ObjectSquare [2013 年 3 月号]

[ レポート ]


ETロボコン2012 チャンピオンシップ大会 競技会レポート

株式会社 オージス総研

組み込みソリューション第二部 岩附千晴


目次


1. はじめに

2012 年 11 月 14 〜 15 日にパシフィコ横浜で ETロボコン2012 チャンピオンシップ大会が開催されました。チャンピオンシップ大会には地区大会を勝ち抜いた全国の 40 チームが参加しました。本記事は、1 日目に行われた競技会のレポートをお送りします。

2. ETロボコンとは

ETロボコンの概要については ETロボコン2012 公式サイトをご覧ください。競技内容をご存じない方は、一度、YouTube にアップロードされた地区大会やチャンピオンシップ大会の動画をご覧になることをお勧めします。競技規約を読むよりも手軽に「こんな競技なのか〜。」と理解していただけると思います。

ETロボコン2012 チャンピオンシップ大会 競技会の様子( 5 時間 19 分)

公式サイトによると、本大会の目的は「組込みシステム開発分野および同教育分野における若年層および初級エンジニアへの分析・設計モデリングの教育機会を提供すること」とあり、参加者には、「新入社員や若手でチームを組みました!」という方たちが多いように見受けられます。また、大学生も多数参加しており、少しずつ、高校生の参加も増えてきました( 地区大会では 2010 年は 9 校、2011 年は 14 校、2012 年は 15 校)。チャンピオンシップ大会にも前回は 1 校、今回は 2 校 高校生が出場しています。このように、幅広い年代が参加する大会となっています。

本記事では ETロボコンの競技で扱うコースの話が頻繁に登場します。詳しい競技内容については公式サイトの 競技規約 を確認してください。

3.波乱の展開!? 〜 2011 と 2012 の違い〜

今回の大会では、試走時間 #1 から荒れていました。ベーシックステージで、コースアウトした走行体が多かったです。それは本番も同様でした。坂を下ったところから第一カーブでコースアウトしていたチームや、その後の S 字カーブでコースアウトしていたチームが多かったです。結局、ベーシックステージの完走率が 5 割を切る結果となりました。

#1 当日、競技開始前に 2 回だけ本番コースで走ることができます。

前回と今回の競技会場は同じですし、ベーシックステージも同じものです。前回大会では、ベーシックステージの完走率は約 9 割でした。#2前回競技者として参加していた私としては、早々にコースアウトする走行体が多いことを不思議に思っていました。

#2 条件を見ると、前回も参加しているチームが有利そうですね。

さて、犯人(?)はなんだったのでしょう。私の予想では、照明だったと思われます。「同じ会場なのだから照明も一緒でしょ?」と思いませんでしたか?実は、前回と少しだけ異なるところがありました。それは丸い照明です。前回は、おそらく節電のために丸い照明が消灯されていたのですが、今回は点灯していました。

天井の照明(ETロボコン2012 チャンピオンシップ大会会場で撮影)

坂はそんなに難しい障害物に見えないかもしれません。しかし、坂の傾斜と、尻尾走行 #3 で走行体の角度が変わることで、光センサの角度が斜めになり、ラインの黒と白を見極めることができずにコースアウトしてしまいます。カーブについても同様で、走行体がカーブだと認識できずにコースアウトしてしまったのです。詳細は、 弊社新人チームの参戦レポート を参照してください。

#3 左右のタイヤと尻尾の三点で走行体の体勢を維持して走る方法のこと。

光センサが照明の種類や明るさの影響を受けるということはよく知られている話で、実際に地区大会でも環境光に悩まされるチームが多くいます。前回は尻尾走行を採用しても、照明の影響はほぼなかったため、問題ありませんでした。そのため、今回は対策していなかったチームも多かったのでしょう。もしくは、前回と同じ会場だと知っていたが故に、甘く見ていたのかもしれません。

完走した約 4 割のチームの大半は出走順が後半のチーム #4 でした。前半のチームにも、ETロボコンでは外乱光対策として有名な「まいまい式」を使ったチームや、倒立走行 #5 をしたチームは、タイムは遅めではあったものの、ベーシックステージを完走しました。試走時間でうまくいかないとわかったときには、今回は走り方を変えてみるのも対策の一つだったかもしれません。100% 成功するシステムはなかなか無いですし、いかにリスクを最小限にするかという対策は必要ですね。

#4 地区大会のタイムが良いほど出走順が後ろになっています。

#5 尻尾をつけずにタイヤのみの走り方。

最終的な競技の結果は 公式サイト を参照してください。これを見ると、今回はタイムの速さよりも、確実にベーシック・ボーナスステージをクリアできたチームが上位にいる印象を受けました。

4. mruby-NXT でのデモ

熱い戦いが終わってから結果集計までの時間に、今回はいくつかデモが行われました。その中でもやはり注目は、mruby-NXT のデモです #6 !デモを見ると、スピードはまだあまり出ていませんね。

#6 個人的にはそう思っているのですが、意外と注目している人が少なかったように感じました。選手達は競技が終わった後で気が抜けていたのかもしれません。

ETロボコン2012 チャンピオンシップ大会での mruby-NXT のデモ(5 秒)

九州地区大会での mruby-NXT のデモ(5 分 40 秒頃から走行シーン)

mruby は去年発表された組込み向け Ruby です。mruby はオリジナル Ruby よりコンパクトな実装ですが、それでもメモリサイズが大きすぎて LEGO Mindstorms NXT に搭載できません。そこで ETロボコン用には mruby-NXT という派生開発されたものが使用されています #7

#7 ETロボコン2012 では、まだ基本開発環境としては認められていませんが、2013 年からは認められる方向のようです。

会場に展示してあったパネルには、「C/C++ は習得の難易度が高く、非組込み技術者には敷居が高い。一方、mruby-NXT は習得が容易で、生産性も高い。」と紹介されていました。

「あれ?ETロボコンって初級組込み技術者向けの大会じゃないの?」とも思われるかもしれませんが、「普段の業務では組込み系以外の業務をやっているが、 ETロボコンには参加します。」という方や、「Ruby (の派生ソフト)を使うなら参加してみたい」という方が ETロボコンに参加するきっかけになると思います。また、C/C++ に抵抗を感じている方々や、プログラミングを始める方にもおすすめかと思います。それぞれの言語に得手不得手はあるので、色々試してみるのも面白いかもしれません。

5. ETロボコン 2013

今年の ETロボコンはどうなるのでしょう。 つい先日、ETロボコン 2013 の記者会見が行われました。記者会見の内容については、@IT の記事「 今度の ETロボコンは“ 2 部門制”に! レッドカーペットで自らを表現せよ #8 をご覧ください。

#8 先に書いたように、mruby-NXT が基本開発環境として使用できる可能性が高いと思われますが、記者会見ではまだ触れられなかったようです。

ETロボコン 2013 では「デベロッパ部門」と「アーキテクト部門」の 2 部門が用意されることが大きな目玉となっています。

また会場の見学者による投票も評価となるようなので、「魅せる」ことが重要になってきそうです。解禁されてからあまり使われなかった Bluetooth ですが、この部門では活用されるのではないかと思いますし、期待したいところです。何年か ETロボコンに参加されているチームはぜひ「アーキテクト部門」で出場されてはいかがでしょうか。

実施説明会 は 3 月上旬 #9に開催済みですが、説明会に参加していなくても地区大会に参加はできます。

#9 一部地域は 3 月 2 週目以降に開催されます。前日まで申し込み可能ですので、確認してください。

大会までの活動内容については、ETロボコン2012 参加レポート がありますので、参考に読んでいただければと思います。参加すると、大会までの土日は ETロボコンに向けての準備で潰れます。日々の業務をこなしつつ、参加される社会人の方には(時間的にも、家族サービス的にも)辛いことも多々あるとは思います。ただ、本番で走りきったときの達成感や、他チームの人たちとの交流という楽しみもありますので、ぜひ参加していただきたいと思います。

ETロボコン2012 のモデルについては、チャンピオンシップ大会 2 日目に開催されたモデリングワークショップの模様を別記事で紹介しますので、あわせてご覧ください。特に「デベロッパ部門」としてチャレンジする方は、基本を押さえることが大事になりますので、今までのモデルは大変参考になると思います。

それでは参加される方も、観戦がメイン!という方も、ETロボコン 2013 を楽しんでいきましょう。


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