[2011 年 4 月号] |
[レポート]
2011年2月17日(木)〜18日(金)の2日間にかけて、目黒雅叙園にて翔泳社主催による「 Developers Summit 2011 」が開催されました。筆者は9テーマ61セッションの中から「開発プロセス」テーマのいくつかのセッションに参加しました。この記事では、主に筆者が参加したセッションの内容をレポートします。
Developers Summit(通称「デブサミ」)は2003年から継続的に開催され、今回は9回目です。今回のデブサミを含む各回のスローガンは以下の通りです。
筆者は二日連続、会場に足を運びましたが、連日多数の参加者で賑わっていました。会場は5つがあり、ひとつあたり300人位は入れるスペースです。会場外の廊下では、テーブルを並んで、コミュニティ活動のアピールの場もありました。筆者が参加している各セッションはほぼ満員で、人気のセッションでは立ち見も出るほどでした。
講演資料は事前に配布なし、公開なしというスタイルで、セミナー後にSlideshareから講演資料をダウンロードできるようになっています。
以下、筆者が参加させていただいたセッションをご紹介します。
先に述べたとおり、今回筆者が選択したテーマは「開発プロセス」です。日本のソフトウエア開発現場から離れてしばらくたっていたので、現在の開発者がどのような開発プロセスに関心を寄せているのかが気になっていました。また、最近再び注目集めつつある「アジャイル開発」についても、今度の波は「本物」なのかどうか、確認したいとの思いもありました。
4つのセッションを通じて、以下の事を自分なりに理解できました。
畑 秀明(日本IBM)
今回のデブサミで、「開発プロセス」のテーマ下で、セッションのタイトルに「アジャイル」という言葉を使っているのが目立ちます。日本でもアジャイル開発は実践段階へシフトして来たと感じさせています。IBMは積極的にアジャイル開発を推進しています。
講演者の分析によりますと、日本では、アジャイル開発に対する認知度は徐々に上昇し、さまざまな会社で導入が始まっています。小規模開発にはアジャイル開発の適用例が沢山ありますが、大規模開発になると、話はあまり聞きません。規模の拡大を阻害する主な要因は、カルチャーや価値観の変更、既存ルールの変更及びルール運用の変更、過去の管理成果物の再利用ができなくなると講演者は指摘しています。
これらの阻害要因を取り除くためには、中間管理職の協力は欠かせません。「中間管理職」をアジャイル開発の推進派にするため、理解の促進、同調、体系化によって、安心させる必要があります。講演者は中間管理職が感じている以下の課題を分析し、彼らの積極的な支持を受けるためのそれぞれの作戦策を挙げました。よくある中間管理職のアジャイル開発の捉え方及び作戦:
セッションのタイトルに「実戦編」と書かれていますが、話の中心は、いかに現状の問題点と戦い、中間管理職を説得し、そして中間管理職のリードやサポートを受けるか、についてでした。こうした問題を解決することでアジャイル開発を大規模案件に適用できる可能性が高くなるというストーリーでした。
中間管理職本人が来て、この話を聞いてほしいというのが素朴な感想です。
会場では、アジャイル開発時に品質プロセスの確立及びリスクについての質問があり、講演者からは以下のアドバイスが提示されました。
小川明彦(NRIネットワークコミュニケーションズXPUG@関西)・阪井誠(株式会社SRA・SEA関西世話人)
「○○○○駆動開発」という言葉が多いので、最近はあまり気にしないようにしています。「チケット駆動開発(TiDD)」は日本の現場でのTracのチケット管理から生まれ、Redmineと言うツールの利用によって2007年から形になったことは本セッションで初めて知りました。
このセッションは阪井氏のパート1と小川氏のパート2からなります。
パート1では、阪井氏はまず、ソフトウエア開発が楽しいか、苦しいかという二つの質問を会場に投げて、チケット駆動開発は作業漏れをなくすと共に、プロジェクトを活性化することができるとアピールしていました。それから、従来型の開発プロセスに存在する重い管理プロセス、Excel文書によるコミュニケーション不足、障害の発見に注力できない、などの課題を解決するために、TiDDを用いて、チケットの運用&管理方法、チケットとコード修正履歴の関連づけの考えとやり方、などの紹介がありました。
パート2では、小川氏がアジャイル開発の課題、Redmineを利用するTiDDの利便性と有効性、チケット駆動開発の4カ条等を紹介しました。
アジャイル開発特有の課題として次の3つが紹介されました。1つ目は「頻繁に変わるタスクの管理」、2つ目は「継続的な修正と頻繁なリリースを管理すること」、3つ目は「並行開発(本番運用と開発中の2本のコードラインを持つこと)」です。
上記の3つの課題について、Redmineのチケット管理、集計、バージョン管理などの機能を利用し、TiDDの運用ルールを決め、これらの課題を解決できることを示しました。また、TiDDによって、以下の利便性と有効性がもたらされるとアピールしていました。
チケット駆動開発の4カ条を以下のようにまとめていました。
私は以前参加した案件でも、Tracやチケット管理を利用しています。確かに、システム改修案件や、小規模かつ顧客の要求が安定してない案件では、TiDDは有効だと感じています。
西村直人(永和システムマネジメント)
このセッションのスライドのタイトルの下に、「アジャイルコーチをして見えてきたこと」とう副タイトルがあります。その名の通り、西村氏は永和システムマネジメントにて、アジャイルコーチに従事していて、その経験から、現場でScrumを導入する際の、やり方や注意点について、アドバイスをされました。
VersionOneの調査結果について、先日筆者も目を通しました。西村氏はこのレポートの調査結果の数字を利用し、アジャイル開発は海外で広がりつつあること、そしてもっとも広く利用されている手法はScrumであることを示しました。このような流れの中で、日本の会社でもある日に急にトップダウンで「アジャイルをやろう」と言われるかもしれませんので、明日に備え、Scrumの超入門、導入時の注意点や、プラクティスのdailyScrum、振り返りなどを紹介しました。
Scrumを導入し、開発が楽しく感じられるようになるケースが沢山あるとのことですが、以下のポイントについて注意が必要です。
また、Scrum導入にあたって、以下のヒントを提示しました。
Scrumは枠だけを提供するので、うまくいくためには自分たちなりの工夫が必要です。そして、自分たちのやり方を自分たちでデザインする事がもっとも重要です。筆者はこれが今回の結論だと理解しました。
また、会場では、多数の質問が出ました。もしかしたら、日本の会社でも、Scrumを導入したところは少なからずあるかもしれません。以下簡単にQ&Aの内容をまとめます。
木下史彦(永和システムマネジメント)
このセッションの講演者の木下氏は、自称第二次ベビーブーム(永和ベビー?)の一人で、会社内では、「アジャイルコンサルタント」、「アジャイルコーチ」、「PM」、「ラインマネージャ」という4つの帽子を被っています。今回のセッションでは、中間管理職の立場から「アジャイル」開発の話をし、そして、去年年末に話題になった永和システムマネジメントの新契約形態の紹介をされました。
下記は自分が聞いて理解した木下氏の話の概要です。家を売買する契約書を見せ、腹をくくって頑張るお話、カナダのアジャイルカンファレンスで発表されたお話、会社社員の写真を掲示し「これは誰」という問いかけ、ストーリーを述べているのか、ドラマを見せているのか、人を次から次へ興味を引きます。筆者は、木下氏の人間味あふれるプレゼンに感心させられました。
永和システムマネジメントは2002年に東京支社を開設しましたが、メンバーは息つく暇もなく次々とプロジェクトに投入され、また客先常駐が多いので、やりたい仕事ができない、一体感が感じないという理由で、多数の退職者が出ました。2005年以降、会社は方針転換をし、現場もRuby×アジャイルをやり始め、その結果、現在、顧客数も売上も伸び、離職率0%を達成しました。
アジャイル開発を導入すれば、何もかもうまくいくということはありません。開発者にとってはいいことかもしれませんがが、単に開発が楽しいだけで、売上などの事業責任を取れないようでは無責任です。木下氏は自分が体験したアジャイル開発が受託開発でうまくいかない理由----「伝わらなさ」の紹介をされました。
永和システムマネジメント社内の「売上」と「コスト」が比例しない新規ビジネス創生事業募集で、木下氏の提案による新しい契約方式が生み出されました。この発案の前提は「システムの価値は長く使われること」にあります。人月ビジネスが当たり前のSI業界において、今まで
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