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「SysMLによるシステムモデリングの実際 -システムモデリングに取り組む動機(2)-」
株式会社オージス総研

2016年02月号
  • 「SysMLによるシステムモデリングの実際 -システムモデリングに取り組む動機(2)-」
株式会社オージス総研   時岡 優

・はじめに

この連載では、システムモデリングの支援をしているコンサルタントが、実際の活動を通して得られた知見を元に、各メーカーがSysMLによるシステムモデリングに取り組む動機や取り組みの内容、取り組みの成果について紹介していきます。 前回と今回の2回は、取り組みの動機を紹介します。

前回の記事ではメーカーやプロジェクト毎に生じている個々の問題を紹介しました。
  • 複数ある方式から最適解を決めきれない
  • 怖くて制御モデルを変更できない
  • 仕様の漏れ、誤解釈による手戻りが減らない
  • 次世代製品のコンセプトが定まらない
  • システム全体で期待した性能が出ない
  • 新機種のアーキテクチャ見直しに自信が持てない
今回は、これらの問題の根本にある、より本質的な問題について筆者の考えを述べていきます。

・本質的な問題

メーカーやプロジェクト毎に生じている個々の問題は多種多様です。筆者が担当している案件では、1日に3~4テーマを各部署から持ち寄って議論・検討することがありますが、主幹の部署が全く異なるため、扱う技術分野や関心は様々です。しかしながら、根本にある本質的な問題に目を向けていると、表層の現象に惑わされずに改善の方向性を見定めることができます。
筆者の考える各メーカーに共通している本質的な問題とは、以下の5つです。
  • ニーズ・課題との乖離
  • 組織の壁
  • 部分最適から抜け出せない
  • 目的や根拠が曖昧
  • ノウハウが伝わらない
<ニーズ・課題との乖離>
顧客やその業務が見えていない状態です。自分たちが作っている製品がどのように使われているのか、何が課題かを捉えきれておらず、製品を市場に送り出してもシェア争いで競合製品に負けてしまっています。
また、顧客の情報は保有しているものの、営業サポート、商品企画、先行開発などの部署間の連携が弱いために、結果として作り出される製品に顧客の声(Voice Of Customer)を反映できていないこともあります。
<組織の壁>
企画構想段階における部署間の連携の弱さは「ニーズ・課題との乖離」でも触れましたが、それ以外にも、設計段階での部署間の連携の弱さが挙げられます。メカ、エレキ、ソフトといった異なる技術分野間での連携です。また設計と製造など、工程をまたがった部門間の連携もよく問題になります。同じメーカー内であっても筆者には別会社のように映ることもあります。サプライヤー等が絡んでくるとさらにややこしくなります。このような組織の壁があることによって、そのメーカー内にある貴重な情報が円滑に流れず/活かされず様々な問題を引き起こします。
<部分最適から抜け出せない>
担当者の視野が狭くなり、思考が制限されてしまっている状態です。発生した要求や問題に対して、俯瞰的、多面的に捉えることができず、パッチ当てのような対策しかとることができません。その繰り返しによって、複雑怪奇になっているシステムは枚挙に暇がありません。
<目的や根拠が曖昧>
目的-手段の連鎖をとことん追求する事なしにシステム開発を適切に遂行することは不可能であると筆者は考えています。物事には必ず原理原則があり、判断には必ず根拠があります。勘や経験によるところも否定はできませんが、筆者が担当している案件を見る限りでは、その勘や経験もだいぶ弱くなっている印象を受けます。実際には既存の仕様書や図面、制御モデル、従来機などの過去の資産が担当者の足りないところをカバーしているのですが、その資産が作られた頃からシステムの変更部分も多くなり、かなり限界がきてしまっている印象です。いざ過去の資産を変更しようとしても、目的や根拠(設計意図)が残されていないために、設計に時間がかかったり、予期せぬ不具合を埋め込んだりしてしまいます。
<ノウハウが伝わらない>
筆者自身がまだ30代ということもあるせいか、担当案件で一緒に活動するお客様側のメンバーは同じくらいの年の方が多いのですが、扱う製品、担当技術分野を問わず、どの現場でもノウハウの継承が不十分だと感じています。メーカー自体にはノウハウがあるのですが、後進に伝承できていないのです。
さらに厄介なのは、後進が分かっていないことに管理職層が気づいていないという状態です。できて当たり前という管理者(承認者)の思い込みが重大な不具合を後工程に垂れ流してしまうのです。
上記の5つの本質的な問題はどれか1つでも見逃すと、個々の問題として顕在化してしまいます。各メーカーやプロジェクトの文化・強みによって濃淡はあると思いますが、全てにしっかりと対処していく必要があります。

・本質的な問題の因果関係

前回の記事で挙げた個々の問題(表層の問題)と今回挙げた本質的な問題の関係を図 1の上2段に示します。青色の実線で因果関係を表現しています。例えば、「製品コンセプトが定まらない」のは「ニーズ・課題との乖離」があるため、となります。あくまでも筆者の経験に基づくものであるため、読者がイメージする問題によっては、線のつながり方が変わるところもあると思います。

問題の因果関係
図1. 問題の因果関係

既に図 1の下段に示していますが、これら5つの本質的な問題の背景には派生開発の繰り返しがあるというのが筆者の考えです。派生開発の繰り返し自体が悪いわけではありません。副作用を意識せずに進めることにより、結果的に問題が生じてしまうのです。派生開発の繰り返しを以下の3つの事象に具体化するとポイントが明確になります。
  • スペック重視(コンセプト軽視)
  • 分業化・専門化の進展
  • アーキテクチャの使い回し
<スペック重視(コンセプト軽視)>
ターゲットする市場や顧客が大きく変わらないため、機能を増やすことや性能を上げることに関心が偏り、機能過多や過剰性能になりがちです。「カタログスペックの横にらみ」という表現を耳にすることがあります。
競合製品との比較に関心が偏り、ターゲットとする市場や顧客が置き去りになってしまうのです。顧客を起点にした一貫性のある製品開発が疎かになる中で、いつの間にか先行研究や商品企画の部署がうまく機能/連携しない状態に陥ってしまいます。
<分業化・専門化の進展>
似たような製品を作り続けるため、開発の組織自体が最適化されます。結果的に個人の担当範囲が限られることが多く、製品全体や他の人の担当範囲との関連性が弱くなります。各担当者の視野や思考が狭くなるため、異なる技術分野の担当者と十分な議論ができなくなってしまいます。
<アーキテクチャの使い回し>
過去の資産を使い回して一部を改良・最適化することで、新たな製品として市場に出すことが多くなるため、原理原則に立ち戻って検討する機会が減ります。結果として、ノウハウを継承する機会に恵まれず、後進の開発力低下を招きます。

全てではありませんが、製品開発の大半は派生開発であり幾重にも繰り返されているのが実状です。このような派生開発の繰り返しを背景として、知らず知らずのうちに、5つの本質的な問題が各メーカーに共通的に内在し、個々の問題が様々な形で顕在化していると筆者は考えています。

・本質的な問題の俯瞰

この5つの本質的な問題を別な視点でまとめたのが図 2です。 市場、メーカー、及びメーカー内の組織と製品の上に、上記の5つの問題をマッピングしています。このように捉えると、5つの問題を俯瞰的に理解できると思います。

製品開発に生じているギャップ
図2. 製品開発に生じているギャップ

「ニーズ・課題との乖離」は市場(顧客)とメーカーが提供する製品との間に生じる問題です。「目的や根拠が曖昧」と「部分最適から抜け出せない」という問題は製品開発の過程に生じます。「組織の壁」は部署や企業間にまたがった問題であり、「ノウハウが伝わらない」は部署内の問題です。一言でいえば、5つの本質的な問題は製品開発に生じているギャップです。このギャップを埋めることができれば、製品開発をより円滑に進めることができるでしょう。そしてこのギャップを埋めるために、各メーカーがSysMLによるシステムエンジニアリングに取り組もうとしているのだと筆者は考えています。

・まとめ

いかがでしょうか。ご納得、共感していただける点があるのではないかと思います。 前回と今回の2回の記事では各メーカーが「システムモデリングに取り組む動機」と題して日本の製造業に蔓延る問題を紹介しました。特に各メーカーに共通している5つの本質的な問題に目を向けて説明しました。顕在化している個々の問題はメーカーやプロジェクト毎が置かれている状況や扱う製品の特性などによって様々ですが、その根本には共通する本質的な問題が横たわっています。
次回からは、この本質的な問題を切り口として、筆者が各メーカーの方々と一緒に進めているシステムモデリングの取り組みについて紹介していく予定です。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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