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「「お元気様です」のIFRS」
さくら情報システム株式会社

2010年12月号
  • 「「お元気様です」のIFRS」
さくら情報システム株式会社   遠山 英輔

「お元気様です」のIFRS

 最近の風潮なのか「お疲れ様です」という挨拶をこのところよく見聞きします。仕事上がりの「お疲れ様でした」は達成感のある言葉で私は好きなのですが、「おはようございます」の代わりとかメール冒頭の「お疲れ様です」って後ろ向きで微妙なものがありますね。少数意見かもしれませんが、朝一番からこの挨拶が飛び交うようだとメンタルヘルス上の観点からも、ちょっと考えてみたほうが良いかもしれませんね。
 京セラでは、稲盛会長の号令のもと「お疲れ様です」はご法度、「お元気様です」があいさつとか。口にするにはかなり勇気がいりそうですが考え方には大賛成です。宝塚の「ご機嫌よう」みたいな感覚ですね。

 さて、本題になりますが、10月初頭に日経新聞の一面に出た特集記事「揺れる企業会計-IFRS導入の課題」は、日本の財界の愚痴っぽい「お疲れ様です」気分に迎合しているようにも見えました。見出しに曰く、

- 欧米主導の基準統一:時価評価を重視、理事数は9対1
- ものづくりの戸惑い:財務強化の動き、経営を振り回す
- まとまらない産業界:利点少ない中小、業種で見解に差
- 投資に役立つ基準か:信用低下で利益? 包括利益に疑問

 カラ元気と精神論でがんばろうというつもりはさらさら無いのですが、この記事のようにあたかもIFRSを厄介者扱いする、まさに「お疲れ」なだけのメンタリティーはいただけないと思うわけです。(案の定、この連載は竜頭蛇尾で自然消滅(?)したようです。)その意味で日本のマスコミや財界などはやや受身で、言うべきことを十分に発信仕切れていないかもしれません。
 もちろん、こうした受け止め方の背景は、想定される負荷に比べて利益実感が伴わないということに尽きるのは間違いないところと思われます。決算書の国際的な比較可能性といった議論も、日本というガラパゴスの中で、外国人投資家に株を買ってもらわなくてもいいよ、と思っている分には、痛くも無い(本当は痛い?) 腹を探られるだけという感覚もあるかもしれません。外から黒船のようにルールを押し付けられるという無力感もあるかもしれません。

 ただ、一方で現在IFRS vs. FASB(欧州vs. 米国)のホットコーナーの様相も見せている金融周りでは少し異なる風景も見え隠れしているように思います。例えば、貸出などにおける実効金利法について当初IFRSはきわめて先鋭的な案を提示していましたが、特に信用コストを実効金利に反映させる手法の実務的困難さが議論となり、現実的に受け入れ可能な方法論に向かう芽も見えています。Basel II(注1)の関係もあり各国の金融当局も巻き込んだ話ということで例外的かもしれませんが、受身の対応からは引き出せない一つの成果として期待したいところです。
 金融業界においては、WEBマガジン9月号の「ALM (Asset Liability Management)の考え方 (その1)」でも論じましたが、包括利益概念がALMやリスク管理と平仄をあわせやすいものになろうと筆者は期待しています。非常に大雑把にいえば、金融機関はバランスシートそのもので商売をする典型的な業態であり、商売ネタの資産負債を評価し(Valuation)、そのブレ(Risk)を管理し、この業務プロセスをそのまま包括利益に集約して開示するという意味で、IFRSはきわめて親和性の高い開示の方法という前向きな評価もできようかと思います。(図1ご参照)

 

包括利益概念とValuation/Risk計
図 1 包括利益概念とValuation/Risk

 特に、保険業界においては、経済価値ベースという考え方で経営管理を高度化してゆこうという考え方はコンセンサスになっており、特に業界固有の負債項目でもある「責任準備金」の評価の高度化などが、次期ソルベンシー規制(注2)のポイントにもなっています。この業界では、規制が先行してそれと親和的なIFRS4が続くという図式で考えることができそうです。(この点、銀行業界の規制であるBaselIIは、ソルベンシー規制に比べて、包括利益的な(経済価値ベースの)視点からは、IFRSとはやや隔たりも残るように思われます)

(注1) 現行の銀行の経営健全性維持のための規制。自己資本比率規制(リスクに対して十分な資本バッファーで備える)を軸とする。次期BaselIIIとしての見直しの議論が進められている。
(注2) 保険会社の経営健全性維持のための規制で、その保険金支払能力を示すソルベンシーマージンを一定以上の水準に保つことを軸とする。次期(ソルベンシー2)においてはこれがより経済価値ベースの考え方に高度化され、保険会社における会計(IFRS4)もこれと親和的な内容となることが予想されている。

 このように見てゆくと、一見「お疲れ様」のIFRSにも、あまりスポットライトは当たっていないものの「お元気様」の部分もあるのではないかと思います。ちょっとエエカッコしいも混じりますが、私としては、そうした「お元気様です」のIFRS対応を目指して、お客様と歩んで行きたいものだと改めて思うわけです。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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