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「なぜマーケティングが重要なのか?(6)― 現在のマーケティング(上) ―」
株式会社オージス総研

2014年02月号
  • 「なぜマーケティングが重要なのか?(6)― 現在のマーケティング(上) ―」
株式会社オージス総研   水間 丈博

◆現在のマーケティング

 前回までの連載で、「マーケティングを論じる意味」、「マーケティングとは何か?」、「コンセプトの変遷」、「基本的な概念」、そして「マーケティングが求められる背景」を述べてきました。これである程度読者各位の"マーケティングの基本的理解"は進んだことと思います。今回からは「実際のマーケティングの様相」に踏みこんでいきます。

 第2回「マーケティング・コンセプトの変遷」で、日本でマーケティングが導入されて50年程度であることに触れました。米国を中心とするマーケティングの発展経過を研究しながらも、日本では独自に様々な模索が為されてきました。どのような工夫がされどのような効果を上げてきたのか、また残された課題は何であるか、今後進む方向はどうすべきか、などを探っていきたいと思います。

現在のマーケティングを整理すると以下の5つに集約できることを紹介しました。

  • 新規顧客開拓のための伝統的ファネルマーケティング
  • 国内の顧客維持競争に勝ち残るための競合優位追求型マーケティング
  • グローバル市場で新たな顧客獲得競争に勝ち残るためのグローバルマーケティング
  • 企業独自の魅力を発信し顧客を惹きつけるためのブランドマーケティング
  • 顧客の潜在意識、購買動機などを徹底的に追及する顧客経験価値マーケティング

 それぞれの特徴を解説し、どのような課題があり今後どのように進んでいくのかを見ていきましょう。

◆伝統的ファネルマーケティング

・ファネルマーケティングとは
 ファネルとは"漏斗(じょうご)"のこと。初めは大きな対象(ターゲット市場の中の一般消費者)を捕捉してからだんだんに数が絞られ、最終的に顧客になってもらうこと(購買してもらうこと・店舗会員になるまで)などを目的にしています。この考え方の起源はS.E.Lewisという広告の効用を世に広めた人物が提唱したAIDAモデルにあります。これは消費者が広告宣伝に初めて接してから購買に至るまでの心理的プロセスについてモデル化した画期的なもので、世界最初の「消費者購買行動モデル」と言われています。今から100年以上前のことです。1920年代にこれをアメリカの広告研究家S.Rホールが発展させてAIDMAモデルとし、世に広め定着しました。(海外ではPurchase Funnelと呼ばれます。)
 マーケティングでは、主に新規顧客開拓の様々な場面に応用されます。AIDMAは
  ● Attention - 注意
  ● Interest - 関心
  ● Desire - 欲求
  ● Memory - 記憶
  ● Action - 行動
 の頭文字をとったもので、消費者はこの順を辿って最後に"ACTION=行動"すなわち購買に至る、というものです。

 読者ご自身が、何らかの製品を広告や友人の話などから初めて存在を知り、その後購買に至った体験を一度ならずお持ちでしょう。それを思い出してみましょう。
 初めて知った瞬間、または触れた瞬間に魅了され、衝動買いをすることもあります。ただ、多くは興味をそそられ(手に取ってみたり、広告を良く読んだりして)関心が高まり、そのうち欲しくなってそれが意識の奥底に印象付けられ、良く調べて(比較してみたり)、最後に決断して購入する、といった段階を踏んでいることが分かります。高額商品や趣味の品々であれば、知らず知らずのうちにこうしたプロセスを踏んでいることが普通でしょう。ファネルの考え方は消費者心理の真実を上手く表現しており、時代を経てもまったく色褪せることはありません。この消費者行動心理は今でも十分に有効なのです。そのため、現在ではAISAS、AIDCA、AIDCAS、AIDAS、AIDAC、AMTUL・・など数多くの派生型ともいうべき考え方が世に広まっています*1。プロセスの数も諸説あります。
 この消費者行動モデルをビジュアル化(図解)したものがファネル図です。
 以下に代表的なファネル概念図を示します。

Purchase Funnel概念図
図12 Purchase Funnel概念図

 ファネルの考え方の本質は、各段階から次の段階(例えばInterestからDesireへ)に移る都度、ターゲット(潜在顧客)が減衰する、という理解のもとにできるだけ多くのターゲットをAction(行動)にまで引き込む工夫を重ねることにあります。これがファネルマーケティングです。
 各段階から次の段階に移る際には障壁が存在します。ある商品に関心を持った人が100人いたとして、その後まったく別の事に関心が移ってしまい、もう元の関心に戻れない場合(例:車を買い換えようと思ったけれど、老いた両親を連れて海外旅行を選択するような場合)や、競合品への関心が強くなり、ファネルから抜け出てしまうこと(例:コンパクトデジカメを探していたが、今流行のミラーレスカメラに興味が移った場合など:コンパクトデジカメとミラーレスカメラは商品カテゴリーが異なります)はあるでしょう。
 しかし、さらに関心が高まり、例えばカタログを取り寄せる、インターネットでさらに詳しく調べるなどの行動により、次の段階「欲しい」と思ってくれる人が20人いたとしたら、次にこの20人をMemoryやActionの段階に引き込むように工夫することになります。

このように各段階から次の段階に移るための障壁をいかに低くしスムーズに移ってもらうかがマーケティング施策の永遠のテーマであり工夫する知恵の絞りどころになるのです。例えば企業WEBを初めて訪れた顧客にどうしたら「資料請求」や「問合せ」まで進んでもらえるかは商品やサービス説明の分かり易さ、独自性や効能、企業の魅力などをビジュアル(サイトのデザインや美しさ)の工夫も加えていかに説得力を持って見てもらえるかが鍵になります。

<事例>アマゾンのワンクリックオーダー
 アマゾンは、ネットの顧客利便性を極限まで追求し、最初にサインインした顧客なら、2回目以降の買い物をワンクリックで注文できるようにした。これは論争を呼んだものの、特許として認められるにいたった。この利便性の良さが急激な顧客増に貢献した
参考:『ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛』
    リチャード・ブラント著 井口耕二訳 日経BP社 (2012/10/18)
<事例>「セサミン」発売後20年で掴んだ成功
 サントリーの子会社ウェルネスの看板商品「セサミンシリーズ」は今や年商300億円の看板商品だが、発売は1993年で20年前になる。当初まったく売れず、苦心の月日が続いた。転機は"単品通販"に絞り込んだこと。ここにリソースを投入、ネット、自社カタログ、紙媒体への広告、ラジオなどでの通販を開始。お客様からの質問にはきちんと回答し、無料サンプルも20日分付けた。これで多くのファンを増やし固定客化していった。
参考:『セサミン』急成長の影に苦節8年

 ファネルマーケティングの考え方は様々に応用できるのが特徴です。WEBマーケティング、ダイレクトメール、セミナー、展示会など・・。それぞれ顧客が認知してから、顧客または顧客候補になってもらうまでに何段階かの心理的プロセスを経ることになります。そこで何をどのようにしてアプローチするか?狙いや目的をもって戦略を練り上げることが求められます。

 以下にWEBマーケティングと展示会のAIDMAモデルで顧客の行動パターン例を挙げました。マーケティング施策を実行する際にはこのようなプロセス図などを用いた事前準備をしておくことが望ましく、各局面(例えば、展示会で新規顧客がブースに立ち入った時)で何を準備しどのように対応するべきか、丹念にシミュレーションしておくと効果に違いが現れるでしょう。

Funnelマーケティング例
図13 Funnelマーケティング例

 これらは「できるだけ大量に集客」→「知ってもらう、体験してもらう」→「興味を持ってもらう」→「お店に行ってもらう、ネットショップへ訪問してもらう/問合せてもらう、相談してもらう」→「見積を依頼してもらう、購入してもらう、注文してもらう」という順序で顧客になってもらうことを目的としています。このプロセスはAIDMA理論そのものです。

*注1:
 日本では最近のソーシャル・コミュニケーション浸透の世相を反映したAISASモデルが有名で、広告代理店の電通が提唱した。"生活者はAttention(注意)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)という流れを辿る"とする考え方。各モデルの概説は以下のサイトが参考となる。
『消費者購買行動モデル』まとめ

◆ファネルマーケティングの課題

・潜在顧客は無個性な大衆
 ファネルマーケティングの一番大きな課題は、ファネルに入る潜在顧客をあたかも"個性のない人の集合(大衆)"として扱いがちなことです。ある段階から次の段階に移る潜在顧客の数は確率分布で示すことができ、マーケティング施策による改善効果は数字で示される、とする考え方です。確かにWEBマーケティングでは訪問率、反応率、ページビュー数、滞在時間、コンバージョン率など多くの指標で効果が測定されており、これ自体は悪いことでは無くむしろ効果の見える化に大きく貢献していると考えるべきでしょう。しかし、現代はインターラクティブなコミュニケーションが重視されている時代であり、潜在顧客一人ひとりとできるだけコミュニケーションを図り、顧客が心からファンになることを重視する「顧客経験価値マーケティング」(第8回で詳述)とは対極の考え方とも言えるのです。こうした"無個性な大衆"として扱うことが適切なのかどうか、どこまで通用するのか、改良の余地はどこにあるのか。商材や業態にも大きく左右されるとも考えられますが、さらに改善・研究が進められています。

 ・セグメンテーションの適切性
 ファネルマーケティングだけの課題ではないのですが、できるだけ大きな口を開けてファネルに入る潜在顧客を大きく取り込もうとしても、その前提として何らかのセグメンテーションが必要になります。しかし、そのセグメンテーションが曖昧のままだったり、不適切な市場の切り取り方だったりすると、時間と費用を掛けて潜在顧客を取り込んだが、そのファネルの中に有望な顧客が存在しなかったということになりかねません。これはリソースの無駄になってしまいます。例えば、精肉や鮮魚であれば誰もが消費するものですから、新聞のチラシに織り込むことが広く行われています。これが高級乗用車だったらどうでしょうか。どのような人が高級乗用車に興味があるのでしょうか。また高級乗用車と言ってもいろいろあります。そして、どのようにそうした潜在顧客に到達するのでしょうか?これは、自社の狙うターゲット層の定義とポジショニングが決定的に重要になり、次にそうした人々が集う場所やメディアはどこかを探る作業と行きつ戻りつ検討することが必要になります。IT業界で例えば「セキュリティの展示会」に来た入場者全員に「セキュリティソリューション」を売り込むために景品を配り、交換に名刺をもらうという方法なら、入場者自体がすでにセグメンテーションされていると見なすことはできますが、ニッチなBtoB商品や一般日用品の場合、セグメンテーションとポジショニングが決定的に重要になります。)

・販売指向
 ファネルマーケティングは、考え方の根底に「自社の製品やサービスに見合う顧客を選別する」という意味合いがあります。これは「できるだけ顧客の嗜好に合わせた商品を製造して届ける」という顧客志向とは対極の考え方と見なすこともできます。宝飾ブランドの中にはこの手法を徹底し、高所得者層や資産家層のみを相手にビジネスを展開し成功している例も数多くあります。しかし多くの場合(ブランドに限らず)、自社製品やサービスに合う顧客を選び出すと同時に顧客にならなかった潜在顧客の声を聞き、少しずつ自社の製品やサービスに反映しつづける、場合により新事業領域に進出する、というのが現在の主流です。そうでなければ、成功体験に酔いしれているうちにいつしか顧客が居なくなり、当初ファネルに入った潜在顧客は大きくても、最終的に顧客化できた数が微々たるものだった、ということになりかねません。BtoB企業に多い失敗のパターンです。

<事例>カゴメの再興
 食品のカゴメは1988年に売上1000億円を超えて永らく低迷、1998年に創業一族外の伊藤社長就任後「新・創業」を掲げて積極経営に転じ「野菜生活」を発売、これが奏功して1999年には早くも1200億円を突破した。その後もブランドの再興に努めた結果増収を継続。2013年3月期は1960億円と2000億円突破目前に迫った。この間、かつて1-2%に低迷していた経常利益率も改善、5%超えにまで劇的に改善した。
参考:カゴメブランドの再興(神戸大学)
    東洋経済ONLINE

・次段階へ誘導する見極めとタイミングの難しさ
 例えば、車検のためディーラーに訪れた顧客に、"新車の新機軸の駆動系メカニズム"をいきなり説明しても迷惑がられる確率の方が大きいでしょう。「A段階の顧客」にいきなり「D段階やM段階の顧客向けの説明」をするようなものです。ライバル企業のスポーツカーを試乗してきた顧客には相応しいアプローチかもしれませんが、「A段階の顧客」は二度とこのディーラーに立ち寄らないかもしれません。このように、顧客が今どの段階にあるのかを慎重に見極めて適切な対応をしなければなりません。これを見誤るとせっかく自社に興味を持ってくれた潜在顧客をみすみすファネルから追い出してしまうことになりかねません。BtoB企業が集客のため通常手段として実施する各種セミナーでも同様のことが言えます。充実した内容ならファネルに入ってくれますが、陳腐な内容だったらその後ファネルの前に立ち止まってくれることすら期待できなくなります。さらに、潜在顧客はどの段階にも複数同時に存在します。それぞれ別のアプローチが必要です。中には自分でファネルを潜り抜けてくれる顧客も存在しますが、それを常に期待することはできません。このように、マーケティング施策での実運用は大変手間暇かかる仕事になるのが通常です。

◆今後のファネルマーケティング

 ファネルマーケティングは、消費者購買行動プロセス理論に基づいており、この考え方は将来も生き続けることは間違いないでしょう。しかし課題にも挙げたように、適切なセグメンテーションとポジショニング、潜在顧客とのコミュニケーション、顧客の声の反映、多様なメディアに沿った効果的なタイミングでのメッセージング、などの多面的な工夫が欠かせなくなるでしょう。
 このような動きは現在「オムニチャネル」という概念で努力が続けられています。「オムニチャネル」については別途記述します。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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