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レポート

エンタープライズアジャイル勉強会「蓼科合宿」参加レポート

アジャイル開発の活用を阻む障害と障害の解決策を共に考える
株式会社オージス総研 技術部
原田 巌
2017年11月16日

2017年10月6日〜10月7日にエンタープライズアジャイル勉強会主催の合宿が開催されました。今回の合宿の目的は、「アジャイル開発の推進役の方々を対象にアジャイル開発の活用を阻む障害と障害の解決策を共に考えること」です。合宿は、まさに参加者が直面する課題の解決に向けて知恵を絞る、中身の濃い2日間でした。本記事では、合宿の内容をレポートします。なお、本記事は記事中の見出しも含め、筆者なりの理解で記載したものです。その点についてご了承ください。

エンタープライズアジャイル勉強会は、日本の企業においてチームレベルを超えたアジャイル開発の活用に際する様々な障害とその解決策をより広範囲で共有するために2015年7月に発足した団体です。 https://easg.smartcore.jp/

茅野駅 <集合場所の長野県の茅野駅>

合宿の目的と流れ

今回の合宿はエンタープライズアジャイル勉強会として2回目。前回は2016年10月にありました。今回の合宿の目的は、『アジャイル開発の推進役の方々を対象にアジャイル開発の活用を阻む障害と障害の解決策を共に考えること』です。以下が合宿のプログラムです。

  1. 障害を解決した体験談を伺う: 老舗文具メーカーでクラウド・スマホアプリ新規事業立ち上げへ挑戦(基調講演)
    • 講演者:コクヨ株式会社 事業開発センター シニアスペシャリスト 山崎 篤様
    • 概要:創業1905年、100年以上続く文具・家具メーカーコクヨ。商品(モノ)開発のノウハウはあれども、ソフトウェア開発のノウハウはない状況で、新規にクラウド・スマホアプリ新規事業の立ち上げに挑戦。自社にシステム開発リソースがない企業が遭遇した、課題や解決策、パートナーの発掘、品質管理、結果としてアジャイルだった話などを、失敗談含めお話しします。
  2. 障害を解決した体験談を伺う: Fearless Changeと組織改善 〜 イノベーティブな組織を目指してあなたから出来ること (基調講演)
    • 楽天株式会社 アジャイルコーチ 川口 恭伸様
    • 概要:組織をよりイノベーティブに保つには、トップダウンだけでなく、日々の業務を行う人々による具体的な施策が欠かせません。社内に新しいアイデアを普及させるために役立つパターン集であるFearless Change 1 を参照しながら、組織をイノベーティブな場にするための、私なりの体験と考え方を話したいと思います。
  3. 『エンタープライズアジャイル』の実現を阻む障害に関する議論
  4. “Fearless change”を学び、パターンを使った問題解決を体験する
  5. 自分が直面している課題の解決策を考える

風景1

基調講演を聞いて筆者の感想

小さく始めて、立ち止まって考える

プロダクトを常に動きを確認できる「潜在的に出荷可能なインクリメント(Potential Shippable Increment: PSI)」として提供し続けることによって、ビジネスのフェーズに合わせて判断することが大切だということです。

新規事業の場合、最初から成功することは難しいことから、段階に分けて考え、ユーザーだけでなく、開発の継続を判断する経営陣に対しても納得させられるプロダクトを作りながら、開発に付き合ってもらうやり方がよいとのことです。また、新規事業の場合、仮説検証の繰り返しになります。仮説を立てるに当たって、大切なことを2点学びました。

1点目は、ユーザーに指名買いされる商品にするために、「誰に」を見極めてから「何を」開発するかを決めたほうがよいということです。「誰に」が決まっていると利用シーンが見えてくるので着眼点(何を)が見えてくるようになるということです。プロダクトを検証している際は、全部は作らず、「あったらいいな」は黒字化するまで作らないようにしたほうがよいようです。

2点目は「自分で立てた仮説を全面的に信頼しない」ことが重要とのことです。先程の逆を言っている訳ではなく、時には間違いを認めて方向転換する必要性も出てくるということです。自分が立てた仮説は間違いではないと思い込みがちなので、結果に対して素直に事実を認めることも重要であると分かりました。ユーザーのフィードバックを受けて不要だとわかった機能は切り捨てたり、市場と照らし合わせて時には不要なシステムは捨てたり、撤退の可能性も考慮したりする勇気も必要であるとのことです。

まじめから本気(マジ)へ

作ったプロダクトは常に良いものとは限りません。Standish groupのChaos reportで60%は「まったく使われない」か「ほとんど使われない」という結果がでています。しかし、ここで計測した機能全体のうち、実際に作ると決めたものは「予算制約」や「実現可能性」で省かれている可能性があり、実際にユーザーが要望したものはもっと少ないのではないかという話がありました。それが事実であれば、有用な機能は60%より少ないことになります。

使用される機能を作り、それ以外の機能のムリやムダを省く為にもユーザーをどれだけ早く「本気(マジ)」にさせるかが重要とのことです。従来開発だとリリース後にユーザーがソフトウェアに触れて、そこで初めて本気に業務を見れるようになりますが、その時には開発体制が縮小されてしまっています。そのため、やりたいことができず、どのように業務をこなすか不満を持ちつつ、真面目に上手くやれるように頑張ってしまう。そのような流れは私も経験がある気がします(下図参照)。

出典) 実感駆動のITマネジメント

会議室で話し合いを続けても本気になることは少なく、リリース後に「本気」にさせるのでは遅い。早く動くものを見せてユーザーを「本気」にさせることが重要で、そのためにPSIを早い段階で少しづつ作成して(step by step)、ユーザーのフィードバックから小さく成功(small success)を積み重ねる事が重要とのことでした。

注) Step by Step と、Small Success は、上述の Fearless Change に記載されているパターンの名前です。

Fearless Journeyゲームで突破口が見つかった!

ゲームのやり方はサイト※参照のこと。 ※http://fearlessjourney.info/

ゲームではチームで「エンタープライズアジャイルの活用」での課題を障害カードとして、パターンを使用しながら課題の解決策を討論しました。ゲーム開始前はエンタープライズアジャイルの課題の解決は難しく、ゴールするのは難しいと思っていましたが、以下のように時間内にゴールまでたどり着くという結果になり、正直驚きました。

Fearless Journeyゲームの風景

気が付いたこと

課題に「エンタープライズアジャイルの適用に向けての障害」を挙げていたためか、通常のFearless Journeyゲームとは違った面がありました。

使用する解決カードの多さ

私が過去に参加したFearless Journeyゲームではチームレベルの課題が多く、解決策は1,2パターン出せば解決できそうだとチームで納得できたのですが、組織をまたがる問題となると組み合わせが多くなったことに気が付きました。また、パターンの使い方も段階的に状況を改善しながら、最終的に課題を解決するというストーリーを持たせる解決策が多く出ました。

解決できない課題は迂回

写真では分かりにくいですが、解決できずに避けて通った課題が残っています。時には解けない課題は避けて、別方向から攻めたりするのも戦略の一つだと思いました。

同じ方法で解決できる

問題の大きさから最初から解決を諦めていたが、突破口が見つかるとそこから「これも同じ形で解決できる」ということが分かる形も出てきました。課題で出した時には別問題と思っていたものが、議論を通して同じ解決策で解決できる、つまり、根本原因が同じであることが多いことも気が付きました。

筆者が学んだこと

コクヨ山崎氏と楽天川口氏の話には共通点が多いと感じました。エンタープライズといえども大きく一気に作るのではなく、ビジネスのフェーズに合わせて、Go/Not Goの判断が可能になる機能から作り、本気でシステムと向き合う場面を早い時期に用意することが重要であると理解しました。

顧客視点やプロダクトを中心に考えた時、スクラムで挙げられるPSIを重視する必要があると改めて思いました。動かして確認できるPSIを中心に、スクラムでいうプロダクトオーナーの役割の人は、立ち止まって考え、都度、判断を行うことになります。そのためにもスクラムのようなアジャイル開発の手法のように素早くPSIを届けて、フィードバックから学習することによる問題解決が有用であると感じました。

また、顧客のみならず、組織への働きかけも忘れてはいけません。エンタープライズな開発は組織を超えて会社レベルで物事に当たる場面も多いため、様々な問題や課題が山積みであると感じていたのですが、基調講演を行った山崎氏や川口氏のような実践者が行っていたことはシンプルに物事を進めており、問題や課題に立ち向かう姿は至極当然なことと感じました。実際、Fearless Journeyゲームの中では課題の多くはFearless Changeのパターンを使って解決策を挙げることができた通り、まったく手立てがないわけでもないことも分かりました。

合宿での最後の総括として、「自分が直面している課題の解決策を考える」で各自が学んだことや理解したことを活用しながら各自が発表を行いました。その時、参加者は難しい課題に対して「こうしたら良いと思う」と解決策を笑顔で話していたことが印象的でした。

原田のメモ <原田のメモ>

参考


  1. Mary Lynn Manns and Linda Rising, Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン, 丸善出版 (2014)