ObjectSquare [2001 年 6 月号]

[Kent Beck XPセミナー特集]





Kent Beck突撃インタビュー


去る4月19日、エクスストリームプログラミングによる究極のセミナが開催されました。セミナで講演されたのはKent Beckさん。Smalltalkでの経験をもとに非常にユニークな開発手法XPを生み出していった話題の人です。
私たちオブジェクトの広場では、セミナーの直後のつかの間の時間を狙い、無謀にも(?)、突撃インタビューを試みました。




まずは世間話と思いきや、、、

日本に来られたのは初めてと伺っています。印象はいかがですか?

実は、いろいろなところで話してばっかりで、見たり聞いたりはほとんどできていないんだよね。僕はまだコメントをできるような立場ではないと思う。十分な経験がないと自信を持って答えることはできないでしょ。

(で、すぐさま話は日本でのXPに移っていきます。)

日本でも多くの開発者がXPに注目をし始めてくれている。これは日本のソフトウェア開発(者)の文化に訴える部分があったからと思う。でもビジネス上の文化ということになるとまだ壁があるように感じた。

(XPのPlanning Gameでは開発者側とビジネス側の役割を明確に区別しています。ここでの開発者とビジネスを分けた見方もその反映でしょう。)

大きく分けてEmergence(出現)とConsensus(意見の一致)というやり方があるよね。Emergenceのほうでは、ソフトウェアの品質や生産性を求める動きは必要に応じて出てくる。個々のプレイヤーは考えて行動して、たとえばUnit Testが有効とわかったら、他の仲間たちにそれらが自然に広まっていく。
実は僕は今あるオープンソフトのソフトウェア開発に関わっているんだ。そこでは、開発そのものはEmergenceモデルで行われていて、デザインはみんなでオンデマンドに勝手にやるんだけど、どのソースを採用するかといった管理は、Consensusによりカチコチに行われている。これは本当にストレスがたまることなんだ。
日本での階層型の組織はConsensusにより行われているものだから、これが XPのようなEmergenceを主体とした開発方法とどう融合していくのか、そういった部分に非常に興味があるね。もしかしたら、うまい中間形態のやり方が生まれてくるかもしれない。

それはものすごく面白い話ですね。

たとえばon site customerにしても、よく日本では不可能という話を聞くよね。

ええ、まったく難しいことと思います。

でも、難しいからといって不可能なわけじゃない。まずは小さい規模で始めてみて、一定の成果を出すんだ。まずは経験が大事で、そこから効果のほどを確かめていけば、より決定力のある管理者にも伝わっていく可能性がある。アメリカでのon site customerは、XPが始まってから1年くらいしてから開始されたんだけど、1人ということはなく、3、4人が参加してきた。それは、そうしたほうがビジネスの要求がより伝わってメリットがあるという実感があったからなんだ。だから地道に正直な努力を続けていけば、広がらないことはないと思う。

(世間話をしようと思ったのに、あせる突撃隊を見て)

ちょっと答えが長すぎる? 短いほうがいいかい?

(突撃隊2人、口を揃えて)ええ、もっと短めにたのみます。(だって時間ないんだもん。)

そうかい。Feedbackが大事なんだよ。



こんどこそ世間話、、、

えー、Kentさん、子供のころは何になりたいと思っていましたか?

(うーんいい質問だね、、、と言ったきり15秒ほど考える。)

父はプログラマだった。僕は父の仕事をよーく見ていて、いつしか自分もプログラマになりたいと思うようになった。もうひとつの僕の子供のころの興味は音楽で、プログラマじゃなかったら、きっと今ごろはミュージシャンだったと思う。だから結構、学生のことには葛藤があって、コンピュータサイエンスと音楽とを1年ごとにかわりばんこに履修したりしていた。不幸なことに、コンピュータサイエンスのほうで学業が終わって、いまはプログラマになったというわけさ。

(なぜだか、この業界、ミュージシャンになりたかったという人は多いです。そういえばAlan Kayも10年にわたってプロのギタリストでした。)

では、もっとも尊敬している人は?

(うーん、ちょっと待って、、、20秒ほど考える)

Abraham Lincolnかな。自己犠牲の精神を持っていて、おごるところがなかったから。エネルギッシュで、ユーモアと創造力があって、皆を導いていった。
後は、僕のワイフかな。彼女もすごくエネルギーがあって僕を支えてくれている。子供の面倒を見て、僕の面倒を見て、本当に大変だよ。もしも僕が彼女の立場にいたらと考えると、ぞっとしちょうよ。

(Kent家は5人のお子さんを持つ大家族です)

家族といえば、今は皆で、オレゴンに住まれているのですよね。田舎の生活は好きですか?

大好きだね。静かで平和で。 仕事ではいつも神経を使っているので。もちろんそういう緊張感も好きなんだけど、時にはうんざりするよね。Oregonでは、あらゆるものの音が違うんだよ。風の音、鳥の羽ばたく音に気づいたりするんだ。ほんと、リラックスできるよ。TokyoやNew Yorkの喧騒(hustle&bustle)から開放される。

では、暇なときには何をされていますか?

今でも音楽が好きで、楽器を演奏したりしてる。

ピアノとかでしょうか?

いや、ギターとバンジョーだね。

おーバンジョーですか。それはそれは。(と、いいつつ良くわからない。西部劇とかに出てくるギターっぽいやつ?)

後はSFなんかも好きだね。

ではお気に入りは?

(20秒ほど考える)

指輪物語(The Load of Rings)だね。

(J. R. R. トールキンの大河ファンタジーですね。日本にも固定ファンが多し。今度映画にもなる模様です。 この場面で私はデジャヴを感じたのですが、後で振り返るにRumbaughさんも指輪物語のファンなのでした。)



技術的な話で締めます

ちょっと技術的な話に戻ります。今まででもっとも困難だったプロジェクトは?

むむ。もっとも難しかったやつねぇ、、、(15秒くらい)

C3プロジェクトは難しくなかったですか?

C3は確かに開始の時には非常に勇気が必要とされるものだったけれど、困難なものとは感じなかった。チームはみんなやる気があったし、すばらしい人たちに恵まれたからね。
はじめる前にはすごくプレッシャーがあった。最初に、家で計画を立てようとして資料を見たときに緊張に圧倒されて、ウィスキーも手が震えてろくに飲めなかったくらいだけど、始まってみると、チームの働きに感動したね。

もっとも難しかったというと、あるスーパーコンピュータ用のFORTRANによる数値計算プログラムの仕事に携わったときだ。要求は頻繁に変わったし、チームのリソースもなかった。その会社の命運がかかっていて政治的なプレッシャーもすごく高かったんだ。

でも、それはある意味、困難ゆえの面白さもあったのでは?

いいや、まったく。今でもたまに当時のチームと会って話したりするけど、いい話にはならないね。その会社も結局のところニッチ市場をつかめずに、ハードウェアは消えていったんだ。

(うーん。さすがKent。いろんなことを経験されていますねぇ。)

では、ちょっと軽い話。もっとも好きなプログラミング言語は?

Smalltalkだね。(即答)
骨の隋までという感じ。自分のために何かプログラムを書かなければならないとすると、まず絶対にSmalltalkで書くね。
最近の言語で、特別賞を与えるとするとRubyになるね。概念的に非常に綺麗で、言語的な特徴の一部はSmalltalkを超えているといってもいい。後はプログラムの環境だよね。僕はRefactoringBrowserがたまらなく好きなので。

ああ、私もRefactoringBrowser大好きです。Rubyにないのは、ほんと困ります。何とかしてほしいですよねー。

最後になりますが、日本のソフトウェア技術者(特に若い人)に対して何かアドバイスをいただけませんでしょうか?

ええと、、、そうねぇ。

勇気を持て、とか?

いや、ちょっと待って、考えるので。(20秒ほど)

「常にプログラミングを社会的な活動として考えよ」かな。プログラミングは、実のところ非常に楽しいので、つい閉じこもりがちになるけど、チームにとっても、自分にとってもそれは結局はいいことにはならないんだよ。

なかなか含蓄のある言葉です。全体的に、じっくり考えて答えを出す、と言う場面が多かった今回のインタビューでは、Kentさんの真摯な人柄が伝わってきました。チャラチャラしたHacking野郎では決してありません。


インタビュー後、例によって色紙を書いていただきました。
今回のテーマはXPのPlanningにかけて、「ケントーつかん」("Estimation is Difficult")としました。

オイオイ、なんでそんなにマジなんだ、Kent!
オイオイ、なんでそんなにマジなんだ、Kent!

前回のヤコちゃんに引き続き、こちらも抽選で1名の方にプレゼントしたいと思います。

ご希望の方は、お名前ご住所E-mailアドレスをお書きの上、oosquare-editor@ogis-ri.co.jp 「Kent氏色紙プレゼント係」までEメールにてお送りください。(期限:2001年5月31日まで)


ハードスケジュールの中、インタビューに応じてくださったKent Beckさん、ご協力をいただきました株式会社テクノロジックアート、株式会社エクイティ・リサーチ、XPユーザ会の皆様、どうもありがとうございました。


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