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「ALM(Asset Liability Management)の考え方 (その1)」
さくら情報システム株式会社

2010年09月号
  • 「ALM(Asset Liability Management)の考え方 (その1)」
さくら情報システム株式会社   遠山 英輔

今回からは、銀行ALM( Management:資産負債総合管理)の考え方を少し一般化しながら、IFRSにおける財務戦略まで視野に入れてお話を進めたいと思います。数回にわたりますが、アジェンダとしては下記を考えています。どうぞ、お付き合いください。

<アジェンダ>
1.ALMのターゲット
2.組織と態勢の設計
3.PDCAサイクル(銀行ALMの実際)

1.ALMのターゲット

銀行におけるALMは、1980年代のアメリカにおいて当時のボルカーFRB議長による高金利政策の結果として、多くの金融機関で逆ザヤ(※)が発生し、倒産が多発したことに端を発しています。こうした背景の下で、銀行ALMの主要なテーマは、運用と調達のミスマッチとこれについて回る金利リスクと資金繰りリスクの管理ということになりました。

(※)特に中小の金融機関において、住宅ローンなど長期の運用を預金などの短期調達でまかなっていたところ、短期金利が長期金利を上回る「長短金利逆転」現象が続いたため。

ただ、前にお話をした「バランスシートマネジメント」的な視点で行くと、銀行以外の業態においてALM手法の適用を考えるには、この入り方はやや唐突な感は否めないと思います。そこで、もう少し一般化して整理するにあたっては、IFRS(国際会計基準)の求める包括利益から入るのが適当ではないかと、筆者は考えています。

包括利益 企業価値の変動(資本の部の変動)
いわゆる期間損益 + 含み損益
資産価値の変動-負債価値の変動
包括利益の意味
図1 包括利益の意味

この恒等式は、きわめて色々な含意に富むものですのですこし詳しく見てみましょう。
経営目標を企業価値の最大化におけば、包括利益が経営管理のターゲットとなることは自明となりますが、これが今までのいわゆる当期利益(期間損益)重視の考え方と異なることが第一のポイントとなります。極端な言い方をすれば、今までは経営者が当期利益の最大化を目指すため、これを過大なリスクや含み損と引き換えに実現する(例えば仕組債のなかにはこうしたスキームになりかねないものが散見されます)などいびつなオペレーションの誘因が内包されていたと考えられます。一方で、包括利益概念のもとではより長期の、そして本業にフォーカスした企業価値向上を目指しそれをそのまま投資家に開示するという健全な流れに自然となってくるものと期待されます。
この包括利益は、先の恒等式のとおり資産価値の増減と負債価値の増減の差分ということになります。ここで、「価値の増減」というのが第二のポイントになってきます。つまり、これはバランスシートにおける絶対額に必ずしもフォーカスしているのではなく、その価値の増減、言い換えればリターン(価値の増加)とリスク(リターンのブレ)にフォーカスしている点に留意が必要になります。この概念から逆算した言い方をすれば、銀行においてはこの増減においてクリティカルなものが

(1) 円資金(バンキング勘定)の長期運用・短期調達に伴うミスマッチ(金利リスクと資金繰りリスク)
(2) 投資有価証券・外貨資産の価値変動(市場リスク)
(3) 貸出資産の価値変動(劣化の可能性=信用リスク)

となるので、ALMの対象になっていると整理することができます。((3)については実務上通常は狭義のALMには含まれず「信用リスクマネジメント」として別立てで扱われますが、本質的にはALM、バランスシートマネジメントの範疇に属する話と考えられます。)

このように考えると、ALM、あるいは包括利益概念の下での経営管理を考える場合に何をターゲットにすべきであるかということについては、自ずから答えが出てきます。一言で言えば包括利益へのインパクトが大きく、その企業の本業、存在意義、競争優位の源泉などに深くかかわるものであって、リスクリターンの源泉となるバランスシート項目という整理がまずはできます。
航空会社における世界景気や原油価格、製薬会社における研究開発中の薬のポートフォリオ、ビール会社における天候リスク、衣料品メーカーにおける流行(在庫リスク)、などなどの業態横断的なマクロ要因、個々の企業の業界における立ち位置や差別化ポイントなどのミクロ要因に応じて、個々の企業が、自社の収益の源泉、クリティカルなリスク、これらを体現するバランスシート項目などを見据えて、ALMのターゲットを設定する必要があります。
また、筆者はこうした点で、銀行など金融機関以外の業態がALMを考えるにあたって、金融機関の方法論を参考にする余地は大きいのではないかと考えています。これは、一部は前にも書きましたが、

(イ) 金融機関が非常に直接的な意味で「バランスシートそのもので商売する」業態であること
(ロ) 金融庁マニュアルなどの規制体系がいわゆるCOSOの内部統制フレームワークそのものであり、やや細かすぎる点はあるにせよモデルにはなりえること
(ハ) リスクリターンの考え方がストレートに体現されていること

などが、その根拠になります。もちろん、金融機関のALM自体は実際の商売上では改善余地が大きく、むしろ他業態の経営管理の考え方をいれて進化し続けることが必須条件であり、お手本というよりも方法論のまだまだ拙い参考という域を出ないことも強調しておきたいと思います。次回はこうしたターゲットの考え方をベースに組織・態勢の設計から議論を深めたいと思います。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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