Webマガジン
「IFRSと管理会計」
株式会社オージス総研

2011年06月号
  • 「IFRSと管理会計」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

IFRSと管理会計

 IFRSは、財務会計についての会計基準です。しかし、その特徴としてマネジメントアプローチが挙げられるように、管理会計とも無関係ではありません。
 IFRSのマネジメントアプローチでは、経営者が考えているセグメントを外部に公開することを要求しています。その意味で財管一致と言えます。従って、各企業は外部に公開できるような(してもかまわない)管理会計にしておく必要があります。
 今回は、IFRSと管理会計の関係について見ていきましょう。

○財務(ファイナンス)

 IFRS(International Financial Reporting Standards)は、一般的には国際会計基準と訳されている場合が多いようです。しかし、直訳すると国際財務報告基準となります。注目すべきは “会計”という言葉ではなく、“財務”という言葉が入っている点です。そして実際、IFRSには正味現在価値法(NPV法)などファイナンス理論の考え方が取り入れられており、“財務”の色合いが濃いものになっています。
 一方、管理会計は経営者の意思決定に役立つ必要があります。
 各企業では90年代前半のバブル経済崩壊以降、どこに投資をしてどこに投資をしないかの意思決定が重要になってきています。その評価基準として、ファイナンシャル理論が用いられています。特に直接金融の場合、投資家、株主などに向けて、企業価値を高める必要があり、その意味で、ファイナンス理論を管理会計に導入してきています。
 このようにファイナンスをキーワードにして、IFRSと管理会計が繋がっていると言えます。
 通常金融機関などの管理会計に関しては、既にファイナンスの考え方が入っていますが、一般的な企業の管理会計におけるファイナンスの考え方は、必ずしも十分とは言えません。IFRSの導入をきっかけに、管理会計にファイナンスの考え方入れることで、より強固な管理会計にすることが可能になります。

○IFRSによって影響を受ける収益性指標

 管理会計では、ROA(return on assets)、ROE (return on equity)など収益性の様々な指標が存在しています。
 ROA、ROEは下記のような式で表現できます。
 ROAは、企業の保有する総資産の利益獲得のための活用度を、ROEは、株主から調達した資金(資本)の利用の効率性をそれぞれ示します。

ROAおよびROEの計算式
図 1 ROAおよびROEの計算式

※ROAの分子の利益ですが、純利益、営業利益、経常利益などが使用されます。

 IFRSによって、これらの指標は影響を受けます。
 まず利益に関してですが、IFRSになると包括利益という新しい概念が出てきます。そして、経常利益という区分がありません。
 売上高についてはIFRSになると収益基準が変わり、今まではほとんどが出荷基準でしたが、着荷基準、検収基準などを採用すると、売上が上がるタイミングが少し後にずれます。
 また代理販売の場合は、総額表示ではなく、純額の表示が求められる可能性があり、売上高が大きく変更になる場合があります。
 そして、資産や金融負債は公正価値で評価されるので、資産から負債を引いた資本も公正価値の影響を受けると言えます。
 このように、現在管理会計で使用されている収益性指標も影響を受けるので、IFRSの導入と共に、管理会計の見直しが必要となります。

○グローバル

 前述しましたが、日本の会計基準とIFRSで、売上、利益の値が大きく変わる可能性があります。
 これは、日本の会計基準とIFRSの関係だけではなく、世界のそれぞれの国の会計基準に照らせば、それぞれ売上、利益などの数値が変わることを意味しています。
 これがIFRSで統一されれば、比較容易性が高まることになります。
 その意味で、全世界に子会社を持っているような会社は、IFRSという同一の基準で評価できるという意味で、管理会計上もメリットがあると言えます。

○原価計算とIFRS

 しかし、IFRSの考え方が管理会計となじまない部分もあります。製造業の管理会計で特に重視される原価計算とはうまく合致しないようです。
 原価計算は、売上に対して原価がいくらかを計算するものです。
 先ほども述べましたが、IFRSは国際財務報告基準であり、投資家向けのものです。経営者向けの管理会計のことは考えていません。
 日本の会計基準基準は、収益費用アプローチをとっており、会計期間の企業の収益と費用との差額を利益とする考え方です。この収益費用アプローチと原価計算の目的や考え方は合致していると言えます。
 一方IFRSは、資産負債アプローチをとっています。資産負債アプローチは、会計期間の企業の資産と負債の差額として利益を算出するものです。IFRSが対象としている投資家は、製品1つ1つの原価、利益には興味がありません。IFRSは、期末の資産を計算することだけを考えており、その意味で資産負債アプローチのIFRSは原価計算とは少し考え方が異なります。

○まとめ

 このように、IFRSになり、管理会計はますます重要になってきたと言えます。言い方を変えれば、IFRSの導入と共に経営者に覚悟を求めるものです。経営者は、“攻め”と“守り”を考えていく必要があります。
 企業は近年、その本業において“選択と集中”により他社と差別化を行い業績を向上してきています。一方“選択と集中”は、リスク分散という観点からみると、必ずしも良いとは言えません。そこで、ファイナンスの考え方を導入し、徹底的にリスク管理を行い、リスク分散が比較的容易な投資分野において、積極的に“攻め”の管理会計を実現すること大切です。
 一方、原価計算など必ずしもIFRSの考え方をそのまま導入するのに、しっくりこない分野もありますし、IFRSによって影響を受ける収益性指標などもあります。これらは、IFRSの要請に対応するため今までの管理会計に変更を加えることで“守り”つつ、IFRSの考え方を有効に利用して、必要に応じて拡張することで“攻め”に転じていく必要があります。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

竹政 昭利  記事一覧



2011年06月号のコンテンツ
『Webマガジン』に関しては 弊社の「個人情報の取り扱いについて」に同意の上、
下記よりお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ戻る