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ビジネス・イノベーションの土台としての「ファイナンス」
さくら情報システム株式会社

2010年05月号
  • ビジネス・イノベーションの土台としての「ファイナンス」
さくら情報システム株式会社   遠山 英輔

 ファイナンスという言葉は、もともとは「お金を融通すること」を意味するものですが、読者の皆様が思い浮かべるものは様々だと思います。資金の調達や運用も含めた財務、一国の財政、中央銀行の金融政策などはもちろん、オプション理論のような金融工学やストラクチャードファイナンスなどの高度な取引手法を連想する方もいらっしゃるでしょう。金の延べ板の形をした美味しいフィナンシェ(まさに金を融かすお菓子?!)というご意見もあるかもしれません。

 このファイナンスという言葉は時代とともに、また大げさに言えば科学の進歩とともにその意味するところを広げてきましたが、現代的、あるいは近未来的な視点でその本質を捉えなおしてみれば、

  1. Valuation(価値評価) : キャッシュフローを生み出す能力を定量的に評価する
  2. Risk Management(リスクマネジメント) : Value(価値)が変動する蓋然性(Risk)を評価、管理、制御(コントロール)する
  3. Transaction(取引) :ValuationとRisk Managementにもとづき実際の商取引を行う

という3つの要素に整理できるのではないかと考えます。
 言うまでもなくValuationの中心的な概念はNPV(Net Present Value:現在割引価値)になります。これは将来生み出されるキャッシュフロー(の生成能力)を時価表示するもので、ビジネスや企業の価値、金融商品の価格、財務諸表上への記載価額(公正価値)など幅広いものになります。Risk ManagementはこのNPVの変動可能性はどれくらいかを統計学・確率論をつかって定量化し、最適化・コントロールすることと捉えて良いと思われます。さらに、実際の商取引ということになりますが、TransactionはこのValueとRiskを実際に取引する方法論とまとめられます。実務的、制度的、法務的なフレームワークや方法論はもちろん、ディスクロージャーも広義の取引の範疇に含まれると言って良いでしょう。

 ValuationとRisk Managementを考える上では、金融理論(工学)とITの発達を抜きには語れません。ファイナンス理論のフレームワーク自体は「理論的には可能」ではあるけれども実際には高価な画餅に過ぎませんでしたが、ITを活用することで必要なデータを集め加工・計量化することが許容できるコストで可能になってきています。これが、ValueとRiskの取引を可能にしていることは言うまでもありません。こうしてリーズナブルなコストで、金融業界にとどまらず一般のビジネスにおいても、十分にファイナンス技術の恩恵に浴することができる状況になってきています。
 また、リスクについてはビジネスに意味のある形で、実務的かつ必要に応じ定量的にコントロールできるようになってきていることは、もっと意識されて良いのではないかと思います。リスクとリターンをトレードオフとして捉え、取って良いリスクといけないリスクを識別し許されるリスク量(リスク・アピタイト)の範囲内で最大の収益をあげ(リスクリターン)もって企業価値を高める、というプロセスを明示的に経営の中に取り込むことが今まで以上に重要になります。もちろん、取って良いリスクはその企業の競争優位に直結するものであることも言うまでもありません。
 また、IFRS(いわゆる国際会計基準)は、近未来のビジネスのホットイシューとなっていますが、これもまた「文字通り」ファイナンスそのものの話と理解しておくべきだと思います。その中心的な命題は決して「会計基準の国際的な標準化」ではありません。
 IFRSの真髄は、企業のあらゆる資産負債を時価評価してその差額をもって企業価値とする時価ベースの包括利益概念-言い換えれば先にあげたValuationそのものの体系といえます。そして、時価評価(公正価値)という形であらゆるものを開示する必要性(財務諸表の時価感応度の劇的な増大)により、当局対応や制度上やむなく受動的にリスク管理を行う状況から、積極的にリスクコントロールを行いバランスシートをターゲットに着地させる一連のプロセスへと進化してゆくことが要求されます。つまり、会計基準という表層のレベルではなく、根源的なところで経営のパラダイムが転換するという観点で、抜本的なイノベーションが強く求められているものと考えます。

 このようにファイナンスは、もはや「ビジネスの全体像」そのものを規定するものと捉えることが重要になってきています。近年急速な進化を遂げたファイナンス(技術)を、単なる財務オペレーションということではなくうまく経営に取り入れてゆくことがその企業の優位性を規定すると言って過言ではなくなってきているのです。
 リーマンショックは、ファイナンス技術を適切に活用するフレームワークが確立されていない現実の中で起こった苦い教訓であり、ある意味バブルでもあるのですが、常に歴史の中で見られる「同じ過ちを新しいやり方で繰り返す」典型的な例かもしれません。そして、その本質や使い方、さらには手綱捌きが今まさに鋭く問い直されています。
 しかし、これからのビジネスにおいては、こうした愚を繰り返さずに、積極的にファイナンスをビジネス・イノベーションの中心的なドライバーとしてうまく使いこなしてゆくことが、KSF(Key Success Factor)のひとつになろうと思います。ビジネスイノベーションセンターにおいては、こうした視点でファイナンスというものを広い視野で捉え、ITの分野にとどまらずお客様の経営全般の進化・イノベーションに貢献できるような活動を大きなミッションのひとつとすべきもの考えています。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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