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「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(下)」

2018.03.19 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1.はじめに

(1)前号の続きで、今年度のまとめをしたいと思います。
(2)「人工知能」という言葉が誕生したのは、1956年と言われています。その後の技術の急激な進化に伴い、人工知能と言われていた内容が「普通の技術」になったりして、その範囲は漠然としています。
(3)ここでは、現在の人工知能の中心ではないが、一応範囲に入っている手法を紹介します。

2.エキスパートシステム、BRMS (Business Rule Management System)

2-1.ルールベースの概要

(1)ルールベースは、もともとエキスパートシステムの中心的な機能として、一世を風靡しました。その後BRMSとして復活を遂げたのです。
(2)一つ一つのルールがグループ化されたルールベースは推論エンジンにより実行されるのですが、ルールの順番に関係なく実行していくので、ルールの追加が容易でプロダクションシステムとも呼ばれています。順番が重要になるBPM(Business Process Management)と使い分けて使用する場合もあります。
(3)事実(facts)からルールを次々と芋づる式に実行して結果を求めるのが、Forward Chainingです。逆に仮説(hypothesis)が成り立つかを確かめるため、ルールを逆に辿っていくのが、Backward Chainingです。BRMSは、通常Forward Chainingが使われています。

ルールベースのしくみ
図1.ルールベースのしくみ

2-2.BRMSの目的

規約などたくさんのルールをプログラムの中で書いていくとわかりにくいために、ルールだけをBRMSで管理する方法が幅広い分野で用いられています。こうすることによって、ミスを少なくし保守性を向上させることができます。

2-3.エキスパートシステム(ES)とディープラーニング(DL)

(1)ESはルールベースを基本にした応用システムで、DLはモデル(ツール)である。従って、ESのカテゴリーには計画型や診断型などがあったが、DLの場合は、畳み込み、リカレントやホップフィールドなど、タイプが異なる。
(2)互いに補完関係にある。「DLとES(人間のノウハウ)の組み合わせがよい」という意見もある。ESは基本的に言葉で表現するが、DLは画像や波形など言葉で表せないデータの分析ができる。

3.機械学習

3-1.機械学習とは、

(1)ある手法を使って <A>(予め用意された)データから規則性、関連性を発見(パターン認識)し <B>それをもとに予測や分類をおこなうこと。
(2)特定の目的に対する厳密なプログラムを用意しなくてもよい。
(3)機械学習の種類は多くあります。もちろんDLも機械学習。

機械学習による最適化
図2.機械学習による最適化

機械学習を取り巻く関係図
図3.機械学習を取り巻く関係図

3-2.クラスター分析、決定木<Decision Tree>

ここでは例として、クラスター分析と決定木を取り上げます。
(1)クラスター分析:似た特徴を持つデータをまとめて、グループ化する手法。(A) 似た特徴を持つデータをまとめていって階層構造を作りあげる(階層的クラスター分析)(B) 事前に決めた個数のグループに分ける(非階層的クラスター分析)がある。
(2)決定木:ある特定の目的に対して、データを分割してTree構造にする手法。「決定木は、階層的クラスター分析と逆方向の解析手法」である。いろいろな特徴を持ったデータのグループから不純度を減らすように分割。指標としてジニ係数などを用いる。0~1の値をとり、低い値をとるように分類していく。
(詳細は下記を参考のこと)

「<オージス総研をとりまく>人工知能技術の過去と現在(4)」

イメージ図決定木の分類方法
図4.イメージ図図5.決定木の分類方法

4.取り扱うデータの注意点

(1)すべての手法に共通することであるが、取り扱う入力データに注意が必要である。Garbage In Garbage Out(GIGO)という言葉があるくらいである。
また、以前インターネット上で「悪意のあるデータを学習させて、差別的な出力をした」ということが話題になった。
(2)クレンジング(欠損値、異常処理などの前処理)も重要な作業になる。結果が芳しくない場合は「如何に有効なデータを集めるかがキー」となる。
(以下も参考のこと)
3.ビジネスに活用する時の注意点
(3)うまく本格稼働できた後も、常に新しい学習データで学習し直さないと、システムが陳腐化する場合がある。

入力はとても重要
図6.入力はとても重要

5.オージス総研の状況

(1)オージス総研(の前身)は1983年の設立であり、数年のうちに人工知能関連の開発をスタートさせた。また大阪南港オフィスに「AIセンター」が設立された。
(2)エキスパートシステム、ニューラルネットワーク、ICAI(Intelligent Computer Aided Instruction)、画像処理・画像認識などの開発が行われた。また、沖電気と日英・英日機械翻訳システムの共同開発が行われた。
(3)1990年代に入るとAIセンターがなくなり、アドバンストプロダクト事業部などの名称になった。AIからAdvancedへ衣替えである。主にエキスパートシステムを構築していたグループを中心に、その後オブジェクト指向技術の開発に移行。この分野で日本を牽引することになった。
(4)2012年に「データサイエンスセンター」が設立され、本格的にデータ解析ビジネス(統計解析、最適化など)に参入した。その後「データアナリシス部」に引き継がれ、現在に至る。さらに「AIテクノロジーセンター」も設立され、ディープラーニングにも精力的に取り組んでいる。

「余談」

1.人間はITには従う?

(1)古くから「Nurse Scheduling Problem」というテーマがある。シフトのスケジュールを複雑な制約を満たしながら自動作成することである。対象領域は違うがオージス総研でも、数理計画法のツールを使って作成したことがある。
(2)従来は人間が試行錯誤で時間をかけて作成していたのだが、できたスケジュールに不満を持つ人が多かった。自動作成後は、誰も文句を言わなかったそうである。
(3)人間の判断に対しては文句を言う人でも、人工知能が出した結論に対しては、黙って従うそうである。
(4)受付ロボットが多少失礼なことを言っても、来客者が受け入れるそうで、不思議な現象である。感情があるというのは、良い場合と悪い場合がある。
(シフトスケジューリングは下記も参照の事)
「組合せ最適化でシフトスケジュールを作ってみる」

2.「Big Data」は、なぜ「Large Data」と言わないのか?

(1)2010年頃から「Big Data」という言葉が流行り始めました。その時に思ったのが、なぜ「Large Data」と言わないのか?
(2)「Big」は、感情的に「大きい、でかい」。「Large」は、客観的に「大きい」と言われています。例えば、SサイズMサイズ、Lサイズというのは、一応基準が決まっています。「Big」の反対は「Little」。「Large」の反対は「Small」らしいです。
(3)当初は「ペタバイト以上がBig Data」とか言われましたが、今に至るまで厳密な定義はされていません。

3.AI(Artificial Intelligence)BI(Business Intelligence)

(1)Intelligenceを日本語に訳すと「知能」あるいは「(意思決定に必要な重要な)情報」でしょうか。この2つの言葉は非常に重なり合っていると思います。
(2)前者はAIの訳語に使われ、後者はBIの訳語に適しています。BIは「知能」と言う言葉で表せませんが、AIの出力は「(意思決定に必要な重要な)情報」とも言えます。

表1.第1回~第7回の掲載のまとめ
第1回~第7回の掲載のまとめ

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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