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「IT-CMFとは何か(2)」
株式会社オージス総研

2016年04月号
  • 「IT-CMFとは何か(2)」
株式会社オージス総研   水間 丈博

■IT-CMFの中核的概念

今回はIT-CMFを支える原理と原則の概要を紹介します。読者諸氏が今後IT-CMFに取り組まれる上で、この概念を十分理解されることが有益であり、IT-CMFが俊敏性の向上、イノベーションとビジネス上の価値のために、どのようにITマネジメントを改善するのか、理解を深める一助になると考えます。

IT-CMF

◆ケイパビリティ(活用能力)とは何か
ケイパビリティ(Capability:活用能力)とは、熟練の度合であり(Quality of being capable)、あらかじめ定められた目標や目的を達成する何かを成し遂げる力量や特性を持っている、ということです。要するに活用能力は個人および集団の活動を調和させること:個人の振る舞いをシームレスな行動の連鎖として繋げ、経験が蓄積されたものとして、より効率的、効果的にする反復可能な相互作用のパターンを導く能力です。組織的活用能力とは、"特定の結果を達成する一連の目的のため、組織のリソースを利用し、コーディネートされたタスク群を実行する組織の能力"を指します[22]。

活用能力は一貫した手法で発揮される必要があります。活用能力を保持しているということは、組織が繰り返し確実にアクティビティを実行できるということです。組織はその活用能力を、試行的プロセスの反復、フィードバック、学習、展開といた方法で次第に蓄えます。組織であれば、戦略の変化や組織が操る環境の変化に即応する形で自身のリソースを調整できなければなりません。さらに、新しく予測不能な機会を捕捉し利用するためには変化や早急なイノベーション、およびリソースの再構成を受け入れることも必要になります。これがしばしば"ダイナミック・ケイパビリティ"と呼ばれるものになります。
IT-CMFはこの柔軟性と即応性を促進し、急激な環境変化に対応するために組織が目的を持って自身のリソースを導入し、拡張し、変更できるようにします[23]。

ダイナミック・ケイパビリティは、調査、探索、習得、理解、そしてリソースと機会に関する知識を適用する能力、さらに機会を活用するためにどのようにリソースを再編すべきか判断する能力、以上すべて包含しています。
このような活用能力を持つ組織は、組織学習の一層の強度を有し、フィードバックサイクルをより効果的に活用し、それによって継続的にその活用能力をさらに強化することができます。
●IT活用能力
望ましい成果物を生成するITベースのリソースを統合するための組織の能力は、そのIT活用能力によって醸成されたものになります。IT-CMFでは、IT活用能力とは、"しばしば他のリソースと能力とを組み合わせながら、所与の目的を達成するためにITベースのリソースを動員し配置する(つまり、統合、再構成、取得、リリース)能力"をいいます[16で適用]。リソースは、この文脈では有形(予算、物理的/インフラ、人材)、または無形(ソフトウェア、データ、知的所有権、ブランド、文化)のどちらもあり得ます。

●活用能力、コンピテンシ、プロセスの関係
組織が特定のタスクを達成するために従事する行動の連なりがビジネスプロセスです。ビジネスプロセスは、"組織が為した何かを得るための決まった手順または行動の連鎖である"と考えられます[24][25]。ビジネスプロセスは、従業員個人とグループの効果的な遂行を要求します。見方を変えれば、ビジネスプロセスは、仕事の仕方の特有な方法で従業員個人とグループのコンピテンシを養うことを支援します[26]。このように、プロセスとコンピテンシは相互に依存し強めあう関係にあります。

多くの組織ではプロセス管理に注力しており、それは価値あることではありますが、ビジネス戦略の変更や環境変化に対応するための備えにはなりません。効果的で影響力のあるプロセスは、ビジネス遂行上きわめて重要ではあるものの、持続的なビジネス上の価値を生み出し続けるための変化の圧力に対応し、予測するために定期的に評価され、変更され、そして成熟させるべきものなのです[27]。

活用能力のマネジメントは、ビジネスの戦略と環境、そのためのビジネスプロセスとの間に活力に満ちた連携をもたらします。それは、コンピテンシ(人々)、プロセス(定型的ワーク)、目的達成のためのリソース(資産)などの間の相乗効果のある関係性を構築、維持、学習するパターンを創造し調整する能力を組織にもたらします。
◆ビジネス上の価値
IT-CMFでは、ビジネス上の価値を"ITベースのリソースと活用能力が、組織目的達成に貢献すること"と定義しています[15]。この組織目的は、IT機能に対して内向きまたは外向きになるかもしれません;しかし、ITの大きな潜在能力は、広い組織を横断するビジネスの可能性の中に隠れています。それは組織の持つIT活用能力が他のビジネス能力を養う中で重要な役割を持ちます[16]。IT機能そのものではなく価値を提供することとは、IT活用能力によってそのリソース構成を生成し有効にすることなのです[28]。これに加えてIT活用能力はその価値を創造するプロセスの一部でもあります;すなわちITベースではないリソースとIT活用能力とを、十分な価値を実現する目的のために結合させるようにしばしば迫られることがあります。IT-CMFは、このリソース構成(再構成含む)が通常ビジネス戦略や環境変化に対応するといった理由で調整が必要になった場合でも、組織の中でこれを継続的に進めながら活用能力を高められるように支援します。
◆デザインパターン
どのような組織にも独自の設立事情があり、固有の運営状況が存在します。ある組織でうまくいくことが他の組織で同じようにうまくいくとは限りません。格別の事情によって、ある実践を同じように適用した場合でも微妙に異なる問題や組織状況があれば、実践の有効性が制限されることがあり得ます。こうした認識に立ち、IT-CMFは硬直的で厳密なフレームワークでも、これだけですべて足りるというフレームワークでもなく、デザインパターンの柔軟性を組織有効性の体系化を促すために採り入れ、デザインパターンの実践を最も適切な形で組織全体のパフォーマンスを向上させるために採用し共有します。

デザインパターンの概念と利用については、1970年代後半に確立された建築分野で興り、後にソフトウェアエンジニアリングと他の分野において、何度も取り組まれている課題に対処する方法として採用されています。デザインパターンは、"我々の環境に何度も何度も出現する問題を描写し、そして二度と同じ方法を使うことなく、解決策を百万回以上使うことができるような方法でその問題の解決策の核心を描写する"といわれています[29]。デザインパターンは、普通に良く起こる問題を扱う際に持続的かつ信頼性のある一般的な再利用可能な解決策とテンプレートを記述します。これらのパターンは、多くの異なる局面で適用できるものになっています。

IT-CMFを構成する様々な要素は、無数の手法を統合できるデザインパターンになっています;それぞれの組織は、組織固有のニーズや目的、環境に適切に対応し、組織に俊敏性とイノベーション、そして価値をもたらすパターン(クリティカル・ケイパビリティ(CC)、ケイパビリティ・ビルディング・ブロック(CBB)、実践、評価指標、その他創造物)を識別することができます。それぞれの組織は異なるという認識に立ち、IT-CMFはあまりに規範的なアプローチを採らず、その代わり各組織が柔軟に状況の異なる課題を克服できるように最善の実践に基づくガイダンスを提供します。
◆成熟度
幾つか存在する成熟度フレームワークは、"予想された、典型的、論理的かつ望ましい最終状態に向かう進化の望ましい道筋を概説する概念モデル"[30]となっており、そこで成熟度とは、"固有の能力の発現によって、または目標を初期状態から望ましい、もしくは通常の結果としての結末へ導くことによって進行する進化である"とされています[31]。成熟度ベースのアプローチをIT管理に適用することは広く実施されてきています。たとえば、ソフトウェア工学研究所(SEI)の"Capability Maturity Model Integration(CMMI)"はソフトウェア品質の領域では広範囲に利用されています[19][20]。

フレームワークの中のそれぞれの活用能力について、IT-CMFでは5つの成熟度レベルを設定しており、それぞれのレベルに有効性と効率性を特徴付けています。この方式によって、活用能力を改善するための"モジュール型で、系統立てられた、段階的なアプローチ"を促進します。そのために、それぞれの領域における活動がどの程度向上しているのか測定でき、その後時間を掛けて改善すべき行動が識別できるようになっています。

成熟度レベルの定義は、各活用能力に固有ではありますが、アプローチ、対象範囲、成果の面で、5つの成熟度レベルの大まかな特徴を以下に示します。
(なお、これは目安としての例示に過ぎず、成熟度の柱をなす広範な多様性は、IT-CMFを通じてサポートされます)

成熟度レベルの一般的目安
図1 成熟度レベルの一般的目安

■まとめ

ここまで2回にわたり、IT-SMFの目指すもの、起源、中核的概念などの概要を説明しました。最後にIT-CMFの成立過程図(筆者作成)を参考までに掲げます。 IT-CMFが、様々な評価を得たITエンジニアリングやマネジメント理論を採り入れて成立していることが理解いただけると思います。

IT-CMFの成立過程(概念図)
図2 IT-CMFの成立過程(概念図)

次回は"IT-CMFのアーキテクチャ"をご紹介します。
(つづく)
(注) ここでは、特に必要と判断した場合を除き、基本的にIT-CMFで使われている用語を以下の通り訳しています。(これは一部であり、今後改訂する可能性があります)
  • Capability:活用能力(CC,CBBおよびDynamic Capabilityは原語のままとした)
  • Maturity:成熟度
  • Artefact(s):創造物
  • Outcome:成果(物)
  • Practice:実践
  • Deploy:配置
[参照]
[22] Helfat, C.E., and Peteraf, M.A., 2003. The dynamic resource-based view: capability lifecycles.Strategic Management Journal,24(10), 997-1010.
[23] Teece, D.J., 2007. Managers, markets, and dynamic capabilities. In C. Helfat, S. Finkelstein et al. (eds.),Dynamic capabilities: understanding strategic change in organizations.Oxford: Blackwell.
[24] Nelson, R.R., and Winter, S.G., 1982.An evolutionary theory of economic change. Cambridge,MA: Belknap Press.
[25] Porter, M.E., 1991. Towards a dynamic theory of strategy.Strategic Management Journal,12, 95-117.
[26] Dosi, G., Nelson, R.R., and Winter, S.G.,(eds.), 2000.The nature and dynamics of organizational capabilities.Oxford: Oxford University Press.
[27] Carcary, M., Doherty, E., and Thornley, C., 2015. Business innovation and differentiation: maturing the IT capability.IT Professional, 17(2), 46-53.
[28] Eisenhardt, K.M., and Martin, J.A., 2000. Dynamic capabilities: what are they?Strategic Management Journal,21(10/11), 1105-21.
[29] Alexander, C., Ishikawa, S., and Silverstein, M., 1977.A pattern language.New York, NY: Oxford University Press.
[30] Becker, J., Niehaves, B., Poppelbus, J., and Simons, A., 2010. Maturity models in IS research. In:Proceedings of the 18th European conference on information system.
Available at:http://www.researchgate.net/publication/221408759_Maturity_Models_in_IS_Research.
[31] Mettler, T., 2009. A design science research perspective on maturity models in Information Systems. St Gallen: Institute of Information Management. University of St Gallen, CH.
[32] Curley, M., 2007. Introducing an IT capability maturity framework. In J. Cardos, J. Cordeiro and J. Filipe (eds.)Enterprise Information Sysatems.Berlin: Springer.
[33] Curley, M., 2008.The IT capability maturity framework: A theory for continuously improving the value delivered from IT capability.Ph.D. National University of Ireland, Maynooth.
(c)IT-CMFはInnovation Value Instituteの登録商標です。
オージス総研は、IVIの正式メンバーシップ企業です。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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