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「“Cash is King, Cash Flow is Queen.”(その1) キャッシュフロー再考とValuation」
さくら情報システム株式会社

2010年06月号
  • 「“Cash is King, Cash Flow is Queen.”(その1) キャッシュフロー再考とValuation」
さくら情報システム株式会社   遠山 英輔

 表記の言葉は、ファイナンス、会計、リスク管理、などビジネスのあらゆる領域において金言とされている言葉です。日本においても、「現金掛値無し」「勘定あって銭足らず」「カネは天下の回り物」など、色々な言葉がありますが、洋の東西を問わず同じようなことを指し示しているのではないかと思っています。そして、この言葉はあらゆる意味で経営全般にかかる金言であり、最近におけるIFRS(国際会計基準)やコーポレートガバナンス、リスク管理などの下敷きともなるマントラ(真言)みたいなものではないかと、多少大げさですが思っています。

 私がこの言葉に始めて出会ったのは、アントレプレナーシップ(起業)の本の中でした。ちょっと俗世間や経営に疎い(?)猪突猛進のアイディアマンである起業家(少しステレオタイプですね)に対して、資金という資源の本質や重要性を説いたり強調したりするという含意が強かったように覚えています。ビジネスの立ち上げの際には、初期投資はもちろんなのですが、運転資金の発生によって、現金をどんどん突っ込むCash Burnのステージ(まさにお金を焚き付けに燃やしているイメージですね)を経て、次第に売上(現金収入)によってこれを取り返してゆくというプロセスをとります。これは、アントレプレナーであれ、イントレプレナー(社内での起業)であれ、まったく同じ話です。

 ここで、資金ショートでGame Overとならないための一つのポイントは、資金効率を最大限に高めることです。この点参考にすべき先人の知恵の一つが、三井高利が三越ではじめた「現金掛値なし」商法になります。掛売りをしないことで、資金効率は大幅に良くなり(従って運転資金の調達を減らせる)、現金商法であるゆえに回収のリスクをとらず、それに備えた価格の上乗せも減らせるという一石三鳥となるわけです。

 また、キャッシュにこだわることは、いわゆる発生主義のワナに陥らないことにもつながります。掛け売りによっても、確かに売上も利益も上がりますが、これで認識される利益はキャッシュを伴わず(現金化していない)、運転資金は膨らむばかりか、挙句の果ては回収しそこなったり詐欺にあったりするなどというリスクまでかかえることになります。掛けということにすれば簡単に粉飾も可能です。つまり、掛け売りには、リスク管理、内部統制の問題などさまざまな「影」の部分があることもまた事実でもあります。

 そして、もう一つの問題は、実はその資金調達にかかわる開示の問題になります。起業家、ベンチャーなどにとっては、いわゆるエンジェル(もの好きでリスク投資も厭わない個人投資家)や少しステージか進んでベンチャーキャピタルなどから、いかに資金調達ができるかが成功の鍵になります。その際に投資家に対して発するべきメッセージは、自分のビジネスの儲けの仕掛けと規模、収益性とリスクということになります。そしての共通言語となるのが、その事業が生み出すキャッシュフローの期待値-Valueということになります。

 まさにこの点が、前月号で述べたValuationの考え方でもあります。Valuationでは、会計上の(発生主義的な)収入と支出の現在割引価値ではなく、あくまでも実態として流出入するキャッシュフローを扱い、これを利子率で割り引いて現時点における価値(NPV:Net Present Value/現在割引価値)に引きなおして共通尺度としているわけです。ちなみに、皆さんもおなじみの株価、債券、外国為替、デリバティブ、なども元をただせば、全部このNPVに行き着きます。

 話は若干それるので、別稿に改めて書かせていただくつもりなのですが、IFRSにおいては発生主義(現金主義ではないのです)をとりながら、その「発生」という考え方はキャッシュフローを生み出す能力という視点に立脚していて、それをフレームワークという形で原理主義的なまでに徹底しています。

 たとえば資産について考えてみましょう。従来の(例えば商法に基づく)考え方では、資産価額とは実態的な取引の結果として法律的に定まっている債権金額(まさに帳簿価額)であったり、そこから減価償却など仮想的な費用を差し引いた残余金額であったりするわけです。一方、IFRSの原理でゆけば資産は「経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源」となります。平たく言えば、資産とは将来のキャッシュフローを生み出すものであり、それを持ち続けることによって流入が期待されるキャッシュフローの現在割引価値がその資産の価額であり、これは本質的にはエビデンス(領収書や納品書など)とともに帳簿のどこかに書いてあるというものではないわけです。いわゆる帳簿と、IFRSの求める財務報告の本質的な違いがここにあるわけで、これもまた、Cash Flow is Queenのひとつの断面と言えるのではないでしょうか。

 さて、次回は少し角度をかえて、リスク管理やキャッシュマネジメントの視点から“Cash is King、Cash Flow is Queen”という言葉を考えてみたいと思います。


*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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