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「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)とは」
株式会社オージス総研

2011年06月号
  • 「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)とは」
株式会社オージス総研   明神 知

1.はじめに

 前回は、グランドデザインの必要な領域として建築と安全を例にとってそこにある問題の本質が「複雑さ」であり、これに対処するにはシステム科学アプローチが必要であることを述べました。
 今回以降は、企業情報システム開発のグランドデザインを担うエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)について、その最新動向と弊社の提唱する「百年アーキテクチャ」に向けたシステム科学アプローチについて解説します。

2.EAは企業全体の構造を考える道具です

 EAは、経営戦略を企業各レベルで実行するために「誰が」「何を」「どのように」行うかを定義して戦略にあった実装を作り出すための業務とシステムの青写真(企業構造の計画)のことです。日本語では「業務・システム最適化計画」といいます。経営戦略を実行する業務とシステムをバラバラに扱うのでなく、企業や組織全体の構造として考えることによってITの経営への貢献度を最大化する取組みともいえます。
 私達が「百年アーキテクチャ」のベースとしたEAの成熟度モデルを提唱しているMITスローン経営大学院の情報システム研究センター(CISR)における定義は、もうすこし具体的です。EAとは、「企業のオペレーションモデルの統合と標準化要求を反映したビジネスプロセス、データとITケーパビリティの組織化ロジックである。」と定義しています。すなわち、企業はどのような製品、サービスをどのような顧客にどうやって届けるかというビジネスによって、それを支える企業情報システムの統合化と標準化の度合いが変わってくるのですが、そのレベルを反映したディジタル・プラットフォームのハイレベル設計図(青写真)のこと」をEAと言っています[1]。
EAそのものの、わかりやすい解説はこちらをご覧になってください。

3.役立つEAに変身しています(最新動向)

 EAについては、すでに多くの実践がなされてきました。成功例もあれば、一方で批判的な意見もあります。その代表的なものはシステムが大規模、複雑でITが大きな比重を占める金融や大企業などにしか必要性がない。モデルや図面の山のような作成は過大な負担となるし、全体最適などをすれば迅速な対応ができず、役に立たないではないかといったものです。この批判はEAを画一的に捉えている誤解から来るものです。EAは道具ですからなんのためのEAなのか、その目的に応じたアプローチを取るべきでしょう。たとえば電子情報技術産業協会が民間企業向けに提唱しているIT課題に応じた5つのEA適用方法が参考になります。その5つとは「IT投資健全型」「情報活用型」「IT基盤整備型」「業務改革型」「開発標準型」です。また、昨年ロンドンで開催されたEAに関するカンファレンス(EAC 2010)では、まさに「戦略デザイン(EA)とビジネス・アウトカムとの結合」がメインテーマでした。ここでの事例や講演を中心に関連する部分をご紹介します。

(1)経営に貢献するEA

 ITが中心であった第一世代のEAは一巡して、今はビジネスに貢献するEAと言われており、ガートナーのEAハイプカーブ(図1)においても第二世代の「ビジネスに統合され貢献するEA」を示しています[2]。シミュレーションや実行可能EAでの検証がカーブの先端にあります。EAツールのなかにはシミュレーション機能を持つものも出てきていますし、後述する米国空軍の指令制御システムデザインに使われるシステムダイナミクス(SD)も先端部分に位置づけられます。

2世代のEA[2]
図 1 2世代のEA[2]

 EAC 2010ではNASAのEAプロジェクトが紹介されました[3]。NASAの7年間のEAプロジェクト(図2)はケーパビリティ・ポートフォリオ・マネジメントに至る道のりでした。最初の頃は何でもモデリングして、ビジネスアーキテクチャまでたどり着いて終わりと考えていたのです。ところがNASAの各センター長が欲しかったのは、このようなモデルや図面ではありませんでした。火星探査や宇宙基地といった様々なプロジェクトに対して人材、設備、ITといったセンターの持つ能力を即座に評価して、そのプロジェクトに使えるのか、不足資源の調達が必要なのかを答えてほしかったのです。いわゆる「レディネス」、いざ鎌倉といった時にすぐに戦える武器がそろっているか?です。この考えは、まさに戦略マップの『情報資本レディネス』と同じです。

ケーパビリティ・ポートフォリオ・マネジメントに至る道のり[3]
図 2 ケーパビリティ・ポートフォリオ・マネジメントに至る道のり[3]

 

(2)EAの実行

 Richard Weston[4]らは製造業におけるコンセプト立案から製造に至るまでの様々なモデリングやシミュレーションのツールのなかから各フェーズに適切なものを選んでEAを実行させながら検証していく「アーキテクチャ実行とマルチレベルのモデリング」を提案しています。中国の業務用エアコンメーカーで実証実験も行っています。このアプローチはバーチャルエンジニアリングに繋がっていくものですが、実行するEAを製造の最上位に位置づけて今後一般化するものと思われます。

(3)外部化する情報への対応

 昨今のツイッターやFacebookに代表されるSNSの隆盛とともに企業外部へと広がる情報への対応が必要となっています。EAにもイベント処理の対応が求められており、EAC 2010ではイベントを扱う2つのアプローチの講演がありました。一つは4つのアーキテクチャ・パターン(Web、メッセージ、SEDA、Auto ID&RFID)の利用ともう一つは米国エアライン座席予約システムで有名なSabre社が採用しているSEDA(Staged event-driven architecture)でした。

(4)EAとシミュレーションの組合せで「森も木も葉も見るEAへ」

 システムダイナミクス(SD)はシステム科学アプローチのひとつであるシステムズ・シンキングの因果関係を図3の上部にあるようなストック(四角い箱)とフロー(バルブ)の微分方程式でモデリングする定量解析の手法です[6]。米国空軍の次世代指令制御システムデザインではSDとEAを相補的に活用しています[5]。EA以降の詳細化はITの製造に当たりますが、その前のビジネス要件を定めるのがSDなどシミュレーションが担う領域です。システムデザインの初期フェーズでSDを使って指令制御システムの「標的探索、特定、ロックオン、戦闘、事後評価」という全体の時系列挙動が好ましいものになることを短期間(週レベル)で確認したうえでEAの整備に入っていくわけです。このフェーズはいわば要件定義ともいえ、現実とデザインのギャップ分析を早期に効率よく行うことができます。

EAとSDによって「森も、木も、葉も見る[6]」
図 3  EAとSDによって「森も、木も、葉も見る」[6]

4.EAはIT投資マネジメントに組み込んで活用します 

 EAはその成果物作成に注目が集まりがちですが、その目的である経営戦略に整合した全体最適の「業務とシステム」を計画通り作り上げて経営目標を達成するということを担保するために、IT投資マネジメントのなかに組み込まれなければなりません。日本政府のEAでもIT投資を評価するための業績測定参照モデルを策定し汎用の業績評価指標(KPI)を公開しています。自治体においても同様の参照モデルでIT事業の業績測定と管理を始めているところです。一方、米国連邦政府ではIT投資プロジェクトの選定~統制~評価プロセスのダッシュボードが公開され各省庁と行政管理予算局とのコミュニケーションツールとして利用されています。EAC 2010のプレカンファレンス・レクチャでEAコンサルタントのChris PottsはEAと投資マネジメントを組み合わせてソーシング戦略を決定することによって企業の構造的変革をもたらすEAプロセスを提唱していました。

5.おわりに

 以上、企業のグランドデザインに必要なEAとその最新動向についてEAC 2010での講演を中心に解説しました。EAは企業構造を検討するための道具ですので、その範囲とレベルを目的に応じて選択することが重要です。次回は百年アーキテクチャに向けたシステムズ科学アプローチについて解説したいと思います。

(参考文献)
[1] Ross,Jeanne W:Enterprise Architecture ,MIT CISR,2010
  http://cisr.mit.edu/blog/documents/Jeanne_W_Ross_Enterprise.mov
[2] Gartner's Enterprise Architecture Hype Cycle Reveals Two Generations of Enterprise Architecture,2010
  http://www.gartner.com/hc/images/201646_0001.gif
[3] Robert Stauffer, Larry Helm:Assessing Effectiveness:NASA Capability Portfolio Management, EAC Europe 2010
  http://www.information-dynamics.com/uploads/docs/Assessing%20Effectiveness-NASA%20CPM.pdf
[4] Richard Weston,Zihua Cui:Executing Architecture,EAC 2010
[5] Corey Lofdahl:Designing Information Systems with System Dynamics A C2 example,2005,http://p.tl/tRfe
[6] システム・ダイナミックス学会日本支部(JSD):>http://www.j-s-d.jp/

 

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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