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「サービスデザイン思考に必要とされるマインドセットと組織」

2017.11.17 株式会社オージス総研  竹政 昭利

1.はじめに

戦後の高度成長期であれば、作るそばからものが売れていきました。企業側も良いものを作れば売れることが分かっているので、いかに効率的に作るかに注力し改善を進めてきました。
しかし、VUCA(Volatility激動Uncertainty不確実性Complexity複雑性Ambiguity不透明性)の時代において、企業が行うべきことは、改善だけでは不十分で、改革(イノベーション)が求められます。
ものをつくる前に、どんなものが求められているのかを、しっかり考える必要があります。
多くの人が新しい製品、新しいサービスを生み出すべく、デザイン思考、サービスデザインを用いて、イノベーションにチャレンジしています。チャレンジしている当事者は、デザイン思考、サービスデザインを理解しており情熱的に取り組むのですが、実際新しい製品やサービスを作るために実行に移そうとすると、新しいものに対する警戒感からか、同僚や上司の理解が得られない、組織の今までのやり方となじまない、などの壁にぶつかるようです。

2.イノベーションを実現するには?

イノベーションを実現するには、何が必要でしょうか?それは「もの・ことづくり」「人づくり」「組織づくり」の3つだと思います。(図1)。
農業に例えると、「もの・ことづくり」は「農機具、農業知識」に相当します。
農作物を作ろうとするときに、鋤、鍬、トラクターなどの農機具、そしてそれをどう使うかの農業知識が必要です。
しかし、いくら立派な、「農機具や農業知識」があったとしても、農夫にやる気がないと始まりません。これが「人づくり」です。
使いやすい農機具を持ち、農業知識を身に付けたやる気のある農夫がいてもまだ足りません。畑を用意する必要があります。これは「組織づくり」です。

イノベーションを実現するのに必要な3つの要素
  図1 イノベーションを実現するのに必要な3つの要素


そして、「もの・ことづくり」には「サービスデザイン思考」が、「人づくり」には「マインドセット」が、「組織づくり」には「ダイアロジックOD」が有効です。

サービスデザイン思考については、http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1234959_6728.htmlなどをご覧下さい。今回は、マインドセット、ダイアロジックODについて記述します。

3.マインドセット

マインドセットとは習慣になった考え方や思考の傾向です。VUCAの時代に適しているマインドセットはどのようなものでしょうか?
「MINDSET」(キャロル・ドゥエック) によるとマインドセットには、フィックスト・マインドセット(Fixed Mindset)とグロース・マインドセット(Growth Mindset)の2種類があります。
フィックスト・マインドセットを持っている人は、自分の能力は固定的で変わらないと思っているので、上手くやることを重視し、失敗は許されないと考えます。
グロース・マインドセットを持っている人は、自分の能力は努力と経験を重ねることで伸ばすことができると思っているので、失敗を恐れません。
VUCAの時代においては、最初から正解にたどりつけるわけではなく、試行錯誤を繰り返し、失敗を乗り越えることができる、グロース・マインドセットが必要になります。
ケリー・マクゴニガルは、スタンフォード大学の新入生はアヒル症候群に陥ると指摘しています。アヒル症候群とは、成功を重要視して、失敗は許されないと考える一方で、成功のために努力していることを他人にさとられないよう振る舞うものです。つまりフィックスト・マインドセットを持っているということです。スタンフォード大学の学生は優秀ですから今までほとんど失敗せずに生きてきたのでしょう。
一方、スタンフォード大学は、イノベーション企業がひしめくシリコンバレーに優秀なグロース・マインドセットを持った人材を供給しています。スタンフォード大学では、イノベーションを実現するための人づくりが行われていると見て良いのでしょう。

4.ダイアロジックOD

「ダイアロジックOD」は対話型組織開発と呼ばれるものです。
組織開発とは、「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や職能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させることである」と組織開発の有名な研究者であるエドガー・シャインは定義しています。
組織開発には、診断型と対話型があります。診断型は、組織開発実践者が組織の現状を調査し、問題点や課題を把握する診断をして、解決していきます。対話型は、参加者の対話を通して現状を共有し、アクションの計画をしていきます。

「世の中はどんどん予測不可能になっている。また、何が正解なのかわからないような状態になっている。その世の中を横切っていくのがDialogic ODである。」
とエドガー・シャインが述べているように、VUCAの時代の組織には、ダイアロジックODが必要です。
企業内には、立場の違いから様々な意見や考え方があります。明らかな間違いを除き、意見や考え方というのはどれか1つが正しく、他は全て間違っているというものではありません。意見や考え方もそれぞれのストーリーがあり、程度の差はあっても一理あるものです。
しかし全てが尤もな意見、考えということになると、個々人は自分が正しいと信じるストーリーを主張しあい意見が対立するだけになります。こうなると往々にして声の大きい人に従う、役職者の顔色を伺うなど、無理やり1つの結論に持っていこうとする圧力が働きます。すると説き伏せられたり、全面的に妥協させられた人の意見は地下に潜り、それぞれの人の気持ちはバラバラのままということになります。
ダイアロジックODでは、対話を通して現状を共有しアクションの計画をおこすために、次の3ステップで考えます。
  • 1人1人のストーリーをテーブルにのせ合います。
  • それぞれのストーリーをのせ合うことで、差異が認識され、場合によっては対立が生まれます。そこで単純に他を否定したり妥協したりするのではなく、誰もが納得する新たなイメージを生成していきます。
  • 否定や妥協ではなく、それぞれ自分自身が自分ごととしてイメージの生成に関わっているので、それぞれが当事者です。そういった当事者が集まった組織は、自律的に新たな行動をとるようになります。
これにより、イノベーションが生まれやすい土壌(組織)が整います。

5.まとめ

イノベーションを実現するには、サービスデザイン思考だけを行っても必ずしもうまくいきません。まずは重要なのは、失敗を恐れないグロース・マインドセットを持った人づくりです。次に重要なのは、人が自律的に動ける組織づくりです。人づくりと組織づくりがなされたときに初めて、サービスデザイン思考によるもの・ことづくりが有効に働きます。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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