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「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(5)」

2017.08.28 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

(1)前号の続きで、今回は「教師なし学習」ディープラーニング、特にAutoEncoderの応用について説明し、次号で「教師あり学習」ディープラーニングを説明します。
(2)「教師あり学習」とは、データにラべリングされた正解が付加され、ペアで学習するものを指します。

2.AutoEncoder

2-1.AutoEncoderとは、(「参考文献」1)

(1)入力層と出力層を同じノード数にして、中間層(隠れ層)のノード数をそれよりも少なくする。
(2)同じデータを、入力層と出力層の入力値とする。
(3)リンクの重み付けを調整すると、中間層(隠れ層)で要約される。
(4)統計解析の代表的な手法である主成分分析と、「要約」という意味において同じである。

2-2.主成分分析(参考)

(1)N次元のデータ群を、次元を減らしてその特徴を観る解析手法。
(2)第1主成分は、分散が最大になる軸をいう。分散が最大であるとデータの分布状況(性質)が見やすくなる。第2主成分は、第1主成分の軸と直交して分散が最大になる軸。これで、第1主成分で洩れた情報をすくい取ることができる。第3主成分(3次元)以降もあれば同様にする。
(3)囲碁の局面を主成分分析すると、囲碁用語の概念がいくつも出てくるそうです。(「参考文献」2)
AutoEncoder 主成分分析の例(2次元)
図1.AutoEncoder 図2.主成分分析の例(2次元)

3.「教師なし学習」ディープラーニング

3-1.AutoEncoder を応用したディープラーニングの仕組み(「参考文献」1)

(1)上記で説明したAutoEncoderを繰り返し、利用する。
(2)中間層(隠れ層)の各ノードの出力値を入力層、出力層の入力値とする。
(3)N回繰り返すとN段の要約ができることになる。

AutoEncoder を応用したディープラーニングの仕組み
図3.AutoEncoder を応用したディープラーニングの仕組み
(松尾豊著「人工知能は人間を超えるか」P161参考)

3-2.考察

(1)「Googleの猫」では、1000万枚の画像を入力して学習させた。多段の要約の中で、猫の画像の時にある特定のノードの値が高くなった。
(2)画像が対象の場合は、チューニング済みのCNN(Convolutional Neural Network)の畳み込み層の出力を利用してもよい(次号で解説予定)
(3)厳密に言うと、出力層にデータを教示しているので「教師あり学習」とも言えるかもしれないが、ここでは「教師なし学習」に分類させていただいた。
(4)ブームの中心は、より実用的な「教師あり学習」によるディープラーニングに移ったが、第3次AIブーム黎明期の中心的な役割を果たした。

4.オージス総研の状況

AIテクノロジーセンターも設立され、ディープラーニングにも精力的に取り組んでいる。今後、実装しているメンバーが、Webマガジンを連載する予定である。

「参考文献」

1.松尾豊著「人工知能は人間を超えるか」角川EPUB選書(2015年3月)
2.小野田博一著「人工知能はいかにして強くなるのか?」ブルーバックス(2017年1月)
3.乾昌弘「人工知能の概要と現状について」社内資料(2016年)

「余談」<夏休み特集

1.ニューラルネットワークは、なぜそのような結果に至ったかがわからない

(1)ニューラルネットワークは、リンクの重み付けの変化で学習するので、一般的には、出力結果の理由が説明できないと言われている。
(2)あるITベンダーの展示会で、解法の途中経過がわかるソリューションのプレゼンをしていた。前号で紹介した「決定木」と似ていたので「決定木と何処が違うのですか?」と訊いてみたが、答えが返ってこなかった。

2.機械翻訳の発達により英語の勉強は必要ないか?

(1)機械翻訳は訳質が非常に向上した上に、音声認識・音声合成の技術も進歩したため、会話にも使えるようになった。特に関西は外国人観光客が押し寄せており、京都はキャパを越えて困っている状況である。機械翻訳技術を使って、うまくコミュニケーションをとり、混雑を緩和できないかと思っている。私が住んでいる奈良市は、近鉄奈良駅から東大寺に至る「ゴールデンルート」だけが混んでおり、少し外れると静かなものである。少し分散すると状況は変わるのでないか?
(2)「機械翻訳のお蔭で、もう英語を勉強する必要がない」と言うひとがいる。本当だろうか?機械翻訳は、ディープラーニングのおかげで訳質がよくなったが、一文ごとの逐次翻訳なので文脈から訳すことができない。従って「英語の勉強は必要」ということになる。

3.イグノーベル賞と最適化

(1)人工知能と深い関係にある最適化問題で、イグノーベル賞を2回受賞した日本人がいる。
(2)<認知科学賞> 2008年
「単細胞生物の真正粘菌にパズルを解く能力があったことを発見」
中垣俊之(北海道大学/理化学研究所)小林亮(広島大学)石黒章夫(東北大学)手老篤史(北海道大学/Presto JST)山田裕康(名古屋大学/理化学研究所)
(3)<交通計画賞> 2010年
「輸送効率に優れた最適なネットワークを設計する研究」
中垣俊之(公立はこだて未来大学)小林亮(広島大学)手老篤史(科学技術振興機構さきがけプロジェクト)高木清二(北海道大学)三枝徹(北海道大学)伊藤賢太郎(北海道大学)弓木健嗣(広島大学)ら
(4)迷路の中に真正粘菌変形体をちぎって撒き、迷路のスタートとゴールに餌を置いた。すると、かけらは融合して迷路全体を覆った後、行き止まりや迂回路からは撤退して、スタートとゴールを結ぶ最短経路のみに体を残した。

http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2008/2009-01/page09.html を参考

迷路を解く粘菌
図4.迷路を解く粘菌


(5)人工知能も人間を含む生物から学ぶことは多いと思う。

4.「トロッコ問題」

(1)古くからあるテーマと思われるが、完全自動運転が可能かどうかという視点から話題になっている。
(2)トロッコ問題とは「ブレーキが利かなくなったら、5人が乗っている対向車とぶつかるか、ハンドルを切って横道を歩く1人の犠牲を選ぶべきか?」
(3)このような明確な課題を提示して、自動運転を議論することが重要であると思う。

5.「It's Elementary. The Problem With Artificial Intelligence Agents」より

(1)やはり自動運転は難しいという記事を取り上げる。
(2)訳してみると
「例えば、自動運転車が予めプログラムされていない奇妙な状況に出会うかもしれない。
"自動運転車はどうすればよいかわからない。なぜなら、人間のように頼れる知識を持っていないからである。"進化と経験を通して得た基礎をなす領域の知識によって(Deep Grammar社のMugan氏によれば)人間は外界をしっかりと理解できる。人間の最も深淵な知能が、この種の外界を具体化した知識まで達している。そして問題は、どうやってこの種の具体化した知識をロボットに与えるのか、わからないことである。」
(3)要約すると「人間は今まで出会ったことのない状況に出会っても、常識などを使って何とか対応できるが、自動運転車はそれができない」ということだと思います。
英語としても勉強になるので、原文を読んでみてください。
(4)「…A self-driving car, for example, could come against "some weird situation" that wasn't programmed into the system. "They don't know what to do," he added, "because they don't have this knowledge as a human to fall back on."That underlying domain knowledge, gained through evolution and experience, gives humans what Mugan calls a "grounded understanding of the world" around them. "Even our most profound intelligences go all the way down to this kind of physical world embodied knowledge that we have," he added. "And the problem right now is we haven't figured out how to give robots this kind of embodied knowledge …"…」
April 29th, 2016 Voice Of Americaより(原文)一部を引用
https://blogs.voanews.com/techtonics/2016/04/29/its-elementary-the-problem-with-artificial-intelligence-agents/

イメージ図(理解するため描いてみた)
図5.イメージ図(理解するため描いてみた)

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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