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「「PMBOK」との比較から考察する「BABOK」の未来 」

2011.03.04 株式会社オージス総研  島本 道夫

1.BABOK(R)とは・・

ここ数年の間によく耳にするようになった略語に「BABOK(R)」というものがある。知っている人は知っているという当初のマニアックなレベルから、一般的に広く知られる段階に入ったと思われるこの「BABOK(R)」であるが、「BOK (Body Of Knowledge)」という名の通り、何らかの知識体系、すなわち、それは「BA (Business Analysis)」ビジネス分析の知識体系ということになる。

そこで、ビジネスアナリシス・ビジネス分析とは何?ということになるのだが、教科書の定義には、「組織の構造とポリシー及び業務運用について理解を深め、組織の目的の達成のために役立つソリューションを推奨するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニック」とあるので、どうやら、何らかのタスクやテクニックの集合体のように考えられる。
では、どんなタスクやテクニックがあるのか?だいたい、タスクやテクニックなどという目に見えないものを振りかざして、何ができるというのだろうか?ということに対して、『ビジネスアナリシス知識体系ガイド(R)(BABOK(R)ガイド)』なる文書が登場したと考えるとわかりやすい。
つまり、「BABOK(R)」とは、ビジネスアナリシスの実務のための、国際的に認められた標準であり、ビジネスアナリシスの知識エリアおよび関連アクティビティとタスクについて記述し、その実行に必要なスキルを説明しているものなのである。
ということは、「BABOK(R)」というものは、どうやら誰かが定めたものが、国際的に認められた標準と言われているようである。誰が定めて、誰が認めているのか?という疑問も当然湧いてくる。
そこで出てくるのが、IIBA(International Institute of Business Analysis)という国際的な独立非営利団体(NPO)である。このIIBAが、BABOK(R)を定義した上で、BABOK(R)を実践するプロフェッショナルを認定・承認しているという構図になっている。

ここで、はたとひざを打ち、この構図…どこかで見たこと聞いたことがある?と思った方は、恐らく、BOK(知識体系)というキーワード連想で「PMBOK(R)(Project Management Body of Knowledge)」を中心に「PMI(Project Management Institute) 」「PMP(Project Management Professional)」と関連した構図を思い浮かべたことだろう。
今や、ワールドワイドでPMP有資格者40万名を越す勢いで普及しているPMBOK(R)であるが、ここに至るまでの道のりを振り返ると、これからのBABOK(R)にかかる何らかの示唆を得ることができるかもしれない。

2.先駆者としてのPMBOK(R)と見てみると…

1987年に「PMI(プロジェクトマネジメント協会)」がプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK(R)」を初めて発行してから、四半世紀近い年月が経過した。もともと、1950年代後半に米国防総省が大規模プロジェクトを管理するためにマネジメント手法を体系化したのが始まりとされるPMBOK(R)であるが、それが知識体系として整備され、認知されるのに30年を費やしたことになる。PMBOK(R)として、体系化されてからは、PMIが主導し、オリンピック周期で改定を繰り返しており、知識体系にかかる改善のサイクルは確立されている。

一方、日本では、1998年に日本支部が設立され、5年後の2003年には支部会員数1,000名を突破、その2年後の2005年には支部会員数2,000名を達成し、ここ10年で大きく裾野を広げたと言える。
この「PMBOK(R)」により、プロジェクト・マネジャーの仕事は、属人の極みとも言える「勘と経験と度胸」のKKDから,理論的な「プロジェクトマネジメント」のPMへと変化した。PMBOK(R)が知識体系として有効であり、効果的だということは疑いのない事実として認知されていると言ってよい。
また、PMBOK(R)をベースにしたプロジェクト・マネジャーの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の日本での試験開始は、日本支部と同年の1998年から始められており、取得者も増加の傾向で、2010年には累計3万名弱にのぼった。
PMP試験は、PMIが策定した知識体系である「PMBOK(R)」に基づいて実施され、受験者のプロジェクトマネジメントに関する経験、教育、知識を測り、プロフェッショナルとして専門知識を有していることをPMI本部が認定する資格試験である。民間の資格認定とはいえ、プロジェクトマネジメントに関する資格のデファクト・スタンダードとして広く認知されており、プロジェクトマネジメント・スキルの評価基準としては、一定のステータスを確保している。

ちなみにアメリカ生まれのPMBOK(R)に対して、ヨーロッパでは、スイスに拠点を置くIPMA(International Project Management Association)がICB (IPMA competence baseline)を制定・発行したり、英国商務局が開発したプロジェクトマネジメントの方法論としてPRINCE2(PRojects IN Controlled Environments, 2nd version)があったり、日本でも経済産業省が体系化したP2M(Project & Program Management for Enterprise Innovation)があり、資格試験も行われている。このように各国各エリアの標準に対するひとつの動きとして、2006年に英国主導でプロジェクトマネジメントの国際標準化(ISO21500)が提案され、2012年中に発行予定という状況があることを付け加えておく。

3.BABOK(R)の現状はどうなのか…

そのビジネスあるいはビジネスモデルの類似性より、PMBOK(R)と比較して、BABOK(R)の現状を整理してみる。

表1 BABOK(R)の現状BABOK(R)の現状

一覧で対比することにより、イメージではなく、定量的に彼我の差異を把握できたことと思われる。一言で言うと、BABOK(R)については、まだまだ普及の道半ばであり、その道は険しいものであると言える。日本支部会員数にしてもPMI日本支部が、会員数1,000名に到達するまでに5年を費やしてことと比較すると、IIBA日本支部が、2012年に会員数3,000名を目標としていることは、現時点で200名余という現実を踏まえると非常に高い目標かもしれない。

ビジネスアナリシスの必要性について、総論では、理解を得られるだろうし、これから企業の中に必要なスキルであり、テクニックであることに異を唱えることにはならないだろう。しかし、その先に一歩踏み込んで、企業自身が、そのような人材を育成する/価値を認めて活用するといった各論に落ちた場合に、どのようにモチベーションを高められるかが、今後の普及に向けての課題かと思われる。企業が先を争うかのように社内ビジネスアナリストの育成・社外ビジネスアナリストの活用を推進させるためには、やはり成功事例・活用事例の公開と認知度向上が不可欠であろう。

PMBOK(R)については、業界大手がその価値を認め、認定資格を奨励し、処遇に反映させたことで、雪崩のように認定資格取得に技術者が殺到したという経緯が伝えられている。

企業ならびに個人が、BABOK(R)に関するモチベーションを持ち続けるためのキラーコンテンツになりうる認定資格についてもCBAPTMは、日本語化されておらず、認定に至るまでには英語の壁(言語のみならず、習慣文化も含めて。)を越えなくてはいけないし、認定要件も「過去10年間に『BABOK(R)ガイド』の内容に合った7,500時間以上の業務経験があること」と「6つの知識エリアのうち4つ以上の知識エリアで900時間以上の業務経験があること」とハードルが相当に高いといえる。

IIBAもその難易度を考慮してか、ハードルを低めに設定したCCBATM(Certification of Competency in Business AnalysisTM)を新設し、資格普及に取り組んでいるように見受けられる。このCCBATMについては、現在日本支部で日本語化に取り組んでおり、日本語版のリリースで一気に普及に弾みをつけたいところである。

知識体系・資格ビジネスには、翻訳・問題集などの出版ビジネスや教育訓練のトレーニングビジネス、そしてその資格の価値を活かしたコンサルティングビジネスなど多くのビジネスモデルが成り立つとされており、BABOK(R)が鳴り物入りで登場した余韻のある今のうちの活動が未来を決めるとも言えよう。。

※株式会社オージス総研は、BABOK(R)の趣旨に賛同し、その普及と利用促進のために法人スポンサーとして、活動しています。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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