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「「生産の現場(工場内)」におけるIoT利活用の進め方」
2018.01.24 株式会社オージス総研 藤本 正樹
■製造業におけるIoTの利活用
製造業におけるIoT利活用シーンは、「生産の現場」と「アフターマーケット」の大きく2つに分類されます。この2つは、製品の出荷前(=生産の現場)と出荷後(=アフターマーケット)ということを意味します。今回は、IoT利活用シーンとして「生産の現場(=工場内)」を選び、話を進めたいと思います。
「他社はIoTを利活用して、結果を出しているようだが、当社ではどうだろうか」、「工場でのIoT利活用を検討しなさい、という指示があったが、何から考えようか」とお悩みのケースもあるかと思いますので、工場内の"現場"において、どのようにIoTを利活用していくのかを考えてみます。
"作業の進め方"の話の前に、まず「生産の現場(工場)におけるIoT利活用の目的」を確認します。
図1 「生産の現場」におけるIoT利活用の背景と目的
生産の現場 で求められるのは、「生産性向上」と「製造品質向上」の2つに集約されます。ただし、当たり前ですが同じ「生産性向上」という目的でも、製造する製品、製造プロセス、その工場がおかれる状況などにより、"本当の目的=業務課題"は様々です。
この"本当の目的=業務課題"を関係者間で共有しながら進めることが重要となります。それでは、進め方について見ていきます。
この"本当の目的=業務課題"を関係者間で共有しながら進めることが重要となります。それでは、進め方について見ていきます。
■現場におけるIoT利活用検討の進め方
生産の現場におけるIoT利活用の検討においては、"現場の業務課題"を解決することが求められますので、以下の5つのプロセスにて進めます。
- .IoTで出来ることの共有
- .業務課題の整理
- .施策イメージの検討
- .データ収集、利用の要求事項の整理
- プロトタイプ開発&検証
1.IoTで"出来ること"のイメージ共有
いわゆる準備段階です。このプロセスでは、「IoTで出来ることは何か」、「IoTを入れるメリットは何か」ということを関係者にインプットします。IoTはあくまで手段であり、使うこと自体が目的にならないようにしなければなりませんが、手段の"正体(どのようなもので、何が出来るのか)"を知らなければ使いこなせないため、関係者間での認識を共有する必要があります。
以下のような 生産の現場における"主なIoTの利活用の目的"も参考情報として収集します。
以下のような 生産の現場における"主なIoTの利活用の目的"も参考情報として収集します。
表1. 生産の現場における代表的なIoT利活用の目的
2.業務課題の整理
本プロセスと次プロセスは要求整理段階です。実際の生産の現場で抱えている業務課題を洗い出します。"業務課題"という言葉を使用していますが、日々の現場での"お悩みの点"、"実施が面倒な作業"、"こうしたら良いのにと思うこと"、"正直無くしたい作業"等を洗い出します。
なお、業務課題の洗い出しにおいては、実際の作業担当者の意見をヒアリングすることが重要になります。
なお、業務課題の洗い出しにおいては、実際の作業担当者の意見をヒアリングすることが重要になります。
3.施策イメージの検討
本プロセスは引き続き要求整理段階です。業務課題からそれを解決する施策を検討します。業務課題の内容によって、施策を検討する流れというのは異なります。
- 例えば、
「作業の省力化」であれば、 - (1)業務区分(どんな業務をしているのか)の整理
- (2)業務区分毎の課題抽出
- (3)色分け(付加価値があるかどうか)
- (4)具体的な施策内容の検討
- となりますし、「設備故障診断」であれば、
- (1)対象とする故障内容の特定
- (2)故障内容に関するノウハウの抽出(例:異常の際にはベルトの音が変わる)
- (3)収集すべきデータの特定(設備稼働情報、設備故障情報、ノウハウで判断の根拠としている情報)
- (4)データ収集の方法検討
- (5)アナリティクス内容の検討
この後に、業務課題と施策の内容を評価し、着手優先度を決定します。評価は"評価軸(どのような観点で優先度を決めるのか)"を決めてから実施することをお勧めします。
(評価軸の例としては、改善度合い、緊急性、制約の大きさなどが挙げられます)
現時点で目に留まっている業務課題にまず着手するという進め方もありますが、「着眼大局、着手小局(大きなシナリオを描き、小さく始める)」という考えに則って実施する必要があると考えます。
優先度を決めたら、原則としてはその順にリソースが割ける範囲内で次プロセスに進みます。
(評価軸の例としては、改善度合い、緊急性、制約の大きさなどが挙げられます)
現時点で目に留まっている業務課題にまず着手するという進め方もありますが、「着眼大局、着手小局(大きなシナリオを描き、小さく始める)」という考えに則って実施する必要があると考えます。
優先度を決めたら、原則としてはその順にリソースが割ける範囲内で次プロセスに進みます。
4.データ収集、利用の要求事項の整理
本プロセスはPoC(Proof of Concept=概念実証)環境構築のためのシステム要件定義段階です。検討した施策を実施するために、
- 何のデータを(設備やセンサーからどんなデータを取得するのか)
- どのようなタイミングで(データの発生タイミング、施策実施のために必要なデータの粒度)
- どのような方法で収集/蓄積し(センサーや設備から、クラウド環境までどのようにデータを連携させるのか)
- どのように利活用するのか(収集データあるいはデータ分析の結果をどのように見せると現場で使えるのか)
5.プロトタイプ開発&検証
本プロセスは、PoC環境構築(システム開発)段階です。前項にて検討した要件を基に、データ収集~利活用の流れを情報システムとして開発し、業務において使用することにより、検証します。
なお、本プロセスでは (1)プロトタイプ開発→(2)業務における検証→(3)改善点の洗い出し→(1)に戻る という流れを以て、実際の現場で使えるシステム開発を実施します。
なお、本プロセスでは (1)プロトタイプ開発→(2)業務における検証→(3)改善点の洗い出し→(1)に戻る という流れを以て、実際の現場で使えるシステム開発を実施します。
■最後に
前述のように IoTは手段でしかありません。生産の現場にてIoTを利活用するのは業務課題を解決するためである、ということに異論の余地は無いと思われます。
「業務課題の洗い出し」を始めとした一連のプロセスを、関係者間で情報を共有しながら進めることによってこそ、"現場に役立つIoT"を実現できるのではないでしょうか。
「業務課題の洗い出し」を始めとした一連のプロセスを、関係者間で情報を共有しながら進めることによってこそ、"現場に役立つIoT"を実現できるのではないでしょうか。
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。
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