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「ITARC及びBITASカンファレンスから見るビジネス&ITのアーキテクチャ動向」
Iasa日本支部代表理事

2015年09月号
  • 「ITARC及びBITASカンファレンスから見るビジネス&ITのアーキテクチャ動向」
Iasa日本支部代表理事   塩田 宏治

Iasa及びITABoKとは何か

ITアーキテクチャのプロフェッショナル団体であるIasa(アイサ)は2002年に設立され、北米オースチンに本部を置くNPOです。ビジネスとITのアーキテクチャのプラクティスとナレッジベースに強みを持ち、ビジネス領域も含むITアーキテクトのスキル体系をまとめたITABoK(IT Architecture Body of Knowledge)を土台に、ビジネス価値を創造するテクノロジー・ストラテジストとしてのITアーキテクトの育成に注力しています。既に世界中に20か所以上の支部が活動しており、日本支部も2014年度より本格的な活動を開始し、ITABoKに関する説明会や法人会員の分科会活動等を行っています。

ITARCの動向

2015年5月21-22日、スウェーデンのストックホルムにおいて、Iasa World Summit ITARC2015が開催されました。Iasaが主催する本カンファレンスは、各業界から毎年何百人ものビジネスやITのアーキテクトが一堂に会する世界有数のカンファレンスです。

Iasa World Summit ITARC2015
図 1 Iasa World Summit ITARC2015

ここにはエンタープライズアーキテクト、ビジネスアーキテクト、ソフトウェアアーキテクト、インフォメーションアーキテクト、インフラストラクチャーアーキテクト、ソリューションアーキテクト等様々な役割や専門領域を担う人々のほか、アーキテクチャに幅広く関心を持つ人々も多く参加します。Iasaは、ITアーキテクトとはテクノロジーの戦略家であり、設計図を書くことがアーキテクトの主たる仕事ではなく、ビジネス価値を生み出すこと自体がアーキテクトの本来の仕事であると考えています。そのためITARCでは、単なる技術的なアーキテクチャ設計やシステム関連技術だけでなく、ITアーキテクトがビジネス価値を生み出すための様々な手法、システム、ケース等が議論されます。そのトピックは、ISO/IEC42030のアーキテクチャ評価やZachmanモデルの先にあるもの、ATAM・品質特性分析・パターンといったアーキテクチャ設計手法、ビジネス・ケイパビリティ・モデリング、価値創造組織やリーダシップのあり方に至るまで、非常に多岐に渡ります。セッションはテクノロジートラックとビジネストラックに分けられ、ITアーキテクトとしての興味のポイントに合わせ選択しやすいように配慮されています。また我々を取り巻く様々な環境変化に対応し、従来からのEA(Enterprise Architecture)フレームワークやITやシステムの手法に基づいた議論だけではなく、AgileやLeanとアーキテクチャ、IoTとアーキテクチャ、システム理論やサイバネティックスから見たアーキテクチャ等、最新の動向を反映した議論も展開されます。
Iasaでは、正会員の法人や個人の会員向けのサービスとして、カンファレンスに実際にご参加いただけなかった方でも後からセッションの内容を視聴できるよう、講演のビデオを公開しているようです。ご興味がおありの方は、下記をご参照ください。
Iasa Global Website (http://iasaglobal.org/)

BITAS Executive Seriesの動向

2015年5月26日~29日、インドネシアのバリ島にて、BITAS (Business IT Architecture Series) Executive Series 2015カンファレンスが開催されました。これはアジアパシフィック地域で毎年行われているビジネス及びITのアーキテクチャに関するカンファレスで、Iasaが長年に渡ってサポートを行っているものです。このうちExecutive Seriesは、政府系機関、民間企業、団体組織等の役員やマネジメント層など、各組織のキーマンが中身の濃いディスカッションを行う場となっています。
2015年のBITAS Executive Seriesは、インドネシア政府機関やインドネシア企業のみならず、アディダス社などの多国籍企業、マレーシアの国立心臓病センター(IJN)や政府機関の方、日本企業からもご参加がありました。また、アメリカ、オーストラリア、香港、マレーシア、インドネシア、そして日本など、多様な国のスピーカーによる講演がありました。

Iasa World Summit ITARC2015
図 2 Iasa World Summit ITARC2015

基調講演は、ガートナー社リサーチディレクターのDarryl Carlton氏が行い、デジタルエコノミーにおける社会やビジネスに対するインパクトと変革の必要性が語られました。企業が迅速に(アジャイルに)変革するには、ソフトウェア開発の手法だけではなく、企業全体のアジリティを高めるマネジメントが必要であるとし、技術やソリューション中心の目線から、顧客の戦略の目線への移行の重要性を強調しました。
また複数の講演者から、企業戦略を実現するためにEA(Enterprise Architecture)が重要であることが語られ、その様々な運営手法が紹介されました。戦略的なITプランニングの策定と実行において、ビジネスアーキテクチャとビジネスプロセス改善の重要性が紹介され、そしてIasaが言うBTS(Business Technology Strategy)、つまりビジネス戦略とIT戦略の整合を図る活動が重要であることが説明されました。また、ビジネス・ベネフィットを実現するためのガバナンス活動の重要性や、企業全体のEAをガバナンス及び推進する組織としてのEAO(Enterprise Architecture Office)の役割が示されるとともに、PMOといった既存の組織との連携モデルが示されました。そして組織のアーキテクチャ主導の運営能力を可視化しマネジメントする組織の成熟度モデルの適用も紹介がありました。
また、事業の変革はビジネスケイパビリティの変革であり、変革を描き推進するアーキテクテクトの活動と、変革を現場で実際に導入・定着を行うビジネスアナリストによるチェンジマネジメントが重要であることが示されました。それ故、アーキテクトは、チェンジリーダとしてのリーダシップの重要性と、リーダシップの発揮のために多くの時間をステークホルダとのコミュニケーションに費やす必要性が強調されていました。
マレーシアの国立心臓病センター(IJN)の活動報告は非常にユニークで、組織変革のひとつのかたちとして大変参考となりました。IJNはマレーシアにおける心臓病の最高レベルの医療機関として、最先端医療を研究・導入し、患者に提供しています。今回登壇したのは、医療現場で自ら執刀するドクターでありながら、組織全体を変革するアーキテクトとしての職務も担っている方で、次のような内容でした。「医療の現場が患者の安全を最優先とする基本理念は昔から何も変わらないものの、近年のデジタル技術の進歩は医療の体制にも大きなインパクトを与えてきている。こうした新しい時代に向けた医療サービスの変革を実現するために、IJNではEAのフレームワークを導入し、推進チームをアーキテクトとして育成するプログラムを実行している。医療における新しい中長期の変革ロードマップを描き、それを実現するガバナンス、医療プロセス、リソースマネジメント、ITシステムの4つのアーキテクチャマネジメント要素を定義して改革を実行し、人々を変えていくためのチェンジマネジメント活動を推進している。」

進化するITABoKと日本におけるアーキテクト育成に向けて

本原稿を執筆している時点では、ITABoKは、2015年9月にVersion2に進化するべく準備作業が進められています。ビジネス及びITのアーキテクトのスキルセットにフォーカスして標準化しているコンテンツは、ITABoKしかないと言えます。それ故、TOGAFを始めとした様々なアーキテクチャプロセスや成果物のフレームワークの導入に加え、このITABoKを活用したアーキテクトの育成が、組織におけるパフォーマンスを発揮する人材を確保にあたり非常重要です。Iasa日本支部では、ITABoKの日本語版の翻訳業を進めており、IasaとITABoKの今後の動向に大いに注目したいところです。
Iasa日本支部は、海外のIasa及びビジネス及びITのアーキテクチャの動向をウォッチしながら、日本におけるアーキテクトの育成に力を注いでいます。
本年10月21日(水)には国内でIasa主催のカンファレンスが開催されます。Iasaアジアパシフィック代表のAaron氏を始めとする登壇者を迎え、様々なアーキテクチャとそれに関連するトピックを議論する予定です。
またITABoKについても、具体的な内容を紹介するセミナーを定期的に開催しています。
カンファレンスやセミナーにより多くの方にご参加いただく中で、アーキテクトとしてビジネス及びそれを支えるITシステムの変革を実現するためのスキルを身につけた人材を増やしていくこともまた、これからの日本のビジネス変革には必要不可欠であると考えています。
Iasa日本支部ウェブサイト(http://www.iasajapan.org/index.html)
執筆者について
塩田 宏治 KOJI SHIOT
(株)クリエビジョン 代表取締役社長
大手SIベンダ、大手製造業の業務改革部門及び情報システム部門を経て、現在は独立。数々の業務改革プログラム及びプロジェクトの企画立案及びプログラム/プロジェクトマネジメントを現場でリード。また、海外において情報システム部門組織のマネジメントを実施した経験をもつ。グローバルな経験を活かし、グローバルPMO及びグローバルBA COE(Business Analysis Center Of Excellence)オペレーションと組織の立ち上げをリードしてきており、グローバルオペレーション構築に精通。現在は、プロジェクトマネジメント、ビジネスアナリシス、エンタープライズアーキテクチャによる業務及び組織変革支援を実行する組織構築や改革施策の企画・実行支援を行っている。Iasa日本支部代表理事、IIBA(R)日本支部研究担当理事。MBA、PgMP(R)、PMP(R)、CBAP(R)、CITA-A、TOGAF9 Certified、CSM(R)、CSPO(R)、EXIN Agile Scrum等の資格を保有する。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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