オブジェクトの広場は株式会社オージス総研グループのエンジニアによる技術発表サイトです

« prev | index | next »
UX, ユーザーエクスペリエンス / サービスデザイン思考

バックキャスティング思考と
未来のユーザー体験

株式会社オージス総研
技術部 仙波真二
2015年11月5日

みなさんは、新しい製品やサービスのアイデアを考えることはありますか?
もし考える場合、どのようなことを考えますか?

未来の子供たちへ

私自身は、お客様のお仕事のご支援をする際に、新しい製品やサービスのアイデアを考えることがあります。その際、フィールドワークを行ってインサイトを発見し、ユーザーの体験をベースにストーリーを考え、サービスの流れやタッチポイントを意識してサービスを設計していきます。

これは、サービスデザイン思考の最もオーソドックスなプロセスですが、これとは別の観点でアプローチしていく手法を知る機会がありました。それが、石田秀輝先生による「バックキャスティング思考」に関する講演 *1) です。今回のコラムでは、バックキャスティング思考の概要と、その手法について私が感じたことについて記述することにします。

バックキャスティング思考って何?

まず、バックキャスティング思考って何? というところからご説明します。バックキャスティング思考を簡潔に表現すると「現在のライフスタイルのまま迎えた未来(問題のある社会)を推測してその問題点を特定し、そうならないアイデアを考えるというアプローチ」ということなります。その際「現在のユーザー体験」と「未来のユーザー体験」の両者を満足させるということがポイントとなります。

例えば、現在のライフスタイルのまま迎えた未来を推測した場合、水不足になることが問題となるとします。この問題に対する解決策を考える場合、「水を節約する」というアイデアを考えてしまいがちではないでしょうか。例えば「水を節約する」というアプローチで製品やサービスを開発した場合、ユーザーに我慢を強いることになり、結果として「楽しくない、快適でない」というユーザー体験をもたらすことになります。結果として、「売れない製品やサービス(製品やサービスの提供者視点)」となり、「買ったとしても長続きしない、不満を感じる(ユーザー視点)」ということになってしまいます。

これに対して、水を極力使わなくても、ユーザーが快適と感じる方法を考えることがポイントになります。前述の講演では、具体例として、「泡のお風呂」の紹介がありました。泡のお風呂では、水を極力使わず、お風呂に入った際の爽快感も得られるそうです。

(下記はバックキャスティング思考をわかりやすく伝えようと思い作成したイメージです)

バックキャスティング思考(イメージ)

ちなみに、バックキャスティング思考に対して「フォアキャスティング思考」というアプローチもあります。以下、フォアキャスティング思考に関する引用 *2) です。

  • 現状分析や過去の統計、実績などのデータをもとに、未来を演繹的に予測するやり方。

つまり、これまでの情報や経験などをもとに、現状のまま未来を迎えた場合にこういう社会になっているだろうと考えるアプローチです。経済産業省の技術戦略マップ等は「フォアキャスティング思考」の典型であると、石田先生は講演でおっしゃっていました。

バックキャスティング思考は難しい?

バックキャスティング思考は難しいのでしょうか?
正直、難しいと思います。

理由として

  1. 問題とするテーマが大きい
  2. みんなが取り組む必要がある

ということを私は感じました。

まず「問題とするテーマが大きい」という点についてですが「現在のライフスタイルのまま迎えた未来の社会で、どういうことが問題となるのか?」ということを明確にする必要があります。

講演では、「人口、地球温暖化、エネルギー、資源、水、食料、生物多様性、社会交通システム、産業」などが問題とするテーマの分類として挙がっていました。

更に、特定の改善策によって別の問題をおこさないようなエコシステムを考えることも大前提となります。

次に「みんなが取り組む必要がある」という点ですが、一つの企業が取り組んだところで解決するようなレベルではないので、国や企業、そして人の意識が変わっていかないと、よい方向に進んでいかないのではないかと思います。

ここで、国はこのことに取り組んでいないのか?という素朴な疑問がでてきました。
「持続可能な社会」というキーワードはよく耳にするので、何らかの取り組みはしているはず…。

調べてみると「環境省の白書」*3) を見つけました。

以下、抜粋です。

  • 「持続可能」という理念は、1987年、国連の環境と開発に関する世界委員会(WCED)の最終報告書「地球の未来を守るために(Our Common Future)」(いわゆる「ブルントラント報告」)において提唱されました。ブルントラント報告では、「持続可能な開発」とは「将来の世代のニーズを充たしつつ、現在の世代のニーズをも満足させるような開発」を言うとされています。

ここに記述しているポイントは、「未来の環境」と「現在と未来のユーザー体験」の両方を実現することを謳っており、バックキャスティング思考と基本的な考えは同じではないでしょうか。

ついでに、企業の基本理念についても調べてみました。ここでは省略しますが「持続可能な社会への貢献」というキーワードは多くの企業に入っています。

実際に使えるの?

最後に、実際に使えるのか?という点について。

社会に対して何の影響力もない私の立場ですと、「これまでにない重要な視点を与えてくれる」という意味で「使える」というのが、正直なコメントです。

お客様の製品やサービス開発のお手伝いをすることもありますので、その際には「ご紹介したい」という思いは強くあります。

というのも、多くの会社の企業基本理念に「持続可能な社会」が謳われているということは、その企業が最も重視すべきUXコンセプトと言えます。そこから製品やサービスレベルのUXコンセプトに落とし込んでいくことになりますので、バックキャスティング思考的な視点は最も重視すべきポイントになるのではないでしょうか。

UXコンセプト


このコラムを記述しているときに、たまたま東京モーターショーの様子がテレビで放映されていました。そこで目についたのが「電気を作って他のクルマやビルにエネルギーを補充するクルマ」でした。それを見ながら思ったのは、

「電気が必要な社会が前提になっているな」
「電気を極力使わない社会は描けないのだろうか」

ということでした。

バックキャスティング思考の講演を聞く前は、こういう発想はしなかったので、私としてはこれまでにない重要な視点を得られたという思いでした。

みなさんはどう思われますか?


出典