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アジャイル

リーンとアジャイルで変わる物語

第4回:中心メンバーの登場
株式会社オージス総研 技術部アジャイル開発センター
藤井 拓
2017年8月8日

本連載では、ある日本の製造業の会社がリーンとアジャイルで変わる過程で直面する様々な課題と解決策を物語仕立てで提供する。第4回は、アジャイル開発推進役の吹田がバリアジャイル社にアジャイル開発の導入支援が可能かを確認し、 その結果3チームで開発を進めることを決断する。なお、本連載の物語はフィクションであり、実在の企業や人物を記したものではありません。

前回までのあらすじ

A 社は、ある製品を製造、販売しているが、近年製品の売り上げの減少が続いている。売り上げの減少の原因が、製品の周辺サービス機能が消費者のニーズに合っていないとの分析に基づき、その対策としてCEOの椎名は開発本部長の貝原にアジャイル開発を早急に適用するように命じた。 貝原は、開発本部内でアジャイル開発に詳しい吹田をアジャイル開発の推進役に指名し、プロジェクトの立ち上げを依頼した。

吹田は、 パイロットプロジェクトをA 社のこれまでの開発委託先であるロングパートナー社とアジャイル開発の実践経験が豊富なバリアジャイル社に委託するために、これら2社と打ち合わせを持った。今回の話は、吹田とバリアジャイル社の営業担当者との打ち合わせの続きから始まる。

開発チームへのアジャイル開発の導入支援に関する質疑

A社の組織とメンバー

吹田は、「話が変わりますが、もう1点質問があります。御社は、他社の開発チームへのアジャイル開発の導入を支援することは可能なのでしょうか」と遠慮がちに聞いた。バリアジャイル社の営業担当者は、「可能です」と答えた。吹田は、「ロングパートナー社は、弊社の開発委託の戦略的なパートナーなのですが、その会社の開発チームへのアジャイル開発の導入を後押しできればと考えています」と質問した理由を説明した。

バリアジャイル社の営業担当者は、「それでは弊社のアジャイル開発のコーチを別途提案させて頂きますが、まず第1ステップとしてコーチング対象メンバーの方々を理解し、それらの方々にこれから目指すゴールのイメージを共有して頂くことが大事です。そのために、まず半日程度の時間でそのコーチとコーチング対象のメンバーとの議論、アジャイル開発の概要説明と演習を設定させて頂きたいと思います」と応じた。さらに、「これらの議論、説明と演習を通じて、コーチング対象メンバーがアジャイル開発に対して前向きな気持ちを持っておられるかを確認します」と続けた。「今回のように、私どものように発注者でもない第3者がアジャイル開発を迅速に導入するためのコーチングを行う際に、コーチング対象の開発メンバーと建設的な関係を築けるかどうかが大きなポイントになるのでこのような確認がきわめて大事です」と説明を付け加えた。

バリアジャイル社の営業担当者は、「コーチング対象のメンバーとの話し合いでメンバーがアジャイルに前向きに取り組めそうな感触が得られれば、引き続いて基本的なトレーニングを2-3日実施させて頂くことになると思います」と続けた。

吹田は、「コーチング対象のメンバーが決まり次第連絡しますので、それと並行して最初の説明と演習、話し合い、トレーニングの見積もりを作成するようにお願いします」と述べた。

開発委託の準備

吹田は、バリアジャイル社との打ち合わせ後に以下の3チームで開発を進めることになる旨をロングパートナー社とバリアジャイル社の営業担当者に伝えた。

  • ロングパートナー社経験者チーム(以降、ロ社経験者チームと略す)
  • ロングパートナー社未経験者チーム(以降、ロ社未経験者チームと略す)
  • バリアジャイル社経験者チーム(以降、バ社経験者チームと略す)

さらに、吹田はロングパートナー社の営業担当者にロ社未経験者チームはバリアジャイル社のコーチのトレーニング及び指導を受けて開発を行って欲しいという意向も伝えた。

また、吹田は織田にも3チーム体制で開発を行わせてほしいとお願いした。織田はしぶりながらもその願いを受け入れた。

翌日、吹田の手元には2社からの見積もりが届いたので、吹田は早速2社への開発委託とアジャイル開発導入支援の稟議を上げた。稟議は半日も経たずに決裁されたので、吹田は2社への開発委託とアジャイル開発導入支援の購買手続きを開始した。この購買手続きもその日のうちに完了し、これらの作業が2社に正式に発注された。

発注後すぐにバリアジャイル社の営業担当者から作業の進め方についてアジャイル開発のコーチ及び分析者とともに打ち合わせを持ちたいとの連絡が入った。分析者は、プロダクトオーナーにも作業の進め方を説明したいとのことだった。吹田は、織田のスケジュールも確認し、15時-17時の時間帯に打ち合わせ可能との返信をした。バリアジャイル社の営業担当者からは、アジャイル開発コーチ、分析者、スクラムマスターとともに15時に訪問するとの連絡があった。

吹田は、ロングパートナー社の営業担当者にも来週からの作業の進め方について可能であれば15時から打ち合わせを持ちたい旨を連絡した。幸いなことに、ロングパートナー社の営業担当者から15時からの打ち合わせに参加可能との返事があった。

3チームの中心メンバーの自己紹介

3チームの中心メンバー

その日の15時に、バリアジャイル社の営業担当者は3名の同行者を伴い、ロングパートナー社の営業担当者は2名の同行者を伴い、A社に現れた。吹田は、それらの訪問者を織田が待つ会議室に案内した。

打ち合わせの冒頭で、吹田は今回アジャイル開発に取り組む背景と、自分の役割とPOの織田を紹介し、バリアジャイル社とロングパートナー社により3チームを編成する意図を説明した。意図の説明において、吹田は率直に「アジャイル開発の実績についてのロングパートナー社さんの回答に自分の期待とのずれを感じました。そのため、私が期待する形でロングパートナー社さんがアジャイル開発を進められるようになって頂くために、ロングパートナー社さんのアジャイル開発の未経験者への教育をバリアジャイル社さんにお願いしました」と述べた。その発言に、ロングパートナー社からの参加者は少し驚いた様子だった。

吹田は、続いて「バリアジャイル社さんとロングパートナー社さんの方々の自己紹介をお願いしたい思います。それでは、バリアジャイル社さんからお願いできますでしょうか」と議事を進めた。それに応えてバリアジャイル社の新参3名が以下のように自己紹介をした。

  • 河内(アジャイル開発のコーチ):4年ほど前からアジャイル開発を学び、そこから数プロジェクトを経て開発メンバーからスクラムマスターの役割を担うようになった。2年ほど前からアジャイルコーチに興味を持ち、その経験を積んでいる
  • 関根(分析者):3年ほど前にユーザーストーリーに出会ったが当初はユーザーストーリーに否定的だった。2年ほど前にユーザーストーリーを系統的に組み立てるフレームワークであるDtoD [1] に出会い、共感し、以来DtoDの導入支援や実践を行っている
  • 増野(スクラムマスター):2年ほど前からアジャイル開発を学び、そこから数プロジェクトを経て開発メンバーからスクラムマスターの役割を担うようになった

織田が「私はプロダクトオーナーは初めてなのでしょうが、大丈夫でしょうか」と関根に尋ねた。すると関根は「プロダクトのビジョンがまとまっており、優先順位決めや受け入れをすばやく行って頂ければあとは私がサポートしますのであまり心配なさらないでください」と答えた。

続いて、ロングパートナー社の新参2名が以下のように自己紹介をした。

  • 定岡(ロ社経験者チームのPM):これまで複数のアジャイル開発プロジェクトを実践した経験がある
  • 和田(ロ社未経験者チームの代表者):アジャイル開発プロジェクトは未経験だが、今回のプロジェクトを通じて可能な限り習得したい

吹田は、和田の前向きな自己紹介を聞いて少し安心した。吹田は、定岡に「アジャイル開発でよく用いられているスクラムではPMという役割はないと思うのですが、御社ではなぜPMという役割を設定されているのでしょうか」と質問した。定岡は、「お客様との窓口となり、計画の立案や作業の割り当てを行うためにPMが必要だからです」と答えた。

第 4 回の終わりに

今回のお話で、吹田はバリアジャイル社の営業担当者に「他社の開発チームへのアジャイル開発の導入を支援することが可能か」を確認し、バリアジャイル社の営業担当者から「可能」という回答を得て以下の3チームの体制で開発を行うことを決断しました。

  • ロングパートナー社経験者チーム
  • ロングパートナー社未経験者チーム
  • バリアジャイル社経験者チーム

さらに、バリアジャイル社やロングパートナー社と教育や開発の進め方に関する打ち合わせを持ち、その冒頭でバリアジャイル社やロングパートナー社の開発に関係する主要メンバーが自己紹介を行いました。

次回に続きます。

参考文献

[1] 藤井 拓, DtoDに基づくアジャイル要求入門, https://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/technical/IntroDtoD/