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「SysMLによるシステムモデリングの実際 -システムモデリングの取り組み(2)-」

2016.10.21 株式会社オージス総研  時岡 優

・はじめに

この連載では、システムモデリングの支援をしているコンサルタントが、実際の活動を通して得られた知見を元に、各メーカーがSysMLによるシステムモデリングに取り組む動機や取り組みの内容、取り組みの成果を紹介しています。

第1回第2回の記事では「システムモデリングに取り組む動機」と題して日本の製造業に蔓延る問題を紹介し、各メーカーに共通している5つの本質的な問題を挙げました。

本質的な問題に対する対策
図 1. 本質的な問題に対する対策

「組織の壁」に対する対策を前回の記事で紹介しました。今回は「ニーズ・課題との乖離」、「ノウハウが伝わらない」に対する対策を紹介します。

・「ニーズ・課題との乖離」への対策

<利害関係者のニーズ・課題の分析>
利害関係者のニーズ・課題を分析してターゲットが明確な製品コンセプトを立案します。
顕在ニーズを分析するだけでなく、潜在ニーズも分析対象に含めることで、競合と差別化した製品を立案できます。図 2に概要を示します。

 利害関係者のニーズ・課題の分析
図 2. 利害関係者のニーズ・課題の分析

まず、ターゲット顧客を明確に定義し、彼らの業務を分析します。医者であれば患者の治療。運送業者であれば荷物の積み込みや運搬。自家用車のドライバーであれば買い物や旅行などです。彼らが目的を達成するために、何をするのか、どんなモノや情報を扱うのかなどを分析します。各行動における心理変化に踏み込むこともあります。これらを振る舞いや時系列の視点で整理すると検討しやすくなります。サービスデザイン思考ではカスタマージャーニーマップという分析ツールを使用します。行動観察では机上ではなく現場を直接あるいは間接的に観察することによってターゲット顧客を深く理解します。次に、ニーズや課題をあぶり出します。特に潜在的なニーズの掘り起こしが重要です。潜在ニーズは直接見たり聞いたりすることはできません。そのため、事実の抽象化や多彩な専門家による分析が必要になります。ニーズや課題が明らかになった後は、機能や性能などの観点でシステム要求を導出します。さらに、他の利害関係者、例えばメーカー側の思惑も同様に検討します。このように段階的/多面的に分析することで、ターゲットを明確にした製品コンセプトを立案できます。

・「ノウハウが伝わらない」への対策

<知識や経験の見える化>
知識や経験には様々な観点のものが含まれますが、ここでは「仕様の意図や目的(=要求)を言語化する」ということです。要求を仕様化する過程に知識や経験が潜んでいます。しかしながら、それらの多くは仕様書には記載されず、ベテランや担当者の頭の中ということがよくあります。特に定性的な要求は暗黙的になりがちです。「簡単さ」の例を図 3に示します。「かっこよさ」や「滑らかさ」、「力強さ」なども同様です。

知識や経験の見える化
図 3. 知識や経験の見える化

要求は目的から手段へ展開すると論理展開が明確になります。まずは末端に仕様書の項目を並べます。そして各仕様の意図や目的をなぜなぜを繰り返して紐付けます。必要に応じてベテランの知見を盛り込んでいきます。ベテランは知識や経験は豊かですが、必ずしも体系的に整理されているとは限らないため、一つ一つ確認する形で引き出す必要があります。このように整理すると漠然としていた簡単さという要求が、例えば「手数の少なさ」や「直感的」などに分割され、それらが具体的な仕様と紐付きます。抽象的であったり曖昧であったりするものをより具体的な表現で明確化することがノウハウを可視化する際のポイントになります。実際には"何がわからないのか"がわからないことが多いので、若手の技術者が中心になって進めると効果的です。

・まとめ

今回は「ニーズ・課題との乖離」と「ノウハウが伝わらない」という問題に対する対策について紹介しました。「ニーズ・課題との乖離」を防ぐためには利害関係者のニーズや課題を分析すればよいのですが、段階的/多面的に分析を進めることが重要です。「ノウハウが伝わらない」に対しては要求を分析することによって暗黙的になっている知識や経験を可視化します。次回は、「部分最適から抜け出せない」、「目的や根拠が曖昧」に対する対策について説明する予定です。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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