WEBマガジン

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第六回)」

2011.11.10 株式会社オージス総研  有間 博道

 今回は、アルゴリズムトレードについて記述したいと思います。
 アリゴリズムトレードは、株式や株の派生商品(先物、オプション)、為替取引などで利用されますが、本稿では、その中で、基本となる国内株式のアルゴリズムトレードについてふれていきたいと思います。

1.アルゴリズムトレードとは

 1) その前に、アルゴリズムとは

 筆者は、コンピュータを用いた金融システム構築を生業としています。それ故に、「アルゴリズム」と言う言葉は、ごく自然に当たり前の言葉として使っていましたが、前回、アルゴリズムトレードについて軽く触れた時、Webマガジンを読んで頂いている方から、「アルゴリズム」って何?と言うご質問を頂いたので、まずは、アルゴリズムについて記述します。

   アルゴリズム:

    一言で言えば

 「対象となる問題を解決するための一定の手順」となります。

    辞書によると

 「ある問題状況において、正解を引き出すための一定の手続きまたは思考方法のこと。
その通りに実行すれば必ず特定の結論に達するというもので、数学の公式やコンピュータのプログラミングはアルゴリズムの代表といえる。」と説明しています。

   特に、

 「コンピュータを用いて問題を解決するために一連の手順や手法」をアルゴリズムと
言うのが一般的になっていると思います。(本当は数学からですが。。。)
余談ですが、アルゴリズムは、アラビアの数学者“アル=フワーリズミー”に因んで作られた言葉と言われています。

 2)アルゴリズムトレードとは

    簡単に書くと

 「システムが市況情報(株価や出来高)、取引状況などに応じて、あらかじめ決められた手順に基づいて、自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決めて注文を実効する取引のこと。」

    と言うことになると思います。

 アルゴリズムトレードは、欧米では大分以前から実施されていましたし、日本でも、10年以上前から実行されています。
 しかし、ここ、10数年のITの進歩や、金融工学の発展、取引コストに対する意識の向上、最良執行の徹底などの要因から大きく発展し、利用が拡大しました。それに伴って、アルゴリズムトレードは高度化・複雑化しています。

機関投資家と証券会社の注文の関係(アルゴリズムトレードの位置づけ)
図1 機関投資家と証券会社の注文の関係(アルゴリズムトレードの位置づけ)

 前回のトレーディング基礎・第五回でも述べましたが、アルゴリズムトレードは、機関投資家が自ら行う場合と、証券会社がサービスとして機関投資家に提供する場合があります。
  機関投資家のアルゴリズムトレードの仕組みは、機関投資家が自ら作る場合と、ITベンダーが提供するOMS(Order Management System) パッケージに内包、又はオプションとして付加されたものを使用する場合があります。
 
 証券会社がサービスとして提供する場合も、自ら作る場合と、ITベンダーが提供するOMSパッケージに内包、又はオプションとして付加されたものを使用する場合があり、各証券会社が独自のノウハウを盛込んでいる場合が多い様です。
 パッケージの場合は、他証券会社との差別化のため、独自のカスタマイズを施している場合もあります。

大口取引のアルゴリズムトレードのイメージ
図2 大口取引のアルゴリズムトレードのイメージ

2.アルゴリズムトレードの活用と分類

 1)アルゴリズムトレードの主な活用目的

◇取引コストの削減
◇注文取引リスクの軽減
◇取引機会の発見
◇取引事務の自動化
◇売買速度の向上や高頻度な取引の実行
 この中で、アルゴリズムトレードの戦略と大きく関わるのが、コスト削減、注文取引リスクの軽減と機会発見です。
 取引事務の自動化は、事務の効率化と事務リスクの低減を実現し、売買速度の向上や高頻度な取引の実行は、アルゴリズム取引を行う効果(速度向上)と、実現可能になったサービス(高頻度取引)になります。

 2)アルゴリズムトレードの分類

 アルゴリズムトレードは、高度化、複雑化に伴い色々な戦略・手法が開発され実現されています。
  そして、分類の方法も色々とあります。
 次の表では、外資系証券会社含め、日本の証券会社でサービスとして提供されている、大口取引に関わるアルゴリズムトレードの代表的な戦略を列挙します。
 アルゴリズムを、その目的と方式の観点から、ベンチマーク追随型、価格参照型、出来高参照型、コスト最小化型、参加型、取引機会発見型、複合型に分類し、それぞれの代表的な戦略と概要を表に纏めています。

表1.レベルアップ対策表(ロードマップ)
レベルアップ対策表(ロードマップ)

 ※IceBerg/Pegging :
  欧米の取引所やPTSでは、注文条件として整備している所も出てきています。

3.IS戦略・AS戦略

 IS戦略・AS戦略は、良く用いられる代表的なアルゴリズムトレードです。
 以下は、その戦略の中心となる最適執行コストのイメージ図です。
 図中の☆の最小コストを目標に、注文の分割、タイミングの調整、注文条件の訂正、不要となった注文の取消などを、各種のモデルや市況状況、取引状況を基にシステムが自動で判断しながら注文を繰り返し行います。

 IS戦略・AS戦略で目指す最適執行コスト( 下図の☆ 点)
図3  IS戦略・AS戦略で目指す最適執行コスト( 上図の☆点)

4.おわりに

 今、証券業界は非常に苦しい状況下にありますが、証券・金融環境は常に発展・進化しています。証券トレードだけを取っても、この10年、20年の進展は目覚ましものがあります。
 「冬来りなば、春遠からじ」と言う言葉は、私の大好きな言葉の一つです。
 冬の時代を乗り越えて、春をちゃんと迎えられるように、確りと行動し、準備もしておきたいと思っています。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

『WEBマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。

同一テーマ 記事一覧

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第五回)」

2011.09.09 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第四回)」

2011.07.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第三回)」

2011.05.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第二回)」

2011.03.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「トレーディング業務基礎(バイサイド編 第一回)」  

2011.01.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第四回」

2010.11.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第三回」

2010.09.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「忠臣蔵と元祖デリバティブ取引所 」

2010.08.01 証券 さくら情報システム株式会社  遠山 英輔

「証券STPの進展 第二回」

2010.07.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道

「証券STPの進展 第一回」

2010.05.01 証券 株式会社オージス総研  有間 博道