ObjectSquare [2004 年 9 月号]

[オージス総研の本]




かんたん!エンタープライズ・アーキテクチャ 仕事の流れで理解する
かんたん!エンタープライズ・アーキテクチャ




オージス総研   加藤 正和   著
株式会社翔泳社 1,985 円(税抜き 1,890 円)
A5 判 192 ページ
ISBN4-7981-0758-1
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 「まえがき」より 「まえがき」より
 「あとがき」より 「あとがき」より
 担当者からひとこと 担当者からひとこと
 参考 参考

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「まえがき」より

日本経済の将来にも少しずつ明るさの見えてきた昨今ですが、ちまたの企業に目を転じると、「勝ち組」と「負け組」の差は以前よりもさらにはっきりしてきているように感じられます。強い企業はより強くなり、弱い企業はより弱くなっているのです。
こうした「勝ち組」企業をよく観察してみると、「勝ち方」はさまざまながら、ある共通点を持っています。

高度成長期、企業は"頑丈な足腰"さえあれば成長できました。丈夫な足腰とは、しっかりした組織体制、製品力、技術力などです。
一方、低成長期の企業には発達した神経回路が必要です。神経回路が発達しているとは、"変化に迅速に対応できる"ということです。
つまり、"変化への迅速な対応能力"こそが、現在、「勝ち組」企業をさらに勝たせている要因なのです。
では、"変化への迅速な対応能力"を獲得すると、企業にどのような効果が現れるのでしょう?

まず神経回路が発達していると、組織にいる人に自分の組織の構造が見えやすくなっている(可視化されている)ので、組織全体のコントロールが容易になります。
さらに、各部門間の連絡が迅速になるので、トップが決めた経営戦略を各部門で実行するための施策作り、アクションへの展開、結果のモニタリングなども容易になります。

たとえば、現在、製造業において大きな課題となっている「ゼロ遅れ」「ゼロ在庫」のための施策なども、迅速に実行できるわけです。
逆に、こうした組織でなければ、危機感を持ったトップがいくら重要な指示を出しても、各部門に正確な情報が伝わらず、施策の実行は難しくなってしまいます。
現在、組織における神経回路とは、情報システムです。インターネットとコンピュータの高機能化により、企業の業務は情報システムと一体化しました。

そして、本書で解説する"エンタープライズ・アーキテクチャ( EA )"とは「業務と情報システムに関する最適化計画」のことです。
つまり、企業の神経回路(情報システム)を発達させることによって、経営戦略から第一線の現場業務に至るまでを「経営戦略の実行体」としてまとめ上げるための計画なのです。

そもそも EA は「複雑な対象を分解して考える」という1987年のザックマンの論文発表に端を発すると言われています。米国では、政府の調達予算の膨張に悩んでいた米国政府が、1996年に CIO の設置と EA 策定を義務付ける法律を制定して以来、急速に普及し、民間にも広がっていきました。

日本でも、2001年から政府調達プロセス改善に関する検討がなされ、2003年には各府省に CIO 補佐官を設置して2005年度末までに EA が策定されようとしています。
EA は、電子政府構築計画の中の重要な施策として位置付けられているのです。

日本の民間企業においても、自動車、電機、半導体、金融、化学・製薬業界など、競争が激しく、 M&A や買収など業界再編の活発な企業で EA の取り組みが始まっています。

また最近では、株主や財務部門に対する IT 投資に関する合理的で透明な根拠を提示するため、情報システム開発の短納期化・コスト削減・リスク軽減を目的として EA に取り組む事例や、メインフレームのリプレースに際して全社的な最適化を図るために EA を考えている企業も多いようです。

このように、ビジネス環境と技術環境が激変する現在、 EA は、すべての組織、企業が考えなければならない重要なテーマであると言っても過言ではないでしょう。

EA に対するアプローチは様々ですが、ここで紹介するのは、 UML を中核にサービス指向型で情報システムを構築するためのものです。
このアプローチの特徴は、あくまで実現を目標としていることです。
EA は概念なので、得てして抽象的でわかりにくくなりがちです。
概念だけを曖昧に理解したまま現場の構築フェーズで理想を追い過ぎると、成果を出すまでに時間がかかり過ぎてしまいます。
そのため、本書ではあくまでシステム構築という"現実のもの"に落とし込むことを目標として、 UML モデリングを中核に EA を考えました。

オブジェクト指向言語と一体化した UML は、ソフトウェア開発の世界では他の追随を許さない表記法です。最近では、企業の経営資源や業務を表現するビジネスモデリングに採用されるようにもなってきました。
ビジネスモデリングとシステムモデリングを同じ UML で記述すれば、ビジネスと情報システムの連携を強化して両者の整合性を確保できます。つまり、利用者が増えればモデルのパターンやベストプラクティスが集積され、さらに開発を進めやすくなり、利用範囲も拡大するわけです。

読者の皆様には、本書を通して「 EA の全体像」を「実現」のイメージと共にご理解いただき、ご自分の組織、会社のビジネスに活用していただければ幸いです。

オージス総研 代表取締役社長 加藤 正和

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「あとがき」より

この本は複数で分担して書きました。それぞれの専門性と異なる経験を生かせるよう共同作業をしたわけですが、各自の頑張りだけでは全体の完成度は高まりません。本書全体を通した基本的な考え方、用語の統一、書式など全体最適を目指した基準と枠組みが必要でした。
その完成度の評価は読者の皆様方にお任せしますが、人間社会では、いたるところにこのような共同作業があり、全体最適を狙う EA が存在します。

『 Enterprise Architecture Using Zachman Framework 』( O'Rourke 他、2003 )では、 IT 以外でのザックマン・フレームワークの適用を試みています。学校運営、鉱山経営、パンケーキとワッフル専門のレストラン、動物園、投資戦略などを題材として、ザックマン・フレームワークの各構成要素での実施項目や成果物を示しています。
EA と聞いて構えてしまうのではなく、このような身近な題材から全体を考えてみるのもよいと思います。私たちは、どうしても身の回りの「部分的な要素」に注意をとられてしまいます。情報のあふれた都会生活では数 km 先を見通すことはあまりないことと同じです。

IT の世界は元々高度に専門的な技術論になる傾向があります。オープンネットワークという途方もない通信能力を獲得した情報通信技術( ICT )は知識と情報の偏在化をさらに加速しています。一方、 ICT を駆使しなければビジネスは成立しなくなってきています。 EA はこういった状況の中で生まれました。

本書では、ビジネスと一体化した ICT を実現するための EA として、「 UML を中核にして SOA を目指す EA 」を解説してきました。 OMG の定めた UML は、いまや国際標準となり、専門家が持てる知識と経験を蓄積することによって益々用途が広がっています。 SOA (サービス指向アーキテクチャ)は変化に強く柔軟性の高い業務とシステムの構造として、実装環境も提供されつつあります。 EA は今後、大規模で複雑な共同作業では必須のアプローチとして、これまでの標準化活動や開発プロセス整備とともに定着していくと思われます。まさに Think Globally, Act Locally (広くマクロで考え、具体的にミクロで行動せよ)です。

私達がこれまで経験した EA の実践例では、アプローチにさまざまなバリエーションがありました。たとえば、「 EA という言葉を使わず従来の標準化活動の一環として組み込む」「トップからの指示でなく現場リーダー主導の活動として次期 CIO 候補の教育として進める」「 IT 運用環境の高度化として開始し、業務との関連を可視化する」などです。

これは EA が各社各様のスタートとゴールがあり、そのルートも異なっていることを示しています。皆さんの組織における EA とは何か、目標とする効果は、達成手段は何か、開始点と目標点を決めて EA 整備作業の定義から始めてください。

本書の内容は、お世話になっているお客様との業務通じて熟成したものが多く含まれています。弊社に機会を与えていただき育ててくださったお客様に感謝をして締めくくりたいと思います。ありがとうございました。

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担当者からひとこと

UML を中核にして SOA を目指す「 OGIS-EA by UML for SOA 」の実践的なガイドブックです。 EA はいくら解説を読んでも実感がわきにくいものです。それは各自の所属する組織の成熟度や既存の標準化・開発プロセス・情報化戦略によって EA のスタート地点とゴール地点が異なり、そのプロセスも違うためです。したがって自分の EA を定義することが重要なステップになります。

本書では EA の整備についてステップを踏んで解説しています。具体的な手順を Q & A 形式で解説しているので、 EA について取り組みやすい内容となっています。

情報システム開発の仕様表記法として国際的に定着している UML を EA に活用することによって、経営戦略・事業戦略を企業で実行させるために人や設備などの経営資源を割り当てて定義したビジネスプロセスなどの構造体を情報システムにシームレスに連携することが可能になります。

すでに米国の国防省や税務署、警察、デンマーク政府、米国トヨタ販売 ( Toyota Motor Sales, USA ) などでは UML ビジネスモデリングを EA で活用しています。また、モトローラは「将来 EA 」 として SOA を目標として効果を出しています。
是非、読者も UML をフル活用した EA に挑戦してみてはいかがでしょうか。

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参考

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