Webマガジン
「“ファシリテーション”と“場の論理”と“パターンランゲージ”と」
株式会社オージス総研 行動観察研究所

2016年07月号
  • 「“ファシリテーション”と“場の論理”と“パターンランゲージ”と」
株式会社オージス総研 行動観察研究所   安松 健

場をつくり、つなげる

最近、ファシリテーションの機会が(するだけでなく、参加することも含め)格段に増えてきていると感じる人は多いのではないでしょうか。新しい価値を創出していくために、その重要性がますます高まっている状況において、よりよいファシリテーションがイノベーションを促進するといっても過言ではないかと思います。

では、よりよいファシリテーションとするには、どうすればよいのでしょうか。
日本ファシリテーション協会によれば、ファシリテーションのスキルとして、
  1. 場のデザインのスキル ~場をつくり、つなげる~
  2. 対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~
  3. 構造化のスキル ~かみ合わせ、整理する~
  4. 合意形成のスキル ~まとめて、分かち合う~
の4つが紹介されていますが[1]、本稿では、1つ目にあげられている「場づくり」に着目したいと思います。

場づくりを4つに大別して考える

さて、この「場づくり」ですが、4つに大別して理解することが有用だと考えています。ファシリテーションは、1対1ではなく1対n(1対多)と説明されますが、どのような1対nかが場の全体設計において大きな影響を及ぼします。下図をご覧ください。

場づくりの4つの型
図1 場づくりの4つの型

「1⇒n型」は、特定の人が一方向に情報を発信するいわゆる講義・レクチャー型で、ファシリテーターというより講師・講演者になります。より多くの人に向けて情報を短時間に大量に発信できますが、話し手と聞き手がはっきりと分かれ、聞き手が受け身になりやすい型になります。
「1⇔n型」は、双方向でインタラクティブなやりとりがなされます。ただ、そのほとんどはファシリテーターを経由して行われ、やりとりの中心にファシリテーターがいる型になります。NHKハーバード白熱教室のマイケル・サンデル[2]が代表例でしょうか。この型は、場のやりとりを(大人数であっても)参加者全員に共有できますが、発言できる人は限られるという特徴があります。
「n⇔n型」は、全員がそれぞれに双方向のやりとりを行っている、いわゆるグループワークが主となる場などになります。ファシリテーターがやりとりの中心にいるというよりは、全参加者間の相互のやりとりが活性化するようにサポートします。この型は、より多くの参加者が発言できますが、全体の状況(やりとり)を把握することは困難になります。

共創に必要な主客一体の「N型」

"普通は、まず『私』というものが存在していて、『私』が何かしてやろう、などと考えるわけです。しかし、実はそんなふうに思っていては、大したことはできない。『私』から離れて、自分も相手も含んだ全体を飲み込んだ見方でものを見るということをしなければ、自分自身の最高の働きを発揮することなどできない"[3]
「N型」は、全員がそれぞれに双方向のやりとりをしているという点では、「n⇔n型」と同じです。異なる点は、「私」と「他者(相手)」という主客分離(nとn)ではなく、個々人レベルから一段上に昇華した「私たち(N)」という主客一体の場であることです(注1)。例えば、主客分離は、それぞれの異なる立場で「A社の『私』としては○○ですが、B社のbさん(他者・相手)としてはどうでしょうか」というような「私と相手」という立場にとどまりますが、主客一体というのは相互連携レベルを超えて、「私たちは、私たちの社会をどうするか」という「私たち」として渾然一体の立場でやりとりすることと理解できるでしょう。

もしファシリテーションの現場で、下記のような課題があるのであれば、

  • グループワークを実施しているが、既存の枠内で収まってしまい新しい発想が出てこない
  • 良いアイデアは出ていると思うがアクションにつながらない
主客一体の場づくりが求められている状況である可能性が高いかもしれません。


この主客一体の場、異質の「私と他者」が「私たち」として統合されさらに開かれることは、「共創」の必要条件とされます[4]。共創のためには、主客一体の「N型」であることが必要ということです。
また「異質の」という点も見逃してはなりません。
「私と他者」ではなく「私たち」となったとしても、同質・均質的な私たちとなる閉鎖的な「群れ合いの場」となっては、創造的にはなりえません。この群れ合いの場というのは、"互いに依存し合うことによって見せかけの安心感を得ている"場で、"場に束縛されると同時にその枠を守ろう"とし、"自己防御のために、創造につながるような異論を許さない"、そのため"その内部では創造的な活動力は生まれない"場になります。[4]
創造のためにはこのような群れ合いの場ではなく、異質の個と個、"両者のあいだに新しい関係が生まれて個の活きが統合され、両者が開かれる"「出会いの場」でなければならないこと[4]も忘れてはいけません。

パターンランゲージ3.0

ところで、この主客一体型の場づくりの際に気をつけたいのは、他の「型」の常識・基準でみてしまうと、「ファシリテーターが介入し過ぎ」や「全体の流れやストーリーが曖昧だ」という評価になることも少なくないということです。これは主客一体型に限らず、別の「型」の視座・視点でファシリテーションを評価してしまうと、どうしても齟齬が生じてしまいます。「型」が異なればファシリテーターとしての在り方も異なり、同じスキルでも発揮の仕方が大きく異なるからです。

それでは何を基準・指針に、主客一体の場づくりを考えていけばいいのでしょうか。
重要な示唆を与えてくれるものとして、パターンランゲージ3.0があります。パターンランゲージは、"ある領域に潜む《デザインの知》を記述した言語"で、その対象は、1.0は建築などの「物質的なもの」、2.0ではソフトウェアなどの「非物質的なもの」でしたが、3.0では学びや教育、変革行動などの「人間行為」がデザインの対象になります。また、使い方としては、1.0は「デザインする人と使う人」の間を、2.0は「熟達者と非熟達者」の間を埋めるためのものでしたが、3.0では異なる経験を持つ「多様な人たちをつなぐ」ために用いられます。[5]
このパターンランゲージ3.0の中でも、共創の場づくりのためには、"Pedagogical Patterns for Creative Learning[6]"と"Educational Patterns for Generative participants[7]"がおすすめです。すべては紹介できませんので、この中から2つほどパターンを紹介すると、my discovery, your discovery, our discoveryとひろげていく 「Discovery-Driven Expanding(発見の拡がり)」や、リーダーでもファシリテーターでもなく参加者と表現されている「Generative Participant(生成的な参加者)」などがあり、主客一体に直結することが確認できます。
なお、これらのパターンは創造的学習の現場よりマイニングされたものですが、ビジネス現場においても有用です。このことは、コラボレイティブ学習と知識経営の研究の関係[8]を考慮すれば当然のことにはなりますが、ビジネス界に限らず異業界の実践知も活用していくことは効果的です。

参加者が決めるということ

本稿では、場づくりの4つの型とそれぞれの特徴を紹介してきました。この4つの型のデザインが曖昧であると、一貫性のない場になってしまい、活性化するどころか参加者は混乱してしまうでしょう。少なくともこの4つの型の違いを理解し、それを意識して「場づくり」をすることが重要になります。

ここで、これまでの場づくりの経験についてあらためて省みてもらいたいのですが、その場は意図した通りの場になっていたでしょうか。

と言いますのは、意図と実践にズレがあるケースが散見されるからです。例えば、グループワークが実施されていて表面的には「n⇔n型」に見えても、本質的にはファシリテーター中心の「1⇔n型」や「1⇒n型」の一方通行な講義レクチャー状態の場になっていることが多々あります。形式としてグループワークをしているから、あるいは、ワークショップ形式と標榜しているからといって、「n⇔n型」になる訳ではありませんし、「私たちは・・・」と発言しているから、主客一体の「N型」になっているとは限らないということです。

グローバルに活躍されるファシリテーター船川淳志さんが、"「コミュニケーションは受け手が決める」、しかもその受け手によって、受け止め方は異なる[9]"と指摘されるように、結果的にどのような型になっているかは、その「場」が決めることになります。つまり、ファシリテーターが決めるのではなく、参加者全体が決めるのです。

ファシリテーターがどのような意図を持って、どのような場のデザインをしたとしても、参加者が一方通行のOne wayに話をされていると感じるのであれば、その場は本質的には「1⇒n型」になります。最初の1時間は相互に対話できていると感じる場でも、最後の最後に「1⇒n型」と感じてしまう場もあります。自由闊達に対話・議論をしているつもりが、実は主催者側で「落としどころ」や「答え」が予め用意されていて、「これまでの話し合いは何だったのだ・・・」となった経験がある方は少なくないのではないでしょうか。

このような齟齬を避けるためには、4つの型に加えて、取り扱うテーマが「正解がある」ことか「正解がない」こと(意志の問題)かという視点も重要になります。この点に関しては、"Wicked Problem:新たな仮説に基づいて動き、成果が出なければすべては無駄なのか?"を参照いただければと思いますが、いずれにしても、どのような場のデザインをするかを明確に意識しておくことが重要です。
そして、参加者が決めるということを肝に銘じて、意図した場づくりができているか、十分に注意して確認し続けることが必要になります。

最後に

本稿は、どの型が良いとか悪いとかについて述べているものでは決してありません。それぞれの型には、長所と短所がありますので、その状況に応じた型にすれば良いわけです。また、型に固執し続けるのではなく、型を破り、離れること(守破離)の重要性については言うまでもありません。その上で、ファシリテーターが状況を的確に把握し、それに応じた適切な場づくりをする、そのような場のデザインの際に本稿で紹介した4つの型が参考になれば幸いです。

<注釈>
1. 清水博氏は、主客非分離について説いた上で、出会い場の例として茶室をあげているが、この茶道では「主客一体」という言葉が使われる[10]。本稿では、この主客一体の方を使用することにした。

(参考文献)

[1] "ファシリテーションとは" 特定非営利法人日本ファシリテーション協会Webサイト
[2] "NHKハーバード白熱教室" NHKオンライン
[3] 『生命知としての場の論理―柳生新陰流に見る共創の理』 清水博 中公新書1996年
[4] 『場の思想』 清水博 東京大学出版会2003年
[5] 「パターンランゲージ3.0」 井庭崇 情報処理Vol.52 No.9 2011年
[6] "Pedagogical Patterns for Creative Learning," Takashi Iba / Chikara Ichikawa / Mami Sakamoto / Tomohito Yamazaki, 18th Conference on Pattern Languages of Programs (PLoP11), 2011.
[7] "Educational patterns for generative participants: designing for creative learning", Shibuya Takafumi, et al. Proceedings of the 20th Conference on Pattern Languages of Programs. The Hillside Group, 2013.
[8] 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 エティエンヌ・ウェンガー/リチャード・マクダーモット/ウィリアム・M・スナイダー(著)野中郁次郎(解説) 翔泳社2002年
[9] 『ロジカルリスニング「論理思考」と「聞く技術」の統合スキル』 船川淳志 ダイヤモンド社2006年
[10] 『茶の本 The Book of Tea【日英対訳】』 岡倉天心 IBCパブリッシング2008年

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

同一テーマ 記事一覧
安松 健  記事一覧
2016年07月号のコンテンツ



『Webマガジン』に関しては 弊社の「個人情報の取り扱いについて」に同意の上、
下記よりお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ戻る