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「「続」スマートグリッド社会成熟度モデル(第9回)」

2011.11.10 株式会社オージス総研  乾 昌弘

1. 大量データを高速に処理するソリューションの紹介

 9月に開催された大阪ガスグループ主催フェアのスマートエネルギーゾーンで、本スマートグリッド社会成熟度モデルと大量データを高速に処理するソリューションをパネル展示しました。ここでは、パネル展示した試作品(ソリューションのプロトタイプ)を、簡単に紹介したいと思います。

(1)プロトタイプのポイント

   ○背景
 スマートグリット社会が本格的に到来すると、スマートメーターあるいはホームサーバーから膨大なデータ※1が発生し、情報センターで処理するデータ量が爆発的に増加します。加えて、ビルやEV管理センターからも様々な場所から大量のデータが送られてきます。このような大量データを、的確に判断しながら、高速に処理する必要があります。
   ○開発内容
 大量データを高速に収集し、収集したエネルギー情報をよりリアルタイムで利活用するデータ収集モニタリングシステムを開発しました。最大の特徴は、大量データを高速に処理するため、インメモリアーキテクチャによる高速トランザクション基盤※2上に、収集、解析、編集等を処理するアプリケーションを実装している点です。(図1.概要のフロー図参照。)

概要のフロー図
図1 概要のフロー図

   ○特徴
・大量のデータから有効なデータを収集
 インメモリトランザクション処理で、大量のデータの収集、解析、編集し、有効なデータ
 を抽出します。
・有効な(大量の)データを複数サーバーのメモリ上で安全に保持
 有効な大量のデータを安価なIAサーバーのメモリ上で、分散保持します。
・受信したデータをリアルタイムにモニター表示
 予め設定しておいた条件に基づき、エネルギーに関する情報をリアルタイムで
 把握します。例えば、顧客の一定時間のエネルギー情報などを把握します。
※1:昨年9月号(スマートグリッド社会成熟度モデル 第3回)
   「スマートグリッドで扱われるデータ量」を御参照ください。
※2:高速トランザクション基盤の詳細は、以下のURLを御参照ください。
   「高速トランザクションサービス基盤」
   「高性能なJava仮想マシンを搭載した高速トランザクション基盤」

(2)プロトタイプの成果
 試作したアプリケーションを基に、弊社、開発環境で計測したところ、一般的なハードウェア(IAサーバー※3)で、約9,500万件/日(1,100件/秒)のデータ処理を実現しました。

※3:IAサーバーのスペック
 ・CPU(Xeon プロセッサ 4コア)
 ・メモリ(16G)
 ・OS(RedHat Enterprise Linux 5.3 x86_64 )

(3)まとめ
 今回、ご紹介したプロトタイプは、システム要件の類似点が多く見られる通信サービス業界で導入されている呼情報収集システム(メディエーションシステム※4)をリファレンスアーキテクチャとして、採用しました。高度なスマートグリット社会の到来に向けて、他業界で活用されているICT技術や、最近クローズアップされているビックデータに関する技術動向などを踏まえ、技術的知見を蓄積していきたいと思っています

※4:メディエーションシステム
 モバイル通信やデータ通信などで発生する膨大なデータ(呼情報)を、収集及び、解析し、
 課金システムへと連動するシステムのこと。

2. クリーン発電&スマートグリッドフェア、インフォテック2011より

 10月横浜で開催されたクリーン発電&スマートグリッドフェア及び、大阪で開催されたインフォテック2011に参加してきましたので、印象に残った内容を列挙したいと思います。
(プレゼンの重要な部分では必ずしもない。メモした内容の概要)

(1)全般的な課題
今までと違って、本音を聞くことができました。

スマートシティ構築:何兆円という多額の資金が必要であるから、リーマンショック以降、世界で動いていないプロジェクトが多くある。※5
実証事業:電力会社さんに少し譲ってもらって、最先端の実験をやらしてほしいなあと思っている。
スマートグリッド全般:みなさんと同様、実用化に日々頭を悩ましている
ビルの省エネ:電力・熱供給会社、ビルのオーナー、入居している複数の会社で調整が必要であるので、通常はビルの省エネ推進体制が難しい。
国際競争力:日本は、各プレーヤーが独自の思惑で、事業を追求し、過当競争の状況
―――>アジア市場で勝ちパターンが構築されていない。

※5:4月号(「続」スマートグリッド社会成熟度モデル 第2回)の2章(3)で述べましたように、コロラド州ボルダー市のSmartGridCityプロジェクトが、予算が足らずに失敗しそうだという話もあります。

(2)スマートメータなど
 政府のエネルギー・環境会議(第1回:7月29日開催)は、電力消費のピークカットを目的に、時間帯別料金を導入するために、スマートメータを全戸の8割に5年以内に設置することを決めました。

国は、今後5年で80%スマートメータの設置を決めている。
3次補正予算で、スマートメータ導入加速化、ピークカットを促す時間帯別料金などインセンティブ導入、HEMS・BEMS(事業者に対する補助)の導入加速化 などを要求している。
(経産省 課長補佐)

(3)IT関係

電力網に接続されているものは、すべてインターネットに接続されることになる。
   Smart Grid=Internet Of Things
  ITサイドが注目するのは、インターネットの人と人のコミュニケーションに加えて、人と物、物と物のコミュニケーションである。 (村上憲郎氏)

(4)研究・実証試験など

需給制御技術の研究開発
 太陽光発電などによる余剰電力発生予測に対して、系統との協調による多様な動作をする、需給制御技術の研究開発を行っている。
(需要-需要シフト-蓄電池出力)=(発電+PV抑制+需要創出)
(東大横山明彦教授)
スマートエコハウス
 家庭内の実証例:太陽電池からの直流で給電―→AC/DC変換回数が減り電力ロスを低減(48V以下)
 外気、外光を活用して、夏季は空調負荷削減量23%、冬季は25%、年間削減量6%台になった。(パナソニック電工)

(5)その他

日本は、地デジ化やエコポイント制度により、家電を買い換えたばかりである。従って、スマート家電の普及は遅れ、それに代わるものとして、スマートコンセントがある。 (村上憲郎氏)
系統貢献へのアンシラリー費用を評価して需要家に支払うことが今後の課題の一つである。
例:コントロールによって、EV、PVの寿命が短くなる。 (横山教授)

「凡例」
    ○:クリーン発電&スマートグリッドフェア
    ☆:次世代電力ネットワーク研究会シンポジウム(配布資料参考)
    □:インフォテック2011(配布資料参考)

あとがき

 日本の200カイリ排他的経済水域は、世界で6番目に広いと言われています。たとえば中国は、海側に日本列島が横たわっているため、海側を自由に利用しにくい状況になっています。日本の排他的経済水域内では、日本が優先的に資源を利用することが認められています。メタンハイドレードや、海底鉱床が多く眠っている為、これらをうまく活用することが、日本の将来にとって非常に重要であると思います。

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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