[オージス総研の本]
百年アーキテクチャ |
はじめに
プロローグ
目次
第 1 節 巨大化したシステム、硬直化したIT部門が事業の足をひっぱる
第 2 節 企業システムの抱える構造的課題
第 3 節 IT 部門の抱える構造的課題
第 1 節 企業システムを取り巻く環境変化
第 2 節 目前に迫るパラダイムシフト
第 3 節 企業システムの理想像
第 4 節 理想システムを支える IT 部門像
第 1 節 アーキテクチャ成熟度ステージ
第 2 節 ステージアップのための成功要因
第 3 節 アーキテクチャ成熟度ステージに基づく改革
第 1 節 システム開発の現状把握
第 2 節 インフラの現状把握
第 3 節 システム運用管理の現状把握
第 4 節 情報企画の現状把握
第 5 節 IT 部門、グループ IT 子会社の位置付け
第 1 節 IT 投資マネジメント
第 2 節 開発技術
第 3 節 クラウドコンピューティング
第 4 節 運用技術
第 5 節 戦略的ソーシング
第 1 節 アーキテクチャ成熟度の診断
第 2 節 ビジネスプロセスの成長シナリオ
第 3 節 アプリケーションの成長シナリオ
第 4 節 インフラの成長シナリオ
第 5 節 IT 部門の地位向上シナリオ
第 6 節 ベンダマネジメントの改革シナリオ
第 1 節 改革の成功要因は「巻き込み」
第 2 節 ステークホルダの巻き込み
第 3 節 達成目標の共有
第 4 節 プログラムマネジメント
おわりに
監修者・執筆者一覧
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『百年アーキテクチャ』という本書の題名を見て、「何のことだろう」「どういう意味か」と不思議に思われた方も多いと思います。
アーキテクチャとは設計思想を意味します。副題を「持続可能な情報システムの条件」としましたので、「情報システムを百年持たせる設計思想について書いてあるのだろうが、果たしてそんなことはできるのか」と疑問を抱く方もおられるでしょう。もちろん、そのまま百年持つシステムというのはありえません。
しかし、著者一同、「しっかりとしたシンプルな基本構造を持つ情報システムは、世の中やビジネスの変化に適応し、必要なら百年間であっても持続できる」と考えています。その設計思想と実践方法をまとめたものが本書です。
「百年持つ情報システム」というメッセージを私達が考えだしたのは、現状の情報システムの開発や保守(システムを維持すること)に対する疑問からでした。新しいシステムを一つ作ろうとすると、相当な時間と投資が必要です。
しかも完成した直後から、毎年のように追加開発や変更が繰り返され、数年後にまたしても巨額の投資がされて大幅な改造を余儀なくされてしまいます。
このような投資パターンは当たり前のことと考え、開発プロジェクトをいかにして成功させるか、そのことに能力を集中してきました。
しかし、「これでいいのか」という疑問は常にありました。情報システムを使われている、いわゆるユーザ企業の方々から、「こんな些細な修正なのに、なぜこれほどの費用がかかるのか?」と言われ続けてきたからです。
従来、システムを開発する我々 IT 企業は「システムが複雑なので仕方がないのです」と答えてきましたが、技術を売り物にする企業なのにこんな回答でよいのか、と思う気持ちが強くなりました。
言うまでもなく、ここ数年の不景気により、情報システムへの投資に対し、質的な変換が強く求められるようになってきました。企業の IT 部門はコスト削減への要請に応える一方、以前にも増して経営に資する情報システムの提供を求められています。
ユーザ側の変化に呼応するかのように、技術やそれを提供する IT サービスの面でも一大変革が進行しています。最近ではクラウドコンピューティング、あるいは「SOA」「OSS」という言葉が喧伝されています。本書の構成
冒頭の「プロローグ」では、ユーザ企業の IT 部門の現状を寸劇風に描いています。ここにはいろいろな問題点が潜んでいます。
プロローグを受け、「第 1 章 企業の情報システムが危ない」では、情報システムが直面している様々な課題をとりあげ、技術的側面と組織マネジメントの側面から、その原因を分析しています。
これまでも IT の課題と解決策を論じた書籍は沢山あります。ただ、個々の課題ごとの解決策を示しているものが多く、読み手は課題ごとに本を読むことになり、結果として多すぎる情報を処理しきれず、前に進めないという状況を招いていたのではないでしょうか。
そこで、本書は「第 2 章 企業システム、IT部門の理想像」において、企業システムとそれを支える IT 部門の理想像を提示します。ここでゴールを先にイメージしていただくという、発想の転換を読者の皆様に求めます。
今見えている個別の課題を解決していくだけでは、ゴールには到達できない、ということです。
なぜこういうアプローチを採ったかと言いますと、前述した通り、企業システムにかかわる技術のパラダイムシフトが進行しているからです。新しいパラダイムに移るとどう変わるのか、というイメージを持たない限り、なかなか変革は進められません。
次に、ゴールに至るシナリオを提示していきます。シナリオを考えるにあたって、非常に重要となる考え方を「第 3 章 企業システム成長のシナリオ」で示します。その考え方とは、「アーキテクチャ成熟度ステージ」というもので、本書全体の柱となるものです。
続く第 4 章から 7 章において、情報システムおよびIT部門を改革する手順を 4 ステップに分けて説明していきます。
改革をするには、まず自らの状態を認識することが必要となります。そこで「第 4 章 改革の第 1 ステップ 自らを知る」では、自己診断の方法(考え方、基準)を示しています。
診断対象は、開発技術、インフラ技術、運用技術から、情報企画や組織マネジメントまで多岐に及びます。それぞれの対象について自らの組織が成熟度ステージのどのレベルにあるかを判断します。
次に「第 5 章 改革の第 2 ステップ 解決手段とその正しい活用方法を知る」では、改革を進めるためのいろいろなツールとその正しい活用方法を紹介しています。世の中に多く出ている技術本や IT マネジメント本のエッセンスを集約することを目指しました。
そして、「第 6 章 改革の第 3 ステップ 改革シナリオを描く」では、第3章で述べたアーキテクチャ成熟度ステージの考え方に従って、第 5 章で得た知見を用いて、どのような改革シナリオを描けば良いのかを示しています。
本書ではさらに、改革シナリオに沿って実際の改革を進めていくための方法論を「第 7 章 改革の第 4 ステップ 継続的に実践する」で示しています。
戦略は立案よりも実行する方が難しく、多くの企業が戦略の実践で壁にぶつかっているという現実を踏まえて、この章を用意しました。
ここでは改革プロジェクトをいかに進めるか、現場体験を踏まえ、従来にはない視点で記述いたしました。想定読者と本書の読み方
執筆陣としては、冒頭から順番に読んで頂きたいところなのですが、読者の立場によって、読者が本書に期待される内容、我々がお伝えしたい内容が異なるのも事実です。
そこで、想定読者ごとに、どのように本書を読めば効果的なのか、本書を読むガイドを示しておきます。本書の想定読者は次のような方々です。
- CIO および CIO スタッフ
- IT部門長、リーダ長
- 利用部門の IT スタッフ
- IT 関連会社のマネージャ以上の人々
- 上記の方々をサポートする種々のベンダ
- 経営情報システムの研究者
以下順に読み方を紹介します。
1. CIO および CIO スタッフ
ベテラン CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサ)の方々はまず、第 3 章をまず読んでみて下さい。頭の中がすっきりとするはずです。その上で、第 2 章、そして第 4 章と読み進んで下さい。
皆さんにとって、第 1 章の内容は読むまでもないでしょうが、「大変なのはうちだけではない」と思うことで多少なりともストレスを発散できるかもしれません。
一方、CIO に着任して間もない方々は、まず第1章を読んで、このような問題があちこちで起きているんだということを理解して下さい。とにかく現実を知る必要があります。次に、深く理解できなくても良いので、第 5 章に目を通して見て下さい。普段気になっている事柄が解説されています。世間の動向に追い付き、安心してから第 2 章に戻って、順に読んで下さい。2. IT 部門長、リーダ長
第 1 章で記述されている課題を自部門で抱えていないか確認してみて下さい。次に、第 4 章のセルフチェックをしてみて下さい。気づいてはいたものの日常の忙しさにかまけて放置していた課題の多さに今更ながら気がつかれるはずです。その後、第 2 章に戻って順に読んで下さい。
3. 利用部門の IT スタッフ
皆さんは IT 部門と利用部門(ユーザ部門)とを橋渡しする重要な役割を担っています。深い専門知識は不要ですが、自社の現状を広く知っておく必要があります。そのため、皆さんには第 1 章から順に読んで頂き、全体像を頭の中にイメージして頂くことを期待しています。特に第 7 章に記載した内容の主人公は皆さんですので、7 章はしっかり理解していただきたいと思います。
4. IT 関連会社のマネージャ以上の人々
本書で解説している IT のパラダイムシフトによって、ユーザ企業傘下の IT 関連会社の役割はこれから大きく変化します。受身の姿勢は許されず、本社の IT 部門のパートナとして、情報システム変革のキーパーソンとして、活躍していかなくてはなりません。皆さんが「気づき」、「自ら変革する」ことが強く期待されています。従って、本書の全てを身に付けて頂く必要があると考えています。
5. 上記の方々をサポートする種々のベンダ
クラウドコンピューティングや SOA がもたらす IT の構造改革は、特に IT ベンダ側のビジネスモデルに変更を強いると考えています。従来型の多重下請け構造はもはや維持できません。そもそも、第 1 章で述べる混乱の原因はベンダ側にもあるのです。本書を読んで頂き、これから起こるユーザ側の変革を理解し、自らのビジネスモデルを変えていくきっかけとして下さい。
6. 経営情報システムの研究者
本書で書いた内容は、著者達がいくつかの学会で研究発表、論文発表した内容を基に実践結果を組み込んだものです。執筆陣としては、旧来の経営情報学で教えてきた内容を一新するものと自負しています。また、いくつかの内容について、著者達はビジネススクールなどで主に社会人大学院生を対象に講義を始めています。本書を読んで頂き、皆さんの次の研究テーマをみつけるきっかけとなれば幸いです。
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