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「強い会社を創る 自律し進化するビジネスアーキテクチャの設計 第1回」
株式会社オージス総研

2011年12月号
  • 「強い会社を創る 自律し進化するビジネスアーキテクチャの設計 第1回」
株式会社オージス総研   左川 聡

はじめに

 「ビジョナリーカンパニー」という本に書かれている経営原則の一つに、「時を告げるのではなく、時計をつくる」というものがあります。その本の中で、著者ジェームズ・C. コリンズは、ビジョナリーカンパニー、つまり、私達が暮らす社会に消えることのない足跡を残した卓越した会社では、往往にして、カリスマ性のある偉大な指導者が時代に合った経営戦略を立てて社員を先導する(時を告げる)のではなく、謙虚で控え目な経営者が、時代に応じて自ら変化、改善する組織(仕組)を構築している(時計をつくる)、その作業は、まるで建築家(アーキテクト)の仕事のようだと言っています。建物の建築様式のことをアーキテクチャといいますが、この本を読むと、ビジネスにもアーキテクチャ、つまり、ビジネスアーキテクチャがあり、それを設計、構築することは、経営者にとって大変重要な仕事であるということがわかります。
 先日亡くなったアップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、プロダクトや、それに伴うブランド、ビジネスモデルの偉大なアーキテクトであったことは誰もが認める事実だと思います。しかし、組織を含めたビジネスのアーキテクトであったかどうかは今後のアップル社の実績が証明することでしょう。
 私は、これまで情報システムをモデル化することによって、より品質の高い情報システムを開発する方法に関する調査、研究やコンサルティングに携わってきました。特に、情報システムをモデル化する前に、ビジネスをモデル化し、そこから情報システムのモデルを導き出すというビジネスモデリングやエンタープライズアーキテクチャ(EA)という手法を中心に研究してきました。その過程で、個人的に、持続的競争優位性を獲得するための経営原則やマネジメントフレームワークに関する経営書や論文で、マネジメントについて調査してきました。その際、各手法は、それぞれ大変有益な内容なので、個別に考えるよりも、それらを組み合わせたほうが、それぞれの長所が融合されて、より効果的になるのではないかと考えるようになりました。
 日本を含め世界の先進国の経済成長が頭打ちになっている昨今、企業経営も非常に困難な状況にあると思います。新興国市場を開拓する傾向はあるものの、何れ飽和状態になることは必然です。そのような状況下、社員を抱える経営者の方々は、今後、どのような状況になっても常に業績を上げられるようにするにはどうすればよいか常々頭を悩まされているだろうと思います。
 そこで、今回、広く実績のある代表的な経営原則やマネジメントフレームワーク(※1)を整理して、持続的な競争優位性を獲得するためのビジネスアーキテクチャの設計、構築方法としてまとめることで、企業経営に携わる方々に少しでも「時計づくり」のお役にたてればと思い企画した次第です。
 この文章のタイトルにもある「強い(robust)会社」とは、景気など経営環境がいかに変わろうが柔軟に適応して百年以上持続できる会社を指します。「強い」という言葉からは何か「堅い」というイメージを持たれるかもしれませんが、堅いものは、その本質に脆(もろ)さも秘めています。「柔よく剛を制す」という老子の考え方があります。台風で強い風が吹くと、真っ直ぐに立った堅い木は直ぐに折れてしまいますが、しなやかな柳はなかなか折れないことを観てもわかるように、実は、堅いものよりも柔らかいもののほうが強いのです。震災のとき、しなやかに揺れる高層ビルをご覧になった方もいらっしゃると思います。
 この「堅牢性(robust)」あるいは「柔軟性」は情報システムの評価指標としてはポピュラーですが、ビジネスの世界ではあまり馴染みがないと思います。しかし、ビジネスも同じ「システム(※2)」なので「堅牢性」あるいは「柔軟性」は大切な要素だと思います。少し前からビジネス界で「持続可能性」という言葉をよく耳にします。企業はゴーイング・コンサーンが大前提ですが、慢性的な不況や災害などの影響か、改めて、持続可能であることの重要性がクローズアップされているようです。この「持続可能性」ですが、市場があり競争がある以上、企業は、何らかの競争優位性がなければ生きていけないわけですから、経営環境がいかに変わろうが柔軟に適応し常に競争優位性を獲得する力を備えて実現するものだと思います。特に、新しい市場を創出する場合、競合企業が流入する前に、規模の経済、経験曲線効果、ネットワークの外部性などを働かせ、いち早く収穫逓増モデルを確立することにより競争優位性を獲得することができます。
 さて、これまで経営原則やマネジメントフレームワークを調査してみると、私は、環境の変化に柔軟に適応して常に競争優位性を獲得するために重要な要素は「自律」と「進化」ではないかと思いました。まず、「自律」ですが、一般的には、他の支配を受けず自分で立てた規範に従って行動するという意味ですが、ここでは、企業の「自律」を、環境の変化に適応するために、組織の構成員一人一人が、自ら設計した構造に従って行動し、その状態(※3)を最適にすることという意味で使用します。例えば、多くの会社では、内部統制やコンプライアンスを徹底するための研修を実施していますが、研修などしなくても社員一人一人が自ら意識してそれを遵守する状態が自律した状態といえます。また、多くの会社では、ナレッジが属人化していますが、会社が自律した状態にあると、同じ価値観で個人と会社が一体化する仕組みを形成しており、ナレッジを共有する意識が自然と働き「学習する組織」が成立します。次に「進化」ですが、企業が、環境の変化に適応するために、新しく、その構造(※4)を変えること、という意味で使用します。「自律」は、一定の枠組みの下で行われる活動で、生物であれば、ホメオスタシス(恒常性)、成長、変態(metamorphosis)などに例えることができます。一方、「進化」は、組織の本質的な枠組みそのものを変える活動で、生物であれば「種」が変わること(遺伝子レベルの変化)を意味します。企業であれば、事業目標、および、それを達成するための戦略、計画を立てて、それを実現していく過程(Plan-Do-Check-Act)は「自律」ですが、事業構造やビジネスモデルそのものを変えるとなると「進化」になります。企業は、日々の目標を社員一人一人が自律的に実現していく仕組だけでなく、極端に環境が変化する場合、ドラスティックに構造を変革して進化する仕組を持っていなければ生き残れないということです。
 さて、先にも述べましたが自律した状態では、個人と会社が一体化しており、ナレッジを共有化する意識が自然と働き「学習する組織」が成立します。また、P.F.ドラッカーが事業の目的は顧客の創造であると言いましたが、企業が進化するためには新しい市場、および、それに対するビジネスモデルの創出が最も重要だと思います。そこで、ここでは、学習する組織(ラーニングオーガニゼーション)の確立(自律)と新しい市場(ブルーオーシャン)の創出(進化)によって持続的競争優位性を獲得するためのビジネスアーキテクチャの設計と構築という観点でマネジメントフレームワークと経営原則を整理してみたいと思います。
 それから、特に日本は、情報システムを経営に活かすのが不得意だということを耳にします。そこで、今回、私の専門領域ということもあり、経営戦略を情報システム戦略に展開する方法についても言及したいと考えています。
 途中で方向が変わる可能性はありますが、今現在、考えている目次は以下のようになります。

1.理論編

(1)  ビジネスアーキテクチャの設計
 従来からあるSWOT分析やERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)などの手法に、マイケル・ポーターの競争戦略のフレームワークとブルーオーシャン戦略のマネジメントフレームワーク、フィリップ・コトラーのマーケティングマネジメントのフレームワークを組み込んで、自律し進化するビジネスアーキテクチャを設計する方法を考えてみようと思います。

  • ビジネスアーキテクチャ設計のフレームワーク
  • 事業構造の設計
  • ビジネスモデルの設計
  • 戦略マップの策定
  • 経営戦略から情報システム戦略への展開

(2) ビジネスアーキテクチャの構築
  「自律する仕組を構築する」特に「学習する組織を確立する」という観点、および、「進化できる仕組を構築する」という観点で、P.F.ドラッカーの経営原則、ビジョナリーカンパニーの経営原則、ピーター・センゲの経営原則をまとめてみようと思います。

  • 自律する仕組を構築する
    • リーダーシップについて
    • 組織文化を確立する
    • 学習する組織を確立する
  • 進化できる仕組を構築する

2.実践編

 新しい市場を創出した日本の会社を選定して、それに今回整理した内容を当てはめてみようと思います。また、可能であれば実際に適用した事例をご紹介します。

  • 宅急便ビジネスで考えるビジネスアーキテクチャ
  • SPA(※5)モデルで考えるビジネスアーキテクチャ

 最後に、本連載は、再調査、整理しながら進めますので、毎月必ず発信できるとは限りませんが、そこは、ご容赦いただき、最後までお付き合いしていただければ幸いです。

※1.今回、参考にした主な文献

[1]. マイケル・ ポーター (著), 土岐 坤 (翻訳), 服部 照夫 (翻訳), 中辻 万治 (翻訳)、「競争の戦略」 、ダイヤモンド社、新訂版 1995/3/16
[2]. マイケル・ポーター (著), 竹内 弘高 (翻訳)、「競争戦略論 I」、ダイヤモンド社、1999/06
[3]. マイケル・ポーター (著), 竹内 弘高 (翻訳)、「競争戦略論 II」、ダイヤモンド社、1999/08
[4]. W・チャン・キム(著), レネ・モボルニュ (著), 有賀 裕子 (翻訳)、「ブルーオーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)」、ランダムハウス講談社、2005/6/21
[5]. ジェームズ・C. コリンズ (著)、ジェリー・I. ポラス (著)、山岡 洋一 (翻訳)、「ビジョナリーカンパニー ― 時代を超える生存の原則」、日経BP社、1995/09
[6]. ジェームズ・C. コリンズ (著)、山岡 洋一 (翻訳)、「ビジョナリーカンパニー 2 - 飛躍の法則」、日経BP社 、2001/12/18
[7]. ロバート・S・キャプラン (著)、デビッド・P・ノートン (著)、櫻井 通晴 (翻訳)、伊藤 和憲 (翻訳)、長谷川 惠一 (翻訳)、「戦略マップ バランスト・スコアカードの新・戦略実行フレームワーク (Harvard business school press)」、ランダムハウス講談社、2005/12/16
[8]. ピーター・M. センゲ (著)、守部 信之 (翻訳)、「最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か」、徳間書店 、1995/06
[9]. ピーター M センゲ (著)、枝廣 淳子 (翻訳)、小田 理一郎 (翻訳)、中小路 佳代子 (翻訳)、「学習する組織―システム思考で未来を創造する」、英治出版、2011/6/22
[10]. フィリップ・コトラー(著)、小坂 恕 (著)、三村 優美子 (著)、疋田 聰 (著)、「マーケティングマネジメント―持続的成長の開発と戦略展開」、プレジデント社、第7版 1996/05
[11]. フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ (著)、イワン・セティアワン (著)、恩藏 直人 (監訳)、藤井 清美 (翻訳)、「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」、朝日新聞出版、2010/9/7
[12]. P.F.ドラッカー (著)、上田 惇生 (著)、「マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則」、ダイヤモンド社、エッセンシャル版 2001/12/14
[13]. P.F.ドラッカー (著)、上田 惇生 (著)、「経営者の条件」、ダイヤモンド社 、2006/11/10
[14]. P.F.ドラッカー (著)、上田 惇生 (著)、「創造する経営者」、ダイヤモンド社 、2007/5/18
[15]. 小倉昌男(著)、「小倉昌男 経営学」、日経BP社、1999/10

※2.システム:相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりを持つ全体です。
※3.状態:システムのある時点のありさまです。
※4.構造:システムを構成する要素間の機能的な関連で表される、システムの不変的な本質を表すものです。
※5.SPA:アメリカの衣料品小売大手GAPのドナルド・フィッシャー会長が1986年に発表した「Speciality store retailer of Private label Apparel」の頭文字を組み合わせた造語で、素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理、店舗企画などすべての工程をひとつの流れとしてとらえ、サプライチェーン全体のムダ、ロスを極小化するビジネスモデルと定義されます。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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