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「「決めつけによるお客様視点」の見直しの勧め」
株式会社オージス総研

2010年06月号
  • 「「決めつけによるお客様視点」の見直しの勧め」
株式会社オージス総研   金子 有孝

 IT業界だけでなく、どの業界においても昨今「お客様視点」に立って、物事を考えていく、提案をしていくことが主流になっています。「お客様視点」という考え方は、システム開発をエンジニアの間にも、少しずつ浸透しつつあります。一番分かりやすいところでは、ユーザーインターフェースである画面設計や操作性の部分については、「お客様視点」つまり利用者が分かりやすい入力画面又は参照画面のレイアウト、入力補助機能を搭載することによる操作性の向上を心掛けてきました。
 「お客様視点」と言っても色々な角度や考え方がありますが、システム設計・開発を行う立場でもある私自身、「お客様視点」について、最近考えさせられることがありました。事例を紹介しながら、「お客様視点」を考えてみたいと思います。

- 事例1:「取消」という行為とは?

 物流部門から「販売店様から出荷の取消を行ったとの連絡があった。しかし、出荷の取消は受けていない。データを調べてもらえないか」との問合せがありました。このシステムでは、出荷の依頼は「出荷承認」を受ける必要があります。出荷の「取消」・「変更」についてもそれぞれ「承認」を受ける必要があります。物流部門としては「取消を行った」との連絡を受けているので、「取消」としてデータを承認しようとしますが、対象のデータが画面に表示されません。そこで、前述した問合せがあったというわけです。
 このシステムでは、オンライン・バッチで更新された履歴はオペレーション履歴として変更前後のデータが記録される仕組みですので、簡単に調査することができます。そこで、対象のデータを時系列に調査してみると、実は、販売店様が行った行為は出荷日の「変更」だということが分かりました(出荷日を2010/04/21を2010/05/17に変更していた)。
 ここで考えていただきたいのは、なぜ販売店様は「取消をした」と言ったのでしょうか。行為としては、出荷日の「変更」なのですが、販売店様は、出荷日変更を、“出荷日:2010/04/21のデータを「取消」して、出荷日:2010/05/17を改めて「依頼」をした”と認識していたということです。
 確かに考えようによって「変更」は、変更前を「取消」して変更後を再度「新規に依頼」というように捉えることができます。実際、このように処理されるシステムも存在します。が、このシステムでは、「取消」とは出荷依頼そのものの「取消」であり、出荷はされるが、出荷日等の出荷に関連する変更は、「変更」として扱う為、承認ルートが異なるシステム(実際にはデータのステータスが異なる)になっています。
 これを「お客様視点」で考えてみると、「変更」を“変更前を「取消」して変更後を再度「新たに依頼」すること”とお客様(=販売店様)が考える事などないと決めつけていると言えるのではないでしょうか。

- 事例2:依頼はライセンス取得のみ?

 この例は、開発で使用するPCの調達依頼の場面で発生したものです。通常、業務で使用するPCのOSは、ライセンス・サポートの関連で統一されています(今回の場合はWindowsXP)。が、開発依頼元のPCは、来年度にはWindows7に移行するとの情報を得て、現在のプログラムを含め、提供する機能が問題なく、動作するかを確認する必要が発生しました。そこで、開発部門からPC調達部門にWindows7のPCの調達を申請しました。申請書には、標準OS(WindowsXP)以外のOSを申請する場合は、対象のOSが記載されている部分にチェックするだけです。申請が決裁され、数日後にPCが届きました。
 PCを起動して、驚きました。何と起動されたOSは標準のWindowsXPです。即、調達部門に確認の電話を入れると、「Windows7のライセンスは取得していますので、Windows7を使用することはできます。」とのこと。調達を依頼した側(=調達部門から見てお客様)からすると、申請時のOSに「Windows7」を指定しているので、当然、送られてきたPCのOSはWindows7だと考えているわけです。しかし、調達部門は、標準OSがWindowsXPだからということで、実はわざわざグレードダウンをしてWindowsXPをインストールしたようです。ここでも、標準OSはWindowsXPだから申請のWindows7はライセンスだけで良いと決めつけていると言えます。

 事例1の場合、決めつけていなければ、出荷日更新後のメッセージを工夫したり、操作マニュアルを工夫したりすることによって、「取消」という概念は、販売店様(お客様)、物流部門、開発側を共通認識に導けたのではないでしょうか。事例2の場合、決めつけていなければ、「インストールをするのか、ライセンス取得のみかを確認する」という行為が取れたのではないか。又は,申請書に「インストールするか、ライセンスのみか」をチェックする欄を設ける工夫ができたのではないでしょうか。大にして、このような場合、我々は「想定外」という言葉で逃げてしまっているように思われます。
 お客様の行動・考え方を勝手に決めつけて「お客様視点」を考えていないだろうか。「お客様は普通、こうやるものでしょう」とか「お客様は普通、こう考えるでしょう」という決めつけが、それ以上の改善の発想ができなくなるということではないでしょうか。

  • こういう特殊なお客様もいるのではないか 。
  • こういう勘違いをしてしまうお客様もいるのではないか 。
  • こういう事情を持ったお客様もいるのではないか 。
  • こういう文化の違いを持ったお客様もいるのではないか。

 お客様の行動・考え方を「決めつける」のではなく、常に考え、常に観察しておくことが必要だと思います。一度皆様が考える「お客様視点」をこんなお客様もいる、あんなお客様もいる、という観点で見直してみてはどうでしょうか。今以上の改善・発想が生まれてくるのではないでしょうか。


*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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