ObjectSquare [2002 年 7 月号]

[OOエンジニアの輪!]

OOエンジニアの輪!

〜 第 16 回 安藤 幸央 さんの巻 〜

今回のゲストは安藤 幸央さんです。 安藤さんは、「OO エンジニアの輪」の記念すべき第一回を飾って いただいた友野さんと同じ某システムインテグレータに勤務されている傍ら、雑誌の記事や、オープン ソースコミュニティの世話役としても活躍されています。CG とオブジェクト指向を中心にパソコンを使った デモを交えて、語っていただきました。


尊敬する人 レオナルド・ダ・ビンチ(Leonardo da Vinci. 1452.4.15 〜 1519)
好きな言葉 「十分に進んだテクノロジーは、魔法と見分けがつかない」
"Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic." (Arthur C. Clarke)

「未来を予測する最も確実な方法は、未来を創り出してしまうことだ」
"The best way to predict the future is to invent it." (Alan Kay)

オブジェクト指向とマルチメディア

-- 早速ですが、まず現在のお仕事についてお話お願いします。

基本的には、企業の研究部門や、国の研究所と一緒に実験的、先進的なものを開発するお手伝いをすることが多いです。主に、3次元のコンピュータグラフィックス (以下 CG) 関連を扱うことが多いです。

-- それは、官公庁さんと企業さんとでは、どちらが多いのですか ?

半々ぐらいです。時期によって増減はありますけど。

-- この分野では、いろいろとご活躍されていますが、もともとこの分野にどうゆう経緯で入られたのですか ?

今は仕事としても興味の対象としてもリアルタイム CG が多いです。もともとは時間をかけてものすごいきれいな画像を作ろうというレンダリング CG の世界に興味があったんですよ。

学生時代も興味がありましたし、会社に入ってからも興味があってそういう仕事をしていました。今はリアルタイム CG のほうに興味の対象も仕事も移行してきています。

-- ツール等の製品を開発されたりということもあるんですか ?

昔はですね、QuBISM(キュービズム)という弊社の製品に携わっていました。ラジオシティという技術を使い、照明効果がリアルに表現にできる CG ソフトの新バージョンを開発していました。いろんな社内事情があって、現在はメンテナンスモードですけれども。

あと弊社では、Houdini というカナダの Side Effects 社が作っている製品を扱っていました。テレビ CM だったり、映画などに多く使われています。

あと、私が実際開発に携わったわけではなくて、ちょっとお手伝いした程度のものもあります。 DS/Perspective というスケッチ画を 3 次元のデータとして抽出するツールを出しています。これは、コンサルティング的なお手伝いをしました。

-- マルチメディアにおける Java の位置付けというのはどのような形なのですか ? 結構使われているのか、それともまだまだお遊び的なものなのでしょうか ?

インタビュー風景

一長一短で使い分けだと思います。Java のいい所は、ありとあらゆる API が揃っているところです。例えば今の 3 次元アプリケーションはネットワークとは切り離せない世界で動くものが多いです。Java だと開発のスピードが早くなります。ただ、ものすごくハードウェアに密接に関係したもの、ぎりぎりのスペックまでハードウェアを駆使しなければいけない時、いろんな特殊な拡張機能を活かそうという時になると、Java で無い場合もあります。 やはりメモリの量であったり、スピードの点で違う言語のほうが良かったりします。プロトタイピングするようなときは、Java だとものすごいスピードで作れるので、重宝しています。

-- Java とその他の比率というとどれぐらいになるのですか ? 例えばプロトタイプだけ Java でやって、その他は C とかでやるというやり方もあるのですか ?

複数言語が混ざったハイブリッド方式でやる時もあります。最後まで Java で提供するプロダクトもあります。データの扱いとか、ユーザインタフェースの部分だけ Java でやる場合もあります。いろいろ使い分けているのが現状です。

-- グラフィックスの世界では、オブジェクト指向は実際はあまり利用されていないようにイメージしているのですけど、その辺りどうなんですか ?

そうですね。例えば、画面に丸かったり、四角かったり、球体だったりする物体を描くとき、どうやってイメージしていますか ?

-- うーん・・・。

まずは丸を書きます、四角を書きますという手順を教えてあげます。その手順を実行して逐一描画すると画面に出てくると考えるのが一般的ですよね。

-- そうですね。

私たちはシーングラフというツリー構造を使い、3 次元空間を全部データベース化しています。例えば、どういう風に見えるかとか、そこの空間のどの辺の位置にどういう色をしたどのぐらいの大きさの物体があるか、という情報を持っています。それらの物体はすべてオブジェクトとして扱います。そして各オブジェクトの属性をまとめたものがシーングラフです。そのオブジェクトの情報を管理しているんです。

-- シーングラフってデータベースなんですね。

そうですね。3 次元のデータでメモリ内に展開されているものを示していて、それをある方向から見て、どういう風に見えるのか目に入るものだけを画面に表示するんですよ。そうすると、いちいち丸を書く、四角を書くといったことをやらなくて良くなるので、ダイナミックに視点を変更したり、物体の形状を変えたりということができるんです。

インタビュー風景

-- これは、レンダリングとはまた別の考え方なのですか ?

CG には 2 つの大きな流れがあります。ゲームなどのように実時間で描いてしまうリアルタイムなグラフィックスの流れと、映画とかテレビ CM 等で見る、ものすごい時間をかけて高精細なきれいな画像を作るという流れがあるんですよ。

リアルタイムでその場で見えている物体を動かすことができるという CG は、シーングラフという考え方を使ったものが多いです。

-- シーングラフというのは、CG の世界で一般的な言葉なんですか ?

そうですね。Java3D においても、背景を示すバックグラウンドノードがあります。それは空の色だったり、霧があったらその霧がどれくらいかかっているのかという情報を保持します。つまりはオブジェトの塊で世界を表現しているのです。

-- いろいろなものを抽象化して考えるところや、協調分散して物事を進めるというのは、オブジェクト指向の考え方だと思うんですけど、グラフィック開発においての方法論や手順というのはあるのですか ?

3 次元での物体の表現というのは、この辺にこの物体がある、このオブジェクトはどういう属性を持っていて、色が変えられる、この物体とこの物体はまとめて一つのグループとして扱うという考えで扱えます。またツリー構造を持っていて、親となるオブジェクトが変化すると、そこにぶら下がっている子供のオブジェクトも全て一緒に変化します。オブジェクト指向の隠蔽的な考え方ができますし、オブジェクトの再利用も自由自在です。三次元空間でオブジェクトデータを扱うことは現実世界と同様に自然と一貫した方法論のもとでアプリケーションが構成されていくんです。

-- データ構造とビューを分離した考え方、そもそもオブジェクト指向ってそこから始まったんですよね。相性というのは、ビジネス系でどうこうするよりも、もともと向いていたのかもしれませんね。

向いていたのかもしれません。 シーングラフという考え方は、主にシリコングラフィックス社の技術者が昔から少しずつ構成して進化させてきたものです。使えば使うほど、ものすごくよく考えられて作られているというのが解りますね。

例えば、ビジネスアプリケーションだと、次にあれやってこれやってという考え方でアプリケーションが進んでいきます。一方、CG の世界ではいつでもなんでもできるというイメージです。ただしその操作がすべての 3次元世界に及ぶときもあるし、ある小さな一つのオブジェクトだけが変化するなど、いろんな影響の及ぼし方があると思うんです。

CG で使いやすいアプリケーションを考えていくと、自然にオブジェクト指向的な考え方を基に作ることになっていくと思います。

-- Web アプリケーションでよく言われる MVC というのは、もともとこの CG の世界からあったんですね。


興味は分散コンピューティングに

-- 安藤さんの記事のラインナップを見させていただいて、興味の指向というのが、分散コンピューティングや、グリッドコンピューティング、P2P の話が多くてですね、そういう分野にご興味があるのかなと思うのですが。

確かに。ものすごく興味があります。実際にそれを商売に結び付けようとしている会社も多いです。Napstar はネガティブに捉えられてしまって残念です。技術的に P2P はものすごく面白い世界だと思うんです。いろんなことに利用できると思います。特に CG のようにマシンパワーをものすごく使うようなものに向いています。みんなで手分けして、計算できればすごい面白いことができるんじゃないかと考えています。

-- そこでいう分散コンピューティングというのは、従来のいわゆる CORBA とかとは発想が違いますよね。役割をそれぞれに分散させるというか、資源の分散という形ですね。

インタビュー風景

いろいろ方法はあると思います。今分散コンピューティングで一番成功していると言われているのは SETI@home です。SETI@home は電波望遠鏡のデータを手分けして解析し、宇宙人が居そうな星域を見つけようというプロジェクトです。実際のところ高価なスーパーコンピュータを使うと膨大なお金がかかってしまう計算パワーを、みんなで分担してやろうという発想だと思うんです。例えば CG でそういう分散コンピューティングを利用しようとします。映画の 1 シーンってものすごく情報量が多いんです。それを計算するには、ものすごく巨大なメモリと多数の CPU を積んだコンピュータでも 映画の 1/24 秒の 1画面を計算するのでも、膨大な時間がかかります。もしそれを 1 台 1G のメモリをつんだコンピュータを 100 台使えば、もしかすると 100G 分のメモリをつんだ仮想的なコンピュータとして使えるんじゃないか。で、1 台は背景のことばかり考えてレンダリングしたり、1 台はある球体ののことを考えて計算していたりっていう、 3 次元空間をみんなで計算するような世界が来るんじゃないかと期待しています。

-- それは、だれかコントロールする人がいるわけですよね。そういう意味で、役割も分散していて、資源も分散しているということになるんですね。

そうですね。

-- ところで、記事をいろいろと見させていただいて、オープンソースコミュニティというのりの考え方があると思ったんですが、企業と関係のない人に資源を供給することに対しての、言葉は悪いですが、見返りというのはないんですか ?

今は明確にないと思います。ある企業はグリッドコンピューティングを商売にすることを考えています。それは計算すればするほどポイントがたまっていき、クレジットカードみたいにポイントがたまれば何かがもらえるとか、抽選にあたるなどちょっとした見返りというのをモチベーションにしているみたいです。

ただやっぱり、お金がやり取りされているわけではないですし、やり取りしているとしてもごくわずかだと思います。SETI@home みたいにみんながおもしろい、"もしかすると自分が!!"、というところがみんなを惹きつけると思うんです。

例えばグリッドコンピューティングで、自分の PC が夜中空いている時に計算のお手伝いをしたとします。 それが、何ヶ月後かに放映されるハリウッド映画のある 1 シーンだったりする。自分のレンダリングしたシーンが映画のどのへんだというのがわかったりすると、それはモチベーションとなって、どんどん計算してやろうと思いますよね。

-- パソコンの資源を貸すだけで自慢できるんだったら、それは話のネタになりますよね。

他にもいろんな方向に使えると思うんですよ。

-- 話は変わりますが、@ITCurl について触れられてましたよね。あれは、今で言うと Java Script 的な位置付けのものになるんですか ?

今、Java Script とか、HTML、JSP とかいろんな技術があります。それらの技術は UI(ユーザインタフェース) の部分とその UI の部分がどのような振る舞いをするのかというプログラムの部分というのが、分かれているじゃないですか。で、開発のときも分かれて違う人が担当していたり、その統合されていないゆえの煩雑さとかがあると思うんです。

Curl の場合、全部 Curl でできますっていう風にやっているところがおもしろいですね。あとは、サーバー側に負荷をかけずに、クライアント側でいろんなことをやるんです。イメージとしては、例えばすごい巨大な CG のデータがあるとすると、今まではブラウザにダウンロードの時間が出てくるイメージです。Curl の場合はさっきのシーングラフみたいに、どういう計算の基となるデータがありますよ、というそれだけを送ります。ちょろっとしかデータを送らないんですよ。で、クライアントのコンピュータ側で一生懸命計算し始めます。計算時間が進んでいって、終わったら画面が出来上がるというイメージです。今まではできなかった、例えばネットワークが細いからできなかったことを逆手にとったテクノロジーだと思うんです。ま、主流になるとは思えないけど、面白い技術だと思います。

-- ひとつのトレンドとしていえるんですね。それは、オープンコミュニティとしてではなく、商用ベースで波及しようとしているのですか ?

そうです。

-- もしかしたら、ひとつの分野というか、より効果的なプレゼンテーション部分を作るひとつの道筋として、発展していくのでしょうか ?

あると思いますよ。


CG で広がる Web サービスの可能性

-- 最近のトレンドとして、Web サービスというのがあるんですが、最近の記事でも Google の API 公開という話もありましたよね。その辺りについて、ご興味お持ちなのですか ?

今まで、Web サービスというと一般的に言ってきたいろんなサービスだったり、構築するソフトだったりします。しかし実際のところ絵に描いた餅状態で、接続できた接続できないってだけで、一喜一憂している感じがあったでしょ。で、具体的なサービスのイメージがまだみんな思い浮かべることができなかったんです。Google が API を公開したことによって、みんなのアイデアの幅が広がったと思うんです。

で、 Google の場合は、一般的な Web サービスとは違った路線を進むと思います。インターネット上にある各所の細かいサービスをみんなが利用できて、どこかに問い合わせると "こんなサービスがある!" っていうのが分かります。各種のサービス自体を組み合わせることによって 1 個の大きなサービスができれば面白いじゃないですか。

インタビュー風景

Web サービス的な 1 つの事例なんですが・・・。沖縄にある海洋環境情報センターが様々な海に関する情報提供をしているんですよ。

-- 美しい!!

GODAC で一般公開の準備をしてます。もう少ししたら、公開されるでしょう。

バーチャルアースという考えのもとに、コンピュータ上に仮想的な地球が表現されています。立体的な地形情報を持っていたり、海底の情報を持っていたりとか、海洋環境情報センターの方々が登録したさまざまな情報をこのビューワーで見ることができるんです。その情報自体はいろんなところにあっていいんですよ。Indexing するメインとなるサーバーがあって、"情報はどこにあるよ" って教えてくれます。例えば毎日毎日更新されていく気象衛星の情報を見るようにしたりとか、研究者がいろいろマーキングして使ったデータを重ね合わせてみるようにしたりとか、情報源は世界中のいろんな所にあってかまいません。

-- 全体依存の SOAP だったり WSDL で走っていても何の面白いこともなくて、いいコンテンツがあって、それを提供するようなアイデアがあればいくらでも発想が広がるのかもしれないですけど。コンテンツのほうがなかなか追いつかない、我々みたいな技術系ばっかりやっているメンバは、そういう発想に行かないですね。

このようなバーチャルアース(仮想地球)の表現はあちこちで形になっています。 例えば、インゴ・ギュンターというメディアアーティストは、地球上の戦争や紛争の起こっている量を色分けして、表現しています。中東地区はたくさん戦争が起こっているとか地球を渡り歩いて観ることができます。地球という媒体をとおしていろんな表現、いろんな使い方があると思うんですよ。

GODAC の場合は海洋情報の研究者達に使ってもらおうと、海洋情報に関するデータがいろいろと豊富に揃っています。

-- 一回このアーキテクチャができあがったら、いろんな利用の方法って考えられるんですね。

はい。

せっかくなんで、他にもいろいろとご紹介します。

インタビュー風景

インターネット上でハウスプランニングできるシステム開発のお手伝いもしました。 現在 RoomNavi として一般公開されています。 これは今も開発が続いていて、これからも続々と目を見張るものがリリースされてきますよ。

-- グラフィックにおいても、インターネットや Web とは切り離せないんですね。分野としてまったく別なイメージを持っていたんですが。

そうですね。

次は、自動彩色ツールです。テレビで放映されているアニメーションっていっぱいあると思います。実際どう色を塗っているかというと、もうセル画は使われていなくて、コンピュータ上で色を塗っているんですよ。コンピュータ上で色を塗っているんだけど、どうやっているかというと、人間がそこは何色と指定して、領域を塗りつぶしているんです。だけども、それにはとても時間がかかります。そこで開発したのがこの自動彩色ツールです。例えばアニメーションの絵で人が歩いている場合、あんまり画像としては変りません。ある閉じた領域を感知して、同じ領域だったら、同じ色を塗るよう領域を自動的に感知して塗りつぶすシステムなんです。

次は、絵言葉通信システムです。 携帯電話がまだすごい機能とか持っていなかった時代に、絵でチャットしたらどうなるんだろうって実験的に行ったシステムです。数千の絵文字を用意して、絵だけで例えば「急いでる」とか、「怒ってる」とかいうイメージを相手に伝えようとしたものでした。

最後に紹介するのはバーチャリウムです。プラネタリウムって星を見るドームがありますよね。そこに、単に光学的に星を投影するわけではありません。プロジェクターを何台も使って、コンピュータで生成した画像を投影するシステムです。五藤光学というプラネタリウム開発では第一線の会社と SGI と協力して開発したものです。2 年前の夏に渋谷の五島プラネタリウムで実験的に上映しました。コンピュータの画面に出るものだったらなんでもドームに投影できるんです。だから、星や惑星のコンテンツだけでなく、水中の映像だったり、古い寺院の礼拝堂だったり、いろんなコンテンツを投影することができるんです。現在は地方の施設など何カ所かに導入されています。

-- 球面だから補正は必要なんですね。

補正はコンピュータ内部と特殊な投影レンズがやってくれます。なんでも投影できるので、システムをデバッグしているときには、Window のターミナルを巨大なドームに投影して、それを見ながらやっていました。すごく不思議な気分でしたよ。

渋谷で上映したときには、銀河と銀河がぶつかるときのシュミレーションを投影しました。何百万個もの星で構成される銀河と銀河が、ぶつかったときのシュミレーションをあらかじめスーパーコンピュータでやっておきます。その大量の星のデータをドームにコンピュータで投影しました。

-- 今していただいたプレゼンはどこかでプレゼンされているものなんですか ?

特に一般公開はしていません。新人というか、求人向けや特定のお客様に紹介することがあるくらいです。

@IT もいろいろイベントを開いていますね。先日も Web サービスをネタにイベントを開いて、各社がいろんな話をしていたらしいんですけど。

-- こんなん見せられたら、たまんないですよね。


執筆活動は大変

-- Software Design(技術評論社)で、デジタルガジェットをずっと連載されていますが、毎月毎月情報収集が大変だと思うのですが・・・。

あー、ネタください(笑)。毎月大変ですよ。

インタビュー風景

-- あのコンテンツで連載をはじめられたというのは、結局は安藤さん自体がガジェット好きというか、そういうおもちゃ系が好きなんですか ?

それはあると思います。いろいろ買っては使わなくなったものがいろいろあるんですけど(笑)。

-- あれはどういう所から集められているのですか ? あれだけの情報量を毎月集めるのは結構大変ですよね。

気にしていると、なんとなく情報は入ってくると思います。 あとは、情報提供をしていると、逆に情報が入ってくると思うんですよ。友達は私がそういうのを好きだと知っているから、面白いものが出ると教えてくれるし。だから情報を求めることに対する一番のいい方法は、自分が情報を出すことなんです。

-- あっ、そうか。話は広がりますが、インターネットとかオープンなコミュニティについてもいえるんですね。情報を出すことによって、情報が入ってくる。そうすると、自分を通して、データの関連も出てくるし。

うん。それはいろんなことにいえると思うんですよ。


Java FAQ 設立の経緯

-- 我々が安藤さんに一番お世話になっている部分で、Java の FAQ なんですが、設立したきっかけはなんですか ?

まず、インターネット上で 3 次元の情報を扱うフォーマットとして、VRML(Virtual Reality Modeling Language) という仕様があります。最初は VRML に興味があっていろいろやっていたんです。仕様が拡張されてきて、物体も止まっているだけではなくて、飛び跳ねたり動くようにしようということをいろいろと協議していました。物体の動きをスクリプトでどう記述しようかという議論になりました。中庸的な言語があればいいなということで、Java が良いのではないかと、コミュニティの中でいろいろと相談するようになったんです。で、Java ってなんだっていうところで手をつけ始めたのが最初です。

最初は、海外の Java に関する FAQ(Frequently Asked Questions) を見つけたところからです。 その FAQ を書いている人に役立つから日本語版を作らせてよと、お願いして作り始めたのが一番最初です。

-- Java House との関連というのはどういうところからなんですか ?

Java に関するニュースだけのページと、FAQ だけのページを作ろうという2つの流れを作ろうと。ニュースのほうは、私が日々メンテナンスして更新しています。FAQ のほうは、私が日本語に訳したものは内容的に古くなってきました。リニューアルの意味もこめて、Java House にあった、みんなの情報をフィードバックしてもう一回きれいに作りなおそうかと何人か有志が集まったのが、今の FAQ です。

インタビュー風景

-- もともと袂が一緒だったわけではないのですね。

インターネットを知って一番驚いたのは、いろんな FAQ があるということです。いろんなことに関する良くありがちな質問を、ちゃんと回答集としてまとめてあるのです。いろんな分野にわたって、FAQ はものすごく役立つし便利だなと思いました。各種 FAQ の翻訳を含めていろいろ関わるようにしています。

-- Java FAQ の運営はそれなりにコストがかかるかもしれませんが、どのようにされているのですか ?

何人かでメンテナンスをするメンバを組んでいます。サーバを貸してくれている人もいたり、まめにアップデートする人がいたり、新しい情報を提供してくれている人がいたり。コミュニティの中で少しずつ作業をしているという感じです。

-- その辺インターネットのコミュニティって、それぞれがモチベーションが高くないとできないですよね。

Java Performance Tuning に関するニュースレターも何人かで翻訳していて、それも皆さんに喜んでいただいているようで。

-- 前回の安藤さんとのつながりはコミュニティからですか ?

はい。前々回の原田さんもそうです。「Java ごはん」という Java を飯の種にしている人が集まっておいしいご飯を食べましょう、という不思議なコミュニティがありまして。どういう活動をしているかというと、まずはおいしいもん食べるのが一番の活動です。

まじめな活動としては Java Night というイベントがあります。 去年 Java One のカンファレンスが横浜パシフィコ開かれました。その 2日目の夜に Java Night というデモイベントを企画しました。 横浜ハードロックカフェで行ったんですけど、それのボランティア的なお手伝いや企画の調整などをメンバーでやりました。

大御所ジェームス・ゴスリングも見に来て、「amazing!!」 とものすごく喜んでいました。Java Night では、20 数組の企業や個人の方々が作品を発表しました。見た目にインパクトのあるもの、技術的に優れたものなどを短い時間で紹介していくものです。多くの方々にとって Java Night はものすごく好評でした。観ている方も発表している方も本当におもしろかったですよ。


安藤さんのプライベート

-- 仕事 = 趣味という方も何人かいらっしゃるのですが、何かこう趣味的なお話を伺いたいのですが。

確かに仕事は面白くやっていますけど、それはそれ。そう言ってしまうと変なんですけど、映画見るのと音楽を聴くのが好きです。

インタビュー風景

-- 映画にしろ、音楽にしろ「こういう分野を見ています」とかあるんですか ?

幅広くです。ただ仕事柄 CG がすごいっていう映画は、必ず見ます。

-- そういうのを見ていて、中身のストーリーを追えますか ? CG の方を、グッと見ちゃうとかっていうのはありますか ?

基本的には、ストーリーを見ますけど、細かい部分とかやはり見てしまいます。

-- 今のお仕事でエンターテイメント系のお仕事っていうのは、あるんですか ?

皆無ではないんですけど、うちの部署では方向性が違いますね。

-- ゲームとかやられたりしますか ?

ゲームですか。ほとんどというか、まったくと言っていいほどやらないです。ただ、このゲームの CG はこういう効果がすごいよっていうと、それだけをちょろっと見てみたりしますけど。夜も寝ないでずっとゲームしてクリアするとかいうのは全くないです。

-- CG というとどうしてもゲームと結びついてしまうのですが、それを仕事をしている人と、CG を書く技術系の人とは違うんですね。 そこが違うのが大切なのでしょうか ?

ツールを使って、CG のデータだったり、キャラクターだったりを作る人は、ゲーム好きの人がたくさんいますよ。私たちは、クリエータの人たちが使うツールを作るというイメージです。なのでちょっと分野が違うかな。

-- そうかそうか。その人たちは、コンテンツを作ることが大切なんですよね。作るまでのプロセスをなるべく簡単に、なるべく思ったようにするんですね。そういうことでいうと、開発者に対するユーザビリティが大切なんですね。

-- ところで、安藤さんはおいくつなんですか ?

32 才になりました。最近。私ぐらいの世代って、コンピュータのいろんな時代を経てきているんですよ。友人関係を見回しても良くわかります。インターネットなんて何もない時代から、ちょろっとネットワークにつながりはじめて、今のブロードバントといわれるすごい時代まで。CG についても、例えば1枚の画像を作るにも、3 日 3 晩非力なコンピュータを動かしてやっと作るっていう世界から、今のあっという間にゲーム機で表示できてしまうような時代まで全部の時代をみているから、それはそれで面白いです。


若手エンジニアに対して一言

-- 若手エンジニアに対して何かメッセージをお願いします。

仕事をする前の学生さんについての話でいいですか? 弊社は就職活動をしている学生が社内を見学できる仕組みになっています。いろいろとデモすると、「こういう業界に入って仕事をしたいんですが、どんなことをすればよいですか?」とよく尋ねられます。私は、仕事に入っちゃうとできないことがいっぱいあるから、仕事以外のことを学生時代やっておいた方が楽しいと思うんです。視野が広くなるだろうし。海外を貧乏旅行するのも楽しいかもしれない、いろんなものを観たり、いろんな経験をつんだ方が、たぶんのちのちに役に立つと思うんです。学生時点に、コンピュータのことをしゃかりきに勉強している必要はないと思っています。企業側から見ても、いろんな経験を積んだ学生のほうが、「こいつ面白いやつかも」って思います。資格を持っていることは企業的には魅力なんでしょうけど、コンピュータで私はこんな言語ができます、こんな資格持っていますっていう人よりも、逆にいろんな経験を積んできた人の方が、人としてこいつ部下にして面白いかなって思います。

-- 企業側からしても、そういう目を持つ必要がありますね。資格という一種のメトリクスで安易に判断するのはよくないですね。

資格を売りにしている人は、何のために資格をとったのか、理由と方向性を聞きます。方向性が正しくて資格をとっているんであれば良いですけど、資格のために資格を取っているのは意味がないですね。

インタビュー風景

一つだけコンピュータらしいことというと、タッチタイピングできるようになっておくといいですね。

-- ぐさっ(笑)。

今たくさんタイピングゲーム出ているから。一週間ぐらい必死にゲームやれば、あっという間です。 もうひとつは、画面の上部にキーボード表とか貼って、かたくなに手元を見ないことです。タイピングゲームですぐなれることができますが、数字とか記号とかは少し悩みますよね。悩んだとき、手元をみないで、キーボード表の配列を見るんですよ。で、手探りで押すというのを繰り返していると、あっという間にマスターできますよ。

それで、いろんなことが楽になりますよ。目が疲れないとか、仕事のスピードが速くなるとか。

-- CG の世界って、キーボードを使わなくてもすべてマウスでできるイメージがあるけど、ユーザインタフェースを作る過程においては、使うことが多いってことですね。

-- 今後の取り組んでいきたい方向とかありますか ?

難しい質問ですね。みんながコンピュータをもっと簡単に使えるようになったらいいんじゃないかな。Web もグラフィックスもプログラミングも全て含めてですけど。

-- 最後にもう一言お願いします。

正確な引用ではないかもしれませんが、「大切なのは、自分のしたいことを、自分で知ってるってことだよ。」という言葉があります。ムーミン谷のスナフキンの言葉です。そういう風に考えて仕事をすれば面白いんじゃないかなと思いますよ。



© 2002 OGIS-RI Co., Ltd.
Prev Index Next
Prev. Index Next