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デザイン思考

組織デザイン思考 創造ステップ(2)

組織デザイン思考による組織づくり [第五回]
オージス総研&さくら情報システム
ITAコミュニティ 組織デザイン思考分科会
2015年10月1日

組織デザイン思考は生き生きと自律した組織をつくるための手法です。本記事は、前回に引き続き組織デザイン思考の創造ステップについて解説します。CVCA・WCAとSMART評価というツールを用いて、バリューグラフで得た上位目標と目標達成の手段を評価する方法を紹介します。

これまでのおさらい

ここまでで、共感ステップ、問題定義ステップを経て創造ステップまでの進め方を解説しました。前回は創造ステップの前半としてバリューグラフを用いて議論対象のテーマの上位目標と目標達成のための手段をまとめました。これまでの流れを下図に示します。

これまでの流れ

バリューグラフ *1, *2)によって上位目標を押さえ、その目標達成のための手段を自分たちで考えることによって、目標に向かってメンバー全員を一体化することができます。目標達成手段を主体的に考えるので、他人事ではなく自分事となり、チームが同じ方向に力強く動くというわけです。

創造ステップ(の続き)

創造ステップ

さて、今回は創造ステップの残りを解説します。

組織デザイン思考が対象とする「組織」は、組織の戦略に従って動いています。そして、その戦略は組織が良しとする「価値」によって立っています。したがって、組織が良しとする価値を押さえられているかどうかが、組織改善を成功させるカギです。前回紹介したバリューグラフで上位目標や達成手段を導きましたが、それが組織の価値に沿っているかを確認することが大切です。

そのためには、何回かバリューグラフを書き、価値を導き出す必要がありますが、組織デザイン思考では組織の構造を確認することとバリューグラフを書くことを交互におこなって試行錯誤することを勧めています。これは、組織の構造は、組織が目的を達成するための手段である*3)ので、価値を定めた上で「組織の構造を確認することが大事だ」という考えに基づいています。組織の構造は、後で解説するCVCA・WCAを用います。

最後に目標達成の手段を検討しますが、そのときにSMART評価というツールを用いて、手段の評価を行い、具体的な活動目標を洗練、作成します。

ある典型例では、下図のように進めます。この例では、バリューグラフで上位目標と解決手段を導いた後(バリューグラフ1回目)、関係者の関係を整理し(CVCA・WCA)、その二つの情報を元に、もう一度目的・手段を再整理しています(バリューグラフ2回目)。ここで各関係者の目的としての価値、その価値と価値関係を考え、目的・手段が妥当かを確認し、再整理しています。その後、目的達成の手段をいくつか検討し(バリューグラフ3回目)、最後に目標達成手段を評価しています(SMART評価)。目標達成手段を考えるときは、第三回目で紹介したネガポシートで得た「目標と固定概念の関係性」も考慮すると良いでしょう。

創造ステップの流れ

このように、創造ステップでは組織の関係者の構造を確認しながら、バリューグラフで目的・手段を何度も整理していき、最後に活動目標を定めます。

本記事の残りは、CVCA・WCAとSMART評価のやり方を解説します。

「価値」が「満足」につながっているかを検証する

バリューグラフ

組織デザイン思考では、CVCA・WCA (Customer Value Chain Analysis・Wants Chain Analysis) を用いて組織のあり方を確認します。

CVCA は日本語では顧客価値連鎖分析と言い、関係する「誰」と「どんな価値」をやり取りしているかに注目した分析手法で、複雑な市場の構造と各業者との関係を明確にする効用があるとされているものです *1)。

WCA は日本語では欲求連鎖分析と言い、CVCA を元に開発されたもので、「価値」が「満足」につながっているかを検証するツールです *2, *4)。利己的要求と共に利他的要求も合わせて整理し、価値の流れと満足の流れを可視化します。

目的価値連鎖が組織のメンバーの満足につながっているかを検証する
インプット現在の関係者の関係
アウトプット価値連鎖と満足の流れ

CVCA・WCAは次のように進めます。

  1. 登場人物(ステークホルダー)をリストアップする
  2. 登場人物の間でやり取りされる価値とその価値の流れが分かるように矢印を書く
  3. 全体を見渡し、価値の流れ(In/Out)を検証する
    • 価値は循環しているか?一方通行はないか?
    • 利己だけ、利他だけになっていないか?
    • 重要な登場人物は誰か?
    • ネガティブな影響を与える人はいないか?

下の図は、「彼氏をゲットするための関係者の関係」をCVCA・WCAで可視化したものです。

CVCA・WCAの例

CVCA・WCAのポイント

  • 最初は重要度の高い登場人物から書く
  • アイコンや記号、イラストを活用し直感的に分かる表現にする(アイコンで表現しにくい価値は言葉でOK)
  • 価値の循環の妥当性に注目する
  • 関係者の関係性を整理しながら、組織がどうなっているのか、またどうあるべきであるのかを考える
  • 各関係者がお互いにできることを考えてみる

SMART評価で目標を洗練し,選択する

目標は、具体的(Specific)で、計測でき(Measurable)、達成可能(Achievable)で、成果に基づいた(Result-based)、いつまでが明確である(Time-oriented)ものが良いとされています *5)。組織デザイン思考では、この5項目を評価観点にして目標を評価し、目標を洗練し,最終的には選択します。このプロセスをSMART評価と呼びます。

目的活動目標を洗練する
インプットバリューグラフで得た活動目標
アウトプット洗練された活動目標

SMART評価は、Stuart Pugh による Pugh Concept Selection という手法を参考にして作成した手法です。Pugh Concept Selection は、発散したアイデアを収束させるときにも創造性を下げない特徴があるとされています *2)。客観的に対象を評価・選択するのではなく、ある視点を使ってグループで議論し、評価対象を発展・洗練させ、よりよい解を見つけ出すことが本質です。SMART評価でも、上述の評価観点を用いて○や×をつけますが、その結果よりもプロセスが大事です。

SMART評価は次のように進めます。

  1. バリューグラフ等から導かれる活動目標を縦に並べる。
  2. 各活動目標を5つの観点で評価する(○:できそう、△:分からない、×:できなさそう)。このとき、どれかひとつの目標を基準として、それと他の目標を一対比較して、評価します。
  3. なぜ×△となってしまうのかを確認する。
  4. ×△を○にするために活動目標に具体的な条件を与える。
  5. 実現不可能そうな活動目標は削除する。
  6. 2~5を繰り返す。
  7. 最適な活動目標をグループで決定、合意する。

下の図は、「夏休みの宿題」を例にSMART評価したものです。最後の「夏休みの工作を作る」は他の目標と比べて具体的でもないし、計測できもしません、目標をもっとよくするにはどのようにすればよいか、グループでディスカッションが必要です。

SMART目標の例

SMART評価のポイント

  • ○×△は主観でざっくりと記入してよい
  • ×△が多いものは○になるにはどうしたらよいかを考える
  • 結果にあまりこだわらない。あくまでも参考と割り切る
  • 実現不可能なものは思い切って削除する

まとめ

創造ステップ

前回と今回の2回に分けて、組織デザイン思考の創造ステップの進め方を解説しました。

繰り返しますが、このステップでおさえておくべきことは価値です。組織を維持発展させるためには価値が大切です。組織の価値を捉えて価値に基づいた運営をすることで人々は生き生きとした活動ができます。だから、組織デザイン思考では創造ステップは価値を創造するステップと考えています。

創造ステップの流れ

そのためのツールとして、バリューグラフ、CVCA・WCA、SMART評価を紹介しました。バリューグラフと CVCA・WCA を行き来し、組織の価値を導くこと、その価値が組織内外の人物の満足につながっているものかを確認することが大事であることも示しました。最後にSMART評価を用い活動目標を洗練させる方法も紹介しました。

次はプロトタイプとフィードバック、そして全体のまとめを書こうと思います。

出典

  • *1) 『価値づくり設計』, 石井浩介/飯野謙次(著) 養賢堂 (2008/4)
  • *2) 『システム×デザイン思考で世界を変える』, 前野隆司/保井俊之/白坂成功/富田欣和/石橋金徳/岩田徹/八木田寛之(著) 日経BP社 (2014/3)
  • *3) 『マネジメント[エッセンシャル版]』, ピーター・F・ドラッカー(著), 上田惇生(訳) ダイヤモンド社 (2001/12)
  • *4) 欲求連鎖分析(WCA)の研究
  • *5) https://en.wikipedia.org/wiki/SMART_criteria