ObjectSquare [2012 年 6 月号]

[技術講座]

企業情報におけるクラウド活用検討プロセス

株式会社オージス総研 技術部 クラウドインテグレーションセンター 鵜野和也

はじめに

クラウドはコンシューマ系はパブリッククラウドから急速にその利用が進んでいますが、日本の大中規模の企業では可用性、 セキュリティや既存資産などの面で、クラウド活用の重心を仮想化技術を中核としたプライベートクラウドに重心を置いています。 パブリッククラウドには関心を持ちつつも本格採用には様子見という状況が続いてきたといえるのではないでしょうか[1]。

しかし、ガートナー社が今年4月に発表した今後3年間のクラウドコンピューティングのトレンドでもハイブリッド・クラウド・コンピューティングの流れは不可避」と謳っているように[2]、 パブリッククラウドには柔軟性、アクセス容易性という観点でプライベートクラウドでは得られない利点があります。 よって、企業も遅かれ早かれ、ビジネス上の要求に応じてプライベートクラウドと使い分けるという形で、 パブリッククラウド活用に乗り出すというのが世の中的な見方ではないかと思います。

今回は、企業がクラウド活用を検討する際、どのようにして最適な形態のクラウドを選定すればよいのか、 その作業手順を検討プロセスという形でまとめたので紹介したいと思います。

クラウドの定義と特徴の違い

話を進める前にクラウドについて少し整理してみましょう。 クラウドはNISTの定義によれば、以下のように3つの提供モデルと4つの配備モデル(図1)があり、それぞれのモデルは異なる特性を備えています。

図1

図1 NISTによるクラウドの定義

例えば、プライベートクラウドとパブリッククラウドでは拡張性、セキュリティ、コスト、コントロールという点で大きな特性の違いがあります(図2)。

図2

図2 プライベートクラウドとパブリッククラウドの比較

また、IaaS→PaaS→SaaSと提供モデルの階段を上がる度にクラウドサービスの提供者と利用者の責任範囲は大きく変化していきます(図3)。

図3

図3 各提供モデルでの提供者と利用者の責任範囲

このような各配備・提供モデルが備える特性は、クラウドを活用しようとする業務要件によって利点にも欠点にもなるものだと言えます。 よってクラウドを企業ITの実現手段として活用する際には、業務要件と各モデルの特性を十分検討して、目的に適した形態を選択することが非常に重要になってきます。

クラウド活用検討プロセス

では、クラウドを活用する際はプライベートが良いのか、パブリックが良いのか、どう判断するべきなのかという本題のほうに入りたいと思います。

企業がクラウドを活用する際に重要なのは、プライベートクラウド上に配置する資源、パブリッククラウド上に配置する資源、プライベート⇔パブリック間での流動的な配置が可能な資源を適切に見極め、配置し、管理することです。 そうすることによって、クラウド活用に伴うリスクを適切に管理しつつ、各種のクラウドコンピューティングの利点を享受できるようになります。

そのためには、企業は自社業務にクラウドを適用する際の作業手順や判断のポリシーを確立する必要があると言えます。

その一例として、以下のようなクラウド活用検討プロセス(図4)を紹介します。

図4

図4 クラウド活用検討プロセス

このクラウド活用検討プロセスは、単体の業務あるいはシステムをクラウド化する際の検討作業を以下の5つのアクティビティからなる作業プロセスとして定義しています。

  1. 社内IT環境のクラウド準備度評価
  2. ビジネスゴールの確認
  3. 要求事項と制約条件の評価
  4. クラウド活用形態の検討
  5. クラウドベンダーの選定

これらのアクティビティの内容について簡単に説明します。

社内IT全体として定期的に取り組むアクティビティ

社内IT 環境のクラウド準備度評価

クラウド活用を検討する際に必要な情報のうちで、社内IT全体を対象とする情報を収集し、複数のクラウド活用検討案件で情報を共有・再利用することを目的とします。

社内IT全体として取り組む作業であり、単体業務へのクラウド活用を検討するタイミングとは独立して定期的に実施することで、情報の鮮度を保つことが重要になります。

また、社内IT全体をスコープとする作業であるため、社内ITのガバナンス体制側が実施することが望ましいと考えられます。

このアクティビティでの確認事項具体例は以下のようなものになります。

クラウドを適用する業務/システム毎に実施するアクティビティ

このアクティビティ以後は、業務あるいはシステムのクラウド化を検討する毎に行う作業になります。 また、これらの作業は、クラウド活用検討案件の担当者が実施することになります。

ビジネスゴールの確認

対象の業務あるいはシステムで達成すべきビジネスゴールを確認します。 ここで確認されたビジネスゴールはクラウド適用後にその有効性や妥当性を評価する際の評価基準として使用されることになります。 ここで重要なのは、ビジネス上の目的を達成する為の有効な方策としてクラウドを活用するのであって、クラウドの活用が先ではないということを忘れないことです。

要求事項と制約条件の評価

クラウド化を検討する業務に課せられた諸条件を収集して後の判断のインプットとします。 収集する情報は以下のようなものになります。

クラウド活用形態の検討

これまでのアクティビティのアウトプットから対象業務に最適なクラウドの提供モデル/配備モデルを検討し判断します。

同じような業務であっても企業毎の状況や戦略によって最適なクラウド活用の形態は異なるはずであり、 その判断の基準を示すことは容易ではありません。よって以下のような一般的な指針から、クラウド活用経験の蓄積を経て、各企業に適した基準に成長させるような取り組み方になるでしょう。

クラウドベンダーの選定

選択したクラウド活用形態に準ずるサービスを、提供するベンダー群からクラウド活用の価値が最大となるベンダーを選択します。

必要要件を満たすことは重要ですが高品質はコストとして跳ね返る為、要件面で妥協する等の総合的な判断も必要になります。確認すべき情報の例は以下のようなものになります。

終わりに

さて、どうでしょう? 特定の企業、業務という視点ではなく、一般的な観点から記述すると、どうしても「間違いではないかもしれないが、 そのままでは使えない」というレベルの記述になってしまいますね。

実際に作業手順やポリシーを定義する際のポイントは、まず見える範囲でよいので定義してみて小さく始め、フィードバックを得ながら軌道修正しつつ育てていくことだと思います。

また、各ベンダーからは、日々、様々なソリューションがアナウンスされています。この点からも、一度プロセスを定義して終わりではなく、クラウドの技術動向の変化をモニタリングして適宜、 プロセスや判断基準の更新していくこと、変化に対応することが重要であるといえるでしょう。

参考

[1] JUAS,企業のIT投資動向に関する調査報告,経済産業省,2011

[2] ガートナー、2015年までのクラウド戦略に影響を及ぼす5つのクラウド・コンピューティングのトレンドを発表

関連ページ

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