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「ソフトウェア維持管理の現場改善(3)」
株式会社オージス総研

2016年07月号
  • 「ソフトウェア維持管理の現場改善(3)」
株式会社オージス総研   山海 一剛

前回までの要約

まずこの連載の一回目では、維持管理チームの状況についてご説明しました。業務システムの維持管理を担当する多くのチームでは、、
  • 企業に情報システムが浸透し、それゆえ保守すべき情報システムの数は増える一方であること
  • ビジネス環境の変化の速さに実務部門も業務を追随させる必要があり、そのことが情報システムへの変更要望を増やしていること
  • 逆に保守費削減の流れから、維持管理チームの体制は徐々に縮小されてきており、数人で数個の情報システムを維持することも珍しくないこと
などの相反する変化が負のスパイラルとなって、属人化が進み、慢性的な高負荷が続いている現場が多いことを説明しました。

そして第二回となる前回では、このスパイラルを抜け出す5つのステップと4つの手段をご紹介しました。

【5つのステップ】

5つのステップ
図1 5つのステップ

【4つの手段】

  • 見える化
  • ムダに着目する
  • ジャスト・イナフを心がける
  • デイリーのミーティングで振返りを行う
しかし前回の最後に「成否を決めるのは手法ではない」と書いたように手法だけで改善できるわけではありません。改善には試行錯誤が必要でありチーム全体で取り組むチーム力が必要です。しかし必ずしもうまく行くとは限らない活動に対して、メンバーを巻き込むのは容易ではありません。まずはチーム全体が「ダメならやり直せばいい」といったポジティブな空気を持つ必要があります。つまり、メンバー間のコミュニケーションを活性化し、ポジティブな空気に変えていくことこそが、最初に必要なことであり、最後に成否を決定するのです。

チームビルドの重要性

ひとりひとりの努力には限界があり、チームとして取組み、課題を解決していくことが必要です。実はこのようなチームビルドのお話をすると、よくこんな反論をお聞きします。「私の組織は、一人一人が個別の専門領域を担当しているので、相互に助け合うなんて無理。だからチームビルドの必要はない」。つまり過度に属人化が進んだ組織の場合です。
もちろん、直接仕事を助け合えるのが理想ですが、過度に属人化した組織では簡単ではないことも事実です。でもそれを理由に「チームビルド不要」と判断してしまうのは間違いだと考えています。
もちろん、直接仕事を助け合うことが出来るのが理想ですが、過度に属人化した組織では簡単ではないことも事実です。でもそれを理由に「チームビルド不要」と判断してしまうのは間違いだと考えています。
他のメンバーの仕事に興味さえ持っていれば、仕事の「内容」がわからなくても、仕事の「仕方」はアドバイスできるはずです。例えば仕事を始める前の段取りであったり、関係部署との調整の仕方であったり、仕事の優先度の考え方であったり。難易度が高いとされる仕事ほど、「内容」よりも「仕方」の方に難しさがあるケースが多く、また仕事の仕方がムリやムラを生じ、効率を下げているケースが多いのです。
互いに良い刺激を与え合い、成長できる人間関係は、専門性が高く属人化の進んだ職場にこそ必要なはずです。またそうでなければ、同じ組織の一員として仕事をする意味がありません。つまり組織で活動する以上、人間関係の質がその組織の成果物の質に直結するはずなのです。

成功の循環モデル

このような考え方をうまくモデル化したものが、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授の提唱する「成功循環モデル」です(*1)。組織がうまく行く場合(グッドサイクル)も悪くなる場合(バッドサイクル)も、同じモデルで説明できること、さらにそれらが「循環」というメカニズムで説明されることの2つが、このモデルの大きな特徴です。

簡単にそのグッドサイクルとバッドサイクルを比較してみましょう。

成功の循環モデル
図2 成功の循環モデル

バッドサイクル

バッドサイクルでは、いきなり成果だけを求める、つまり「結果の質」を向上させようとすることからスタートしてしまいます。しかし、なかなか成果が上がらず「結果の質」が低下すると、対立や押し付け、一方的な命令が多くなり、「関係の質」つまり人間関係が悪くなります。もし一時的に成果が上がることがあっても、それは強制された状態で出した成果であり、持続可能なものではありません。「関係の質」が悪化すると、メンバーは考えることをやめ、受け身になってしまい、仕事がつまらないと感じ、「思考の質」が低下します。ネガティブな考え方になると、自発的・積極的な行動は消滅します。つまり「行動の質」が低下して成果が出ない、つまり「結果の質」がさらに低下します。そしてそれが再び「関係の質」を低下させ…という悪循環に陥るのです。

グッドサイクル

ではグッドサイクルを引き起こすには、どうすれば良いのでしょうか。キム教授は、まず「関係の質」を高めるところからスタートせよと説いています。「関係の質」を高めるとは、メンバー間の相互理解を深め、お互いを尊重し、チームとして課題に取り組む風土を作ることです。「関係の質」が良くなると、メンバーたちは相互にアドバイスしあい、一人では得られない気づきを得て、仕事を面白いと感じるようになり、その結果「思考の質」が向上します。仕事に面白さや、やり甲斐を感じるので、自分で考え工夫し自発的に行動するようになります。つまり「行動の質」が向上します。結果として「結果の質」が向上する、つまり良い成果が得られます。さらにその結果、メンバー間の信頼関係がさらに高まり、「関係の質」がさらに向上する…という好循環を引き起こすことになります。

「関係の質」も「思考の質」も外からは見えません。その見えない部分の質を高めることの重要性を強調していることが、このモデルの特徴です。遠回りに見えても、まずメンバー間の人間関係の質を高め、考え方を良くすることが、成果を持続的に出していくための近道なのです。そしてその環境を作るのが本来のリーダーの仕事です。

しかし、このモデルを現場に活かそうと思うと、次の3つの命題を解く必要があります。ひとつ目は「どうすれば関係の質を良くすることが出来るのか?」、ふたつ目は「思考の質を、どういう方向に良くすべきなのか?」、3つ目は「良くなった思考の質をどう定着させるか」です。今回はひとつめの命題にフォーカスしてご説明します。

関係の質を変えるために

意外かも知れませんが、チームビルディングにおいても、業務改善と同じようなやり方が有効です。簡単に説明します。
  1. 戦略を立てる
    チームビルドが完成された姿、つまりチームとしての理想の状態を描き、その理想に近づくための直近のステップとして、明確な数値目標と期日を設定する
  2. 戦術としての活動を考える
    数値目標を実現するための仮説を立て実践する
  3. 実行し結果を評価する
    短いサイクルでフィードバックサイクルを回し、随時仮説を見直す
これは前回にご紹介した5つのステップの3-5ステップ目と同じです。つまり業務改善の手法を、関係の質の改善に適用しているわけです。ただし意図的にチームビルドを行うのが初めての人たちにとって、これは簡単なことではありません。

まず関係の質という観点から「チームの理想像を考える」こと自体が、経験に無いことでしょう。またチームビルドされた状態というものをどのような数値で表現するのか?その数値を高めるためにどのような活動をするのか?大半の人にとっては「言葉ではわかってもピンと来ない」という状態だと思います。ご説明するにあたっても、言葉だけではイメージしにくいかと思いますので、いくつか事例をご紹介します。

理想を描く

当社の場合は、理想を「あるべき姿」として掲げるようにしています。「互いに認め合う」「尊敬しあう」「助け合う」などのキーワードを使うケースが多いのですが、今までの経験の中で私が"いいなぁ"と思ったのは「情と報を共有することで、支え合える組織」というものです。単に情報を共有するのではなく、「情」、つまり心や気持ちの面も共有できる組織を目指そうというものです。

掲げられた「あるべき姿」
図3 掲げられた「あるべき姿」

明確な数値目標と期日

何を指標にするかについても、皆悩むところです。多いのは定期的にアンケートを取って評価するパターン。それでもチームごとに質問事項や評価方法に工夫が見られます。指標の名前も「支えあいレベル」や「阿吽レベル」など、それなりに目指す方向性がうかがえて興味深いです。
また「互いに理解しあえる」「尊敬しあえる」といった理想を掲げているチームでは、まずは「他メンバーを知る」、「自分を知ってもらう」ということを直近の目標とし、メンバー相互にどれぐらいその人のことを知っているかをクイズにして採点することで、その点数を数値目標とするようなケースもあります。
指標を決め、一定間隔で(例えば月に一回)計測することで、チームビルドの効果が出ているかを確認するようにします。

数値目標を実現するための仮説を立て実践する

そして、「どうすれば目標に近付けるのか」を考え、実行します。例えば「他メンバーを知ろう」、「自分を知ってもらおう」という目標を掲げたチームでは、毎日の朝会に当番制で自分についてのミニスピーチを実施していたチームがあります。
また「他メンバーの良いところを探そう」と、良いところを見つけたら付箋に書き出して貼る。仕事を助けてくれたら「ありがとうカード」を、尊敬する側面を見つけたら「さすガッスカード」を書いて手渡すといった活動をしていたチームもあります。ちなみに関西の方はご存じかと思いますが、「さすガッス!」は当社の親会社である大阪ガスのCMで使われているキーワードです。

どのような活動をするにせよ、「活動がちゃんと出来ているか」をしっかりモニターすることが重要です。例えば「ありがとうカード」の交換をするのであれば、その枚数を表やグラフにし貼り出したりします。

行動をモニターする「ありがとう&さすガッス カードの実績」
図4 行動をモニターする「ありがとう&さすガッス カードの実績」

活動が出来ているか?目標に近付いているか?に常に気を配り、問題があればメンバーを巻込んで考えさせるのもリーダーの役割です。また長く続けると飽きてくるのが人間というもの。うまく行っている場合でも適宜、活動見直しの場を作ってメンバーに刺激を与えることも重要です。

特に印象に残っているチームを例に挙げましょう。「まずは、声を出して元気よくあいさつしよう」と、ちゃんとあいさつできているかをモニターすることから始めたチームのこと。しばらくすると、しっかり声を出してあいさつできるようになったので、もっとハイグレードなあいさつをしようということになりました。「声に出すだけではなく、握手をしよう」、それが出来るようになると「握手ではなくハイタッチしよう」。そしてついには「ハグしよう!」。さすがにハグは定着しませんでしたが、このようにマンネリになり始める頃を先取りして。次の目標を考える場を作るのがリーダーの役割です。
もちろんハイタッチを永遠に続ける必要はありません。強化期間としてキャンペーン的に実施するのでも十分です。期間限定であってもチームとしてひとつのことに取り組むことは、チームビルドに大きな効果があります。また誰でも簡単にできることよりも、少し難しいことや抵抗感のあることの方が一体感を作り出せます。

このような「ちょっと背伸びをした取り組み」以外にも、デイリーミーティングで最近の出来事や趣味についてミニスピーチをしたり、ニコニコカレンダー(*2)付けるなど、毎日の習慣にする部分も作りましょう。

ニコニコカレンダーの例
図5 ニコニコカレンダーの例

関係の質の変化

先にも述べたように「関係の質」は直接目に見えないがゆえに、変化を実感することは簡単ではありません。しかし日頃のメンバーの会話に耳を傾けてみてください。例えば朝会でのアドバイスが多くなった、帰宅時に残っているメンバーに「先に帰るけど大丈夫?」と声をかけるようになった等、何らかの変化が起こっているはずです。
また意識して欲しいのは、「自分たちの変化は自分たちでは気づきにくい」という点です。他のチームの人に「なんだかチームが明るくなったね」と言われて初めて気がついたというエピソードをよく耳にします。

最後にあるチームのエピソードをお話ししておきます。そのチームでは既に改善活動を始めて何か月もたっていたのですが、業務的な成果がなかなか出せず苦しんでいました。本部長への報告の場でリーダーが「なかなか成果が出せずに申し訳ありません」と言うと、「いや成果は出ているじゃないか」と返ってきたそうです。その本部長が言うには「以前はフロアで数人が立ち話をしていると、たいていはトラブルだった。だからそういう光景を見ると、必ず声をかけるようにしていた。でも最近は立ち話しているところに"どうしたんだ?"と声をかけると、いえ単なる世間話です、と返ってくる。そのような人間関係が作れたことだけでも大きな成果だ。時間がかかるかもしれないけど、いずれ業務の成果に結びつくはずだ」と答えたそうです。

次回機会があれば、残る2つの命題についてご説明します。

(参考文献)

*1 「戦略を実行する第2ステップ-組織循環モデルを知り、リーダーシップを強化する
ITmediaエグゼクティブ 2011年11月05日
*2 ニコニコカレンダー wikipedia

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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