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「スマートグリッド社会成熟度モデル(5)」

2010.11.09 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1. 目指すスマートグリッド社会とSGMMとの関係

 カーネギーメロン大学のSGMM(Smart Grid Maturity Model)の目的は、事業者(ユーティリティ企業)がスマートグリッドに対する能力を達成するために、今後の戦略及びプランを確立するための場面を提供すること、つまり、ユーティリティ企業の成熟度評価モデルです。
 このモデルでは、以下の8つのAreaについてレベル1~5(表1を参照)に分け、主にスマートグリッドを運用する事業者(ユーティリティ企業)が達成すべき内容が記述されています。

 (1) Strategy, Management, and Regulatory(戦略、マネジメント、規制)
 (2) Organization and Structure(組織)
 (3) Technology(技術)
 (4) Societal and Environmental(社会と環境)
 (5) Grid Operations(スマートグリッドの運用)
 (6) Work and Asset Management (仕事と資産管理)
 (7) Customer Management and Experience(顧客管理と顧客の経験)
 (8) Value Chain Integration(バリューチェーンの統合)

表1.SGMMの5レベル
SGMMの5レベル
「SEI Smart Grid Maturity Model Definition v1.0」より引用

 レベル1~レベル4では、事業者(ユーティリティ企業)と社会システムで同じ評価項目内容でも成熟度レベルが異なることがありえます。従ってレベル5どうしが、めざす社会とどのように関係しているか考察してみました。

表2は、SGMMのレベル5での評価項目のうち、めざす社会内容と直接関係してくる内容の抜粋です。
(A) スマートグリッドが可能になった結果、新しいビジネスモデルを同定して、実装したことがあるか?という質問ですので、「HEMS」の時間帯別料金に対応させました。
(B) 新しいベンチャー、製品、サービスが出現した時、それらをサポートするために組織を変えることにより、対応できるか?―――>「付加価値サービス」に対応できます。
(C) 自律型のコンピューティングあるいは、機械学習の機能はあるか?―――>「HEMS」に対応させました。
(D) 顧客に応じた分析やアドバイスができるか?―――>「見える化」に対応させました。
(E) 顧客が自分の使用量をコントロールできるか?―――>「HEMS」に対応させました。
(F) 使用に関して、顧客にリアルタイムに近いデータを提供しているか?―――>「見える化」に対応させました。
(G) (エネルギー源をミックスした形で)顧客は末端に至るまでエネルギー供給と利用レベルのコントロールができるか?―――>「分散型電源」「地産地消」に対応できます。
(H) (インターネットによる請求や制御など必要なサポート基盤を含む)プラグアンドプレイによる顧客による発電をサポートしているか?は「分散型電源」「地産地消」に対応できます。

  参考までに、表3にSGMMのうちその他の評価項目例を載せておきました。

表2.SGMM レベル5とめざすスマートグリッド社会の関係
SGMM レベル5とめざすスマートグリッド社会の関係
「SEI Smart Grid Maturity Model: Assessment Survey, v1.0」より引用

表3.レベル5におけるその他の評価項目の例(参考)
レベル5におけるその他の評価項目の例(参考)
「SEI Smart Grid Maturity Model: Assessment Survey, v1.0」より引用

2. 目指すスマートグリッド社会と標準化との関係

 標準化というのは、2つの理由で特にスマートグリッド社会において重要です。

(1) スマートグリッド社会では、多くの企業が参入して、お互いに関係し合いながらサービスを提供していきます。全体を問題なく運用するためには、お互いのハードウェアあるいはソフトウェアがうまく連動しなければなりません。そのために標準化が非常に重要となります。

(2)部品が非常に多くなりますが、標準化されるとコストダウンが容易になります。

 日本の標準化の目的は、国内普及だけでなく国際展開もめざしています。従って、米国のNIST及び、欧州のIECにも日本のメンバーが参加しています。経産省の次世代エネルギー社会システムに係る国際標準化研究会では、米国のNIST(National Institute of Standards and Technology)のユースケースを参考に、

  (1) 送電系統広域監視制御システム
  (2) 系統用蓄電池
  (3) 配電網の管理
  (4) デマンドレスポンス
  (5) 需要側蓄電池
  (6) 電気自動車
  (7) AMIシステム

の事業に仕分けられました。さらに26の重要アイテムの抽出を行い標準化を推進しています。

表4.重要アイテムの中で今回の内容に関係する項目
重要アイテムの中で今回の内容に関係する項目

3. スマートコミュニティアライアンス

 NEDOが事務局になり、今年4月にスマートコミュニティアライアンスが発足しました。目的は大きく次の2つです。

(1) 世界規模で市場が見込まれるスマートグリッドを核としたスマートコミュニティ関連市場に、日本企業が積極的に参画出来るようにする。

(2)官民連携によるスマートコミュニティの実現に向けた、共通の課題に取り組む。

 具体的な活動拠点として4つのWGがあります。

(1) 国際戦略ワーキンググループ
 国内外の動向把握、情報共有、オールジャパンとしての情報発信を図り、日本企業の国際展開を促進するための施策等の検討

(2) 国際標準化ワーキンググループ
 経済産業省「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」で示された戦略の実現に向け、分野毎に具体的な取り組みを進めるとともに、欧米等を中心とする国際標準化の動向の把握やこれらとの連携を図り、国際標準化の獲得に向けた対応

(3) ロードマップワーキンググループ
 スマートグリッドに関連する様々な技術のロードマップの策定、及び、これらの導入・普及が進んだ次世代社会の絵姿を示すことで、技術開発・普及の相乗効果を図り、社会システムとしての展開を促進

(4)スマートハウスワーキンググループ
 スマートハウス関連技術の早期事業化に向けて、家庭エネルギー情報を活用し、基本サービスとして 「見える化・評価」を実現する情報系インフラ(プラットホーム)の検討

 参加企業は約500社で、イベントとして、訪米ミッション派遣、国際ワークショップ、展示会など行われています。

(参考文献)
[1] 第3章は、http://www.smart-japan.org/ を参照しました。

 第1章及び第2章は、以下の文献を参考にしました。
[2] 乾、宗平「スマートグリッドが与える社会システムへの影響についての考察」2010年日本社会情報学会合同研究発表大会、2010年9月4日、5日

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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