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「顧客価値を増大させるBPOマネジメント BPMとリーンシックスシグマの併用」
株式会社オージス総研

2011年10月号
  • 「顧客価値を増大させるBPOマネジメント BPMとリーンシックスシグマの併用」
株式会社オージス総研   宗平 順己

 最近オフショアBPOへの取り組みが盛んになっていますが、あまり効果的でないBPOを良く見かけます。そこで,単なるコスト削減手段としてのBPOから脱却して,顧客価値を増大させるためのオフショアBPOマネジメント手法についてご紹介します。

1.はじめに

 BPOの狙いは以下のように整理されます。[1]
【BPOの目的】
 ・経営資源のコア業務への集中
 ・組織のスリム化
 ・専門的知識・スキルの活用
 ・業務プロセスの改善
 また,さらなるコスト削減を求めてオフショアBPOも進められており,その目的は以下のように整理できる。[2][3]

【オフショアBPOの目的】
 ・圧倒的なコスト削減
 ・事務処理キャパシティの確保(変動への対応)
 ・業務のポータビリティの確保(可視化と標準化)
 ・バックオフィス部門の意識改革
 ・将来の人材不足への対応
 ・時差の活用

 BPOを単なるコスト削減手段としてのみ考えると,BPOサービスプロバイダーは,直ちにコスト競争に巻き込まれ、共倒れになる恐れがあります。そこで,BPOにおいて一般的に管理手法とされているQCD面でのSLAにとどまることなく,さらに付加価値を高めるため,リーンシックスシグマとBPMを組み合わせたBPOマネジメント手法をご紹介します。

2.シックスシグマ

2.1 プロセス改善

 一般にシックスシグマと呼ばれているものは,VOC(Voice of Customer:顧客の声)に基づくプロセス改善,すなわち社内プロセスにおいて本来達成すべきパフォーマンスが出ていない場合に,その原因を突き止めて改善を行うもので,表-1に示すDMAICと呼ばれている5つのステップに基づいて,PDCAをまわします。[4]

表1.具体的な施策及び方策例
具体的な施策及び方策例

2.2 リーンシックスシグマ

 リーンシックスシグマは,トヨタ生産方式(リーン方式)とシックスシグマを組み合わせたものです。その特徴は,課題と考えられるプロセスについて,プロジェクトチームが図-1に示すVSM(Value Stream Map)というものを作成し,現場のプロセスを棚卸し,その実作業時間を測定し,理想とされるパフォーマンスとのギャップを認定します。その上で,複雑な問題はDMAICを,簡単な問題は「Rapid Improvement Event:KAIZEN」を適用します[5]。

Gartner BPM Maturity Levels [4]
図-1 Value Stream Map

2.3 プロセス設計/再設計

 DMAICの適用には限界があり,既存のプロセスの改善だけでは顧客要求に対応できないなどの理由により既存のプロセスを新しいものに置き換える必要がある場合には,DMADVで表現されるシックスシグマ用設計(Design for Six Sigma)という手法を採用します(表-2)。

表-2 Design for Six Sigma
Design for Six Sigma

3.BPOとリーンシックスシグマ

3.1 BPOとシックスシグマ

 BPOの利用者側の目的は先に示したとおりですが,QCDでのSLAを担保するためにはシックスシグマの適用が必要となります。すなわち,シックスシグマは担当者による業務品質のばらつきを是正するためのものですから,アウトソースされた業務品質を全社として担保するために,シックスシグマを適用します。すぐれたBPOサービスを提供する会社は、このためシックスシグマを導入していることが多いです。

3.2 BPOとリーン

 一方,リーンは「ムダ」をとることが主目的です。一般にこのムダとりの作業は二つの方向で行われます。
 対社内:利益率の向上
 対顧客:顧客要求の充足
 後者に関し,良く例えで言われることとして,原価の半減化を要求され,それを実現するために,自社の工程を見直してムダどりをするということがあります。
 この例は取引先と従属的な関係がある場合の例ですが、BPOでは多数の取引先にサービスを提供するため,特に対顧客については少し異なった視点が必要となります。

3.3 BPOとリーンシックスシグマ

 リーンシックスシグマ活動のトリガーはVOCです。このインプットに対して見直すべき対象プロセスをBPOでは,「リーン消費」[6]の考えを取り入れ,顧客プロセスまでを対象とする必要があります。
 冒頭に記述したようにBPOはまだコスト削減を目的とした利用が多いわけですが,以下のようなプロセス改善も期待されています。
 ・専門的知識・スキルの活用
 ・業務プロセスの改善
 ・バックオフィス部門の意識改革

 BPO業者を業務のプロフェッショナルと考えれば,顧客プロセスを含めた改善提案を行うことで,上記のより高次な顧客要望を充足させ,付加価値の高いサービスを提供することができます。
 以下,具体例を用いてこの提案手法を概観します。

4.BPMによるリーン消費の提案

4.1 BPM適用の必要性

 顧客プロセスを含めた改善提案を行う場合,オペレーションレベルで業務がどのようにかわるのかを示す必要があります。バリューストリームマップでは示す業務の粒度が大きいことと,その業務の主体者が誰であるのかを把握しづらいことから,その代替手段としてBPMを用います。[7]

4.2 対象となるBPOサービスの概要

 リーン消費提案の対象となるBPOサービスの概要を示したのが図-2です。

Gartner BPM Maturity Levels [4]
図-2 BPOサービスのサプライチェーンモデル図

 インターネットおよびカタログでの通販会社において書類によるクレジットでの引き落とし依頼を受け付けるにあたって,現在データエントリー部分のみをアウトソーシングしていますが,申込書を元にしたデータ入力と信用調査,データベース更新作業までをアウトソーシングすることを提案しようとしています。
 この全容を示すために,図-2ではサプライチェーンモデル図を用いています。(バリューストリームマップの鳥瞰性を代替している)

4.3 BPO範囲拡大の提案

 データエントリーサービスのみでは顧客のコスト削減には限界があります。経理部が担っている業務までアウトソーシングすることで,完全にこの業務から解放させることができます。
 このBPOを検討する際,委託側の業務を受託側が理解し,受託側が提案する業務を委託側が承認するために図-3に示す業務フローをまず用います。この図を用いてまず中分類レベルで業務の内容を確認します。

役割に視点をおいた業務フローの例
図-3 役割に視点をおいた業務フローの例

4.4 業務詳細の検討

 中分類レベルでの業務フローを双方で合意した後に,受託側からより詳細な手順を提案してもらいます。複数顧客に類似のBPOサービスを提供するにあたってマス・カスタマイゼーションーションの適用が必要となる[8]ことから,顧客の業務フローをそのまま受託側で模倣するのではなく,同様のアウトプットが可能な業務プロセスを予め受託側が複数設計し,その中から委託側が承認しうるプロセスを選択するという方法を受託側は採用します。

5.まとめ

 本稿では,単なるコスト削減ではなくより付加価値の高いBPOを実践するために,顧客プロセスまでも対象としたリーンシックスシグマをBPMを利用して適用するマネジメント手法をご紹介しました。
 BPMを用いることで,業務が可視化されるだけでなく基本条件である受託業務のパフォーマンスのモニタリングも可能になります。そのためパフォーマンスにバラツキが生じた際,シックスシグマによる作業改善が容易になります。
 また可視化されているため,受託プロセスのムダ取りが容易になり,その経験を顧客プロセスまで広げることで,顧客の無駄をとる,すなわちリーン消費を提案することができるようになります。この提案にあたっては,受託プロセスの利益率を確保するために,マス・カスタマイゼーションを取り入れ,受託側と委託側のwin-winを実現することが必要となります。

(参考文献)

[1] 「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書,経済産業省,平成20年6月

[2]伊藤嘉邦, "国内金融業者におけるオフショアBPOの現状と可能性",金融財政事情, 59(30), 2008.8.4-11, pp51~54

[3]中島伸彦, 能勢幸嗣, "プリンシプルのあるビジネスプロセス・アウトソーシング", 知的資産創造,17(9), 2009.9, pp48~61

[4]ピーター・S.パンディ,ロバート・P.ノイマン, ローランド・R.カバナー,高井 紳二/監訳, 「シックスシグマ・ウエイ実践マニュアル」, 日本経済新聞社, 2003.1

[5] Sarah Snyder, "Using an Integrated Framework of Assessment, Training, and Refinement for Accelerating Business Process Improvement Initiatives", 10th BPM Summit, 28 April 2009

[6] James P. Womack, Daniel T. Jones, 飯村昭子訳, "リーン生産方式を補完するリーン消費: 顧客の機会コストを削減する", Diamondハーバード・ビジネス・レビュー, 30(8), 2005.8, pp36~49

[7]宗平順己, "リーンシックスシグマの組み込みによる効果的なBPMの推進", 日本生産管理学会第30回全国研究発表大会予稿集, 2009

[8]宗平順己, "マス・カスタマイゼーションのBPOサービスへの適用についての考察", 日本生産管理学会第28回全国研究発表大会予稿集, 2008

 

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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