催されたAgile 2017に参加しました。本記事では筆者が主に聴講したEnterprise Agileトラックの講演を中心に、講演内容の概要をお伝えします。

目次

各講演タイトルの前の[]内に、その講演のトラック(分類)を記載しています。

はじめに

Agile Conferenceの参加者数は2200名と昨年より少し減りました。参加者として、(私がお話をした中では)昨年と同様にアジャイルコーチが多い模様でした。今年は、昨年あったGovernmentトラックは無くなり、代わりにAgile Companiesトラックが追加されました。私は、複数のトラックの中で、Enterprise AgileトラックとCustomers & Products トラックを中心に聴講しましたので、それらのトラックのセッションの概要を報告します。

本レポートで紹介した以外にもAgile2017では非常に多くの講演がありました。ご興味のある方は以下のAgile 2017のwebサイトから要旨をご覧ください。

8/7の講演

1.Keynote:Creating Leadership and Engagement at Every Level

講演者

David Marquet

講演資料

概要

仕事には個別の担当者が指示されたことを行う”bluework”と、個別の担当者が自ら行うことを考える”redwork”がある。既存のマネジメントのスタイルでは、上役が仕事のことをもっともよく知っており、その部下は上役の指示のもとで”bluework”を行うことが期待されていた。Marquet氏も、原子力潜水艦(原潜)の艦長として当初既存のマネジメントスタイルを取っていたが、自分が知らない形式の原潜であるSanta Feに異動した際にそのマネジメントスタイルを変えてみた。つまり、自分の意図を述べて、実行すべきことは部下に自分で考えてもらったり、部下の意見を聴いたりするスタイルに変えたのである。その結果として、Santa Feにおいて海軍でも離職率が最も低く、パフォーマンスのよいチームを作り上げることができた。

Marquet氏の基調講演

2.Viewing The Organization as Complex Adaptive System - An Approach to Enhancing Agility

講演者

Sunil Munda (Principal Consultant, Thoughtworks)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, 講演

概要

Nokia、Kodak、Searsなどの会社のように、過去に技術を発明したり、栄光を誇った会社が変化に注意を払わずに衰退していく例が多く見られる。そのような変化に対応するためには、組織として複雑適応系(CAS: Complex Adaptive System)である必要がある。アジャイルさには、このCASと通ずる性質があり、CASを作る土台になりうる。ただ、CASとなるためには、アジャイルさに加えて組織やリーダーシップのあり方も変わらねばならない。

  • 組織
    • βアプローチ
    • 選択的な破壊
    • 対応がすばやい構造
    • 広く受け入れられる目標
    • 多様性
    • 「ちょうどよい」だけの情報
    • パターン
    • てこの支点(Lever points)
    • パラドックス
    • 少数のシンプルなルール
  • リーダーシップ
    • 予見性や安定性 よりも VUCA (変動性、不確定性、複雑、適応性)
    • 命令する よりも 納得できるようにする
    • 効率性 よりも 効果
    • 技術に無関心 よりも 技術を意識する
    • リスクを避ける よりも リスクを利用する
    • 株主第一 よりも 顧客第一
    • 還元主義 よりも システム思考
    • 事前の詳細な計画策定 よりも 創発

筆者の所感:CASの話は、アジャイル宣言のころには盛んに話されていた記憶がありましたが、その際に今回の講演の組織のあるべき姿のところまでしか言及していなかったのではないかと思います。Marquet氏の基調講演の内容と重なる部分も若干ありますが、CASの話でリーダーシップのあるべき姿までに言及している点を興味深く思いました。

3.Agile Product Ownership: Do the Right Things, Not Everything

講演者

Ellen Gottesdiener (Agile Product Coach, EBG Consulting, Inc.)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Customers & Products, ワークショップ

概要

プロダクトオーナーが関与する作業が多いが、それらの作業に関する意思決定の負荷がプロダクトオーナーに集中するのを防ぐために意思決定のオプションとそれらの意思決定を他の人に委譲することについて考えるワークショップ。 プロダクトオーナーの役割には、提供する価値に関する戦略的な作業からソリューションを構築するのに求められる戦術的な作業までの様々な作業が求められる。最初の演習は、これらの作業を記したカードを戦略的なもの、戦術的なもの、それらの中間に分類するというものであった。次に、これらの作業に対する8つの意思決定のオプションを説明し、戦略的な作業、戦術的な作業、それらの中間の作業を1つずつ選びそれらに適した意思決定のオプションを議論するという演習を行った。さらに、リーダーとメンバーの間の委譲のレベルを7段階に分類したデリゲーションポーカーの説明をし、先の演習で取り上げた3つの作業に対する判断の委譲レベルについて議論するという演習を行った。

注:8つの意思決定のオプション
元々はSam Kanerの”The Facilitator’s Guide to Participatory Decision Making”で提案されたもので、Gottesdienerさんの著書「要求開発ワークショップの進め方」でも紹介されている

注:デリゲーションポーカー
複数の権限移譲のレベルを示したカードで、Jurgen Appelo氏が提案したもの

4.Business Agility – Value Based Planning

講演者

Kimbery Scriber
Jeff Howell (Technical Product Manager, Deluxe Corp)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Agile Companies, ワークショップ

概要

アジャイル開発の簡単紹介の後で、以下の3ステップで価値からストーリーを考えるワークショップを行った。

  • 価値:価値を記述する
  • エピック:重要成功要因(CSF: Critical Success Factor)を定義する
  • ストーリー:おそらくエピックを実現するためのストーリーを考案する

これらのステップを「企業が合併した際の役割の再構成」、「電子メールマーケティングの改善」の2つの課題で体験する方向でワークショップが進もうとしていたが、この時点でプロダクトの価値に基づく計画策定の演習を期待していたと思われる参加者がごそっと退場した。私も退場しました。

筆者の所感:このセッションの翌日以降に、このワークショップがSkip Angel達がAgile 2016で行っていたストーリーマッピングの考え方を利用したアジャイルへの転換のロードマップの作成と似ているのではないかということに気づき、セッションを途中で退場したことを後悔しました。


8/8の講演

5.Holistic Agile: Developing the Future Agile Company

講演者

Robert Woods (National Agile Practice Lead, MATRIX)
Tony Shawver (Director National Agile Practice, MATRIX)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Agile Companies, ワークショップ

概要

本来アジャイルはITに限定されないはずなのに、アジャイル宣言の原則が開発に特化したものであったり、導入や転換がITのデリバリーに注目したり、IT以外の人たちは嫌がりながら巻き込まれるという不十分点がある。このことを克服するのに、IT以前にいろんな分野でアジャイルだった人たちの教えを使った方がよい。

  • 継続的改善や学習する組織:ピーター・ドラッカー
  • イノベーション:ジャック・ウエルチ
  • 制御の分散:David Marquet
  • コラボレーション、小さな機能横断的なチーム:Mayo Clinic
  • 従業員中心アプローチ:GE

全体的(Holistic)アジャイルは、組織の全体的なアジャイルに対するニーズに向けて一連の企業に基づくアジャイルの価値や原則を導入することである。

原則:

  • 中央集権的ではない意思決定の文化
  • 学ぶとは、私たちが行うことではなく、私たちの在り様である
  • 透明性により自分自身と自分の顧客の両方に対して正直になれる
  • イノベーションはリスクではなく、生き残るための手段である
  • 継続的な改善テクニックを信じること
  • 従業員はもっとも素晴らしい資産である
  • 仕事の動的な本質を受け入れる
  • 小さな機能横断的なチームがコミュニケーションと能力を最大化する
  • タスクや時間の進行ではなく、価値の提供に注目する
  • プロセス、プラクティス、ツールに対する現実的なアプローチ
  • 継続的な検査のリズムで注意を払う
  • 高い忠実度の双方向なコミュニケーション

さらにこれらの原則を使って改革を進めるステップや注意点の説明があった。

筆者の所感:リーダーのみならず企業全体がアジャイル開発の考え方を共有できるような原則を考えるという点が興味深いと思いました。狙いがリーン思考と重なるのではないかと思いますが、こちらの方が分かりやすい反面、様々な原則の羅列になっていてまとまりがないような気もします。

6.The Product Organisation - The missing piece of Agile jigsaw

講演者

Chris Matts (Left Back, Emergent Behaviour)
Tony Grout (Atlassian)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Customers & Product, ワークショップ

概要

Skypeには、200人のPOがいるそうだが、このような大人数のPOで行っている以下のプロダクト管理のステップを疑似体験するというワークショップ。

  1. プロダクトのテーマに対する大きな構想(big idea)を考え、POのグループ内で議論し、有望そうなものに絞り込む
  2. 有望な構想に対して1四半期で開発できる内容の候補を考え、POのグループ内で議論し有望そうなものに絞り込む(優先度も決める)
  3. 優先度が高い開発内容から順に開発チームのキャパシティーを割り当てていく(開発チームはビジネス機能毎に編成されているよう)

筆者の所感:100名以上の参加者がいたのではないかと思いますが、それらの参加者からプロダクトのアイデアを思い付いた有志を募ってこのようなワークショップを行ったのが非常に興味深いと思いました。

7.The Story of LeSS

講演者

Bas Vodde (Odd-e)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, 講演

概要

アジャイル開発とLeSSの紹介を冒頭の10分程度で終え、残りの時間でLeSSのこれまでの発展の経緯を説明した。そもそもは、Nokia networkの中国の開発拠点でアジャイル開発の活用を目指して、エキスパートであるCraig Larman氏を招へいし、スクラムを中心として様々な実験を行い、他社のプロダクト開発の成功要因をいろいろと調べた。その中で参考になったのが、マイクロソフトのプロダクト開発(EXCELとVisual C++)と、Ericssonの”XP and Large Distributed Software Projects”という論文。前者からはDaily buildというプラクティス、後者からはFeature teamというプラクティスの重要性を学んだ。

Larman氏の「本なんてすぐに書けるよ」という甘い言葉に乗り、これらの学んだことに基づく実験結果を2冊の本[1], [2]にまとめて出版した。その後、これらの書籍でLeSSを習得するのは困難であることに気づき、「守」のレベルで実践すべきことをLeSSルールとしてまとめた。さらに、再びLarman氏の「本なんてすぐに書けるよ」という甘い言葉に乗り、懲りずに”Large-Scale Scrum: More with LeSS”[3]を書いてしまった。

基本的には、Barry Boehm氏が(大きなプロセスを)”Don’t tailor it down” と記したことが正しいと考えており、また役割を増やすと責任が分散したり、継続的な改善が行えなくなる等の弊害があると考えている。

筆者の所感:LeSSのこれまでの発展の経緯、特に”Feature team”というアイデアの原点を聴けてよかったと思いました。

Vodde氏の講演

8.Agile Transformations Explained

講演者

Mike Cottmeyer (CEO and Founder, LeadingAgile)

トラックとセッション分類

Agile Foundations, ワークショップ

概要

アジャイルへの転換を進める上での留意点を以下の3点で説明した。(ひたすら講演でワークショップではなかった…)

  1. アジャイルへの転換を進める動機と障害
  2. アジャイルへの転換のアプローチ
  3. 反復的でインクリメンタルな転換

A については、ビジネス上の成果を目指して転換を進めるべきだということや組織内の依存関係や中間管理職の抵抗が障害になるということ説明した。

また、B については「予見性」と「適応性」を結ぶ横軸と、「創発」と「収束」を結ぶ縦軸から成る2次元の図上に手法やフレームワークをマッピングし、「予見性」と「収束」の方向にある第3象限から段階的に第2象限を経て、第1象限へと移行させることを推奨していた。

alt アジャイルへの転換のアプローチの図
アジャイルへの転換のアプローチの図
Mike Cottmeyer氏の講演のビデオ中の図を元に筆者が作図

また、スクラムやSAFeなどのフレームワークではガバナンスをチームや価値のストリーム等の一定の組織単位でカプセル化しており、それらカプセル化の単位を超えた連携を促進するためのガバナンスが必要になる。C においては、転換にもスクラムと同様に転換のステップをバックログに入れて、価値に基づき反復的かつインクリメンタルに移行させるべきだと述べた。

筆者の所感:Mike Cottmeyer氏の講演を過去のAgile Conferenceで聴いた際には、抽象的でよく分かりませんでした。今回はワークショップなのでもっと理解できるのではと期待して参加しましたが、ひたすら講演でした。ただ、今回は話の内容がかなり分かりやすくなっており、非常に興味深く聴講しました。おそらく講演内容がかなり洗練されたのだと思います。


8/9の講演

9.Keynote:Continuous Delivery in Agile

講演者

Jez Humble

講演ビデオ

概要

継続的なデリバリーが難しいと言われがちないくつかの状況を取り上げて、似たような状況で継続的なデリバリーを行った事例を紹介して継続的なデリバリーが実践できること説明した。

  • サービスが巨大すぎる
    • Amazonでは、4年かけてサービスの独立性を改善し、継続的なデリバリーを実現した
  • セキュリティー基準が厳しい
    • 非常に多くのセキュリティー基準を満たす形で、連邦政府のInnovation Platformが開発された
  • 忙しすぎて取り組めない
    • HPのLaser jetのファームウェア開発において、リリースに要する労力の分析を行ったところ、手動の回帰テストに6週間を費やしており、結果としてイノベーションに使える時間は5%という状態だった。テストの自動化などを行うことでイノベーションに使える時間を40%に増やせた
  • メインフレームなので無理
    • BMC Softwareでテスト用のデータベースにSOAでアクセスできるようにするなどして、メインフレームでテストの自動化を行った
  • メンバーの能力が足りない
    • (継続的なデリバリーの例ではないが…)NUMIでは、同じ能力の人たちに必要な道具と権限を与え、行動を変えることで、生産性が最低レベルだった工場を米国で最も生産性が高い工場に変わった

10.Future-Backwards: Lessons Learned from Scaling Agile

講演者

Laura Burke (ScrumMaster, Ipreo)
Mary Thorn (Director of Agile Practices, Ipreo)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, ワークショップ

概要

Future-Backwards は、現状を振り返り、より良い未来に至る過程を個人やチームで考えるための振り返りテクニックである。Future-Backwardsでは、まず現状、理想状態、最悪の状態の3つの状態を各々黄色、青、ピンクの付箋で書き出す。次に現状に至るまでに起きたことを時間軸に黄色の付箋で書き出し、理想状態と最悪の状態に至るまでに起きるだろうことを時間軸に黄色の付箋書き出す。最後に、これらの作業を通じて得られた気づき(insight)を箇条書きにしていくモデリング方法である。グループでも個人でもモデリング可能である。

alt Future-Backwardsの図 Future-Backwardsの図
講演者らのスライド中の図を元に筆者が作図

ワークショップを主催した人たちは、この方法をSAFe (Scaled Agile Framework)のPI (Program Increment)毎の検査と適応ワークショップ等で使っているとお話をされていた。今回のワークショップでは、同僚がいたら一緒にモデルを作ることを勧められたが、残念ながら同僚がいなかったので個人作業で自社のモデルを書き出してみた。

注:PI (Program Increment)
SAFe (Scaled Agile Framework)で複数チームの体制で開発を行う際に、8-12週毎に得られる、評価可能なシステムのこと

筆者の所感: Future-Backwardsは、現状と理想状態、最悪の状態を考え、現状に至った道のりを振り返り、理想状態、最悪の状態へと至るというステップを考えるプロセスが振り返りのファシリテーションになっており、個人でもグループでも実践できるという点がすごく魅力的だと感じました。

11.Defining Value: Perspective Is Everything

講演者

Angela Wick (CEO/Principal Trainer/Coach/Consultant, BA-Squared, LLC)

講演資料

トラックとセッション分類

Customers and Products, 講演

概要

講演時間のかなりの部分は、家を引越しした時にブロードバンド回線が利用できるようになるまでに2社のISPとやり取りした体験談で費やされた。興味深かったのは、以下の2点でした。

  • Dude’s law:価値を「価値=Why/How」と捉える見方でDavid Hussman氏が提案
    • これは、実はDonald Reinertzenが提唱する「遅延のコスト(CoD: Cost Of Delay))と同じことを言っているという解釈もあるようだが、この講演者は「Why:価値を議論する時間」、「How:価値の実現方法を検討する時間」と解釈し、価値を議論する時間の割合を多くとるべきだと述べていた
  • The Elements of Value Pyramid
    • 30種類の典型的な価値を以下の4階層のピラミッドにマッピングしたもの
      • 社会的な影響
      • 生き方を変える
      • 感情的
      • 機能的な

いくつかのプロダクトやサービスを課題として、それらのプロダクトやサービスがどのような価値を提供するかを議論する演習を行った。さらに、プロダクトやサービスの利用者の簡単なペルソナを設定し、そのペルソナに対する価値を議論する演習を行った。最後に、価値を考えるための質問一覧とその用途を説明した。

筆者の所感:全体的にはやや期待した内容と異なりましたが、30種類の典型的な価値を4段階のピラミッドにマッピングする”The Elements of Value Pyramid”は価値を考えるためのツールとして役立ちそうだと思いました。

12.Disciplined Agile Master Class: Agile for the Enterprise

講演者

Scott Amber (Senior Consulting Partner, Scott Ambler + Associates)
Mark Lines (Managing Partner & Agile Coach, Scott Ambler + Associates)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, ワークショップ

概要

DAD (Disciplined Agile Delivery) を中心としたDisciplined Agile Framework の概要を説明し、その後ミニ演習を交えてDisciplined Agile(DA)の特徴である原則やゴール指向アプローチを説明した。

DADを中心とするDisciplined Agile Frameworkを、自動車レースのF1に例えて、DADがエンジン、Disciplined DevOpsがレースカー、Disciplined Agile ITがレーシングチーム、Disciplined Agile EnterpriseがF1全体と説明した。

続いてDisciplined Agile(DA)の原則を説明したが、その中でも強調したのが「コンテキストが大事」という原則でした。それを理解するために、自チームのコンテキストの複雑さと自社内で最もコンテキストが複雑なプロジェクトの複雑さをレーダーチャートで図示して、議論するという演習を行った。次に、アーキテクチャーがまだ未確定な状態と確定した状態のように開発のリリース単位での状況の違いにライフサイクルモデル等を変えることでDADが柔軟に対応できることを説明した。

最後に、DAの特徴としてゴール指向アプローチに対応できることを説明した。つまり、特定のゴールを達成するための複数の決断点があり、それらの決断点に対して複数のオプションが提供されているという構造で複数のオプションが提供されているということである。この仕組みは、SAFeやLeSSとも併用できると説明していた。

筆者の所感:本セッションで同席した人に保険関係など金融系の会社の人が数人いましたが、それらの人が自社内で最もコンテキストが複雑なプロジェクトの複雑さを描いた際にそのレーダーチャートがほぼ複雑さ最大の点を結んだ5角形になっていたのが印象的でした。


8/10の講演

13.Agile Transformations Beyond Teams

講演者

Bill DeVoe (Principal Agile Evangelist, Velocity Partners)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, 講演

概要

アジャイルへの転換において人事や財務の考え方をどう変えねばならないかを講演した。人事では、パフォーマンスレビューに基づく昇進や昇給と、内発的なモチベーションやチームとして優先度との間で衝突が起きたりする。このような衝突を避けるために、年次でのパフォーマンスレビューではなく継続的な会話等を用いたり、昇進以外のキャリアパスを個別にカスタマイズしたり、Management 3.0のような新たなマネジメントスタイルを取り入れる必要がある。

財務的には、プロジェクト単位での収支を重視するのではなく、複数チームで構成される組織に予算を割り当てるというようにコストセンター的に考えていく必要がある。さらに、初期投資の結果を評価しながら投資を継続するか否かを判断するようなイノベーションオプションの考え方を取り入れる必要がある。

14.Growing Internal Trainers and Coaches

講演者

Karen Greaves (Agile Coach, Growing Agile)
Kelley Cooper (Agile Evangelist, ACI Worldwide)

講演ページ(講演資料あり)

https://www.agilealliance.org/resources/sessions/growing-internal-trainers-and-coaches/

トラックとセッション分類

Learning, 講演

概要

Growing Agile社のコーチの支援を受けながら、ACIという中規模の支払いサービス会社で内部トレーナーやコーチの育成を行った体験談を講演した。コーチは、アジャイルハンズオントレーニング、コーチング(心構え)、スクラムイベントでどのようにコーチングするのかという内容から3日間のワークショップで育成した。初期のコーチチームを育成後、スクラムトレーナー向けのトレーニングを実施した。最終的には、28名のトレーナーと9名のコーチを育成し、複数拠点に分散する750名程度の社員を教育した。トレーナーはすべて兼務、コーチは3名だけ専任で残りは兼務。そのようなトレーニングを展開する上で役立ったのが以下のようなものだった。

  • TFTBOTR 4C’s
    • TFTBOTRは、Sharon L. Bowmanの著書である“Train From The Back of The Room” [4]で説明されている革新的なトレーニング の戦略のこと。4Cは、”Connection, Content, Concrete Practice, Conclusion”の略でTFTBOTRで提案されているトレーニングをデザインするためのフレームワーク
  • レゴ
  • ビデオ
    • お手本となるトレーニングをビデオで録画し、それに基づいて台本を起こした
  • 複数人でトレーニングをする
  • Q&Aツール
  • トレーナーのコミュニティー
  • 質問のしやすさ
    • PO系の人は質問をすることに関心を払わないことが多いので、質問を気軽にできるようにすることが大切
  • 専任のコーチ
  • 一定のリズム

筆者の所感:コーチ育成トレーニングの内容の説明が抽象的で残念でしたが、Sharon L. Bowmanの著書である“Train From The Back of The Room”を知ることができて良かったです。

15.Scaffolding a legacy app with BDD scenarios using SpecFlow/Cucumber

講演者

Gasper Nagy (coach, trainer and BDD addict, Spec Solutions)

講演ページ(講演資料あり)

トラックとセッション分類

Development Practice & Craftsmanship, 講演

概要

レガシーアプリに対するBDDの実践方法を紹介する講演。講演者は、SpecFlowの開発者。”Scaffolding”とは、建設工事で見かける足場のこと。レガシーアプリに対する変更依頼やバグ修正依頼に対して、以下の3ステップでBDDを実践する。

  • 足場の構築
    • アプリの変更依頼の対象機能の現状の振る舞いを記述するシナリオとそのGWTを書き、そのGWTを実行するためにテストコードを書く。このシナリオとテストコードが足場になる
  • 変更依頼への対応
    • アプリの変更依頼への対応後の振る舞いを記述するシナリオとそのGWTを書き、そのGWTを実行するためのテストコードを書く。さらに、このテストコードで合格するように本体コードを改訂する
  • テストケースの追加
    • 例外的なケースを追加したり、得られたテスト自動化で簡単にテストできる他の通常ケースがあればそれらを追加する

注:GWT
“Given When Then"の略で、前提条件(Given)、実行する機能と引数(When)、期待される実行結果(Then)で受け入れテストケースを記述する形式

16.Prepare Your Software Development for 2020

講演者

Israel Gat (Independent Software & IT Consultant, The Agile Executive)

トラックとセッション分類

Enterprise Agile, 講演

概要

講演者は、AIを利用したCognitive applicationが近い将来登場し、それらにより一般の人が旅程の立案や訪問する観光スポットの選択など自分の必要なアプリをAIと対話しながら得られるような状況になると予測している。さらにそのようなCognitive applicationが登場するアプリケーション領域として有望なのは、IoTにより発生する大量のデータをデータサイエンティストなど向けに提供する人間系の作業(Human Connector)ではないかと述べた。さらに、開発者に向けてこのような変化を予測して既存の開発業務の中で将来に対応するためのスキルを習得するように努力した方がよいとのアドバイスを行った。


さいごに

昨年のAgile 2016での”Managing for Happiness”や”Modern Agile”の基調講演では、アジャイル開発のムーブメントの影響を開発という枠を超えてマネジメントや価値を生み出すためのチーム(組織)のあり方を提示しました。それらがどちらと言えば、先進的な試みの紹介だったのに対して、今年の基調講演”Creating Leadership and Engagement at Every Level”や“Continuous Delivery in Agile”はすでに実践されている実績に基づいて、変化を促すような内容でした。

興味深かったのは、今年の基調講演や”Agile Companies”のセッションを聴いているうちに、なんとなく”Modern Agile”の話とのつながりを感じたりしたという点でした。同様なことを、アジャイルへの転換系のセッションにも感じました。これは、継続的に参加することで、1回の参加では捉えきれない大きな流れや大きなトピックを理解できたということかもしれません。

最後に余談ですが、Agile 2017の3日目の夜のレセプションでDisciplined Agile Consortiumのブースを訪問したところ、Scott Ambler氏に板割りをするように勧められて私も板割りをしました。1回で割れてよかったのですが、日本人ならではの構えや演出をもっとすべきだったかなと後で少し後悔しました。

8/9のレセプションでの板割り後

参考文献

[1] Craig Larman and Bas Vodde, Scaling Lean & Agile Development: Thinking and Organizational Tools for Large-Scale Scrum, Addison-Wesley, 2008
[2] Craig Larman and Bas Vodde, Practices for Scaling Lean & Agile Development: Large, Multisite, and Offshore Product Development with Large-Scale Scrum, Addison-Wesley, 2010
[3] Craig Larman and Bas Vodde, Large-Scale Scrum: More with LeSS, Addison-Wesley, 2016
[4] Sharon L. Bowman, Train From The Back of The Room!: 65 Ways to Step Aside and Let Them Learn, Pfeiffer, 2008