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「サービスデザイン思考の現場感」

2018.03.19 株式会社オージス総研  仙波 真二

はじめに

ここ数年、サービスデザイン思考を用いたコンサルティングを行っているのですが「担当者レベルではサービスデザイン思考を用いて新たなサービスを創出したいという思いはあるものの、組織の壁があって現実的になかなか取り組めない」という課題によく直面します。同じような課題を持っている企業だと「うちも同じ」ということで、説明しなくても伝わります。一方、このような課題に直面したことがない人には、この現場感は伝わりにくいものです。例えば、大学生に対して「多くの企業では新たな取り組みがなかなかできない」ということを話してもピンときません。縁あって、昨年から大学でサービスデザイン思考に関連する授業をもつようになったのですが、自分が置かれている文脈で話をしても、まったく通じないということに改めて気づかされました。

そこで、今回は「サービスデザイン思考を知っている/知らない」「サービスデザイン思考を用いた取り組みを行っている/行っていない」という軸を定義して、企業で製品やサービスの開発を行っている現場がどのように分類されるのかを整理してみました(図1)。

サービスデザイン思考に関する企業現場の分類
図1.サービスデザイン思考に関する企業現場の分類

AからDのそれぞれの象限についてご説明します。

A サービスデザイン思考を知っており、すでに取り組んでいる

海外の大企業はサービスデザイン思考の取り組みを組織として取り組んでいるところが多々あります。例えば「世界でも、IBMやSAP(ドイツに本社を置くヨーロッパ最大のソフトウエア企業)、GEなど、現場にスタートアップやデザイン思考などの方法論を活用しつつ、現場に権限を分散させ、顧客と一緒に共創する企業モデルに変わってきている流れがあります。*1」と佐宗邦威氏が述べているように、トップダウンでのアプローチではありますが、現場で受け入れられる土壌がある組織がここに該当します。

B サービスデザイン思考を知っているが、取り組んでいない(取り組めない)

勉強会や書籍などでサービスデザイン思考を知り、企業の現場に取り込もうとする技術者やデザイナーは多くいます。しかし、自社に持ち帰って実践しようとすると、組織の壁に直面して苦戦しているケースがこのB象限に該当します。多くの日本の大企業が、ここから一歩前に踏み出せないでいるというのが現状ではないでしょうか。

C サービスデザイン思考は知らないが、同様の取り組みはすでに行っている

サービスデザイン思考を知らなくても、同様の取り組みを行っていることはよくあります。例えばスタートアップ企業が使用しているリーンスタートアップは、アイデアを素早く形にして実験・検証を行い不確実性やリスクを減らす取り組みで、サービスデザイン思考と本質的なところは同じと言えます。また、任天堂のWiiの開発ストーリーをみると「現場の観察から着想を得て、ゲームがそれまで持っていた常識を飛び越えた新たな経験デザインした *2」とあるように、サービスデザイン思考的な取り組みをしていることがわかります。

D サービスデザイン思考を知らない(もちろん取り組んでもいない)

サービスデザイン思考を知っている人は、世の中に十分周知されているのではないだろうかと思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、さまざまな企業の方々とお話をしてみると、まだまだ知らない人が多いということに気づきます。すでに取り組んでいる人からすると意外と盲点だったりします。私もそのうちの一人でした。

私たちの取り組み

私たちの取り組みとしては、主にDやBあたりの皆さまをターゲットに支援を行っています。Dの象限の方々に対しては、セミナーやワークショップを通じてサービスデザイン思考のよさを体験してもらっています。Bの象限の方々に対しては、コンサルティングやアイデア創出などの支援をさせていただいています。しかし、大企業では「前述の組織の壁」という大きな課題があるため「対話型組織開発 *3」を通じて組織の土壌を耕すというアプローチも並行して行っています。

まとめ

サービスデザイン思考が企業文化として定着する企業はAの象限(図2)に該当しますが、まだまだ少ないのが現状ではないでしょうか。理想的にはDからAに移行できればよいのですが(図3(1))、企業がトップダウンでサービスデザイン思考を浸透する取り組みができない企業では残念ながらDからBに移行するというケースが多いのが現状です(図3(2))。トップダウンで取り組もうとしても、ミドル層以下が受け入れられないケースもあり、その場合はBになってしまうということもあります(図3(3))。Cの場合は比較的Aに移行しやすいのではないでしょうか(図4(1))。というのもCの場合、取り組みが属人的で明文化されていないということがよくあるからです。企業としては、そうありたくないはずなので、プロセスや手法として組織に定着することについては、話し合いの上では好意的に受け入れられます。しかし、現実的には会社の組織や制度の壁があり、結果として現状のままというケースも多々あります(図4(2))。最後になりますが、私たちがお客様の支援をする際に直面する主な象限はBです。主にプロジェクト支援的なケースが多いので、サイロな組織構造や組織文化の壁に直面することばかりですが、できるところからできる範囲で実行しているのが現状です。

サービスデザイン思考が企業文化として定着
図2.サービスデザイン思考が企業文化として定着

組織として取り組めない
図3.組織として取り組めない

組織として移行しやすそうだが現状維持
図4.組織として移行しやすそうだが現状維持

(参考文献)

*1 「働き方改革でチャレンジしづらくなっている」デザイン思考第1人者が語る改革議論への違和感
https://www.businessinsider.jp/post-100838
*2 須藤 順, 「Design Thinking入門」
https://www.buildinsider.net/enterprise/designthinking/03
*3 竹政 昭利, 「サービスデザイン思考と組織開発」Webマガジン, 2017.26
http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1264154_6728.html

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