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「証券STPの進展 第三回」

2010.09.01 株式会社オージス総研  有間 博道

前回までに「証券STPに関する近年の状況」「証券STPの定義」と「証券STPの概要」について記述しました。今回は「証券STPのメリット」について、記述させて頂きます。
尚、本文中、意見にわたる部分は、筆者の私見である事を予めお断りしておきます。

1.証券STPのメリット

  1. 自動化による事務リスクの軽減
基本的な処理を自動化することによって、事務担当者はイレギュラーな処理、エラーが発生した場合のみチェック・対応を行う様になるので、人的ミスが大幅に減少し、事務リスクが軽減されます。
何から何まで自動化するのでなく、適切なチェックポイントを設け、処理状況を簡単に確認でき、障害が発生した場合は、可能な限りシンプルに対応が出来るように業務フローとITシステムを構築する必要があります。
また、証券決済に至る各ステップで恣意性が働く事が激減されるため、不正データの混入の危険性を大きく低下する事が可能となります。
  1. 業務の効率化によるコスト削減
適切なシステム化を行う事で、事務担当者の作業が大幅に削減されるので、その事務担当者が別の作業を行ったり、事務担当者の最適配置を行なったりする事が可能となります。
注文・約定から決済にいたるバイサイド、セルサイドの証券業務は、各々が高度なスキルを要求される専門業務であり、事務コストは決して安いものではありません。事務の最適化によるコスト削減は、IT化の投資コストよりも大きいと考えられます。
  1. 決済リスクの軽減
注文から決済までの時間が短縮できれば決済リスクが軽減できます。
証券決済リスクの量(大きさ)は、取引金額と決済までの期間で決まり、証券決済リスクのエクスポージャーは、以下の式で表されますので、期間の短縮は決済リスク軽減に直結します。

エクスポージャー = 取引金額 × 取引発生から決済までの期間

※ エクスポージャー:リスクにさらしている資産の度合い
※ STP化は期間短縮の必要条件です。実際に期間を短縮するには、商習慣の見直しや法制度の整備なども必要となります。

2.証券STPの更なるメリット

  1. ビジネス機会の増大
事務リスクが軽減され、業務が効率化する事は、ビジネス機会の増大、ひいては収益に拡大に繋がると考えます。
証券会社などのセルサイドでは、STP化(内部STP)が遅れている事で、機関投資家からの大規模な注文を受けられずビジネス機会を逸してしまった事があるのでは無いでしょうか。
大きな金額で沢山の銘柄をバスケット発注する場合、非常に多くの作業と処理を必要とします(前回の「証券STPの概要」の業務の流れをご参照下さい)。
例えば、500銘柄×50単位のバスケット発注があるとすると、それに関する事務を、STP化されていないシステムを使って捌くのは、殆ど不可能に近いと思いますので、この注文を受ける事が出来ません。しかし、この注文を確実に執行した場合の手数料収入は決して低いものではないと考えます。
機関投資家からの発注に関する約定事務は限られた短い時間(15時から1時間弱の間)に集中し、その間に殆ど全ての顧客に関する事務を行わなくてはならないので、STP化の遅れは益々ビジネス機会を逸する事になります。
また頑健で適切な事務を行なう事は、証券会社のブローカーズポイントの向上に繋がりますので、必然的に機関投資家からの発注も増加します。
機関投資家などのバイサイドにおいても、事務リスクが軽減され、業務が効率化する事は、取引執行の確実性が向上し、確実にポートフォリオを構築する事に貢献します。
  1. 証券市場の国際競争力の確保
STP 化への対応の遅れは、日本の証券会社やカストディ業務を行う金融機関が、国際的な証券取引業務からの退出を余儀なくされる恐れがあるほか、日本の証券市場の国際競争力の低下にも繋がるという事をよく耳にします。
近年、日本の証券市場の国際競争力が低下の傾向にあるのは、周知の通りだと思います。しかし、日本には素晴らしい技術を持った企業や世界に誇れる優秀な企業が沢山あります。日本の証券市場の潜在能力はこんなものじゃないはずだと信じています。そのためにも、STP化を含めた市場競争力回復の施策を実施する事が急務だと思っています。

※カストディ業務:
カストディとは「保管」を意味し、信託銀行などでの有価証券の売買取引管理、 残高管理、権利管理などに関する業務の事。

※※ 今回は、証券STPのメリットばかりを記述しましたが、次回は証券STPの課題と証券STPの今後について記述し、「証券STPの進展」の纏めとしたいと思います。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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