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[レポート]






ESEC2001参加報告





・はじめに

去る6月27日〜29日に組込みシステム開発技術専門セミナー「通称:ESEC(イーセック)」が行われました。
私の参加したセミナーは「組込みJava技術」のセッションです。
通常ではセッションの内容を分かりやすくまとめて皆さんにお伝えするのがですが、そこは、やはり有料セミナーという性質上、詳細をお伝えするのは流石に気が引けましたので、本稿では講演を通じての所感をお伝えしていこうと思います。

・組込みJavaに関して

Javaを組込み機器の用途に使用する試みは、特に最近というわけではありません。
しかし携帯電話に組み込まれたJavaが市場に投入されるや否や、にわかに注目されるようになりました。
この流れを受け“ミーハーな”・・・いやいや“技術トレンドの動向に対し常に注意を払う”技術者たらんと自らに試練を課し、このセッションを受けてきた次第なのであります。

・セッションの内容について

受講したセッションは2つの講演が1セットになっていて、それぞれ1時間弱ほど途中に休憩をはさんで行われる形式でした。

講演の内容は以下の通りです。


ワイアレス世界におけるJavaテクノロジー

講師:

サン・マイクロシステムズ株式会社
ソフトウェア&テクノロジー営業統括本部
システム技術グループ
システムエンジニア
門間 純一 氏

内容:

JavaテクノロジーにおけるJ2MEの位置付け、特徴、コンフィグレーション、プロファイルなどの用語の説明に始まり、携帯電話機器に対して実際にJavaテクノロジーがどのように適用されているかについて具体例を挙げて説明されていました。

取り上げられたトピック:

- Java2 Micro Editionについて
- ConfigurationとProfileの定義
- KVM/CLDCの特徴と基本機能、未サポートの機能、セキュリティ
- KVM上のアプリケーション開発工程
- Generic Connection Frameworkの概要
- Debuggingインターフェイス
- MIDPのアーキテクチャ、基本機能
- J2MEの開発環境について
- 日本国内におけるサービス事例
- i-アプリにおいてのJava技術の適用

参考URL:

https://java.sun.com/products/cldc/
https://java.sun.com/products/midp/
https://java.sun.com/products/j2mewtoolkit/
https://www.nttdocomo.co.jp/i/java.html
https://www.nttdocomo.co.jp/i/java/tool.html

感想:

専門用語や略語が飛び交っており、若干の用語の説明があってもJavaやオブジェクト指向に疎い方にはハラホレヒレハレな内容でしたが、
私は事前に幾ばくかの知識を仕入れていたので、なんとか話にはついていきました。

講演の詳細に立ち入るのもアレなので詳しくは書きませんが、やはりセキュリティは携帯電話という一般の人々に広く使われる媒体なので、制約が多く、相当な注意を払っているという印象を多分に受けました。

講演で最も印象に残ったことは、「我々(サン・マイクロシステムズ)は、ソリューションの枠組みを提供するのがビジネスです。」という趣旨のことを講演者の門間(もんま)氏が仰っていたことです。
要するにSun Microsystemsが設計図を提供するので、ベンダーはその設計図を利用して自分たちの製品を製造するという、CPUの世界ではSPARCやMIPSで取られている(いた)アーキテクチャとそのインプリメンテーションの役割分担をソフトウェアに適用したのです。

Javaテクノロジーのようにエンタープライズから組込み用途まで、幅広い分野で普及させようとすれば、自社独自で設計→実装と完結してしまうより、このようにライセンスを供与するという形態の方がビジネスを展開する上で有利なのかぁと一人で勝手に納得してました。

このあたりは自社で実装まで行うMicrosoftとビジネスの方針が明らかに異なります。
この方針の違いが、今後のビジネスにどう影響するのかについて私の野次馬心に火をつけたのは言うまでもありません。


組込みシステムにおけるJava技術

講師:

株式会社アプリックス
R&Dカンパニー技術部
主任研究員
八谷 祥一 氏

内容:

組込み技術者の視点に立って、組込み業界の現状と抱える問題点を説明し、Javaというソリューションを適用する利点と欠点と、組込みJavaの世界で使われている技術や用語について説明されていました。

取り上げられたトピック:

- Javaとは?
- 組み込みシステムに求められる要件
- Java技術利用の利点
- Java技術利用の欠点
- Java用語説明
+ Java2
+ J2ME, J2SE, J2EE
+ CDC, CLDC
+ CVM, KVM
+ MIDP, Docomo仕様(Doja)
+ PersonalJava, EmbeddedJava, Java Card, Java Chip
+ JTRON, RT-Java

参考URL:

https://java.sun.com/
https://www.rtj.org/
https://www.j-consortium.org/
https://www.tron.org/

感想:

はっきり言って、この講演は冒頭から意表をつかれました。
4枚目のスライドにして、いきなり「信じないでください」という文字が大きく私の目に飛び込んできたのですから。

このスライドによって“カンファレンス=信頼できる知識をわかり易く伝達する”という私の固定観念に大きすぎる風穴を開けてしまいました。
要するに、情報というのは刻一刻と変遷するもので、ここで述べた情報がいつまでも通用するものじゃないので、適用するときはちゃんと自分で確認して使用して下さいね、という至極真っ当な御意見だったのですが、組込みJavaの知識を身に付けようと期待に胸躍らせて参加した(と思われる)受講者に対して、冒頭でここまで言い切る氏には、一種の清々しさを感じました。

まさに“掴みはオッケー”的な氏の講演は、氏の人柄による軽妙な語り口調で進行していきました。
また、用語の説明の一つ一つは非常にわかり易く、途中から組込みJavaの世界に入り込んだ私にとってはこのような概要を説明してくれる講演は非常に助かります。
惜しむらくは、技術や用語の各トピックのみの説明に終始しており、その関連についてはあまり言及されていなかったことです。時間の制約もあったのでしょうが、この点に関してもう少しお話が聞きたかったです。


・セッション全体の感想

Javaを組み込み分野で適用するにあたって開発者側の利点としては、PC上での開発環境が用意できることではないかと思います。
組込み分野では、開発環境の整備が十分に行われていないという話をよく聞きますが、本講演の携帯電話の例では、マルチプラットフォームというJavaの特性を活かして、ターゲット機のエミュレータなども用意されており、開発者はPC上でルック&フィールも含めて動作確認を行うことができます。
この点はJavaの面目躍如というところではないでしょうか。

セッションの構成に関してですが、前半に携帯電話に対するJavaテクノロジーの適用という話題を持ってきて、後半に組込みJavaの一般的なトピックを配置する意図がよ〜わかりません。
普通だったら一般的なトピックを説明しておき、より詳細な話題を説明する方が定石です。これを(私なりに)善意に解釈するならば、より頭の働いている前半に難しい話題を 配置しておこうという主催者側の凡庸ならざる采配だったのかもしれません。
ま、いずれにせよ、どっちの講演も私は満足だったので良いんですけどね。

・最後に

講演を聞き終わった私は、任侠映画を見終わるや否や、映画に影響されて肩を怒らして映画館を後にする観客のように、講演に触発されて、脳ミソの大部分を“組込みJava”に占領されてしまいました。
話を聞くほどに非常に興味をそそられ、私の“ミーハー魂”いやいや“探求心”を刺激することしきりです。
しかし、注意しなければならないことは、前途有望(に私は思えた)組込みJavaテクノロジーであっても、数ある技術のうちのひとつなので、やはりその特性、利点、欠点を十分理解した上で適用しなければ、有効に活用することはできないという一般法則は当然のように適用されます。
とはいえ、複雑化、多様化する組込み機器開発において、ベスト・ソリューションまでは行かなくとも、選択肢の一つとして考慮する価値は十分にあると思います。
“燃えるC/C++野郎”を自負するクミコマーな貴方も、今のうちにJavaを習得しておいてはいかがでしょうか?

おまけ

ミーハー”もとい“技術トレンドの動向に対し常に注意を払う”技術者を志す私は、講演終了後に“組込みJava”の余韻を感じながらも、.NETにも食指をそそられ、隣で開催しているソフトウェア開発環境展にあるMicrosoftのブースを覗きに行ってしまいました・・・。

by さわやか


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