WEBマガジン

「ビジネスを解析する手法とその比較(AI含めて)」

2017.11.17 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

ものごとは比較することによって、より深く理解できると考えています。
従って、3年前に当Webマガジンで「ビジネスを解析する手法とその比較」を2回連載いたしました。今回は、AI(ディープラーニング)を含めて、もう一度解説しようと思います。

2.ビジネスを解析する手法の紹介

2-1.概要

 5つの手法について概要を述べる。
[詳細は以下も参照のこと]
「ビジネスを解析する手法とその比較(上))」
「ビジネスを解析する手法とその比較(下)」

2-2.ディープラーニング(ニューラルネットワーク)

(1)ノードとリンクという単純な要素でネットワークが構成され、複雑な事象が学習できる。教師なし学習教師あり学習による機械学習に分けられ、さらにいくつかのタイプのネットワークが使われている。[詳細は以下も参照のこと]
「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(5)」
「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(6)」
(2)大量データを処理することができる。
(3)リンクの重み付けがチューニングされるだけで、なぜそうなったかはわからない。

2-3.統計解析(データマイニング)

(1)一見関係のないデータどうしの相関関係を見つけるのに使用される。回帰分析、Decision Tree、クラスター分析、主成分分析など数多くの手法があり、すべてを把握するのは難しい。
[特に機械学習については以下を参照のこと]
「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(4)」
(2)大量データを処理することができる。
(3)そうなったという経緯はわかるが、根本的な理由がわからない。極端にいうと、相関関係はわかるが、因果関係はわからない。

機械学習を取り巻く関係図
図1.機械学習を取り巻く関係図

2-4.数理計画法


(1)ある「制約条件」のもとで「評価関数」の最小値または最大値を求める。
(2)制約には「ハード制約」と「ソフト制約」がある。ハード制約は、条件を満たさないと解にはならない。ソフト制約は優先順位。
(3)通常は非線形の式を解く。すべて解くと図2のように、どこが最大値かわかるが、最初はまったくわからない。解く方法には「メタヒューリスティック法」などがある。場合によっては極大値を結論としてもよい。
(4)みなさんは、線形計画法を学生時代に習われたと思いますが、実際は、非線形の方が多いです。

非線形問題
図2.非線形問題

2-5.行動観察

(1)フィールドでの人の行動を幅広い視点で詳細に観察して、言語化されていないニーズやリスク、スキルを抽出する。
(2)人間により、行動観察を行うので、ごく少数データのマネジメント。
(3)リストバンドやモニターカメラにより自動的に人間の移動や行動が把握できる場合は、比較的多数のデータを処理することができる。
(4)根本的な理由(因果関係)を洞察する。
[詳細は以下を参照のこと]
「行動観察」

行動観察の範囲
図3.行動観察の範囲

2-6.BRMS(Business Rule Management System)

(1)第2次AIブームの中心的な技術の一つがルールベースであった。
(2)1990年代「第2次AI冬の時代」になっても、展示会に行くとルールベースを紹介しているITベンダーがあり「まだやっているのか」と思った記憶がある。
(3)その後、BRMSとして見事に復活して現在に至っている。

3.手法の比較(図4参照)

3-1.「BRMS」対「行動観察

BRMSは「人」から顕在化した知識、ルールを抽出し、「コンピュータ」に蓄積されたデータで検証する。それに対して、行動観察は「人」の潜在的な行動パターン、ルールを見つけ出す。

3-2.「数理計画法」対「BRMS

数理計画法は「人」から知識、ルールを訊き出して形式化をして、データで検証する。BRMSは解法もルール化するために「経験的解法」といえる。それに対して、数理計画法は「論理的解法」ということができる。

3-3.「行動観察」対「ディープラーニング・統計解析

(1)行動観察は「人」が意識していない行動や習慣を観察して、ルールを見つける。一方、ディープラーニング・統計解析は、「コンピュータ」に蓄積されたデータを解析して、ルールを見つける(データマイニング)。但し、ディープラーニングは明示的にルールを取り出すことができない。リンクの重み付けしかない。
(2)行動観察とディープラーニング・統計解析の関係はいろいろなパターンがある。例えば、ディープラーニング・統計解析は「相関関係」を見つけるのが得意なのに対して、行動観察は「因果関係」を見つけるのが得意である。また、行動観察は多人数を対象にするのが難しいため仮説を設定して、統計解析で実証するという方法もある。
それぞれの特徴を活かして手法を組み合わせれば、より効果のある結果を導くことができると考えている。

3-4.「ディープラーニング・(統計解析)」対「ルールベース(BRMS)

最近のAIブームでディープラーニングが注目されているが「ディープラーニングとルールベース(人間のノウハウ)の組み合わせがよい」という意見もある。

手法の比較
図4.手法の比較

4.オージス総研内の各組織の連携

図5のように役割分担がなされ、お互いに連携して活動している。共通するのはデータサイエンスだと思います。

手法の比較
図5.オージス総研内の各組織の連携

「余談」

1.RPAはOAのこと?

RPA (Robotic Process Automation)」という言葉が流行している。パソコンの中に物理的なロボットがいるのでなく、人間に代わって知的な作業をするものを指す。(元)機械工学研究者からいうと「ロボット」と言ってほしくない。私は「最新OA (Office Automation) 」という言葉が相応しいと思う。今こそが本当のOA時代の始まりだ。25年前のOAは何だったんだ。と思ってしまう。

2.AIらしさとは

いつの時代もAIブームになると「あれもAI、これもAI」と言い出す。AIの定義には合っても次のことがないとAIらしくない。
【まず、デモを見せると聴衆が「すごい」と感心し、種明かしをすると「なるほど」と思うもの】
以前、紹介した回帰分析は、AIらしくないと思う。

3.学生時代、統計は腑に落ちなかった

大学1年の時に「統計熱力学」の授業があった。箱の中に空気があり、空気が右半分に偏る確率が、0に限りなく近いが0ではなかった。私は、右半分に偏る瞬間があるのか?ということで随分悩んだ記憶がある。

箱の中の空気
図6.箱の中の空気

4.全部自動化する必要はない

(1)「日本の先進的な製造過程を全部自動化する必要はない。肝の部分は人間が作る方がよい。全自動にすると必ずマネをされるから」という人がいる。
(2)以前「ロボットを全自動にするより簡単な命令で自律的に動く方が現実的である」と書いた。理由は違うが目標は同じ気がする。[詳細は以下を参照のこと]
大学院時代の研究内容

5.意外な人が読んでいる「Webマガジン」

(1)以前、学会発表し、このWebマガジンで「スマートグリッド社会成熟度モデル」(末尾参照)を連載した時のこと。
(2)知らなかったのだが、大学院の研究室の先輩で、GEを退職して米国でコンサルをしていた人が、この連載を見つけて30年ぶりに連絡を取ってきた。日本のスマートグリッドの状況を調べるために、インターネットで検索していたら、私の記事を見つけたらしい。
(3)来日した時に、弊社の千里オフィスに来てもらい、スマートグリッドの説明をした。残念ながら日本語で書いているが、アメリカに居る日本人が読んでいるとは、以外であった。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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