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[実世界をそのまま表現するモデルとは]


4.従業員−会社モデルの解説

それではどれが一番良いのか考えてみましょう。
色々な考え方があるかとは思いますが、ここでは「これだけではどれが正解かはわからない」というのがもっとも適切な判断でしょう。
(まるで意地悪クイズのようになってしまいましたが、1)から3)のいずれかを選んだ方は、どうか気を悪くせず読み続けてください。)

なぜ正解がわからないかというと、このモデルがいったい何を目的として、どういう視点から実世界を見て作られたものかがはっきりしないからなのです。

つまりここでは「従業員と会社を表現するモデルを作った」のですが、それが何の目的、例えば給与計算をしようとしているのか、大学の同窓会名簿を作ろうとしているのか、役所が国勢調査をしようとしているのかが明確になっていないため、モデルを評価する基準がわからないのです。

反対にモデル化の目的がはっきりしていれば、評価基準も明らかになり、何がしかの判断をすることができます。
たとえば、将来も含めて「従業員」以外の人にまったく関心がないのなら1)がシンプルな良いモデルと言えるでしょう。
もし従業員以外の人にも関心があるのなら2)あるいは3)が適切で、特にある人が会社の従業員になったり無職になったりすることを表現したいなら3)が適切と言えそうです。
しかし目的や前提が何も与えられていない状況では、このような判断は下せません。

このように、ある対象領域のモデルを作ったり、それを評価したりするためには、モデル化の目的が何かを明確にしておくことが非常に重要となります。

一方で、これらのモデルからはっきり言えることが1つあります。
それはこれらのモデル作成者の視点が、「会社の外側(すなわち国や大学、職業安定所など)にある」ということです。これはどのモデルにも「会社」クラスが定義されていることから推測できます。
給与計算を目的とした場合のような特定の会社の内部から見たモデルの場合には、「従業員」はその会社に勤める従業員を指すことが暗黙の前提となるため、「会社」クラスが登場しない、次のような非常に単純なモデルになるでしょう。

このように一般的にモデルには、そのモデルを見ている側の存在は登場しません。
これは「自分が見る世界の中に自分自身が現れないこと」によく似ています。

対象領域を見る「視点」によってモデルは大きく変わります。この「視点」を定めるためには、やはりモデル化の目的を明確に意識することが非常に重要となるのです。


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