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インタビュー

動物が使えるソフトウェアコンテスト優勝者インタビュー

動物とコンピュータと人を絡めた事業をしたい
2018年2月8日
チーム「猫の目」
チーム「猫の目」
宮城大学大学院 事業構想学研究科 佐々木 梨菜さん

昨年11月15日に開催したオージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテスト第8回 OSCA(OGIS-RI Software Challenge Award) 「動物が使えるソフトウェアコンテスト」で優勝した「猫の目」チーム佐々木さんへのインタビューをお届けします。宮城大学 大和キャンパスにある事業構想学部を訪問し、優勝者インタビューに加えて、佐々木さんが在籍する鈴木優研究室(ULAB)の鈴木優先生からもお話を伺いました。

インタビュアー:藤井 拓
(編集:木村 めぐみ)
キャンパス
宮城大学事業構想学部がある大和キャンパス本部棟をバックに。自然に囲まれたとても美しいキャンパスでした。

人とコンピュータと動物を絡めた研究がテーマ

-- まず、大学院で今どんなことを研究されているのか教えていただけますか。

佐々木- 私は今、修士の1年生で、事業構想学を専攻しています。私がやっている研究としては、人とコンピュータと動物の三つを絡めた研究に取り組んでます。

-- いつ頃からそのテーマにしようと決められたのでしょうか。

佐々木- 学部の3年生のころです。自分の卒業研究はどういうことをしようかと考えたときに、自分がペットを飼っていたこともあり、動物も絡めて研究することを視野に入れていました。

-- 今の専攻は、デザインと情報が融合したような領域ですよね。ご自身は、デザインと情報どちらに興味を持たれていますか。

佐々木- どちらかというと、デザイン寄りかなと思います。

-- この領域でのデザインは、世の中で一般にいうデザインよりもっと広い意味じゃないですか。そういうデザインに出会ったのはいつ頃なんでしょう。

佐々木- 私がもともと本を読むのがすごく好きで、小さい頃から絵本もすごく読んでいたんです。それで、中学生ぐらいからエディトリアルデザインという、本の装丁に関するデザインに興味を持って、意味も含め、そこからデザインの幅広さを知って、より興味を持つようになりました。

エディトリアルデザイン:新聞・雑誌などの印刷物で、写真・イラスト・図形などをそれぞれの機能に応じて整理配列し、その全体を視覚的に表現し構成する編集技法。(出典: 小学館 デジタル大辞泉

動物がテーマだったので先生に勧められた

インタビュー風景

-- 今回コンテストに応募された動機は何だったのでしょうか。

佐々木- 本当にある日突然、二人の先生から同時に「こんなコンテストあるよ」って勧めていただいたのがきっかけです。その二人の先生というのが指導教員の鈴木先生と、ちょうどその時に受講していた授業で指導していただいていた小嶋先生という方なんですけど、先生方から、「応募してみたら?動物だよ。」と勧めていただいて、これはやってみようと思って応募しました。

-- 動物というキーワードで、佐々木さんにお勧めしなくちゃ、と先生も思われたんですね。

大学4年のころから自分の中にあったアイデア

-- 今回の本選で発表いただいた作品のアイデアは、いつごろから考えられていたんでしょうか。

佐々木- 研究テーマを考え出した時期と少し重なるのですが、3年生から4年生に進級する辺りだったと思います。4年生の最初ぐらいにはアイデアとして自分の中にありました。

優勝したアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「インタラクティブ猫じゃらし:CATouch!」 (PDF: 約 1.2MB)

-- それを実際にソフトウェアに具体化したり、検証したりしたのはいつぐらいなのでしょう。

佐々木- ソフトウェアを具体化していったのは、主に4年生の頃です。アイデアの検証は、合計で猫5匹にしたのですが、1匹だけ4年生のうちに検証が可能だったので、4年生のうちにソフトウェアの具体化と猫1匹に対する検証をしました。他の4匹の検証は院生になってからになります。

-- その1匹の結果が結構よかったということですよね。

佐々木- そうですね。本当に偶然なんですけども、すごくいい結果でよかったです。

猫が「いいよ」と言ってくれるわけでもなく自問自答の繰り返し

-- 作品を考えていかれる上で、どんな点に一番苦労されましたか。

佐々木- 相手が動物の猫ということもあって、「これどうよ」って聞いても、「いいよ」と返されるわけでもなく、自分がやっていることが本当に猫にとっていいことなのか、自問自答の繰り返しで、そこが一番苦労しました。正解がないと言うと極端ですが、どうすることが最善なんだろうって。

-- フィードバックをくれない、という。

佐々木- そこですね。

インタビュー風景

-- 動物が興味があるような色とか、猫の視覚からこの色が認識できるとか、こんな形のものが好きだということを考えて具体化されたと思うのですが、猫が興味を持ちそうなものは分かっていたんでしょうか。

佐々木- 実家で猫を3匹飼っていたので、猫がテレビを見て動きに注目している様子を見て、こういう動きが好きなのかなとか、自分の生活の中で見聞きしたことを考えながらアイデアに反映させようとしていました。

-- 検証の中で非常にいい結果が出たケースと、残念だったケースがあったと思うんですが、残念なケースのところで落ち込んだりしませんでしたか。

佐々木- かなり落ち込みました。心が折れそうになって。駄目だったのかなと思ったんです。というのも、その1匹以外はほとんど遊んでくれなかったので、自分でもすごくがっかりしました。でも、自分なりに考えて、じゃあ何が駄目だったのか、駄目だった場合に共通してることは何なのかを考える材料にはなると思って、前向きに考えて、自分なりに何とか落とし込みました。

-- そうですか。今回、検証がすごく大きなポイントになったような気がするんですが、検証を入れるというのは最初から考えていたんでしょうか。それとも、研究の過程で、検証がないと説得力がないというような気付きがあったんでしょうか。

佐々木- 気持ちとして、実験したいなっていうのはありました。でも、それ以上に先生が「検証がないと説得力がない。アイデアだけで終わってしまうのは、もったいないことだ。」とおっしゃっていて、私もその通りだと思ったので、検証は必ずして、駄目だったとしても何かしらの説得力は持つだろうと考えました。

ULAB

-- そもそも、そういうものづくりとか実験みたいなものが、もともと好きだっていうことはあるんでしょうか。

佐々木- どうでしょう。ものづくりはとても好きで、自分の作ったものを誰かに見せてリアクションを見るのは好きですね。

一人で挑んだ本選、他のチームは伝え方がすごく上手だった

-- 本選ですごく落ち着いてプレゼンされていましたが、先生などを相手に練習されたんでしょうか。

佐々木- 前日に、先生の前で実際のパワーポイントを使って発表の練習をしました。でも、私自身がすごくあがり症で緊張するタイプなので、当日もすごく緊張してました。

-- 緊張した雰囲気はなかったですよ。お一人で来て、落ち着いてプレゼンされて、素晴らしいな、と印象的でした。

佐々木- 頑張りました。でも、一人でこういうコンテストに参加するのは初めてだったので、うまく発表できるか不安に思っていました。

-- ご自身のプレゼン以外に他のチームの発表を聞いて、どういうふうに思われましたか?手ごわいというか。

佐々木- 手ごわいと思いました。私以外、何人かでチームを組んでいましたし、メンバー一人一人が得意とする部分をそれぞれに担当していて、伝え方も劇にするなど工夫しているチームもあったので、内心焦っていて。私は一人だし、そんな上手な伝え方もできる自信ないなと思っていました。他のチームは伝え方がすごく上手だなっていう印象を受けました。

-- ただ、伝え方のスタイルが違うだけで、佐々木さんの発表はすごくまとまっていて主張が分かりやすかったです。あと、実験の動画が入ってるのがかなり説得力高かったですね。

佐々木- よかったです。

-- 特に強敵だと思ったのはどのチームでしたか。

佐々木- 皆さん強敵だったんですけど、印象に残っているのは、動物園の推し動物のアニドルを決めるやつでしょうか。プレゼンがすごく熱くて、分かりやすかったです。

-- 「アニドル育成計画」ですね。確かに熱かった。聞いてて熱気がすごく伝わってきました。

佐々木- あったら私もやってみたいなと思ったので、特に印象に残っています。

「アニドル育成計画」のアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「アニドル育成計画」 (PDF: 約 2.1MB)

優勝の反響

-- 表彰式で先に審査員特別賞と準優勝が発表されて、残るはゲスト審査員賞と優勝の2チームの発表となりました。佐々木さんはこの2チームに残りましたが、あの時のお気持ちはどうだったんでしょうか。

佐々木- どうだったんでしょう・・・。自分もあんまりよく覚えてないんですけど、ここまできたらいけるかなっていうのは正直思いました。でも、ここで優勝を逃すかもという考えもよぎってドキドキでした。

コンテスト本選の様子はオブジェクトの広場2017年12月号に掲載した「動物が使えるソフトウェアコンテスト本選レポート」でご覧いただけます。

-- 優勝されたことは、表彰式の後、すぐに先生に報告されたんですか?

インタビュー風景

佐々木- まず最初に伝えたのは母でした。母に電話で伝えて、「おめでとう」って言ってもらって、その後、先生に伝えて「よくやった」と言ってもらえました。

-- 同じ研究室の皆さんからの反響はいかがでしたか。

佐々木- 後日、後輩も含め、みんなに「優勝したよ」と言ったら、「おめでとうございます」と祝福してもらえたのでうれしかったです。

自分の考えをたくさんの人に伝える経験ができたことが一番よかった

-- 今回、コンテストに出場されてよかったと思われた点は何でしょう。

佐々木- 自分の考えをたくさんの人に伝えるという経験ができたことが一番よかったと思っています。何度か学会でも発表しているのですが、自分の考えを誰かに伝えるのはすごく難しいなと思っていまして。そういう経験をたくさん積んで、積極的に自分の考えを誰かと共有していきたいという思いもあったので、今回もまた一つ経験ができたのがよかったなと思います。

-- 多くの人、というは学会などのコミュニティーだけじゃなく、もっと広範な人たちに聞いていただきたいっていうことですね。他のコンテストにチャレンジされたことはあるんでしょうか。

佐々木- 全くなくて、今回が初めてです。

-- そういう意味では、先生から勧められたというのもあるし、自分自身の作品をどんな評価が得られるか興味があった、ということでしょうか。

研究室
インタビューをした研究室の壁には「百折不撓」と書かれた掛け軸が。師範代の腕前を持つ研究室の卒業生が寄贈してくれたとのこと。

佐々木- そうですね。コンテストなどは今まで出たことがなかったので、ここでやってみようという気持ちになりました。

-- でも怖い気持ちもありますよね。

佐々木- 怖いのもありました。予選落ちするかなとか考えたりもしていたのですが、やってみないと駄目だという気持ちもあって決意しました。

-- ちなみにどのような学会で発表されるんでしょう。

佐々木- 情報処理学会です。あと来年(2018年)の夏ですが、 HCI International という海外の学会にも参加することが決まっていて、今回のこの猫のテーマを発表することになっています。

-- それはぜひともいいフィードバックがいただけたらいいですね。

将来は動物とコンピュータと人を絡めた事業をしたい

-- 将来の夢はどんなことを目指されているのでしょうか。

佐々木- プレゼンの最後に今回のアイデアを事業化したいと言ったと思うのですが、将来的には、動物とコンピュータと人を絡めた事業をやっている第一人者...ではなくても、その一人でいたいなと思います。

-- 素晴らしいですね。ということは、今回の作品に限らずもっと広くそのジャンルでいろんなものをさらに考えていきたい?

佐々木- そう思ってます。

-- 事業化をしたいという考えを持つようになったのはいつ頃からなんでしょう。

佐々木- 大学に入学してからです。というのも、私はもともと事業構想学部のデザイン情報学科に入ったのですが、宮城大学に事業計画学科という学科もあって、実際の事業に関わる部分を主に勉強する学科があります。この大学の特徴として、他の学科の授業も履修できるので、事業計画学科の授業も受けようと思って参加してみたんです。その中で、事業ってこういうふうに回ってるんだといろいろ学んで、じゃあ自分のデザインしたものを事業に落とし込むにはどうしたらいいんだろうというのを、漠然とですけど考えるようになりました。

-- 授業を受けて、できるかなという道が見えたのでしょうか。

佐々木- そうですね。興味を持ちました。自分の中では、事業化するためにはお金がたくさん必要で、もっと難しい専門的な知識が必要で...と思っていたんですけど、意外とそうでもないということを学んだので。「1円からでも起業できるよ」と先生もおっしゃっていて、思っていたほど難しいことではないんだ、と思ったのがきっかけでした。

-- そのために、既に活動はされているのでしょうか。例えば、スタートアップ系のイベントに行って作品を紹介したり、具体的に資金を得るための活動をしたり、など。

佐々木- 事業計画として不十分な点も多いので、まだそのような活動はしていません。今は、まず自分のできることはやろうと思い、できることから取り組んでいます。起業するとなったら、情報系の分野のことだけじゃなく、経営や動物の行動学のことも知っておかないといけないので、行動学のことを本で勉強したりしています。

-- 分かりました。インタビューは以上です。これからのますますのご活躍をお祈りしています。

本部棟
本部棟に入ると大階段が。入学式にはここに全員並んで写真を撮るそう。

鈴木優研究室訪問編

インタビュー後、佐々木さんが在籍する鈴木優研究室にお邪魔し、鈴木先生に大学やコンテストに関してお話を伺うことができました。

事業を起こせるような人材をつくるのが事業構想学部の狙い

鈴木優助教
宮城大学 事業構想学部 デザイン情報学科 鈴木優助教

-- 事業構想学部という学部名があまり聞き慣れないユニークなお名前だと思ったのですが、その辺りの狙いはどういうところにあるんでしょうか。

鈴木- この学部の狙いは名前のとおりで、事業を構想する力、つまり事業を起こしたりプロデュースしたりする知識や技術を身に付けてもらうことです。大学生の就職活動や就職率は新聞等でよく話題になりますが、本学部の理想は就職活動ゼロです。つまり、全ての学生が自分で事業を立ち上げて卒業していく姿が本学部の理想です。

例えば、既存の会社で経営者として活躍したいとすると、経済系や経営系の学部で専門的な知識を学ぶことを考えると思います。持続可能で安定的な事業を展開するにはこのような知識ももちろん必要です。一方で、自分の持っているアイディアを具現化して事業化したいとすると、経済や経営の知識だけで十分なのでしょうか。事業構想学部では、社会・経済・技術等について幅広く学び、アイディアの事業化やそれを通じたイノベーションの創造を目指しています。

-- 私は企業でソフト開発の分野でアジャイル開発をやっているのですが、日本の大手の製造業でもなかなか革新的なプロダクトを出せずに従来路線をいきながら行き詰まり感が出てきているような気がするので、そういうところでも事業を構想していくということが求められるような気がします。大学として、学生さんの事業に関する支援などは考えていらっしゃるんでしょうか。

鈴木- 事業構想学部には30名を超える教員が在籍していますが、全ての教員が異なる専門性を持っており、専門分野の重複はほとんどありません。その分野は多岐にわたり、大きく分けると、会計やマーケティング等のビジネス分野、地域分析やコミュニティデザイン等のソーシャル分野、情報メディアや建築等のデザイン分野があります。学生は事業を構想するのに必要な知識や技術を、30人以上の専門家から学び、必要な支援を受けることができます。

-- デザインも重要な要素だと思うのですが、デザインというものも日本の中ではまだなかなか理解されていないんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。

鈴木- デザインと聞くと、美術や芸術のようなものが真っ先にイメージされると思うのですが、デザインという言葉は多様な意味を持ちます。一般的には、デザイン=意匠・外観と認識されることが多いですが、我々の扱うデザインはそれに限りません。例えば、何かモノをデザインするとき、意匠ももちろん大切にしますが、我々はそれを使用する人や、空間、環境、さらにそれを使用した人が得られる体験等も含めて総合的に考えていきます。また、それを実現するための機能や仕組みも考える必要があります。そういうプロセスをしっかりと踏んでいくと、モノに新しい付加価値を付けることができます。私の所属するデザイン情報学科は、デザインについて改めて整理し、デザインの力で生き方や暮らし方に新たな価値を創造することを目指して、今年度から価値創造デザイン学類という新しい組織へと移行しました。

-- 日本でそのような取り組みをされている大学は今のところ少ないんでしょうか。

鈴木- デザイン情報学科(価値創造デザイン学類)では、工学と芸術がうまく融合しています。たとえば、建築系の学科は他大学では工学部か芸術学部のどちらかに存在することが多いですが、我々はその両方の側面を合わせ持っており、このような大学は多くないと思います。

-- 特に情報系はどちらかというと技術とか工学的な側面に比重がいきがちな気がするのですが、そういう意味で情報とデザインがくっつくというのはすごくユニークな気がするんですよ。

鈴木- 同僚の教員は主に工学系か芸術系のバックグラウンドを持っており、その違いもあってそれぞれが情報に関してはいろんな解釈をします。私は情報工学系の出身ですが、情報技術はデザインのためのツールだと考えています。情報技術は人や社会を良い方向に変えるデザインを生み出すための道具として捉え、研究を行っています。佐々木さんの猫の研究はとても良い事例で、情報技術を活用し、人と動物の生活を良い方向に導くデザインを実践しています。

研究室で学べること:遊びでもいいから使ってみる

-- 先生の研究室で指導されるときのモットーみたいなものはあるでしょうか。

インタビュー風景

鈴木- 研究室の雰囲気はとても緩いです。ゼミで研究発表をしていても話が脱線してみんなでワイワイしていることもよくあります。学士課程で卒業する学生でも1年半もの期間を一緒に過ごすことになるので、少しでも楽しく過ごしてもらえればと思います。ただし、研究はしっかりやってもらいます。雰囲気に流されて気を抜くとサボって何もしないことになりかねないので、研究は真面目にコツコツと進めるようにと常に言っています。みんな優秀でしっかりやってくれるのでほとんど叱ることもありません。このあたりは感心します。

-- デザインの力を高めるためにやったほうがいいとお勧めされているものはありますか。

鈴木- デザイン力を高めるにはインプットが大切だと考えています。自分が好きないろんなデザインをとにかくたくさん見たり聴いたり触ったりすることで、脳にデザインを生み出す素となるアイディアの元素みたいなものが蓄積されていきます。デザイン以外でも同じですが、新しい何かを生み出すときには既存のアイディアを組み合わせたり、拡張したりして生み出すことがほとんどです。デザイン力をすぐに高める魔法はありませんので、日々の生活の中でたくさんインプットする習慣を付けることがまずは必要です。

研究室には3Dプリンタやレーザーカッタ等のデジタル工作機器があります。これらの機器は難しそうなイメージがあるかもしれませんが、勉強すれば意外と誰でも使いこなすことができます。研究室の学生に使い方を教えてあげると勝手に創作を始め、それなりに質の高いアクリルのアクセサリを作る等して遊び始めます。他にもCNCフライスやドローン等の多くの機器や道具があります。こういった大学の研究室ならではの環境に身を置いていること自体が貴重なインプットの機会なのですが、学生はなかなかそれに気付きません。なので、大学や研究室にあるいろんなモノでとにかく遊んでみるように言っています。楽しく知識と技術を身に付けられます。

(編集注)CNCフライス:コンピュータで制御して切削加工を行える工作機械。3Dプリンタは材料を積み上げて加工するのに対して、CNCフライスは材料を削って加工する。

-- 先生ご自身が率先して使うということもあるんでしょうか。

鈴木- 私自身が機械やガジェットのようなモノが好きなので。電子工作とデジタルファブリケーションを使って日常の生活をちょっと便利にするガジェットを自作しています。

メダカの餌やり機
鈴木研究室の学生が作ったメダカの自動餌やり機

そこにあるのは、学生にも手伝ってもらって制作したメダカの自動餌やり機です。大学で飼われているメダカがいて、飼い主さんが休日の餌やりに困っていたので、決められた時間にえさを自動であげてくれるものを作りました。これだけで本来の目的は達成しましたが、インターネットに繋がるようにして、餌やり機をIoT化しました。ウェブサイトに設置したボタンから餌やりもできますし、スマートスピーカに対して「メダカに餌をあげて」と音声で指示すると餌やりができます。目的に対しては完全に無駄な機能ですが学生が自分の研究ネタを考えるきっかけにでもなれば良いかなと思います。

-- 自らが楽しむと学生さんも好奇心を持つというか。

鈴木- そうかもしれないですね。

研究室のテーマ

-- 研究室では多様な研究をされていると思うのですが、共通のテーマはあるのでしょうか。

鈴木- 私の専門は工学系で、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)という分野です。人やモノとコンピュータとの間のインタフェースやそこで発生するインタラクションについて研究しています。最近は特にインタラクションの対象を動物に拡張する研究や、手描きデザインの研究に興味を持っています。研究室で扱う研究テーマは多様ですが、基本的にはすべてHCIです。学生の研究テーマは学生自身の興味や関心に基づいて自分たちで考えてもらいます。ただし、テーマを考えるときには、研究の対象となる人や物、社会のことをしっかりと意識するように指導しています。研究の成果は本当に人や動物の生活を豊かにするのか、社会や人々の心を動かすことができるのか、といったことを突き詰めて考え、社会全体の幸福が少しでも増加するようなデザインを実践するように指導しています。

ただ面白いものを作ってもそれは研究にならないので、それがだれのためのものなのか、なぜ必要なのか、それを実現する手段として最適で合理的なのか、ということは常に問いかけます。学生は面白いものはたくさん思い付くのですが、この問いをクリアするのにかなり苦労しているようです。

-- 今回のコンテストの書類審査でも作品をいろいろ拝見しましたが、自分自身の思い付きで動物の身になって考える点が弱いかなと感じた作品もありました。そういう意味では、佐々木さんの作品や本選に出ているチームはそういうところを考えているチームが多かったと思います。

鈴木- 佐々木さんには学部生の頃から常に言ってきたので、よく理解してくれていると思います。

佐々木さんのコンテストでの取り組み

-- コンテストに今回佐々木さんが応募されて、佐々木さんの奮闘というか取り組みを見てどう思われましたか。

鈴木- すごく頑張って取り組んでいました。佐々木さんはこれまでに何度か論文を執筆したことはあったのですが、コンテストへの応募は初めてだったようで、応募書類の文章が全て論文調になっていました。最初に提出してきた応募書類は朱入れで真っ赤にして返しつつ、論文とコンテスト応募書類では同じ作文でも目的や読み手が違うことを意識するように指導しました。最初こそ指導が必要でしたが、その後は二次審査の書類では漫画風の表紙を作ってくる等、自分で考えて工夫を凝らした応募書類を作成していました。自ら積極的に取り組み、良い結果を残せたという成功体験を得られたことが今回のコンテスト応募で最も良かったことだと思います。

2次審査で提出された資料は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「インタラクティブ猫じゃらし:CATouch!」 (PDF: 約 1.2MB)

-- 2次審査の資料、インパクトのある表紙ですごく印象に残っています。今回佐々木さんは優勝されたわけですが、今後も研究室の中からコンテストに応募されることなどお考えですか。

鈴木- コンテストのテーマ次第というところもありますが、是非また応募させたいと思います。佐々木さんは本選の審査で審査員の方から貴重な意見やアドバイスをたくさん頂いたと喜んでいました。学会等のアカデミックな場で頂く意見とは視点が違うということもあり、多くの気づきを得られたはずです。佐々木さんは以前から、人と猫の暮らしを支援する技術で起業したいと言っていましたが、さらにその意欲は増したようです。学生が成長できる場をご提供いただいたオージス総研と審査員のみなさまには改めて感謝いたします。

-- 学生の皆さんがご応募してくださってこそ成り立つコンテストです。こちらこそありがとうございました。またテーマが合いましたらぜひご応募いただければ幸いです。本日はお忙しいところありがとうございました。

ULAB(鈴木優研究室)はインタラクションやメディアに関する研究を行っている、宮城大学事業構想学部デザイン情報学科に所属する研究室です。