この記事は、2015年5月16日~17日に米国のカリフォルニアで開催された Maker Faire Bay Area 2015 の参加レポートです。Maker Faireとは、企業だけでなく、個人のMaker(作り手)による出展もある展示会のようなもので、昨年の参加者は21万人以上という大規模なイベントです。ビジネスの香りはそれほど強くなく、大人から子供まで楽しめるイベントです。筆者は、ITに関する有望なスタートアップでも出ているかなという程度の趣旨で、このイベントに参加しました。しかし、このイベントに参加して得たものは、ものづくりを楽しんでいる人々のマインドと、新しいものを見たいという好奇心、そしてみんなでそれを楽しもうという雰囲気にとても魅了されました。この記事で少しでもそれを伝えられたらと思います。
Maker Faireとは?
Maker Faire は世界最大のDIYの展示発表会です。企業だけでなく、ものづくりをする個人も展示サイドとして参加することができます。展示サイドにも、いくつか種類があり、展示のみを行うカテゴリ、物品販売を行うカテゴリ、企業として宣伝を行って展示するカテゴリなどがあります。もともとこのイベントは、”Make:”という米国のテクノロジー系DIY専門雑誌の親会社であるMaker Mediaという会社が始めました。”Make:”が発行されたのが2005年で、その翌年の2006年に最初のMaker Faireが開催されました。開催場所は、カリフォルニア州にあるサンマテオという場所です。ここは、シリコンバレーに位置し、筆者が所属する OGIS International, Inc.(オージス総研に対して米国における最先端のIT技術調査を行う子会社)もあるところです。今回は、10周年記念ということで、再びサンマテオで開催されることになりました。
火を噴いて出迎えてくれる巨大ロボット(写真は、https://makerfaire.com/bay-area-2015/slideshow/ より引用)
本場米国Maker Faireはここがすごい
規模がすごい
まず、驚くべきところは、会場の規模です。とても広く、屋内だけでなく、屋外にも展示が多々あります。展示の種類によって、ゾーンが分けられていて、今回は10個のゾーンがありました。さらっと全体を見歩いたのですが、それでも5時間くらいかかりました。見ている間は、テンションが上がって楽しいのですが、帰りはヘトヘトになりました。人気のイベントなので、駐車場もどこも満車で、かなり離れた場所にしか停められなかったので、帰りは余計に大変でした。 実は、Maker Faireは日本でも開催されています。日本と米国の一番の違いは、屋外スペースの大きさだと思います。土地の広さの問題もあると思いますが、米国では屋外に大きな展示がたくさんあります。
地図は https://makerfaire.com/wp-content/uploads/2015/05/MF15Map8x11.pdf より引用
活気がすごい
展示している人たちも、それを見にくる参加者の人たちも、みんなテクノロジーが好きで、それを楽しんでいるという印象を強く受けました。ただ眺めているだけでも、すぐに展示の説明をしてくれる人が多かったり、子供より真剣に話を聞いているお父さんも多かったり、子供たちも実際に手を動かして体験できる展示に夢中だったりと、すごく活気あふれるイベントです。また、ユニークな発表も多く、例えば子供向けにピッキング講座が開催されたりしていました。日本だと色々問題になりそうな内容ですが、鍵の仕組みについて実際に手を使って学べるというのは、いい経験になるのではないでしょうか。
展示紹介
スタートアップパビリオン
スタートアップパビリオンでは、ベンチャー企業が出展を行っています。
水中撮影装置
水槽の壁面に取り付けて移動させながら水中の撮影を行う装置です。撮影した動画は、PCやスマホなどで見ることができます。まるで水中を直接覗いているかのような映像を見ることができます。熱帯魚好きな人には、おすすめかもしれません。
スキー中の荷重変化やスキー板の傾きなどを測定する装置
スキー靴の底にセンサーを設置して、スキー中の荷重変化やスキー板の傾きなどを測定する装置です。筆者はスキーが趣味なので欲しいと思いました。スキーのコツは、荷重移動と板の角付けです。脚を揃えて綺麗な姿勢で滑っているように見えても、下手な荷重移動をしていると、悪雪路ではバランスを崩して転倒してしまいます。また角付けがしっかりしてないと思い通りのターン弧が描けません。これがあれば、自分の荷重移動や板の傾きの変化を客観的に見ることができるので、とても役に立つと思いました。スノーボード用も開発しているらしいです。
空調制御装置
部屋の空調ダクトに取り付けて、フタの開閉を行うことで空調のオンオフを行う装置です。米国では、セントラルヒーティングが主流で、各部屋の空調ダクトで個別にオンオフすることはあまりありません。しかし、省エネの昨今、人がいない部屋まで空調するのは無駄だという意識が出てきたようです。これは、Bluetoothを使って、スマホを感知して人がいるいないを判断してフタの開閉を行います。スマホさえ持っていれば自動でオンオフをしてくれるのが便利です。
ブラウザで制御できるロボット
ブラウザからプログラミングして制御できるロボットです。このロボットには、ウェブサーバ機能が内蔵されていて、インターネット経由で制御することが可能です。
Intel
Intelは、2014年9月にEdisonというSDカードサイズのコンピュータを開発しました。Edisonの利用目的は、IoTデバイスの開発ボードとして使うことです。
Edisonを使ったラジコン
モーターコントローラとしてEdisonが使われています。簡単なラジコン操作で、かなり複雑な動きをしていました。このマシンが8台くらいあって、みんなで踊ったりしていました。
Microsoft
MicrosoftもIoTを意識した展示が多かったです。今後は、ウェアラブル端末などを始めとするIoTデバイスが急速に増加していくと予想されています。MicrosoftはそこでもOSの覇者を目指して動き出しています。
Raspberry Pi 2を利用したロボット
見た目は、木製の工作キットのような感じですが、これはBuild2015の組み込み向けセッション参加者にプレゼントされたキットらしいです。たくさんの子供がコントローラーを使って操作していました。子供には、Windowsの仕組みなどは分かってないと思いますが、最先端のWindowsを触っているというのは、いい経験ではないでしょうか。しかも、それは子供向けに簡易化されたものではなくて、実際の組み込み技術者のセッションで使われるものであるのも、素晴らしいと感じました。
光物
光物も色々展示がありました。残念ながら、写真があまりないです。
金属のペンで電子回路を描く
金属のペンを使って自分で回路を描き、その上に薄型のLEDと電池を合わせることでLEDが発光するものです。自分で好きなように描くことができるので、子供に大人気でした。
今の天気を再現する箱
今日の現地の天気は曇りだったので、箱の中も曇りになっています。雨の時は、雨が降ります。しかし、晴れの時は地味です。インテリアとしても綺麗で良くできていました。
食品・農業
このゾーンも新しい発見があって面白かったです。
壁掛け式プランター
自分にとっては、植物は下の地面に植えるものだと思っていたので、意外な発見でした。こういう意外な発見があるのが、楽しいです。
自走式草むしり装置
ソーラーパワーで動作して、庭を自律的に走行して、カメラで雑草の芽を見つけて取り除く装置らしいです。らしいというのは、デモがなかったので本当にそのように動作するか分からなかったからです。しかし、本当にその通り動くなら、とても有用な機器ではないでしょうか。
調理補助装置
太陽熱を集めて、調理補助を行う装置です。日照の動きに合わせて向きを変えて、太陽熱を効率的に集めるらしいです。Apple WatchやiPhoneなどのスマホと連携して動作可能です。昔、テレビの1ヶ月1万円生活で、お湯を沸かすために前もってペットボトルに黒い紙を巻いてベランダに出しておくというアイディアを見たことがありますが、それと同じ発想でしょうか。ただ、この機械の電力や、壊れた時の修理代を考えると、まだまだ実用は難しいかもしれないです。
カクテル自動作成装置
カクテルを自動作成してくれる装置です。自分の好みのカクテルがカップを入れるだけで作れます。コーヒーのバリスタのアルコール版というものでしょうか。ただ、コーヒーは同じ味なのでいいのですが、カクテルは種類が多いので、きちんと味わいたいなら、注ぎ口を洗う必要があるみたいです。
屋外エリア
屋外エリアには、大小様々な展示がありました。全部を紹介することはできませんが、印象に残った一部を紹介します。
サイとカマキリのオブジェ
火を噴くサイとカマキリ(?)です。銅か何かの金属でできていて、すごく大きなものです。何のために使うのかと聞かれたら、ただのオブジェとしか答えられません。しかし、火を噴くたびに、感嘆の声が上がっていました。(写真は、https://makerfaire.com/bay-area-2015/slideshow/ より)
手作りアトラクション
どう考えても手作りのアトラクションです。自分でペダルを漕ぐことで動かす仕組みのようです。遊園地の大人気アトラクションくらい子供達が並んでいました。(写真は、https://makerfaire.com/bay-area-2015/slideshow/ より)
無人飛行機の模型 by Google
Googleが展示していた無人飛行機の模型です。自動車の自動運転で注目されているGoogleですが、飛行機の分野にも注力しているようです。
その他
一人用浮き輪
湖で釣りなどをするときに使う一人用の浮き輪です。すでに、フロートというものがあり、バスフィッシングなどで使われています。これは、フレームで強化されていて、電動の推進装置を付けることもできるそうです。
脳波で動かす電動車椅子
実際にデモを見せてもらいましたが、確かに動いていました。
3Dプリンタ
ZONE10では、3Dプリンタコーナーが新たに設けられています。ここの活気もすごかったです。トレンドとしては、高さがあるものをプリントできるものがアピールされていて、タワーを作るデモをしていました。また、3Dではなかったですが、パンケーキの材料をホットプレートにインクジェットプリンターのように落として、パソコンで描いた絵の通りにパンケーキを焼くデモもありました。
高さのあるタワーなどをプリントするデモ
パンケーキをパソコンで描いた絵の通りに焼くデモ
雑感
電子的なデバイスだけでなく、農業、食品、クラフト、アート、服飾など多種多様な分野の出展者が繰り出す展示を一緒に見ることができるのは、筆者にとっても新しい発見が色々とあって面白かったですし、多感な子供達にとっても非常に有意義なことだと感じました。
正直に言って、何に使うのか分からないというものや、不恰好なものもありました。しかし、自分で考えて何か新しいものを作ろうという意思や、実際に形あるものを作ってみるという経験は、価値があるものだと改めて感じましたし、そういうものが受け入れられる環境であるということも理解できました。 このようなマインドや環境は、イノベーションを起こすために必要なことだと感じました。
少し話が変わりますが、シリコンバレーでは、”ピッチ(Pitch)”と呼ばれるイベントが数多く行われています。ピッチという言葉は、本来はプレゼンテーションを指しますが、ここでのピッチは、スタートアップ企業が投資家に向けてプレゼンテーションするイベントを指します。筆者は、ピッチで発表する起業家と投資家、Maker Faireの出展者と参加者が、どことなく似ているなと思いました。出展者が持つ自分がこれを作ったという自信や、何か面白いものがないかという参加者の好奇心、そしてそんな人たちの交流の場があることは、どちらにも共通するものではないでしょうか。
投資家は、お金のためだけに行動していると思われがちですが、すべての人がそういうわけではありません。実際に、Scrum Ventures という投資会社の代表をされている宮田さんに、メンターという仕事のお話を伺いました。メンターとは、スタートアップ企業が集まっている施設にアドバイザーとして参加し、企業にアドバイスや人脈の紹介、投資などを行う仕事です。この仕事は、ボランティアで、お金はもらえないそうです。お金以外のモチベーションは、2つあると宮田さんはおっしゃっておられました。一つは、若い人がチャレンジするのを支援したい。もう一つは、多様なバックグラウンドの人たちと話をすることで、自分自信の知的好奇心が刺激されて、新しいことが吸収できることだそうです。
このイベントに参加して、イノベーションを起こすための土壌はこういうところにあるのかと実感しました。