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「「続」スマートグリッド社会成熟度モデル(第3回)」

2011.05.06 株式会社オージス総研  乾 昌弘

 この度の東北地方太平洋沖地震にて亡くなられた方々に対し、深く追悼の意を表しますとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。 被災地の皆様の安全と、一刻も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。エネルギーにおきましては、現在のところ原子力発電が重要な役割を果たしており、今後の状況に注視してまいりたいと思います。今回は、地震に関連して感じたところを述べたいと思います。

1. 集中型電源と分散型電源(熱源)のバランス

 現状では、集中型電源(火力・原子力・水力などの大規模な発電所で発電し、需要家に供給する方式)に極端に偏っていると思います。今回の震災などを考えると、リスク分散という面からも、集中型電源と分散型電源/熱源のバランスを考え直した方がよいのではないでしょうか?

1.1. 分散型電源の重要性

 「スマートグリッド社会成熟度モデル(1)」7月号でも述べましたように、日本のスマートグリッドに対するねらいは米国とは違い、需要サイドの分散型電源(太陽光発電、電気自動車、燃料電池など)の普及と海外も含めたビジネス展開です。つまり、日本でのスマートグリッド実現では、分散型電源/熱源が重要となっています。
 災害時に分散型電源も被害を受けると思いますが、地震の影響が広い範囲に及んだ場合、当然、震度も違ってくるでしょうし、地盤の種類などで揺れ方も大きく違います。従って、被害の受けない分散型電源もかなりある可能性があります。リスク分散の一つの考え方ではないでしょうか?

1.2. HEMSの役割

 同8月号の内容の繰り返しになりますが、HEMS(Home Energy Management System)は、ハードウェア要素どうしで発電及び蓄電を簡単に 制御でき、情報家電(エアコン、洗濯乾燥機、冷蔵庫が中心)の設定を優先順位などで制御できるものです。もう一つのHEMSの重要な役割は (停電時)自立運転であると考えています。日本は、極めて停電時間が短いですが、災害時などに自立運転は大きな働きをします。太陽光発電 の場合は、現在でも停電時に専用のコンセントに使用したい電気製品を差し込めば、発電している分の電気を使うことができます。分散型電源 をHEMSと連動してうまく最低限の電源を賄うことができればよいと考えています。実際、今回の大震災でも太陽光発電で、助かった人もいるようです。現在の分散型電源は、節電を目的にしていると言われていますが、停電も考慮に入れたものに変えていく必要があると思います。

 ○集中型電源がダメージ―――> 電力供給量の低下――→ 分散型電源の活用
 ○停電時―――> 分散型電源の自立運転

2. 啓蒙活動の重要性

 機器、装置や構造物において、絶対100%安全でリスク0のものなどありえません。テレビ番組でもある先生が言われておりましたが、「落ちると思って飛行機に乗る人は誰もいないが、搭乗後に必ず緊急時の説明がある」と。原発の場合も緊急時にどうすべきかといった、丁寧な説明を住民及び国民に日頃からしておくべきではなかったかと思います。また、避難訓練といった活動も重要です。安全という言葉だけで、何もしなかったのであれば、人災そのものと言わざるを得ません。繰り返しになりますが、啓蒙活動は非常に重要です。

「参考文献」

[1] 乾昌弘、宗平順己「低炭素社会をめざしたスマートグリッド社会成熟度モデル」経営情報学会2010年春季全国研究発表大会、2010年6月
[2] 乾昌弘、宗平順己「スマートグリッドが与える社会システムへの影響についての考察」2010年日本社会情報学会合同研究発表大会、2010年9月

 「あとがき」 耐震性評価の経験より

 余談ですが、耐震について述べたいと思います。私はちょうど30年前(1981年)に大阪ガスに入社してガス製造工場に配属になりました。新入社員は、1年半後に新入社員研究報告というものをしなければなりませんでした。大学院で知能ロボットの研究をしたので、工場に役立つロボットをテーマにしたらどうか、という意見もありましたが、短期間では実現するのが難しいと感じました。

 その時にテーマに選んだのが、「プラントの耐震性評価について」でした。1978年に起きた宮城県沖地震を契機に法律が大幅に改正されたからでした。最近、30年以上前の建物は耐震性がよくない。と言われますが、この法律改正前の基準が適応されているからだと思います。

 法律の内容は、単体の構造物に対しての基準が書かれていました。しかし、プラントの場合は、お互い配管などで繋がっているために評価をどうするかが課題でした。そこで私は、グループ化という考え方で、評価することにしました。グループ化の基本的な考え方は、以下のとおりです。
 (1) 耐震解析の手法(静的震度法、修正震度法、モード解析法)によってグループ化する。
 (2) 連絡配管1本を境界として分割できる場所があれば、そこを境界とする。
 (3) 一つの構造物に配管が集中している場合は、それを中心にグループ化する。
 (4) 3つぐらいの構造物が一つのグループになるようにグループ化する。

 実際に評価にした対象は、私が担当していたプラントでしたが、天然ガス転換が終了した時点で役目を終えてしまいました。外部での論文発表を勧められたのですが行わなかったので、残念ながら公開文献はありません。

 確かこのとき前提となる入力加速度は、水平で240ガル~480ガル(重力加速度980ガル)だったと思いますが、今回の東北地方太平洋沖地震の最大加速度は2933ガルであったので、大変驚いています。多分、最近の法律は、30年前に比べてかなり改正されているとは思いますが、果たして今回の地震を想定していたでしょうか? 従って耐震性も重要ですが、万が一でも壊れた時のためにより一層フェールセーフになるような設計も必要であると感じました。

「参考文献」

乾昌弘「プラントの耐震性評価について」昭和56年度大阪ガス新入社員研究報告

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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