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「証券STPの進展 第二回」
株式会社オージス総研

2010年07月号
  • 「証券STPの進展 第二回」
株式会社オージス総研   有間 博道

前回は「証券STPに関する近年の状況」と「証券STPの定義」について、記述させて頂きました。今回は「証券STPの概要」について記述させて頂き、次回の「証券STPのメリット」「証券STPの課題」へ繋げたいと思います。 尚、本文中、意見に当たる部分は、筆者の私見であることを予めお断りしておきます。

1.証券STPの概要

証券STPは、証券取引の発注・約定から照合・清算・決済までの一連のプロセスを、標準化されたメッセージ・フォーマット等により、システム間を自動的に連動させることによって、可能な限り人手を介すること無く、電子的な情報の流れとしてシームレスに処理すること。と定義されています。

【証券STPの概念図】: 資産運用会社/証券会社を中心に見た国内商品取引の場合
図1 証券STPの概念図: 資産運用会社/証券会社を中心に見た国内商品取引の場合

上図は、資産運用会社/証券会社を中心に見た国内商品取引の場合の証券STPの概念図です。
STPは、内部STP(Internal STP)と外部STP(External STP)に分類する事が出来き、その両方を実現しなくては、真のSTPを実現する事になりません。
証券STPに関連する登場人物(アクター)は、多岐に渡っています。
STPは一気通貫に処理を行う仕組みですので、全ての登場人物がそれぞれ重要な働きをし、誰にフォーカスを当てて記述するかで、STPの概念図(表し方)は異なります。
ここでは、筆者が長くシステム構築又はその支援をさせて頂いてきた、資産運用会社と証券会社を中心に概念図を記述させて頂いています。
国内株式の取引を行った場合を例とし、業務の流れを追いながら「証券STPの概要」について、記述して行きたいと思います。

2.証券STPの業務の流れ(概要)

  1. 資産運用会社(バイサイド)
    1. 各ファンドのポートフォリオ戦略、状況に応じて、どの銘柄をどの様に取引(売買)するかを決定します。 「売買案件作成システム」を用いてファンドマネージャやポートフォリオマネージャが注文の基本情報を作成します。
    2. 証券会社への注文執行を管理する「EMS:Execution Management System」へ情報を中継します。(社内STP)
    3. 資産運用会社のトレーダは、執行能力、手数料などを基に最適な証券会社を選択し、注文を執行します。
    4. 上記の注文は、電話、Faxやメールなどによる注文を行うか、EMSのFIXエンジンの機能、又は各EMSの独自のプロトコルによる連携機能を利用し、電子的に証券会社に中継されます。(社外STP)
※資産運用会社のシステムも他の金融機関のシステムと同様に、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスのシステム構成になっている事が多く、売買案件作成システムとEMSを合わせてOMS(Order Management System)と呼び、フロントシステムに位置づけられます。
  1. 証券会社(セルサイド)
    1. 証券会社のトレーダー(セールトレーダー、セルサイドトレーダー)は、資産運用会社からの注文を受取り、事前の資産運用会社との決めに基づいて「計らい[1]」又は、「アルゴリズムトレード[2]」で注文を執行します。又、資産運用会社からDMA(Direct Market Access)で執行された注文は、証券会社で必要最低限のコンプライアンスチェックを自動で行い、即座に市場(取引所など)に中継されます。
    2. 証券会社では、OMSと市場注文を執行するシステムが自動で連携されています。 (社内STP)
    3. 更にFIX又は各取引所の独自の中継プロトコルを用いて、取引所のシステムに自動で情報連携されます。(社外STP)
  2. 取引所
    1. 取引所では各証券会社から執行された注文を受信し、その注文条件を勘案しながら、価格優先・時間優先の原則に基づき、取引を成立させて行きます。
    2. 成立した取引は、「出来」情報として、各証券会社に送られます。(社外STP)
  3. 証券会社(セルサイド)
    1. 市場からの出来情報もOMSが管理し、資産運用会社へ情報連携します。
      資産運用会社からFIXで連携された注文は、取引所からの出来情報もFIXで自動送信される事が多く、殆ど人手は介さない形になっています。
      サードベンダーのOMS又は取引連携システム経由で出された注文は、証券会社内で、人手によるチェックなど若干の手作業が発生する場合が多く、完全にSTP化されていない面もありますが、かなりの部分は自動化されており、STP化が進んで来ています。
      今後、バスケット発注やアルゴリズムトレードは益々増加する傾向にあり、人手による管理は限界を迎えて来ますので、更なる自動化の促進が望まれます。
  4. 資産運用会社(バイサイド)
    1. 資産運用会社では、出来情報を基に必要に応じて「配分指図」を証券会社に送ります。(複数ファンドの注文を纏めた「大口注文」「一括注文」の場合は、アロケーションを行うために配分指図が必要となります)
    2. 配分指図も、OMSや取引連携システムの機能を用いて、電子的な情報として連携できている場合(社外STP)が多くなっていますが、電話、Faxやメールなどによる情報伝達が残っている場合もあります。
  5. 証券会社(セルサイド)
    1. 証券会社のミドルオフィスシステム(又はOMSが行う場合もある)では、受取った配分指図を基にアロケーションを行い、手数料計算を実施します。
      フロントシステムとミドルシステムの情報連携も社内STPが整備され、自動化されてきている場合が増えて来ていると思います。
    2. その結果をコンファメーション情報として資産運用会社に通知します。
      その際も、OMSや取引連携システムの機能を用いて電子的に情報を連携できる場合(社外STP)と、Faxやメールなどによる情報伝達が残っている場合があります。
  6. 資産運用会社(バイサイド)
    1. 資産運用会社は、送られてきたコンファメーションを確認し、必要に応じてアファメーション(承認)を証券会社に返します。
      アファメーションについても、取引連携システムを用いて電子的、自動的に実行可能なものもあります。
  7. 保管振替機構、受託銀行
    1. 保管振替機構の「決済照合システム」を利用している場合、証券会社、
      資産運用会社は売買報告と運用指図を保管振替機構に送ります。(社外STP)
      保管振替機構では、売買報告と運用指図を基に約定照合を行い、照合O.Kの情報は受託銀行へ連携し、N.Gの情報は証券会社、資産運用会社へ通知します。(社外STP)
      約定照合がO.Kとなった情報は、受託銀行で売買報告の承認がなされます。承認がO.Kなものは、決済照合システムで決済指図データが自動生成され、自動で決済照合されます。(社内STP)
      その結果は、証券会社、受託銀行へ決済照合結果として通知されます。(社外STP)
    2. 「決済照合システム」を利用していない場合、証券会社、資産運用会社は取引報告と運用指図を受託銀行に送ります。(社外STP)
      受託銀行では、取引の照合や、決済を実施し、その結果を資産運用会社、証券会社に送信します。

※上記は、ほんの一例であり概要です。証券の取引は、まだまだ、色々なバリエーションがあり、処理も複雑です。STP化しずらい部分や、費用などの問題から手作業が残っている部分はまだまだ散見されます。しかし、日本の市場をより魅力的にし、国際社会に遅れを取らない市場にするためには、効率的な市場であること、事務リスクの低い市場であること、独自の商習慣が少なく開かれた市場であることは必須の条件であります。
証券STPを実現して行く事は、その課題を乗り越えて行くために必須の事項と思います。

※前述しましたが、STPに関連する登場人物(アクター)は、多岐に渡っています。但し、現在では、まだその登場人物は、金融のプロに限定されています。今後、金融取引・決済について金融業界のSTP化が進み、これが金融の利用者である一般事業会社で利便性が追及され、商流と金融EDIの一気通貫が実現されると、更に登場人物は多岐に渡る様になります。登場人物がプロに限られている今の内に、確固たるSTP地盤を作る事が急務なのではと感じています。

【ご参考:資産運用会社のシステムとSTP (例)】
図2 資産運用会社のシステムとSTP (例)

 (注)
[1] 計らい(注文)
一定の値幅をもたせた売買注文で、証券会社のトレーダーが、事前に決められた範囲内で、その裁量で注文執行が出来る形態。例えば、相場の状に応じて、注文株数をスライスしタイミングを見計らって注文を行うなど。

[2] アルゴリズムトレード
証券会社が顧客である機関投資家に対して、特定のロジック(アルゴリズム)に従って動作するトレーディングシステムを提供する。VWAPやISなど戦略に応じて、幾つかの方式が存在する。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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