ObjectSquare [2000 年 10 月号]

[シリコンバレー放浪記]


シリコンバレー放浪記 連載第9回

〜シリコンバレー雑感〜



■オリンピック中継の最適化

いよいよ、シドニーオリンピックが開催されました。 スポーツの人気の高いアメリカですから、さぞかしTV放送も多いのだろう、と思っていましたが、 意外なことに今のところオリンピックの中継はそれほど多くありません。 人気のありそうな競技が翌日(時差の関係で本当は当日ですが)のプライムタイムあたりに録画放送として放送されているくらいで、 結果もニュースでもちょこっと取り上げられる程度です。 日本のNHKのようにオリンピック一色の放送(チャンネル)が無いことと、 ライブ放送が無い事は意外でした(日本だと、大きな国際試合は時差があっても深夜のライブ放送とかしてるのに)。

まぁ、陸上やバスケットなどアメリカの活躍する競技になればもっと放送が増えるのでしょう。
ある意味、視聴率に基づく番組最適化ですね。

■広がるシリコンバレー

さて、シリコンバレーの経済的成功のおかげで、最近では”シリコンバレー”と呼ばれる地域がどんどん広がっています。 私にとってシリコンバレーと言うと、スタンフォード大学のあるパロアルト市(Sun、HPの所在地、ゼロックス研究所も)から、 マウンテンビュー市(Objy 社、PointBase社の所在地(^^;)、サニーベール市(AMDの所在地)、 サンタクララ市(Intel の所在地)、サンノゼ市といったあたり、という感覚なのですが、 最近では少なくともこれらの都市を中心に北はオークランド、南はギルロイ市あたりまでは”シリコンバレー”と呼ばれているようです。

さらに、最近はモントレー(シリコンバレーから南に下った港町)といった遠方から 2時間ほどかけて通勤する人もいるらしく、 これらを考慮すると経済的な影響範囲と言う意味では、シリコンバレーは半径50マイル近くに及ぶのではないでしょうか? このようにシリコンバレーの範囲が次第に広がっているのも、ここ数年の経済的な成功のおかげで、 シリコンバレー企業が労働者に対し、高賃金でエキサイティングな職場を提供できるからと、捉える事ができます (実際、遠方通勤者は面白い仕事とよい環境での生活の両立を目指して、 全米としてはおそらく例外的な長時間の通勤を我慢しているわけです)。

また、周辺地域に限らず、全米、あるいは全世界から優秀な技術者が周辺地域に集まってきているのも見逃せません。
米国では特定分野で技能を持つ外国人に対し、H-1 と呼ばれる労働ビザを発給していますが、 最近では不足するIT技術者を補うためにこの発給量を増やし、年間11万人程度の外国人労働者を世界から集めています (11万人と言うのは年間の新規発給量で、以前からの継続分を考えると数倍の外国人技術者がここで働いている事になります)。 この1年間に訪問したほとんど全ての企業で、多くの外国人労働者が働いています (特に最近ではインド人技術者の活躍が大きく、彼ら抜きで成り立つ企業はない、といってもよいと思います)。

元々この辺は移民の人たちが多い(全米で見ても学校における外国人受け入れ比率が高い)のですが、 最近では人口比率的に白人が 50%程度で、 アジア系の人たちとヒスパニック系の人たちがそれぞれが25% 程度となっているそうです。 シリコンバレーは職場として世界サイズ、と言えるでしょう。


■貧富差の拡大

一方、シリコンバレーの経済的成功にも関らず、全体的な物価の上昇は貧富の差を拡大させています。

先にシリコンバレーではヒスパニックの人たちが25% 程度いる、と書きましたが、彼らの多くはオフィスやアパートの清掃、 ファーストフードなど(チップのもらえない)飲食業、深夜営業のお店など、労働条件の悪いところで安価な労働力として働いています (うちのオフィスもヒスパニックの人達が清掃をしてくれます。彼らは基本的に平日深夜及び休日の労働で、 しかもいくつかのビル清掃を掛け持ちしていたりと、やはり労働条件はよくありません、、、)。

これらの人々は最近のシリコンバレーの好景気によって、職にあぶれずにすむ、といったメリットがある一方、 賃金の上昇はさほどでも無く、高騰する物価(特に家賃)により生活が以前より苦しくなる、といったデメリットもあるとのことです。 最近では収入の実に 3/4 が家賃に消えてしまい、以前より貧しい生活を強いられるようになった、という話も聞きます。

したがってシリコンバレーで住んでいる人々は皆ハッピーと言うわけでなく、 この幸せを享受しているのは景気の良いIT企業で働く人たちだけで、 後の人たちは下手をするとどんどん生活が貧しくなっている、と言えなくもありません。
最近ではシリコンバレーのIT企業などは自社の従業員だけでなく、 これらの人々に対してもサポート(具体的には物価上昇に見合う賃金の改善、 あるいは教育プログラムによるよりよい職場への転職支援など)を行なわなければいけないのではないか、 という論調も出てきています。


■デジタルデバイド

また、米国では各市間で貧富の差が大きく、例えばパロアルト市は比較的生活レベルが高いのですが、すぐ隣のイーストパロアルト市ではシリコンバレーでも例外的と言ってよいほどの低い生活レベルになっています(治安もよくないので赴任当初、上司から”用事が無い限りイーストパロアルトには行くな”、と言われました)。

これらの街ではデジタルデバイド、つまり電子化による貧富差の拡大、が政治問題として声高に叫ばれています。つまり、コンピュータの普及によって生活が便利になり、豊かになる一方、コンピュータを持たない人々は便利さから取り残されてしまい、貧しい生活を強いられる、と言うものです。
これら地域では先に書いた物価の上昇、あるいは教育環境、教育レベルの低さによって、コンピュータが人々にとってますます縁遠いものになり、コンピュータ化の恩恵に預かるどころか、逆にその貧富差が拡大していく、と言うわけです。

これに対し、学校等公的施設に企業からの寄付などによってコンピュータとインターネットを導入し、子供たちあるいは住人に情報教育を行なおう、という取り組みが行なわれています。
この取り組みが芽を出すにはまだまだ時間がかかるでしょうが、これによって貧富差の拡大が本当に止まるのか、あるいはこれらの人々でもIT化の恩恵を受ける事ができるようになるのか、非常に興味深いところです。
また、シリコンバレーだけでなく、全米全体としてどういう取り組みがなされるのかも注目に値します。

■シリコンバレー雑感

4月の株価暴落時には、米国のITに対する先行き不安感も広がりましたが、一部の企業を除き、全体としては思ったほどの混乱も無く、シリコンバレー企業は相変わらずの好調に見えます。

資金と言う面では Burn Ratio(資金の燃焼率)の高い会社の評価は低くなり、よいビジネスプランを提示できない企業では新規の資金は集めにくくなっていますが、企業としては今までに集めた豊富な資金で(利益から出た資金でなく、4月の株価暴落までの好景気時に投資家から集めた資金)あと1、2年は問題なく企業活動を維持できそうです。

また、企業が失敗しても、労働市場という面では慢性的な人材不足のおかげで、各労働者は勤めていたベンチャーがつぶれてもすぐに再就職できる、それどころか、つぶれた(or 下向きの)ベンチャーに勤めていた、ということが”キャリア”としてみられ、よりよい条件で新しい会社に雇ってもらえる、と言う事まであるので、労働者個人に関してももうしばらくは失業にあえぐような事はないでしょう。

一方で企業側から見ると人材不足のために、思い通りの人材を集める事ができず、質の低い労働者でも雇わざるえない、という事もあるようです(Sun や Rational といった大企業でさえ、人材募集の広告をマスコミを使って大々的にやっています)。
技術的な面で言えば、必要な人材を集められないのは大問題です。
今後は、労働者の教育プログラムによる低所得労働者のIT企業への進出支援や、H-1 ビザの発給量の増加などにより、優秀な技術者を企業に供給しつづける事ができるかどうかが、シリコンバレー全体の生き残りの一つのポイントになりそうです。

ともかく、IPO の難易度の上昇と企業の選別、Burn Ratio による成功までのデッドライン、華々しく登場したベンチャーの失敗、慢性的な人材不足など、一年前に赴任してきたころ(ちょうど空前のドットコムブーム)に比べると、表面的な好調さとは裏腹に、シリコンバレー企業のおかれている状況は悲観的ではないとは言え、楽観的ではなくなっています。
しかし、これらはベンチャー企業同士の競争に真剣勝負の様相が増してきたという事で、これからの数年のシリコンバレーの動きは今まで以上に面白く、エキサイティングなものになるであろう、という事でもあります。
OGIS もシリコンバレーに多くのパートナー企業を抱えている以上、のんきにしているわけにはいきませんが、こういった素晴らしい時期にシリコンバレーに関れる事を幸運として仕事を楽しめれば、と思います。

さて、ほぼ1年間にわたり連載を行なってきましたが、私もいよいよ来月に帰国する事となりました。
”オブジェクトの広場”の連載にもかかわらず、全然技術的でなく、個人的に日ごろ感じた事などをつらつらと書いてきましたので、読んでみて”なんじゃこりゃ?”と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、まぁ”オブジェクトの広場”のお遊び部分としてお許しください(笑)。
帰国後、勉強会などでお会いする事があるかもしれませんのでその時はよろしくお願いします。
それでは、一年間本当にどうもありがとうございました。

by iwade@亜米利加


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