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「スマートグリッド社会成熟度モデル(4)」

2010.10.06 株式会社オージス総研  乾 昌弘

 今回は、めざすスマートグリッド社会と施策及びサービスによる影響について説明をおこないます。

1. 住宅地域でめざすスマートグリッド社会

 スマートグリッド社会成熟度モデルが目指しているスマートグリッド社会を整理して解説します。
 そのため、レベル5の内容を改めて整理し、目指す社会を具体化しました。(表1を参照)ここでは、「基本方針」「付加価値サービス」の項目を新たに付け加えました。

(1)「基本方針」

 非常に重要な項目で、住民生活の快適性は維持する。無理をさせない環境を整えることです。分散電源と電力系統、蓄電池をいろいろなライフスタイルに合わせながらコントロールすることが大切なのです。

(2)「付加価値サービス」

 まず考えられることは、「見える化」「HEMS」の利用です。少子高齢化で一人暮らしのお年寄りが増えるため、家族・親戚が、電気や熱使用量をモニターすることにより、状況把握ができるサービスが普及することが考えられます。また、外部から携帯端末を使って、HEMSの制御もできるようになります。米国では、エアコンをつけ放しにして外出することが多く、効果が大きいと言われています。日本でも帰宅10分前にエアコンなどが操作できれば、快適性は増すと思います。
 その他、セキュリティサービスなど多種多彩なサービスが普及する可能性があります。セキュリティ(付加価値)サービスは、元々治安の悪かった米国で広がっているようです。ちなみにインターネットや携帯電話では、普及する前に思ってもみなかったサービスが登場しています。

表1.めざすスマートグリッド社会(住宅地域)[1]
めざすスマートグリッド社会(住宅地域)

2. 施策及びサービス(ビジネス)による影響

(1)分散型電源の特徴

 分散型電源はスマートグリッドにとって非常に重要な要素です。しかし、再生可能エネルギーは化石燃料とは違い広く分散しているために、効率よく発電することが難しく変動が大きいのです。また、高効率給湯器は、導入費用が割高です。従って、これらを普及させる施策が必要となります。

(2)施策の例

 例えば、太陽光発電に対しては「住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金」「再生可能エネルギー電力買取制度」があり、高効率給湯器に対しては、「高効率給湯機器導入支援事業」「民生用燃料電池導入支援補助金事業」さらに発展途上にある燃料電池に対しては、NEDO主体の技術開発や事業が行われています。

(3)施策及びサービスによる影響の関係

 図1に施策及びサービスによる影響の関係を示します。分散型電源の状況に応じて、系統電力のデマンドの増減がそれぞれあります。これは、一日を通しても刻々と変わるものです。従って、施策やサービスをうまくコントロールして系統電力に対するデマンドを平準化するようにもっていかなければなりません。前号でも述べましたように時間帯別料金を設定して運用する必要が生じます。また、住民が行動を起こせるようにエネルギーの見える化も必要です。うまく平準化に成功すれば、電力会社もより効率的な発電が行えるようになり、発電コストを下げることもできる可能性があるのです。
 また例えば、平成24年度に向けて住宅用太陽光発電は、余剰買取りの継続が決まりました。もし全量買取りに変更されれば消費行動は違ってきたでしょう。省庁間でうまく連携することも必要になると思います。

施策及びサービスによる影響の関係図
図1 施策及びサービスによる影響の関係図[1]

(4)特区の可能性

 成熟度モデルのレベルを上げるために、例えば、レベル1~3の地域では(小)特区に指定され、規制緩和や補助金交付が実施されるのも、一つの方法です。そうすれば、成熟度モデルの位置付けもより一層重要になると思います。

(5)セキュリティ

 スマートグリッドで言われている大きな課題のひとつが、サイバーテロやセキュリティ問題、個人情報漏洩です。住宅の電気消費量データが盗まれるような事があれば、いつ留守にしているのかわかってしまいます。また、データを解析することによって、家族構成や行動を推測できるかもしれません。
 サービスが普及するにつれてリスクが高まり、対策を強化する必要性が生じます。米国の標準化団体であるNIST(National Institute of Standards and Technology)が今年の1月にSmart Grid Framework and Roadmap 1.0をリリースしました。この中にはサイバーセキュリティガイドラインも含まれています。

この続きは、次号で行います。

(※)以下の文献を参考にしました。
 (参考文献)
[1] 乾、宗平「スマートグリッドが与える社会システムへの影響についての考察」2010年日本社会情報学会合同研究発表大会、2010年9月4日、5日

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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