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「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(7)」

2017.10.25 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

(1)4月号で説明したように人工知能の歴史は60年ほどありますが、その中で「ゲームの理論」(GAMES WORLD)は一つの対象領域でもありました。
(2)ここでは、1対1対戦のゲームを取り上げます。(麻雀などは含まない)
(3)後半で、第3次AIブームの象徴的な存在である「α碁の戦略」の概要について述べます。

2.ゲームの理論(基本)

2-1.概要

(1)第2次AIブームを中心に、人工知能言語であるLISP、Prologが利用されました。プログラミングの練習として最初に取り組むのに、ゲーム(例えば、五目ならべ)は適した題材でした。
(2)ゲームの世界は、ルールがはっきり決まっており相手も同じルールで、目標も同じなので、(強いプロフラムが書けるかは別として)取り扱いやすいテーマである。
(3)相手のルールも同じで繰り返してプレーするので、プログラム的には、図1のようにRecursive Callが基本である。

ゲームプログラムの基本形
図1.ゲームプログラムの基本形

2-2.MiniMax

(1)ゲームを先読みするのに「自分が可能な手がいくつかあり、それに対して相手が可能な手がいくつかある」といった図2のような探索が必要となってくる。これが最後まで先読みができればよいのであるが、探索空間が急激に拡がるため、数手先しか読めないのが実情である。
(2)数手先の状況について評価関数を使って正しく判断することが必要である。自分の手が最大値になり、相手も最大値(自分にとっては、最悪値)の手を打つと仮定して、自分の手を決める。この手法をMiniMaxと呼んでいる。
(3)さらに値によっては、他の分岐を調べなくてもよい場合があり、枝刈りができる。この方法をαβと呼んでいる。

ゲームの探索木
図2.ゲームの探索木

2-3.評価関数

(1)一番単純な場合は、双方の個数の合計を比較することであるが、そうでない場合が多い。
(2)仮想的なパターンを想定するが、図3のようなパターンができた時に有利になると仮定する。評価関数は図3のように表される。
(3)コンピュータの最大の武器の一つはシミュレーションである。例えば、パラメータの違うもの通しを何回も自己対戦させて、勝率の良い方のパラメータを採用することも可能である。

活性化関数
図3.評価関数の例(仮想的なパターン)

(4)終盤には、ほぼ勝ち負けが明らかになるので、評価関数が変わることも考えられる。

3.α碁の戦略(「参考文献」1)

第3次AIブームで中心的な役割を果たしているディープラーニングを使って、囲碁のチャンピオンを破って有名になった、α碁の戦略について紹介する。

3-1.「教師あり学習」ディープラーニング

(1)学習データは、6段以上の棋士による16万局を使用。
(2)局面を入力とするCNN(Convolutional Neural Network)で教師あり学習をした。
CNNは9月号を参照。
(3)出力は「(強い棋士による)次の各手の確率」である。これが次の入力(局面)になる。

3-2.強化学習

(1)局面を入力、「局面での勝率予測値」を出力とするCNN。CNNが出力する勝率予測値が、学習データの勝敗に近づくように重み付けを更新する。
(2)「3-1」節のCNNを用いて自己対戦して勝敗を決める。(3000万データ使用)

3-3.モンテカルロ木探索

(1)実際に直面している局面からランダムに手を打って勝敗を決め、最も高い勝率の手に決める手法が基本である。
(2)ある手の試行回数の全体の試行回数に対する割合が小さく(バイアスが大きく)なれば、その手を試行してみる。

3-4.各手法の組み合わせ

(1)モンテカルロ木探索が基本戦略である。
(2)<バイアス+「3-1」節>の高い手を優先的に選択する。
(3)モンテカルロ木検索のよる結果の勝率及び、「3-2」節の結果による勝率の評価、の併用により勝率評価を改善する。
(4)「局面での勝率予測値」により、囲碁の世界で「2-3」節で述べた「評価関数」に対応する内容が作成されていることになる。
※詳細は、「参考文献」1を参照のこと。

α碁の「評価関数」作成手法
図4.α碁の「評価関数」作成手法

3-5.考察

(1)ディープラーニングや強化学習は、人間の脳でも類似のことが行われていると言われている。さらにモンテカルロ木探索によるシミュレーションが加わることで、コンピュータの強みも加味された強力なものになったと思われる。
(2)「計算力とデータ力の勝利!Brute Force AI」と言う人がいる。しかし、それだけではない深みのあるものとなっている。
(3)α碁の戦略は非常に複雑なようなであるが、次のように単純化すれば理解しやすい。 (A)序盤「(強い棋士の16万局による)次の各手の確率」を主に使用 (B)中盤「(3000万データで強化学習した)局面での勝率予測値」を主に使用 (C)終盤「モンテカルロ木探索」を主に使用

「参考文献」

1.大槻知史著「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」翔泳社(2017年7月)
2.乾昌弘「人工知能の概要と現状について」社内資料(2016年))

ゲームと人工知能(イメージ図)
図5.ゲームと人工知能(イメージ図)

「余談」

1.25年ほど前、ニューラルネットワークを教育システムに応用して、間違いの内容により自動的に次の問題を最適選択するアイデアで特許出願した。少しひねったアイデアであったので、弁理士が「どうやったら、このようなアイデアが出るのか理解できない」と言われたことがある。捻ったネットワークだったので、仕方がないと思うのだが。
2.GoogleのソフトにTensor Flowと呼ばれるものがある。今から40年前、大学3年の時に「流体力学、熱力学、材料力学」を統合した「連続体力学」という授業を受けた。「連続体力学」の中心的な表現方法が「テンソル」。内容はもう忘却の彼方であるが、ベクトルやマトリックスを一般的に表現するもので、通常のシグマの表記は(下記)左側であるが、あまりにも変数が多いので共通の変数があると足し込むという右側のルールだったと思う。

シグマの表記
式. シグマの表記


表1.第1回~第7回の掲載のまとめ
表1.第1回~第7回の掲載のまとめ

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